ある聖女の記録   作:黄金りんね

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なんかバグ?で複数話投稿しちゃったみたいです。
混乱された方は申し訳ございませんでした。


聖女と司祭

 

 私は別に、聖女になりたいわけでも、列聖されたいわけでも、大司教になりたいわけでもない。気が付いたらなってしまっていただけだ。

 

 魔族に村が焼かれて、兄弟分に手を引かれて逃げ出して。教会の孤児院で育って、気が付けば奇跡を宿した存在であることが発覚して。私は私で、孤児院に守りたいものができたから。魔族をぶち殺さないといけないなと思った。

 

 

 

 それだけのことで、あとは精一杯頑張るしかないということでただひたすらいろいろな勉強をした。大司教様が私にたくさんのものを用意してくれたおかげで、聖書は暗記したし、学問だって大学の学者と話せるくらい。……これは秘密だけど、魔術だって少しは使える。

 

 だから、私ができることはみんなに教えてもらったことだし、何より私が身に宿した「三つの奇跡」は正直すべてを凌駕するくらい強すぎる。

 

 

 

 転生して単に力を行使しているだけのチート聖女なのだ。力をふるうのは、ただ与えられたからでしかない。

 

 

 

 だから、ライオスにそんな目で見られても愛想わらいしつつ目をそらすしかない。別に、できるから救うだけであって。できないなら、私はお前を救わなかった。

 

 

 

 

 

 門をくぐると、衛兵たちが私たちに駆け寄ってくる。あきれたように私を見下す。なんかむかつくな……なんだてめぇやんのかァ!?

 

 

 

「聖女様! 一体どちらへ……また、人助けですか。心配するのでやめてください!」

 

 

 

 ちっ、うっせーな……。もとはといえばこの槍使いを外に出したあんたらが悪いんじゃないのか、おぉん!?

 

 

 

「私を心配する暇があるなら、義務を果たしなさいな。――冒険者を一人で森に行かせた愚か者を聖堂につれてきなさい。私は冒険者でよそ者ならば粗末にしていいとは思いませんよ」

 

 

 

 私の挑発めいた言葉に、慌てるのはライオスだ。

 

 

 

「よせよ、大司教様。俺は一人で森に――」

 

「ですから、あなたみたいなおバカさんを外に出さないのが、衛兵の仕事でしょうに」

 

 

 

 私の言葉に、衛兵は身体を固くして頭を下げる。ライオスは小さく、「おバカさん、だと」とつぶやく。そうだ。おバカさんだ。とんだバカ。自分を大事にしない奴なんて。でも、衛兵が反省しているようだったので、矛を収めることにした。

 

 

 

「……ですが、きっとライオスが頑固者だったのでしょう。かたくなな人に痛い目を見てしまえと思う気持ちはわかります。正義を通す道は決して易くはないのですから。私も、頑固で愚か者です……それでも、ただの一人も殺したくないと祈るのは悪いことかしら?」

 

 

 

 そう。常に正しくあろうとなんて、する必要はない。この衛兵にも家庭があり、暮らしがある。衛兵としての仕事は、人生のかけらでしかない。

 

 だが、ライオスが死ねば。この衛兵の人生には影が差す。小さな後悔が、いずれすべてをつぶしてしまうような暴挙に出るかもしれない。過程を顧みず、職務におぼれ、押し通ろうとする貴族なんかといさかいになり、かっとなった貴族が刃を振り下ろす。なんてこともあるかもしれない。

 

 

 

「決して、そんなことは……」

 

「あなたはできる限りのことをしたのです。そして、私はできる限りのことをした。それで、よいのではなくって」

 

「それは違うな」

 

 

 

 衛兵がたじろぐ中、しわがれた声が響く。赤色の聖衣。私より位列としては劣るが、私に強く出ることができる人間。それが、この世には三人いる。

 

 

 

「立場をわきまえろと言っているのだ。ルミーリアよ」

 

「司祭さま……」

 

 

 

 ゲレーデン・ザルツバート。私が育った孤児院の司祭であり、育ての親であり、命の恩人であり、奇跡を使う上では師である存在。つるんと禿げた頭に、深く刻み込まれた皺。齢八十九にして、いまだにピンと背筋を伸ばして歩く姿は、手練れの戦士であったことを示している。

 

 

 

「貴様が動かずとも、魔物は払える。ルミーリア。聖女とは、神威を示すもの。軽挙に座を空にして、人心をゆるがせにするな」

 

「――お言葉ですが司祭さま……聖句には、頼るものの腕をとるべし、その腕を決して折ってはならぬとあります。北方教区の人間は皆はらからです。私には、見殺しにする選択はございません」

 

「それでは、貴様は一切の休みなく、一切の呼吸すらせずに、救済のためにひた走るとでもいうのか」

 

 

 

 そんなことができるはずがない。私だって、疲れたら動けないし戦えなければ死ぬのだ。

 

 

 

「それが天の下す命ならば、私は従います。――――っ」

 

 

 

 私は、顔を上げた。人の命を、なんだと思ってやがる。くそ爺!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――下がれ、ゲレーデン・ザルツバート。お前の言葉は、人の身で、弱きものの言葉だ。神の聖名を借り、大地にその威を示すもの。救済の責を負うものの言葉ではない。安息日に、体を休めることと、奇跡にて人を癒すこと。そのどちらがたやすいか。――今一度、よくお考えになられてはいかがですか、ザルツバート司祭。……礼拝の時間ですので、私はこれで」

 

 

 

 決意によって吊り上がった眦ににらまれ、ゲレーデンは深くため息をついた。――昔から、自分を勘定に入れない少女だった。

 

 村に来た時には、兄のように慕っていた少年に手を引っ張られて歩くだけの、無力な少女だった。少年は騎士となり、魔物と戦う暮らしに身を置いた。

 

 少女は、いつも暮らしぶりの中で優しく、ただ自分をすり減らしていた。パンを年少のものに与え、微笑んでいた。

 

 人はパンだけで生きるわけではないと、聖句を口ずさみ、祈りを絶やさない。

 

 

 

 本当の信仰者とは、かくあるものだとゲレーデンは知った。

 

 

 

 

 

 この身はかつて、異端者を葬る教会の暗部に属していた。政争に敗れ、落ちぶれた先に北方の辺鄙な村で孤児院を、修道院を開いた。そこでの暮らしはうんざりするほど退屈で、つまらなく、くだらないものだった。

 

 神の意味も知らず、本物の奇跡も知らず、簡易治癒術式に涙を流し喜ぶ愚か者。

 

 

 

 その愚昧さの中に、自分もいた。悪くないと思っていた。貧しく、いつ魔物がやってくるかもわからない。食料は足りず、何もない。だが、その中で。確かに充足感があったのだ。

 

 

 

「この少女は、聖句なしに奇跡を扱っている。まぎれもなく列聖されるべき聖女だ」

 

 

 

 領都の教会は、エリザの奇跡をとらえた。エリザは、何も知らない。奇跡も、魔物も。教会が、信仰と祈りだけでなく、汚泥と血にまみれた組織だということをしらない。

 

 

 

「――それで、多くの人が笑顔になるのなら」

 

 

 

 ゲレーデンは。エリザのような少女が苦しむ姿は、見たくなかったのに。エリザは、その道を選んでしまった。

 

 




衛兵 実はそこそこの地位だが、平民から選ばれる。北方領都の門番ともなると、ライオスよりは強い。

聖衣 白→黒→赤→緑→茶色 の順で地位が低い。大司教と教皇、枢機卿が白。司祭位で赤は異例中の異例。
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