ガルタリアンは小さな酒屋に私を案内した。目の前に置かれたジョッキには、エールビールがこれでもかと注がれている。
私はジョッキを持ち上げ、一思いに飲み干す。苦みが舌を、炭酸がのどを通り抜ける。麦と、発酵した酵母の香り。飲むパンとはよく言ったものだ。
「……言っておくが、アンタが払うんだぜ」
「残念ながら。身銭は一銭たりとも持っておりませんので」
「……ちっ、まあいい。さて、どこから話したもんか……」
魔法使いは、思考を何度か飛ばしてから、重い口をようやく開いた。
「――そもそも、救国魔法連盟は魔王の脅威を軽んじていたし、今も連中の恐ろしさは大したことがなかったと思っている。……そりゃまぁ、アンタがいなけりゃあの砦での戦いは勝てていないだろうが。それでも、人類にはいずれ超越者が現れ、魔王を殺す。それが、魔法使いだと信じていた」
「とんだ期待外れでしたね」
「そう言うな。――俺たちが本当に恐れたもの。古代帝国の首都を滅ぼし、はるか東方の大森林を焼き払った呪い。歪んだ信仰。悪しき頽落。超越者でありながら、在り方は実に卑近な存在者――」
「竜による、文明焼却の夜。六大竜王のほとんどがその座から退いた以上、もう心配することではないように思えますが」
「教会じゃ、そう思うだろうな。――竜王が真に力を発揮するのは竜の群れを率いた時。レアルテティアも、ルナシェイドも率いていたのは飛竜だろう。本物の竜を率いて行われる文明返しは、人類に太刀打ちできるものじゃない」
「……ルナシェイドって、なんですか」
ガルタリアンはあきれたように、ふんと鼻を鳴らした。
「バカ。お前のお弟子様が碧落に至る魔法を用いてなお封印しかできなかった竜王だ」
「……玲瓏竜は知っています。それに、クリスが、碧落に至る? そんなことをしたんですか?」
「――よほどお前が大事らしいな、あの聖女は。つくづく仲良しで安心したよ」
いや。そんなことよりも。碧落に至るって。それはすなわち、五感の消失を招く、超越者に至る力。今のクリスにはすでに、視力も、痛覚も、味覚も――?
「っと、落ち着けよ。魔法の行使者はその身を傷つけることはない。魔力が尽きない限りはな」
「なら、クリスの魔力が尽きれば――」
「そうだな。……だから、俺からお前に。決して断れないであろうオファーを一つ」
ガルタリアンの目は、不気味な光を称えていた。
「――間もなく、文明返しの夜が来る。俺が突き止めたのは北方領都に近いどこかというところまでだ。近いうちに、今代の聖女も碧落に必ず至る。そこでだ、フォルテ。お前には――聖句とは別の在り方で、再び超越者を目指してもらう。下賤で下等な、魔法の切り口でな」
「……腹の底からどうでもいいですね。下等で下賤な魔法であっても、私は人間を守るために手段を選ぶつもりはありません」
妖しい目。何か、企んでいるのだろう。
かかってこい。真っ向から、ねじ伏せてやる。
遅くなりました。番外編であって、本編ではないということで許して……。