1話 目が覚めたら美少女だった件
目を開けると、そこは見知らぬ天井だった。
柔らかなシーツの感触は、確かに自分のもののように思える。しかし、身体はまるで他人のもののように重く、細部にわたって違和感があった。カーテンの隙間からは淡い陽光が差し込み、静寂のなかに、ごくわずかに生活の気配が漂っている。
――私は、死んだはずなのに。なぜここにいる?
その疑問が喉元まで出かかった瞬間、身体に鋭い違和感が走った。自分のものではないかのような感覚に戸惑いながらも、視界だけははっきりとしており、周囲の景色を正確に捉えている。
重い身体をどうにか起こし、ベッドの脇にあった鏡の前までふらつきながら歩く。そして、その鏡に映った自分の姿を見て、思わず言葉が漏れた。
「え.....めっちゃ美少女...」
それは、本当にそう口にしてしまうほどの美しさだった。
鏡に映る少女は、短く整えられた深い青色の髪に、星のような白いハイライトが映えていた。カーテンの隙間から差し込む光を受けて、髪はやわらかく輝き、彼女の輪郭を幻想的に縁取っていた。優雅で、儚げな美しさがそこにあった。
――この身体の持ち主は、誰なのか。
何か手がかりを求めて室内を見渡すと、リビングテーブルの上に学生証らしきものが置かれている。それを手に取り、記載された名前を声に出して読む。
「連邦生徒会の、燈在キミヨ...これが、この体の持ち主の名前か」
しかし、学生証に貼られた写真の中のキミヨは、鏡に映る自分とは違っていた。彼女の髪は長く、白いハイライトなど入っていない。そして、その表情は無邪気に笑っていて、儚さのかけらもない。
その瞬間、胸の奥に重く沈む何かがこみ上げてきた。頭の片隅では鈍い痛みが走り、言葉にならない罪悪感が全身を締めつける。意図せずとはいえ、彼女の大切な日常に、自分という存在が踏み込んでしまったことへの、説明のつかない後ろめたさ。
「....早く、元に戻さないと」
そう呟きながら、さらに情報を得るため部屋を探索する。机の上、教科書やノートに囲まれるようにして、日記帳らしきものが一冊、そっと置かれていた。そっと手を伸ばそうとした、その瞬間。
プルルル――。
スマートフォンのバイブレーションが鳴った。
「この番号は、確か....」
胸の鼓動が少し早くなるのを感じながら、画面をタップし、通話を取る。
「もしも――」
「キミヨ!あなたは今、何をしているんですか!?先生はもうキヴォトスに来ています!」
いきなりの怒鳴り声に、反射的に謝ってしまう。
「ご、ごめん、七神さん....!」
「あ...こちらこそ怒鳴ってごめんなさい。私たちはこれから、先生の指揮の下で占領されているサンクトゥムタワーの奪還に向かいます。キミヨの体調次第ですが、奪還作戦が終わった後、前に言っていたシャーレの事務員として、先生と顔合わせをしてもらえませんか?」
「え゛...それは大丈夫ですけど....ところで、連邦生徒会長は何をしてるんですか?」
「...連邦生徒会長は、いま失踪しています。...やはり、どこか体調が優れないようですね。先生との顔合わせは、また今度にしましょうか?」
――生徒会長の失踪? シャーレの先生? いま、何が起きているんだ?
頭の中は混乱の渦だったが、それでも私は必死に声を張った。
「いえ!本当に体調は大丈夫です!なので、今からサンクトゥムタワーに向かいます!」
「ちょっと、キミヨ、待っ――」
通話の終了ボタンを押す。ツーツーという音が虚しく響くスマートフォンをそっと置き、急いで部屋の隅にかけられていた連邦生徒会の制服に袖を通す。
事情は分からない。だけど、この体を借りてしまった以上――私は、彼女のためにも動かなくてはならない。
そう決意し、私はサンクトゥムタワーへと向かった。
燈在と書いてひざいと読みます。ルビの付け方が分かんないです申し訳ない。続くと思います。多分きっと推定おそらく。