一般シャーレ事務員憑依   作:戯け

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思っていたよりも尺があったので終わらせれませんでした。次で本当にアビドス編が終わります。


14話 オールキャスト

「もー!どうなってんのよ、この状況!」

 

 助手席でアヤネを膝に抱えるセリカの怒声が、激しく揺れる車内に響き渡った。フロントガラスの向こうには、真紅に染める銃火の嵐。無数の弾丸が車体を打ちつけ、金属を叩く鋭い音が断続的に響いている。まるで、世界そのものが崩壊しつつあるかのようだった。

 

 後部座席から、冷静な声が響く。

 

「待ち伏せされていたのは分かっていたが....これほどの兵力を残していたとはね」

 

 それは先生の声だった。極限の緊張感の中にあって、その分析的な口調はわずかな安心をもたらす。まるで、彼の視線だけが戦場を支配しているかのようだった。

 

 運転席のキミヨは、フロントの閃光を睨みつけながら言う。

 

「すみません皆さん、舌、噛みますよ!」

 

 次の瞬間、彼女はハンドルを思い切り切った。車体が横滑りし、タイヤの焼ける匂いと金属の軋む音が車内に充満する。弾幕の隙間を縫うように車が加速し、激しいGが乗員たちを座席に押しつけた。

 

「奥空さん! 基地との距離は!」

 キミヨが怒鳴るように尋ねると、アヤネがタブレットを睨みながら叫ぶ。

 

「残り700メートルです!もうすぐです!」

 

「皆さん、聞こえましたか! 脱出まで――10秒前!」

 

 キミヨの号令に、車内の空気が一気に張り詰めた。五人の視線が一点に集中する。

 シロコは隣に座る先生に肩を貸し、無言で自らの銃を手渡した。鼓動が耳の奥で脈打ち、全神経が一瞬先の未来に研ぎ澄まされていく。

 

「3、2、1――!」

 

 号令と同時に、全員が車のドアを蹴り開け、一斉に飛び出した。キミヨは最後までハンドルを握り、車体を横滑りさせた。速度を保ったままバランスを失った車は、激しく横転しながらアスファルトに叩きつけられる。

 

 爆音と土煙の中、キミヨは転がるように地面に落ち、すぐさま近くの遮蔽物へと滑り込んだ。

 

「よし、受け身はうまく取れた....」

 

 肩で息をしながら周囲を見渡す。直後、聞き慣れた声が響いた。

 

「みんな、無事!」

 

 それは、先生の声だった。彼はシロコとともに身を伏せ、仲間たちの返答を順に確認する。次々に返る無事の声に、先生は小さく息を吐いた。

 ――全員、生存。問題なし。

 

「それじゃあみんな、作戦開始!」

 

 その言葉を合図に、五人は一斉に遮蔽物から飛び出した。

 

 作戦――とは名ばかりの正面突破。敵の弾幕を掻い潜り、捕らわれたホシノを救出する。戦術的には無謀に近い、だがほかに選択肢はない。

 

 なお、この突入作戦には別動隊も動いていた。風紀委員会が、別ルートから敵拠点への突入を開始している。できる限り敵のヘイトを分散させるため、二方向からの同時侵攻という形を取っていた。

 

 その支援に乗じ、彼女たちは真正面から突っ込む。

 

 救出対象――ホシノ。

 目標まで、あとわずか。

 

 

────────────

 

「数が多すぎる....このままだと、こっちの弾幕が底を突く」

 

 身を伏せたまま、シロコが唇を噛みながら呟いた。遮蔽物越しに見る戦場は、まるで波のように押し寄せてくる敵兵で埋め尽くされている。倒しても倒しても、次から次へと現れるカイザー兵。その圧倒的な物量に、仲間たちの動きも次第に鈍ってきていた。

 

 「キリがないわ...だったら、私が突っ込んで相手のヘイトを稼ぐ。私が引きつけてる間に、みんなで一気に突破するの。先生、それでいいでしょ?」

 

 セリカが半身を起こし、いつでも飛び出せる体勢を取る。しかしその言葉を遮るように、鋭く、だがどこか必死な声が響いた。

 

「ダメです、セリカちゃん! それじゃ危険すぎます!」

 

 ノノミだった。その瞳に浮かんでいるのは、恐れではない。仲間を失いたくないという、揺るぎない意志だ。

 

 作戦開始からすでに一時間が経過していた。先生を中心とする救出チームはホシノのもとを目指しているが、予想をはるかに超える敵戦力に阻まれ、進軍は遅々として進まない。焦りと疲労が、じわじわと全員の士気を削っていく。

 

「じゃあどうしろって言うの!?このままだったら負けちゃう....ホシノ先輩を、助けられないじゃない!」

 

 セリカの声が震える。その叫びには、怒りというよりも、どうしようもない無力感と悔しさが滲んでいた。

 

 そんな中、先生が口を開いた。静かで、だが芯のある声だった。

 

「セリカ、落ち着いて。まだ時間はある。それに...私はまだ、諦めていないよ」

 

 その言葉が、張り詰めた空気を少しだけ和らげた。セリカはその場で動きを止め、拳を握りしめたまま、肩を震わせる。

 

「そうだよ、セリカ」

 

 穏やかな声で、シロコが続ける。

 

「もしホシノ先輩を助けられても...そのときに、誰かがいなかったら、ホシノ先輩はきっと悲しむ」

 

「....そう。みんなで帰ってきて、初めて“助けた”って言えるんだよ」

 

 アヤネの言葉に、セリカは小さく息を呑んだ。その言葉の意味が、胸に深く突き刺さる。

 

 だが、現実は厳しい。このまま戦いが長引けば、確実にこちらが消耗する。状況は、まさにジリ貧だった。

 

 先生は無言のまま、地面を見つめて思考を巡らせていた。

 

 (なぜ、ここまでの兵力をこちらに投入できる?ヒナたちも突入しているはずだ。....それとも、向こうにも同規模の戦力を割かれている? いや、考えても仕方ない。だが──)

 

 打開には、あと一押し、ほんのわずかな戦力が必要だった。

 

 (....最悪の場合、“大人のカード”を使うしかない)

 

 その手が、そっと胸ポケットに触れる。そこには、これまで温存してきた“最終手段”がある。使いたくはない。しかし──

 

 「前方から、さらに増援が来ます!数は....五十体以上です!」

 

 対策委員の報告に、全員の表情が一瞬にして険しくなる。緊張ではない。これは、恐怖と、そして――絶望だ。

 

 (くそ....もう、使うしか....)

 

 先生がポケットに手を伸ばしかけた、そのとき。

 

 「先生!後方から、何かが飛来してきます!全員、伏せてください!」

 

 キミヨの叫びと同時に、空気が震えた。上空から何かが落下してくる音。それは瞬く間に大地に叩きつけられ――

 

 ――爆発。

 

 轟音と閃光が戦場を揺るがし、敵陣に直撃した榴弾が、カイザー兵を一瞬で吹き飛ばす。灰と炎が舞い上がり、衝撃波が辺り一帯を撫でていく。

 

 「L118....牽引式榴弾砲!? トリニティの重火器!? なんで、こんなものが....!」

 

 呆然とする一同に、ノイズ混じりの通信が届いた。画面に映し出されたのは――紙袋をかぶった少女。

 

 『間に合ったみたいですね』

 

 その声を聞いた瞬間、アヤネが叫ぶ。

 

 「あっ!ヒフ───」

 

 『違います!私はヒフミではなく、ファウストです!それと、この牽引式榴弾砲はトリニティとは一切関係ありません!射撃を担当している皆さんにもそう伝えてあります!私も合流するので、皆さん頑張ってください』

 

 いつもと変わらぬ控えめな口調。しかしその中には、はっきりとした意志と覚悟が宿っていた。

 

 「ううん、すごく助かった」

 

 シロコが柔らかな笑みを浮かべる。

 

 「あはは...えっと、みなさん、が、頑張ってください!」

 

 そう言い残し、“ファウスト”の通信は切れた。

 

 爆煙の向こう、榴弾によって一時的に開かれた突破口。その先に、希望が見えた気がした。

 

 先生が、仲間たちを振り返る。そして力強く言う。

 

 「...よし。この数なら進める。みんな、行こう!」

 

 全員が、静かに、しかし力強くうなずく。

 

 戦場の流れは、確かに変わった。

 目指すは、仲間のもと――ホシノの救出へと。

 

 

 

 

 

 

 

 アビドス対策委員会はようやく辿り着いたその建物の正面で、一行は足を止めた。

 

 崩れた外壁、砕けたアスファルト。そして、その中央に立つひとりの男。

 

 カイザー理事――

 背後には、重厚な装甲に守られた施設。その周囲には整然と並ぶ大量のカイザー兵たち。さらに、奥の暗がりには、不気味に脈動する巨大な戦闘用機械が鎮座していた。鋼鉄の塊が唸りを上げ、今にも動き出しそうに身を揺らしている。

 

「待ってたよ、アビドス諸君」

 

 理事は冷たい笑みを浮かべ、両手を広げて迎え入れる仕草を見せた。

 

 先生が一歩前へと進み出る。

 

「....これは、総力戦ということでいいのかな?」

 

「そうとも。我々も、持てるすべての戦力で迎え撃つ覚悟だ」

 

 理事の視線が鋭く光る。その言葉に、全員の顔が強張った。

 

「彼女は、この建物の奥...実験室にいる」

 

 ホシノのことだ。その名を出された瞬間、全員の手に力がこもる。引き金にかけた指、握りしめた拳、揺るがぬ眼差し。

 

「助けたければ、力尽くで通るといい。だが――」

 

 理事の口元が不気味に歪んだ。

 

「君たちに、それができるかどうかは....別の話だがね」

 

「....ああもうっ、どれだけいれば気が済むのよ!」

 

 セリカが苛立ちとともに叫び、銃口を理事へと向ける。しかしその視線の先には、無数の兵と兵器。文字通り“戦力差”という壁が、目の前に立ちはだかっていた。

 

 状況は最悪だった。時間が経てば経つほど、こちらが不利になる。それは誰の目にも明らかだった。

 

 そんな中、シロコがノノミと目を合わせる。ふたりは無言で小さく頷き合い、次の瞬間には、先生へと視線を向けていた。

 

「先生、私たちで時間を稼ぎます!その間に....!」

 

 言いかけたその瞬間――

 

 ――ドカアアァァァァンッ!!!

 

 大地を揺るがす轟音とともに、上空から黒煙を引いて落ちてくる一機のヘリ。機体は着地寸前でローターを止め、制御不能のまま滑走、施設の前庭へと突っ込んできた。

 

 「えっ....!?」

 

 誰もが目を見張る間に、機体は爆音を立てて爆発。巻き上がる爆風が衝撃波となって辺りを包み、最前列に陣取っていたカイザー兵たちをまとめて吹き飛ばした。

 

「今度は何ですか!」

 

 アヤネが慌てて周囲を見渡す。その視線の先、爆煙の中から――黒いシルエットの4人組が姿を現した。

 

 風に揺れるマント、ゆっくりと晴れていく煙。その中で、彼女たちは堂々と現れる。

 

「じゃ〜ん!やっほ〜!」

 最前列、手を振りながら登場したのは、軽いノリのムツキ。

 

 「....」

 隣で黙したまま立つクールなカヨコ。

 

 「お、お邪魔します....!」

 小さな声で気まずそうに名乗るハルカ。

 

 そして、最後に凛とした声が響く。

 

 「対策委員会、助けに来たわよ!キミヨ、言われてたタイミングで来たけど....これで良いわよね?」

 

 そのアルの声に、キミヨが頷いた。

 

 「えぇ、グッドタイミングです!」

 

 言葉を交わすふたりに、戦場の空気は一変していた。突如として現れた4人の増援――その存在が、全員の心に新たな火を灯した。

 

「――私たちのことも、忘れないで欲しいですね」

 

 別方向から響いた声に、一同が振り返る。

 

 そこには、風紀委員会の面々。

 ヒナを先頭に、アコ、イオリ、チナツが勢揃いしていた。

 

「って、何ですかカヨコさん、その表情」

 

 思わず突っ込むアコに、カヨコは目をそらしながら素っ気なく答える。

 

 「別に...」

 

 露骨に“関わりたくない”という態度を崩さない。

 

「こっちは敵の数が少なかったから、手伝いに来たわ」

 

 ヒナが淡々と状況を告げる。

 その言葉に続くように、別の声が飛び込んできた。

 

 「ふぅー....間に合った。皆さん、手伝います!」

 

 ヒフミだった。紙袋を押さえながら駆け寄ってくる姿に、アヤネが目を丸くする。

 続けて、アルが皆の前に出て声を上げる。

 

 「そういうことだから、対策委員会。ここは私たちに任せて、あなた達はあなた達のすべきことをして頂戴!」

 

 その申し出にカヨコは小さくため息をつき、ハルカは目を輝かせて頷く。ムツキは笑いながら先生の方を振り返った。

 

「あと、ごめん先生~。キミヨちゃん、借りてもいい?」

 

 その言葉に、先生は無言でキミヨの方へ視線を送る。

 キミヨはその意味を察し、小さく頷いた。

 そして、対策委員会の仲間たちへ振り返る。

 

「私はここに残ります。皆さん、小鳥遊さんの救出、頑張ってください」

 

 キミヨの言葉に、シロコが一歩前へ出て応じる。

 

 「分かった。キミヨも....絶対に無事でね。それじゃあ、行こう」

 

 シロコの号令とともに、対策委員会の面々はカイザー兵の布陣をすり抜け、建物の中へと走り出した。

 その背中を見送ったキミヨが、ふと目を上げる。

 

 すでにカイザー理事は、巨大戦闘機械のコックピットに座り込んでいた。無数のモニターが彼の周囲を照らし、仄暗い光が顔を照らしている。

 

 「....すみませんね、カイザー理事。先生が相手ではなくて」

 

 キミヨの口調は柔らかいが、そこには挑戦の意図が見え隠れしていた。

 理事はゆっくりと笑う。

 

 「構わないとも。私は――最初から、貴様を狙っていたのだからな」

 

 一同がざわめく。だが当の本人、キミヨはどこか飄々とした態度で返す。

 

 「酷いですね。非力な少女に、そんな仕打ちをするとは」

 

 「どこが非力だ」

 

 理事の声には、静かに怒りが含まれていた。

 

 「はっきり言って、昨日の時点で私は敗北を悟ったよ。そして私は、その責任を取らされることになるだろう....だがな、次の機会はいくらでもある。そのとき障害になるのは、シャーレの先生と、そして――貴様だ。だから今回は、貴様のその“化けの皮“を引き剥がすだけでいい」

 

 言い終わるや否や、理事は通信機に指をかける。

 

 「――全兵に告ぐ。迎撃態勢、開始」

 

 その命令に応じ、カイザー兵たちが一斉に展開を始める。装備を構え、無機質な動きでキミヨたちを取り囲んでいく。

 

 緊張が高まる中、仲間たちがキミヨの方へ視線を向ける。

 

「あなたの指揮、期待しているわ」

 ヒナが短く告げ、

 

「よろしくお願いします!」

 ヒフミが元気よく声をあげ、

 

「キミヨ! 今回も任せるわ!!」

 

 アルが満面の笑みを浮かべる。

 

 その言葉に、キミヨは無言で頷いた。

 

 ――その瞬間。

 頭の中で、声が蘇る。

 

 『今回もお願いします、──。』

 

(...なんで、こういう時に限って思い出すのかな...)

 

 記憶の奥底で彼女の言葉が反響する。

 

 だが、今は振り返っている暇などない。

 

 キミヨは一歩前へ出て、宣言した。

 

「それでは皆さん――バトル、スタートです!」

 

 その一声が、静寂を打ち破った。

 砕けた瓦礫の上、吹き抜ける風の中で、誰もがそれぞれの戦いへと歩み出す。

 こうして――キミヨの言葉を合図に、戦いは始まった。




2話と3話の内容は変えずに書き直そうかと考えています。

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