唐突だが、私は魔法を操ることができる。コストの割に、出力に劣ったそれをあえて使う必要はないが……勇者の出力なら戦いの役には立つなと思いだす。
あれは結構な高出力で、しかも無詠唱だった。いくら実力があっても覚悟の在り方が認めがたかったので戦力にはできなかったが……。
「熱と光を以て、神殿を照らす。篝火を闇に放り、道しるべとする。――我が力を示す。大いなる火炎を吐き、悪を討つ。フレイムシャワー」
荒野に炎の雨が降り注ぐ。攻撃魔法が野生の魔物を軽く一掃する。うん、奇跡は強まっても魔法は大したことはない……が、魔物も弱くなってるから結果的に魔法の出力も高まっているように「感じる」だけだな。
「いかがです、聖女様……」
「魔法そのものは強くなってはいません。私の見立てどおりでした」
「そうですか」
ほっと一息つくのは、もともと暗殺者だった女。私を殺しに来て回心した暗殺者である。名前は付けてもらったことがないらしいので、シノンという名前を私がつけてあげた。
「魔法を聖女様が強めたなんて噂、やっぱり間違ってたんですね」
「魔法を強めることができるとすれば、それは何らかの魔法でしょう。魔族にも利するのであまりおすすめできるものではないですが」
「そうですよね、よかった」
にこにこと笑っている。私より背が大きくて、なんかお姉さんって感じだが。すこし情緒が幼いというか、子供らしい部分がある。まぁ、教会の闇って感じだ。この子が悪いわけではないので、なんだか複雑な気分だが……。
「……聖女を殺せって言われて、神の敵なんだって思ったけど。私、間違ってました。私は、ただ彼らに必要としてほしかっただけで。そのために、多くの、人を……」
「――過去は、どれだけ努力しても追ってきます。消えない穢れを、あなたは背負っている」
事実を突きつけるのは、厳しい話である。彼女はナイフだった。道具として使われた人間に、罪はない。だが、それでも。それを気にしなくていいなんてことは言えない。
人間として生きようとすればするほど。向き合わなければいけないものがある。無知ゆえに行われた凶行。知らずに手を染めた不正。その悪意に、立ち向かおうとするのなら。その助けになる。
道具として、自分自身をあきらめるなら――。今度は、私がシノンを殺す。
「シノン。大丈夫です。自分自身の罪を知って、それでも折れずに人であろうとするあなたは、その苦悩と葛藤こそが――信仰をはぐくむ人の心なのですよ」
自分自身の力ではない奇跡を扱って、人から尊敬を搾り取っている。そういう苦しさは、晴れるものではない。主から借りたものだから、存分に使う。クリスはぞんざいに扱うなというが。私は――やはり、自分自身を好きには成れない。
「聖女様。ありがとうございます。私、頑張りますね」
たとえ心が晴れなくても。自分自身の中の雲も霧もそのままでも。それでも、人は前に進める。そのための法灯があるとするならば。神の教導にほかなるまい。
深紅の髪の男が、つぶやく。
「人間自身が前に進むための指針や理念は、他に置くべきではない。――絶対的な超越者など、私たちが前に進むためには不要だ。人間が前に進むために必要なのは……私たち自身。信仰を捨て、教義を捨て。神を乗り越えて、人間の時代をつくる。私たちが、魔族と教会を滅ぼし――新たな秩序を作り上げる」
妖しい祭壇と、ローブを着て顔を隠す人間。その真ん中の男が、気炎盛んに言葉を並べる。
「人間が、人間自身のために作り上げた。それが魔法。私たちは、私たちですべてを築く。もう、神はいらない」
救国魔法連盟。南方において教会を超える名声を持ち、魔族を蹴散らして安寧をもたらした秘密結社。魔法使いの総本山であり、勇者を召喚した大魔法の使い手でもある。
連盟の盟主。玲月のガルタリアン。かつて宮廷を牛耳っていたともいわれる最高の魔法使いの一人。
「勇者との回線が途絶えた。理由は分からないが……まともな状況ではない。南方の憂いは排除した。北方に私も向かい、魔王と――聖女も討つ」
個人的には恨みなどないがな、と肩をすくめるガルタリアン。
「聖句の奇跡は人間が縋った時しか開かれん。だが、聖女は別だ。あれは――あまりにも、神の側に立ちすぎているだろう。人間の時代は、あれが立っている限り訪れん」
「では、聖女を――?」
「正面切って始末する。何、手間はかからん。私は――勇者より強い」
ガルタリアンは自信満々にうそぶく。魔法使いの矜持を示すように、全身に魔力を滾らせる。
「聖女といえども、滅ぼす方法はあるはずだ。致命傷を再生させたとか、いろいろな噂はあるが――この世に滅せぬものはない」
魔法 まだまだ体系化されていないが、魔力を用いて望む現象を起こす。人間のリソースを食うので聖女的にはコスパが悪い。個人個人で微妙に起こしている過程とかが違うので完全な体系化は難しそう。
聖女様 聖女が宿す魔力は炎。聖女による魔法はいわゆる燃焼反応ではなく、燃焼反応の再現なので大気中の酸素が減ったりはしない。