ある聖女の記録   作:黄金りんね

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聖女と踊り子

 ガルタリアンは、とうとう領都へとたどり着いた。旅人があまり歓迎されない雰囲気を感じつつ、酒屋で適当に注文を並べる。麦酒に鹿肉の燻製など。適当な食事をつまみながら、のどを潤す。自分の見かけが魔法使いなのも歓迎されない一因らしいことに不快感を抱きながら、麦酒のお代わりを頼む。

 

「――わぉ、お兄さん。いい飲みっぷり、だねぇ」

「……なんだ、お嬢さん。こんなところに……一人か?」

 

 北方では珍しい、肌の露出の多い衣服に、後ろでまとめた白い髪。紅玉を思わせるような眼で、こちらを見透かすように微笑む。やや蠱惑的な笑みに、踊り子か何かだろうかと推測する。玉のように滑らかな肌は、寒さの厳しい北方では珍しい。

 

「あたしはフォルテ。旅でここいらを回っていてね。いやぁ、旅人には冷たいんよね。あたしのときも初めはそうだった……で、いろいろわかってなさそうなお兄さんにアドバイスをしようかと思いまして……ね?」

 

 ちらちらとこちらのコップを見ては、顔を見てくるフォルテに、小さくため息をつく。

 

「情報を売りたいってわけだな。いいよ。麦酒をもう一杯頼む! こっちのお嬢さんにだ」

「ひひっ、察しのいいお方だ。これは仕事もすぐ終わりそうだねぇ」

「待て、別にお前と組むかどうかは決めてねぇだろ。第一、冒険者ってわけでもねぇしな」

 

 それを聞くと、フォルテはつまらなさそうな顔をして麦酒を煽る。二度、三度とのどが動く様子に、意外とよく飲むなと感心する。

 

「……じゃあさ、お兄さんは何の仕事できたの」

「野暮用だよ。魔王を殺すついでに、教会の状況を調べたくてな」

「教会の? 何、何、何のために?」

 

 ぐい、とこちらに顔を寄せてくる少女に、ガルタリアンは鬱陶しそうな顔をしながら酒を飲む。

 

「別に、南方の出身だからな。北方教会は魔王討伐後に中央の教皇と分裂するかもしれないって噂を聞いただけだ。だから、南方教区がどちらにつくべきかを決めるための情報収集を依頼されたんだよ」

 

 事前に考えていた偽装情報を並べる。フォルテはそれにうなずきながら、勝手に鹿の燻製を口に放り込む。

 

「ふ~ん……クリス様がそんなことを考えてるなんて、びっくり」

「まてまてまて、北方教区の頂点はルミーリアだろうが。クリスって誰だ」

「……聖女様は放蕩聖女って言われてたぐらいわがままだからね。教会に顔を出す機会は少ないよ。教区を代表して争うなら、ルミーリア様が代表になることはないんじゃないかな」

 

 この情報に、ガルタリアンはしばし黙考する。――ということは、あの石像もクリスとやらが聖女の権威を利用しているのだろうか。……だが、いずれにせよ聖女を討たねば意味がない。聖女という存在が神による支配をもたらしているのだから。そして、この女は想像以上に事情をペラペラとしゃべる、口の軽さがある。

 

「ちなみに、聖女はどこにいるかは調べられるか」

「えっと……さすがにタダじゃ教えられない、報酬次第って感じかなぁ」

「……金貨二十枚でどうだ」

「えーっと……たしか、十だから……金貨五十枚以上じゃないと、話せないかな」

「……その情報が正確だってこっちもわからないんだから、そんな大金ポンと出せるかよ」

 

 ガルタリアンもさすがに疑う。目の前の少女が、そんなことを知っているはずがないのだから。

 

「……じゃ、仕方ないな。前金で金貨二十枚。聖女本人が現れたら、金貨四十枚でいいよ」

「十枚増えてるじゃねぇか」

「リスクヘッジだよ。理解してほしいな」

 

 ガルタリアンは仕方なく、金貨の詰まった革袋を差し出した。フォルテは目を輝かせながら、金貨の重さを確かめ、すぐに懐にしまった。

 

「ありがとね、お兄さん……あと、ここの食事代も出してね」

「わかった」

「へへ、言質は取ったからね。麦酒お代わり! あと、鹿の串焼きと、野菜のスープと、えっと……あ、腸詰ももらおっかな!」

 

 にししと笑ったフォルテに、ガルタリアンは苦笑する。生き汚く、金に汚いが。こういう在り方もまた、人間らしい。

 

 

 

 

 

 食べ過ぎてぽっこりふくれちゃったおなかをさすりつつ。情報を整理する。

 魔王を殺す、と大言壮語を吐いたおそらく犯人からひとまず石像四体分の金貨を回収できた。教会のことを探っているあたり、なんか信仰上の理由からの犯行な気がする。話した感じはさっぱりした感じ。まぁ、案の定情報収集とかはしっかりできてなさそう。領都でする予定だったのだろうか。

 少し計画が雑だが、私のことを知りたいらしい。それを以て情報量にできるならそれに越したことはなさすぎる。

 

「犯人に支払能力があるのは救いでしたね……」

 

 髪型と衣服を変えるだけで聖女と気づかれないって、ほんとにみんな偏見で生きているなと思う。私だって寝間着はあるし、クリスとかゲレーデンとかお兄ちゃんとかは気づくと思うんだけどね。……酒屋の店主だけ、にやにや笑いながら樽で飲めそうだな、嬢ちゃんとか言ってきていたので気づかれてたかもしれない。

 ……ともかく、次に会うときは情報提供の時。ここでちゃっかり殺されちゃう可能性もあるので、気を張らないといけない。城内で戦うのはホントは避けたいんだけど……。さすがに、今回は暗闘になりそうだ。奇跡を使って人を害したくはない。事実、旅でも奇跡ではなく魔法や剣技、竜踏などで対処してきた。

 

 今回は、一筋縄ではいきそうもない。




踊り子 明るく愉快な旅の娘。一体何者なんだ……?
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