クランダルト帝国召喚   作:秋津とんぼ

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カルトアルパスでグランツェルに翻弄されるアンタレスという幻覚が見えたので始めました。

主連載ほっぽり出して何やってるんだって話ですが、まあ、はい。
あちらの最新話は八割程度できているので、明日か明後日には投稿できると思います(希望的観測)


転移

 パルエ暦618年1月某日夜、クランダルト帝国中部、軍港ヨダ。

 帝国艦隊の一大基地であるここに、一隻の軍艦が入港しようとしていた。

 帝国の最新戦艦たるラドゥクス・インペリウム級の次女、ネイダール・ノイエラント。

 真っ赤に塗られた流線型の船体は艦が近衛騎士団に所属することを表し、聳り立つ40fin四連装砲塔は帝国艦では珍しい長砲身で、前方へ集中配置されている。下部には補助装備の戦闘機グランツェルを発着させるための飛行甲板が大口を開けていて、左右に大きく張り出した翼は威容に優雅さを添えていた。

 【挿絵表示】

 数々の貴族が邸宅を置き、異なる歴史では新たな帝都となる地の名を冠された彼女が、誘導神経波に合わせて空中を滑るようにゆっくりと進む。

 やがてその巨体がすっかり収まったところで、それを眺めていたこの地の領主スタバツィオ・フォン・グレーヒェンは声を掛けられ振り返った。

 

 「父上、ただいま戻りました」

 「おお、ヴァルメリダ、お帰り」

 

 ヴァルメリダ・フォン・グレーヒェン、今年で23という若さで軍総司令部(ドクトル)に身を置き、士官学校は歴代最高の成績で卒業、近衛騎士団の長である皇族ラツェルローゼとも知己であるスタバツィオ自慢の跡取り娘である。

 

 「こういうのはなんだが、よく戻って来られたな」

 

 現在ドクトルは北のアーキル連邦が先日より大々的に宣伝している帝国への侵攻作戦への対策に追われ、多忙を極めていると思われていたから彼の疑問はもっともなものだったが、それを聞いた彼女は苦笑した。

 

 「多分多少の計らいはあったのでしょうが、一応、こちらのついで、です」

 

 ヴァルメリダは、そう言って一つの封緘書類を取り出すと、その表情を噂通りの鉄仮面へと変える。

 

 「ドクトル少佐、ヴァルメリダ・フォン・グレーヒェン、作戦計画を手渡した」

 「グレーヒェン艦隊司令、中将スタバツィオ・フォン・グレーヒェン、受け取った」

 

 数秒の直立不動の後、二人は雰囲気を楽にした。

 

 「これで主任務は終わりです。視察という名目ですが一両日は滞在できるので————父上」

 「うむ」

 

 スタバツィオとて帝国の貴族家当主として仕事があるが、かれこれ数年ぶりとなる親子の時間が出来る。そんな見通しに、両名とも顔を緩ませる。

 その時、にわかに外から光が差し込んだ。何かと外を見たスタバツィオが声を上げる。続いたヴァルメリダも驚いた。

 

 「ん? 何だ……青空?」

 「青空? 父上、何を言って……ほんとうだ」

 

 嘘でも何でもなく、本当に綺麗な青空が窓から見えていた。太陽らしきものはどこにもなく、見える地上の建物には影が見えなかった。

 青空は10秒ほどで元の夜空に戻ったが、一体何だったのだろうと訝しがる暇もなく、そのすぐ後に揺れが襲ってきた。

 

 「ひゃあっ!?」

 「なんだ!? 何の揺れだ!?」

 

 日本で言うならば震度4程度の()()()()の揺れ。しかし、彼らにとっては地上で経験したことがない程の大きな揺れだった。

 元々クランダルトの存する惑星パルエは齢51億を数え、地球と違い死に向かいつつあるために地震や火山活動などの現象がほとんど起こらない星だった。それゆえほとんどの者がこういった揺れに耐性がなく、唯一揺れに慣れている空中艦乗りとてこのクラスの揺れは2度と経験しない程にまれだった。

 スタバツィオはまだ冷静さを残しているが、ヴァルメリダは5年前駆逐艦ニルギスでの記憶が蘇ったか足が竦んで動けないのもさもありなんというところか。

 揺れていたのは数秒で、収まるとすぐにスタバツィオはヴァルメリダを連れて外に出た。

 

 「あ、閣下!」

 「ルンゲ中佐! 今の揺れについて何か知らないか?」

 「いえ、わかりません。ただ、少し外を見ていただきたいのですが……」

 「どうした、外に何か……何だこれは」

 

 窓から見えた光景に父娘双方とも絶句した。

 

 「空が……明るい」

 「星が増えているんだ、いや違う、今まで見えていなかったのか? ……一体何が起こったと言うのだ、本当に」

 

 先ほどまでより明らかに見える星が増え、夜空が明るくなっていたのだ。空の端には光の河のような物まで見える。地球であれば普通の、しかしパルエにあっては異常な夜空だった。

 これはそれまで空を霞ませ地上からの天体観測を妨げていたパルエ高空を吹き荒れるジェット気流が消えたことによる。本来であればあと30年はしなければ見れないはずのものであり、異なる惑星に転移することによりクランダルトは一足早く美しい星空を手に入れたことになるが、それは誰も知り得ないことだ。

 三人は、しばらく夜空に見入っていた。

 帝国の東側の境をなすノスギア山脈から先が消えて海になったという報告が来るまで、後数分。

 

 この日、クランダルト帝国は異世界に転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中央暦1339年1月28日朝、クルセイリース大聖王国属領シュグオ・ティールより南東に30km。

 何もない海上を、竜騎士オグラマールは飛んでいた。

 哨戒飛行ではない。クルセイリース大聖王国に敵は無いからだ。魔導機関の大出力による翼の高速回転により飛ぶ飛空艦はワイバーンを凌いで時速200km台後半に達し、撃ち下ろされる魔導砲に敵う騎士団は存在しない。結果クルセイリースは四方に夥しい属領を抱えるに至り、国は大いに富んだ。

 敵はないが、事故は起こる。それが飛行の理由だった。

 昨夜、改良型魔導機関の試験をしていた40門級魔導飛空戦艦アシリーズが何やら訳のわからぬ緊急魔信を最後に消息を絶った。上層部は何らかの理由でアシリーズが遭難したと判断し、想定される遭難海域であるシュグオ・ティール南東海域の捜索命令を現地の竜騎士隊にだしたのだった。

 離陸してからおおよそ1時間、見落としがないよう普段の巡航速度である時速100kmよりさらに速度を落として捜索しているが、未だ何一つ見つけられないでいた。

 

 「錬金会のやつらめ、どうしてこんな辺鄙なところで迷子になってくれるんだ全く」

 

 愚痴を零していると、彼は相棒の様子がおかしいことに気づいた。

 

 「おい、どうした。どこか具合でも悪くなったのか」

 

 いや、これは、何かに怖気付いているような……。

 その時、オグラマールは東側のはるか向こうの空に何かがあるのを見た。

 

 ワイバーンか?

 

 いや。こんなところにワイバーンは生息しない。できない。

 

 では、あれは?

 

 気がつけば、司令部に魔信をしていた。

 

 「こちら2番隊竜騎士オグラマール! 南東約……30kmの海上にて、遠方に飛行物体を確認! これより邀撃する!」

 

 司令部からの見間違いではないかと言う通信を無視して切り、オグラマールはすれ違わんと上昇、加速した。

 彼我の距離はスルスルと縮まり、それにつれて飛んでいるものの形も分かり始める。

 全く見覚えがなかった。

 横に張り出した構造物は翼にも見えるが、どうにもその形状が翼らしくない。そもそもあれは生物なのか。

 さらに近づいたところで、彼は中央の構造体の先端に人がいるのを視認した。その先端に、魔導砲らしき穴が複数空いているのも。

 これは野生の魔獣などではない!自分たちと接触してこなかった、異なる文明の産物だ!

 【挿絵表示】

 すれ違ってすぐに、オグラマールは再び司令部に通信を入れた。

 

 「こちらオグラマール! 先ほど報告した飛行物体はただの魔獣に非ず、未知の文明の航空戦力だ!」

 

 『それは本当か!』

 

 司令部の通信員は驚くあまり所属の名乗りを忘れている。

 

 「本当だ!形状は三胴船のようで、中央の胴の先端に魔導砲の砲口らしき穴が空いているのを確認しおわっ!」

 

 『どうした! 何があった、応答せよオグラマール!』

 

 「例の航空戦力より攻撃を受けた!銃撃のようだ!戦闘の支障になるためこれで通信を終わる!」

 

 そう言って通信を切ると、オグラマールは敵騎を睨んだ。

 幸い、向こうの速度はこちらより遅いらしい。ならばそれはもう勝ったも同然だ。そう思って相棒を駆ると、驚くほどあっさり後ろが取れた。

 よし、あとは導力火炎弾を思う存分撃ち込むだけだ。

 指示を出して相棒に火炎弾を撃たせようとしたところで、急に目の前から敵騎が消えた。

 

 「あれ、どこに……!」

 

 気づいて振り向けば、真後ろに敵騎が砲口をぎらつかせて浮かんでいた。

 しまった、追い越した。

 それ以上何をする間も無いまま、オグラマールはグランビアの12.2fin榴弾砲の直撃を受け粉微塵となった。

 

 この後、オグラマールを撃破したグランビアはそのままシュグオ・ティールへ飛行し集まった竜騎士隊に袋叩きにされ、ワイバーンを2騎撃墜しながら逃亡に成功、情報を持ち帰ることに成功する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中央暦1339年1月29日相当、クランダルト帝国帝都インダストラリーゼ。

 本土南西部の沿岸に位置するこの大都市は、遠目にはゴミ山の如き堆積物の上に幾つもの塔が林立しているように見える。そのゴミ山は数百年間ポイ捨てされ続けた廃棄物であり、この地で営まれた生活そのものとも言える。林立する産業塔から吐き出される汚い空気も相俟って、その下層は非常に不衛生である。

 一方、貴族ら上流階級は産業塔の上層に居を構え、その住まいは様々な機構の働きで常に清浄な風が吹きつける。

 それは当然この国で最も高位である皇宮も例外ではない。

 皇宮上層のある一室。

 

 「こちらが報告書でございます」

 

 宰相は渡された文書をさっと流し読むと、部下に投げた。

 

 「要は、北の茶肌が消えて、西に新たな蛮族が現れたと、そう言うことか」

 「はい、正確には我々の方が移動したと思われますが」

 「細かいことは良い。それでその、西の蛮族だが」

 「高く見積もっても侵攻当初の北程度でしょう。失われたパンノニアやスクルフィルの代わりになるかというと怪しいところでございます」

 「ふむ、まあ完全な代替にならないとしても、多少の埋め合わせにはなるだろう。それにこの国は戦争が終わっては立ち行かなくなるものが多い」

 「あの銀髪の小娘が何かことを起こすのが目に見えておりますからな」

 

 耳目省(グノッゲ)長官の言を聞いて、宰相は呵呵と笑った。

 

 「あやつがか?くだらん。確かにインペリウム級は脅威だが、所詮はちっぽけな船、()()皇帝艦に敵うはずがない。そもそも大義は我々にあるのだからな」

 

 宰相は、彼から見て右手の壁を顎で指し示す。壁の向こうには今は肉塊と化した尊いお方が玉座にその体を預けているはずであった。

 

 「それはそうですが、彼奴とてそこらじゅうを嗅ぎ回っていますから」

 「技術省(テクノクラート)としては、そのグランビアが交戦した飛行生物の調査のためにも、ぜひ艦隊を派遣して欲しいところです。スカイバードがこちらにいるか分からない現状、その代替と成りうるものが欲しいのは皆様も同じでしょう」

 

 クランダルトの力の根源である空中艦隊、延いては空中艦は、スカイバードと呼ばれる飛行生物の浮嚢器を加工した生体器官によって宙に浮かんでいる。それが供給されなくなれば、究極的には帝国全体の、少なくとも確実に現体制の崩壊を招くことは明白だった。

 

 「私は培養技術が研究されていると聞いたが?」

 「あれは試験段階です。おそらく来年頃には最初の培養生体器官が実用に供されるでしょうが、失敗した時の備えはいくらあってもいい」

 「……ふむ、つまり皆戦争は継続するという方針で良いな?」

 「ええ」

 「もちろんですとも」

 「ぜひお願いしたい」

 

 こうして、社会の預かり知らぬところで新たな帝国の政策は決定された。




はい、というわけでクランダルト帝国は南半球に転移いたしました
気候を変えたくなかったので、召喚側の地図に見える一番右下の陸地とその隣の二回り小さな陸地と入れ替わりに転移したことにしました
属領はスクルフィルと南パンノニアが帝国貴族の進出が少なく問題なかったので(あと統一パンノニア形成は据え置きにしたかったので)置いていかれ、バセンとネネツは結びつきが強すぎたため付いてきてもらいました
キナくせぇ
【挿絵表示】

ラスティフロントを知らない方のためのラスフロ解説
・そもそもラスティフロントとは
蒼衣わっふる氏の作品の世界観を中核としたシェアワールド
基本的には北は浮遊機関、南は生体器官という二種類の方式で浮かぶ空中戦艦が殴り合う世界

・ネイダール・ノイエラントNeidar Neueland
大体は本文の通り。本来はこの後勃発するリューリア大艦隊戦にてひたすらに南進する連邦第六艦隊を追撃、途中夜分に奇襲され同艦隊の旗艦である戦艦ユット・ザイリーグと一騎打ちに持ち込まれ撃沈されるが、この世界ではもっと長く生きられるだろう

・スタバツィオ・フォン・グレーヒェン
小さいが巨大な工廠を抱えかなりの影響力を持つグレーヒェン家当主。グレーヒェンの工廠ではインペリウム級も建造された。本来はリューリア大艦隊戦にて戦死するが、この世界ではもっと長く生きられるだろう

・ヴァルメリダ・フォン・グレーヒェン
スタバツィオの娘。5年前、第3国境警備隊旗艦駆逐艦ニルギスに配属された際パルエ特有の気象現象である気流津波に遭遇、後頭部を艦橋のどこかに強く打ち付ける。幸い命に別状はなかったが、代わりに庇ったニルギスの艦長が危篤に陥り、ニルギスの指揮を執ることになる。詳細はラスフロwikiの南へ!を参照
設定最初期の呼称は「無い胸ちゃん」らしい

・クランダル・ブルガロードヌイ・ラツェルローゼ
近衛騎士団長、公式設定でパルエで最大のバストサイズを誇ることが定められている

・ジェット気流
パルエの古代文明が作り出した気象制御装置の故障によりパルエ大気圏の上層に吹き荒れる高速の風。気流津波はこれの一部が剥離して低空まで落ちてきたもの

・グランビア
帝国の傑作戦闘機。12.2fin榴弾砲を1門、2.2fin機銃を2つ装備する火力バカ。次世代機であるグランツェルも同じ榴弾砲を装備している。速度は160km/h程度と随分遅く見えるが、パルエでは長年活躍し続けた

・宰相
現在の帝国最高権力者。グノッゲやテクノクラート、皇宮省やその他大貴族たちと結託して属領から吸い上げた甘い汁を吸っている。本来は3年後にクーデターを起こされ戦闘中行方不明となるが、さて?
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