ある聖女の記録   作:黄金りんね

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不死と不死

 ベアトリスは、首を振ってつぶやいた。

 

「あーあ……お姉ちゃんとまた一緒に暮らせると思って、喜んだのは私だけだったのかなぁ――」

 

 ベアトリスの足が、地面と融合しているように見える――刹那。ワイバーンが隊列を組み、空へ舞う。大地には大量のスケルトンが、カタカタと音を立てながら降ってくる。

 軽量な骸骨であれば、いくらでも積み荷にできる。骨の爆撃。兵士の投下。魔族にしかできない芸当である。

 

「私のおもちゃと、――踊ろうか?」

 

 スケルトンが、一気呵成といわんばかりに押し寄せる。ライオスが、怒鳴った。

 

「俺たちで聖女様を守れ! 雑魚敵との戦いで損耗など、許さんからなァ!!!」

「てめぇが言うな、うっかり屋!」

 

すかさず、水晶の牙の面々が言い返す。

 

 ――詠唱を素早く唱える。アグニフレイムだ。

 

「皆は、雑兵と戦ってください。……勇者様、お兄ちゃん。……ベアトリスを、頼みます」

「お前はどうするんだよ」

 

 アルベールは、素早くエリザに問う。

 

「私は――空飛ぶ蜥蜴どもを、一掃してきますわ」

 

 空を蹴り、飛竜へ向かった。

 

 

 

 

 空では、火炎のブレスと熱の矢が舞い踊り。大地では、骸骨と英雄が死の舞踏を踊る。

 

「――ッ、アハハハハハハハハハハハハ!!!!! 最高の演目ね、そう……聖女と魔女! かつて引き裂かれた二人は、死と生をそれぞれ支配して向かい合う――空をすら舞い踊る乙女と、大地に縛り付けられた、忌むべき魔女(わたし)!!! ねぇ、お姉ちゃん……ずっと、こうして遊びたかったの!」

 

 青い目をキラキラと輝かせながら、少女は笑う。昔のように。男勝りな姉の姿を追いかけて。でも、ほんとはおままごとがしたかったんだった。

 そんなことを思い出しながら。砕けた髑髏は土で治しましょう。死を踏み越え、死へと至った祝福されざる魂と。傷ついても、一瞬で癒され立ち向かい戦う死を恐れず、ゆえに祝福を受ける人の子と。

 

 対比のように。対句のように。あるいは、呼応するように。互いをつなぎとめる鎖のように。打ち付けた楔のように。

 

「――結局は、死も生もおんなじ。祝福と呪いも。神も悪魔も。天使も人も。闇も、光も!!!!!」

 

 ベアトリスが大地に手を当て、小さくつぶやく。

 

「母なる大地よ、我がまじないに応えよ。なぜ恐れる。なぜ逃げ惑う。我は二番目に早きもの。いかなる賢者も、宿命からは逃れられぬ。――ヨモツヘグイ」

 

 大地が波打ち、鋭くとがり――槍となって、兵士の腹を貫き食い破る。ヒジリもアルベールも、舌打ちして叫ぶばかりだ。

 

「クソ! 無駄に傷を負うな! こいつ、めちゃくちゃな魔法を使いやがる!!!」

「アハハハハハハハハハハ! まだまだ、まだまだまだまだまだまだ! 演目はこれからよ!!!!!」

 

 ヒジリのオルフェウスを軽くいなし、ベアトリスは巨大なゴーレムを作り出す。

 

「土塊の巨人! お姉ちゃん以外、全員殺しちゃえ!!!!!!!」

 

 アルベールは、小さく舌打ちをして剣を構える。巨大な巨人の腕を、一瞬で切り落とした。

 

「……もう、あいつを苦しめるなよ。ベス」

「ベスってなに……そんな呼び方、お前みたいなおっさんに許可した覚えないんだから!!!」

 

 大地が、ドリルのように回転しながらアルベールへと向かう。莫大な魔力出力。勇者や聖女ですら及ばないであろう。アルベールは、肩口に傷を負いながらも回避する。傷はすぐに癒えたが、それはつまり――。

 上空で、爆発音が聞こえる。爆炎から人影が飛び出す。すぐに空中を蹴り、体制を立て直したようだが。次の瞬間。

 

 ――地上からでも見える、聞こえる。

 

 雷鳴が、大地にとどろいた。ベアトリスは、舌をちろりと出しながら、微笑んだ。

 

「次の演目も近いわね。――愛しい愛しい、聖女(おねえちゃん)の処刑」

 

 刹那。雷撃とともに、全身の肉が焼けただれ、穴をあけ、骨すらむき出しの乙女が、深紅の双眸を煌めかせながら火炎を吐く。火炎ではない。極度に高温となった、呼吸だ。

 見る見るうちに少女の姿へと戻りながら、冷徹な眼光が魔女を射抜く。

 

「――もはや、言い逃れはさせませんよ。ベアトリス。お仕置きの時間です」

「――もう、逃がさないよ。お姉ちゃん。……一緒に、あそぼ?」

 

 狂喜を孕んだ目線と、底冷えするような激怒のこもった視線が交錯する。

 

 生と死のように。黒と白。闇と光。

 

「――告げる」

 

 聖句が、明かされる。

 

「――示せ」

 

 呪文が、唱えられる。

 

「ここに、あなた方の守るべき戒を告げる。ここにあるものを守りしものはわたしに守られ、破るものはわたしに破られる。戒を守るものが、私のしもべであり、破るものは、かたきである」

「我が意思を縛るものは在らず。――汝がせんとするものをなし、すまじきとすることをなさず。天を戴かぬものよ。主を呪うものよ。汝は、あらゆる秩序を放棄する」

 

 バチバチ、と白い放電がエリザを包む。それは神秘的であり、荘厳であり、恐ろしいものでもあった。

 

「我が戒を破り、わたしに歯向かうものよ。わたしはしもべをわたしのつるぎとする。あなた方は滅びるであろう。――白き光が、あなた方を覆う。その時、あなた方は――主の名を思い出すであろう。――――雷霆の裁き」

「汝の意志を否定し、呪い、糾弾するものがあれば、それを排除してよい。誰に理解されずとも、誰の許しを得ずとも。汝のすべては汝の敵を下すための武器となる。――ゲヘンナ」

 

 黒い脂と、土の塊が周囲の大地を汚染する。

 

「……さて、勝負はこれからだね。お姉ちゃん」

「――ベアトリス」

 

 エリザは、一瞬だけ顔をくしゃくしゃにしてから。表情を殺した。

 

「……あなたを殺す」




ヨモツヘグイ 大地を操る魔法。腐食の呪い。

ゲヘンナ 大地を穢し、大地の魔力を自分のものとみなす魔法。

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