元神様、アイドルに仕えます   作:ただの片栗粉

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これでも昔は神様やってたんです

夜。

 

ホロライブ事務所の屋上。

 

 

 

シグレは一人、静かに夜空を見上げていた。

 

東京の空は明るい。

 

かつて神界から見下ろした夜とは違い、星の数は少なかった。

 

 

 

シグレ「……人の灯りが増えたのだな」

 

 

 

その時。

 

屋上の扉が開く。

 

 

 

さくらみこ「お〜、いたにぇ。神様」

 

 

 

現れたのは、巫女服姿のさくらみこ。

 

片手にはコンビニ袋。

 

 

 

みこ「ほい、肉まん。こんな寒いとこで黄昏れてると凍るにぇ」

 

シグレ「……感謝する」

 

 

 

肉まんを受け取ったシグレを見ながら、みこは隣へ腰掛ける。

 

 

 

みこ「なんか最近さ、夜になるとここ来てるよね」

 

シグレ「静かだからな。考え事をするには丁度良い」

 

みこ「ふーん……“昔”のこととか?」

 

 

 

シグレは少し黙った。

 

 

 

みこ「図星だにぇ」

 

シグレ「……貴様は妙に勘が鋭いな」

 

みこ「エリート巫女だからね!」

 

シグレ「どの辺がエリートなのだ」

 

みこ「今ちょっといい空気だったじゃん!?」

 

 

 

屋上に笑い声が響く。

 

だが少しして、シグレは静かに口を開いた。

 

 

 

シグレ「……我にも、“祀られていた場所”があった」

 

みこ「神社?」

 

シグレ「うむ」

 

 

 

彼の目が、遠い昔を見るように細められる。

 

 

 

 

 

 

まだ、人々が神を身近に信じていた時代。

 

山深い村の奥に、小さな社があった。

 

 

 

そこに祀られていたのが、“天雨神(あまつかみ)シグレ”。

 

雨と豊穣、そして“人の願い”を司る神だった。

 

 

 

春には豊作を祈られ、 夏には雨を願われ、 冬には静かな感謝が捧げられる。

 

 

 

大きな神ではなかった。

 

だが、確かに愛されていた。

 

 

 

子供たちは社の階段で遊び、 老人たちは毎朝手を合わせ、 祭りの日には灯りが夜空を埋めた。

 

 

 

シグレ「……あの頃の人間は、不思議だった」

 

みこ「不思議?」

 

シグレ「神を恐れながら、同時に家族のように接してきた」

 

 

 

《今年も見守ってください》 《息子が元気になりますように》 《雨、もう少しだけ待ってください》

 

 

 

小さな願いが、毎日のように届いた。

 

 

 

シグレ「神とは本来、“願われる存在”だ。祈りが力となり、信仰が神を形作る」

 

みこ「うん」

 

シグレ「……だが、時代が進むにつれ、人は空を見上げなくなった」

 

 

 

便利な時代になった。

 

雨を予測する技術ができ、 作物を育てる方法が増え、 “神頼み”をしなくても生きていけるようになった。

 

 

 

社は古くなり、 参拝客は減り、 やがて祭りも開かれなくなった。

 

 

 

最後に残ったのは、一人の少女だけだった。

 

 

 

みこ「……少女?」

 

シグレ「毎日、社へ来る子供だ」

 

 

 

まだ小学生くらいの女の子。

 

赤い髪を揺らしながら、毎日のように神社へ来ていた。

 

 

 

《今日ね、学校でね!》 《みこ、将来すごい巫女さんになるんだにぇ!》 《だから神様、見ててね!》

 

 

 

みこ「…………」

 

 

 

シグレは、ゆっくり隣を見る。

 

 

 

シグレ「覚えておらぬか?」

 

みこ「……え」

 

 

 

さくらみこの目が、大きく見開かれた。

 

 

 

シグレ「転びそうになりながら石段を登り、“にぇ!”と叫んでいた幼子を、我は知っている」

 

みこ「う、そ……」

 

 

 

彼女の脳裏に、幼い頃の記憶が蘇る。

 

山奥の小さな神社。

 

夕暮れ。

 

誰もいない社で、毎日ひとり喋っていた自分。

 

 

 

みこ「……あそこ?」

 

シグレ「うむ」

 

 

 

みこはしばらく言葉を失っていた。

 

 

 

みこ「じゃ、じゃあ……ほんとにいたの? あの神様」

 

シグレ「いたとも。毎日騒がしい娘だと思って見ていた」

 

みこ「うわ最悪!! 黒歴史見られてた!!」

 

シグレ「毎回団子を供えたあと、自分で食べていたな」

 

みこ「やめろぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

顔を真っ赤にして暴れるみこ。

 

シグレは珍しく楽しそうに笑った。

 

 

 

だがその笑みは、少しだけ寂しそうでもあった。

 

 

 

みこ「……その神社、今は?」

 

 

 

静かな問い。

 

 

 

シグレ「もうない」

 

 

 

風が吹く。

 

 

 

シグレ「人が減り、山道も閉ざされ、社は取り壊された」

 

みこ「…………」

 

シグレ「最後の日まで来ていたのは、貴様だけだった」

 

 

 

みこは俯く。

 

 

 

みこ「……ごめん」

 

シグレ「何故謝る」

 

みこ「だって、みこがもっとちゃんと通ってたら……」

 

 

 

シグレは静かに首を振った。

 

 

 

シグレ「違う。人は前へ進む生き物だ」

 

 

 

彼は東京の夜景を見る。

 

 

 

シグレ「神とは、“忘れられるもの”でもある」

 

 

 

その声には、不思議な穏やかさがあった。

 

怒りでも悲しみでもない。

 

長い時間を経て、受け入れた者の声音。

 

 

 

みこ「……でも」

 

 

 

みこは小さく拳を握る。

 

 

 

みこ「みこ、忘れてなかったよ」

 

シグレ「……」

 

みこ「ちゃんと覚えてる。あの神社も、お願いしたことも、“神様がいる”って信じてたことも」

 

 

 

その言葉に、シグレの目が少しだけ揺れた。

 

 

 

みこ「だからさ」

 

 

 

彼女は笑う。

 

いつもの、少しドジで、でも真っ直ぐな笑顔。

 

 

 

みこ「また見守ってよ、シグレ」

 

 

 

静かな沈黙。

 

 

 

やがてシグレは、小さく笑った。

 

 

 

シグレ「……うむ」

 

 

 

その瞬間。

 

夜風がふわりと吹き抜ける。

 

どこか懐かしい、祭りの日のような暖かな風だった。

 

 

 

遠い昔、山奥の小さな神社で。

 

幼い巫女が届けていた祈りは。

 

確かに、今も神へ届いていた。

 

 

 

――To Be Continued.




ちょっと無理シグレ様とみこちを繋げてみました。
今のみこちの電脳桜神社とは別の神社なのでご安心を...
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