ある聖女の記録   作:黄金りんね

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ほんとは今日投稿する分を昨日投げちゃったのでストックがやばいです。
仕事も程よく忙しくなってきていますし……。


聖女と暴露

 牡牛は、腹に風穴を開けてどうと倒れた。――戦場に向けて、叫ぶ。

 

「敵の大将は討ち取りました!!! このまま、掃討にかかります! 余力あるものは敵を追いなさい!」

 

 私も追いかけようと思うが……想像以上に、体への負担があった。そのまま崩れて、膝立ちになってしまう。体が動かない。治癒の奇跡で体は治しているが……思った以上に、皆の負傷が多いのか?

 

「おいおい、聖女様……無茶しすぎ、です」

「――私の名で、皆集まったのです。私の力による奇跡を、皆が望んでいる。無茶ではありません。できることを、できるようにしているだけ」

 

 立て。立て。私だけ休んでいい理由など、一つもない。微弱な雷霆を纏う。電気ショックで、筋肉を無理やりでも動かす。これで追いかけられる。体にぐっと力を入れて――集中力が途切れる。腹に大きな傷ができたのだ。そうか、皆、必死で戦っているのだな。

 動きが崩れ、顔面からこけてしまった。クソ。

 

「のんきに寝ている場合じゃないのに……!」

「――てかさ、聖女様。ずいぶん無茶な奇跡の使い方をしてるんだな……」

 

 勇者が、ぼそりとつぶやく。何の話だ。

 

「私は、最大効率で奇跡を回しているにすぎません」

「いや、電撃を纏うことによる肉体強化も、速攻も文句を言うつもりはないけど……肉まで灼けてる。魔族を倒したところで、肉の焼けた臭いなんてしない。連中は塵になって世界に痕跡を残せないからな……ったく、少し休んでおけ」

 

 嫌なことがばれる。魔族との戦闘経験豊富な連中はそういうのにしっかり気づくらしい。

 

「……うそ、ですよね。エリザ様」

「――クリスですか。敵を追います。あなたは後方で私の帰りを待っていてください」

「肉が焼けるって、何ですか? 聖女様、いっつもそんな戦い方してるんですか? 今だって、血だらけで、人の痛みまで受けて、回復して――そんな、そんな戦い方してたら、心が壊れますッ!!!」

 

 ……今更、何を言っているんだ。

 

「クリス。顔をあげなさい。泣くのをやめなさい。――今更、こんなことで心が壊れるはずがないでしょう」

「いま、さらですか?」

「肉体がどれだけほころびても、命ある限り治癒で回復できます。祈りある限り、心も、魂も何ら揺らぎません。いいですか、クリス。ただ痛いなんてだけで、巡礼をやめることはできないのです」

 

 私は、立ち上がる。うん。切られる痛み。刺される痛み。つぶされる痛み。慣れてきた。もう大丈夫だ。

 

「――雷霆の裁き」

 

 あとは、一瞬でケリをつけてやる。

 

「待って、ください、エリザ様――」

「話は、全部終わってからです」

 

 一匹のこらず、ミノタウロスは撃ち殺した。死傷者もゼロ。うん、幸先のいいスタートを切れただろう。

 

 

 

 

 

 帰ってくると、泣いて目を真っ赤っかにしたクリスと目が合った。気まずくて目をそらす。

 

「……ずっと、体を犠牲にして魔物を殺していたんですか」

「えーっと――ある程度、戦いに出るっていうのはそういうことですのよ、クリス。私のとった手段は敵に傷つけられないために、体への負担をある程度許容するというだけのこと。決して、おかしなことではない――」

「おかしいですよ! ずっと!」

 

 クリスが叫ぶ。とはいってもだ。

 

「クリス。初めて会った戦場を覚えていますか? あの時もそうですけど……悠長に戦っていれば、あなたのお父上の領地も、領民も、誰かしらが犠牲になる可能性があった。私はあの程度の傷では死なないのです。だから……」

「あなたのからだのしんぱいを、あなたいがいのみんながしているんですよ……なのに、あなたはあなたのことを大切にしないんですか……?」

 

 清浄の奇跡で、血のシミ一つ残らない聖衣の袖をつかみ、くるりと一周する。

 

「私の体には、疵一つ残っていません。……服を引っぺがして、確認してみますか? あなたの目で、あなたの指で。――私としては、一向にかまいませんが……」

「エリザ様――っ、痛みは、感じるんでしょう?」

「ええ」

「それが、……あなたが傷つくと、私も痛いです……」

 

 ふぅ、と小さくため息をついて。クリスの隣に座る。ぎゅっと抱きしめて、クリスの柔らかな金髪に顔をうずめた。

 

「ありがとう、クリス」

 

 ぴくり、とクリスの肩が跳ねる。

 

「私は、過分なものをたくさんいただいております。どれも、農民の小娘では手に入らなかったものです。樽一杯の麦酒。瓶一本の葡萄酒。枢機卿の身分。信徒の祈り。それに、泣き虫な従者さん」

 

 とんとん、と肩をたたく。

 

「私は、受け取ったものに報いなければなりません」

「――人間一人で、背負い込まないといけないものなのですか、それは」

 

 クリスの問いに、毅然と返す。

 

「ただ人の身ですが、私はそれでも奇跡を授かりました。……大丈夫です、クリス。まだまだこれから。頑張りますよ、私は」

 

 ふひひと笑って見せると、クリスは泣きそうな顔をするのであった。……どうして?

 

 

 

 

 

 

 聖女様は、疵を隠していたのではなかった。傷は癒せば元通りになるから。痛みも癒せば消えるから。それだけで。治せるから壊れてもいいなんて。そんなことを、許していいはずはなくて。でも。聖女様は、私の言葉では止まらない。止めてはいけない。わかっている。わかっているけれども。聖女様。エリザ様。

 

 止まってほしいと思うのは、罪でしょうか。罰でしょうか。許されざることでしょうか。

 

「まだまだ頑張りますよ、私は」

 

 そういって得意そうに笑わないで。もう、頑張ってほしくない。人類救済なんて。あなたが背負う必要あるんですか……?

 

 

 




聖女様 傷つく程度でひくのなら、初めから戦いなんてしませんが……?
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