魔法による、深域への到達。ガルタリアンですら不可能であった大儀式は、私の身体であればおそらくは耐えられるだろうということであった。
そのために必要なことは、たった一つ。
「――この、怪しい薬をのめということですか」
ガルタリアンはからからと頬杖を突きながら笑う。
「なに、魔法薬だからな、怪しいことには違いない。この薬は、ある『偉大な霊魂』と接続するための……そうだな、わかりやすく言えばしるしだな。お前がかつて神そのものとつながる……いや、お前がそもそも神で、接続もクソもない……が、普通の人間はそういう特別なゆかりはないわけだ。それを与えることによって、偉大な霊魂がお前という存在を通して現れることができる。魔法の原理で霊魂の力を呼び起こすと言えばいいのか」
もごもごしゃべっていて何が何だかわからない。魔法の原理くらい理解している。
「……言っておきますが、神の恩寵も、奇跡も、今後現れないだけでいまだ
「それでいいとも。俺は、俺たちは人間以上の何かに人間以上の仕事をさせたくないからお前の命を狙ったんだぜ」
であれば。偉大な霊魂って、何なんだ。
「偉大な霊魂は、あくまで名を呼びたくない俺たちの符牒だ。それに、偉大な霊魂はあくまで力をくみ上げる源泉でしかない。それ以上の在り方を認めるつもりもない。だが、俺たちの誰一人としてその力を御しきることはできなかった。それができるのは、クリスとお前だけだろうさ」
そして、クリスにはそんな力はなくてもいい。もっと強い力を持っているから。言外に隠された言葉に、小さくため息をつく。
結局、神の奇跡を超える「なにか」を得ることはできない。そして、神は歴史の中に姿を消し、奇跡は二度と現れない。これからが本当に信仰をためされる時代である。
「で、どうするんだ? 聖女……今は、ただのエリザか?」
ガルタリアンの言葉を無視して、くすりを一気に呷った。途端に、全身から力が抜けていく。毒ではない。薬でもない。この感覚。
空に堕ちるような、意識のさえ方。遠のき方。これは、魂がより深くへと潜り、高次の場所に至ろうとするときの肉体の拒絶反応のようなものだ。
そうか、ガルタリアンが使おうとした力の源泉は、人間よりもより力への欲望を持つ存在。
その存在が、何であるかは彼にとってはどうでもよかったのか。
思念の、はるか奥深く。無数の魂の行く先。肉体を捨てた、理念のみで構築される世界の奥深くで呼び起こされるのは、私がゆかりを持つ大いなる魂。
「貴様が……貴様がなぜここにいる? 聖女――否、貴様の魂は――!」
毒を以て毒を制し、邪悪を敷くに悪逆を用いる。ガルタリアンが望んでいた、竜を。さらなる災厄をはねのける力とは、すなわち。
「レアルテティア――?」
「クソ、なぜあの大いなる魂が、汝のような矮小な在り方でとどまっていられるのだ!?」
竜の力を人のものとして、竜に対抗しようというのか。――悪くない。かの暴竜の力が、私の手に負えることは。二度の戦いで証明済みだ。
「矮小でもなんでも結構。お前の意志に用はない。ただ首を垂れて、クリスの救世を手伝いなさい。――冷竜レアルテティア。……私の隷属を受けるのですから、新たな名を授けてあげてもよいが……さて、どうしましょうか」
レアルテティアが、絶叫する。信じられないといわんばかりに。あるいは、許さないといわんばかりに。
「貴様がたとえなんであろうとも、現世でなくここであれば!!! 愚かしい魔族がいないこの霊界であれば、私が貴様に負けることなどありえんだろう!!!」
「――よろしい。誰が誰にどう負けたかを、じっくり教えて差し上げましょう」
奇跡は使えず。魔法もいつかの日に供物として吐き出し。肉体に依拠する闘技も使えないこの大地で。不思議と、負ける気がしないのはなぜだろうか。魂は完全で、引き裂くことなどできない。敗れる肉体がないのであれば、精神の在り方次第でいくらでも戦い続けられる気がする。
嫌な話だが、久々の闘争に、少しばかり心躍る自分がいる。いつぞやの聖伐を、今再現してやろう。
「小娘! かかってくるがいい!」
「――告げる。私に祈りをささげるものは、私を試すものであってはならない。私をあるじとするものは、我が姿を描いてはならない。私を知るものは、私の剣となり、敵を刈り取るものでならねばならない。――お前は、すでに主の剣でしかない」
霊薬 ガルタリアンとっておきの薬。偉大な魔力と接続して、力をくみ上げる(逆に偉大な魔力に体を奪われる可能性あり)。
冷竜 魂のみどこかに揺蕩う。二百年くらいで復活予定だったが、遭遇した大いなる魂を食らって復活を試みる。