一般シャーレ事務員憑依   作:戯け

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17話 シャーレの事務員ってヤバい人らしいよ

「なるほど、事情は分かりました」

 

 キミヨは軽く頷いた。しかしその内心では、整理しきれない情報が渦を巻いていた。

 

 ユウカから伝えられた話──ゲーム開発部が“ミレニアムプライス”のために「鏡」を必要としていること。そしてその鏡を守るために、先生とゲーム開発部、さらにはヴェリタスが今夜、メイド部──通称C&Cに護衛を依頼していたこと。そして、アビドスでの活躍を耳にしていたユウカが、防衛に協力できないかと相談に来たこと。

 

 一見すれば、内輪の小競り合いのようにも見える。だが、キミヨの勘は、それでは済まない何かが背後にあると告げていた。

 

「でも....どうやってその情報を得たんですか?」

 

 警戒を滲ませた声でキミヨが問う。敵対する勢力の情報が、そう簡単に外部へ漏れるはずがない。ならば、そこには何かしらの意図や背景があるはずだと感じていた。

 

 

「それが...」

 

 ユウカは声を潜めると、やや躊躇いがちに続けた。

 

「ヴェリタスの部長、ヒマリが教えてくれました」

 

「...え?」

 

 キミヨの思考が一瞬、停止した。

 

 明星ヒマリ──本来なら、後輩思いでお節介焼きなはずの彼女が、どうして“敵”とも言える側に、ヴェリタスの内部情報を渡しているのか。

キミヨの中で、その疑念は次第に膨らんでいった。

 

 しかもこのタイミングで、セミナーが「鏡」を押収していた事実。ゲーム開発部がそれを求めて動き出したのと同時期であることを思えば、あまりにも出来すぎていた。偶然とは思えなかった。

 

 情報が決定的に不足している。それだけは確かだった。

 

「ユウカさん」

 

 キミヨは一歩、踏み込むように言葉を発した。何か大きな出来事の始まりを、直感的に感じ取っていた。

 

「最近、ミレニアムで...何か異変はありませんでしたか?」

 

「異変.......ですか?」

 

 ユウカは指を顎に添え、首を傾げた。その仕草は愛らしかったが、今のキミヨにはそれを感じる余裕はなかった。

 

「うーん...特には。あっ!」

 

 何かを思い出したのか、ユウカの声が弾んだ。

 

「ゲーム開発部に新入部員が入ったんです。すっごく小さな子で、可愛かったんですよ」

 

 

(新入部員。つまり、五人目の生徒....)

 

 キミヨの思考が静かに動き出す。ユウカの言葉は続いた。

 

「天童アリスちゃんって言うんですが、ゲームに対する情熱がすごくて..どうして今まで入ってなかったのか不思議なくらいの子でした」

 

 その名を聞いた瞬間、キミヨの心臓が大きく脈打った。

 

 ──ここで、起動したのか。

 

 すべてのピースが一気にはまり込んでいく。

 

 セミナーが「鏡」を確保した理由。調月リオと明星ヒマリという二人が動いた背景。それは“AL-1S”、すなわち天童アリスの真価を測るため。

 

 つまり、これはすべて“茶番”であり、アリスという存在を見極めるための、用意された演目にすぎなかったのだ。

 

 キミヨは、口を閉ざしたまま思考を巡らせていた。

 

 この状況で、自分はどう動くべきか──キミヨは考えていた。

 ゲーム開発部には、敵として先生がいる。もしセミナー側につけば、部下が上司に刃を向ける構図になりかねない。それは、シャーレという組織の特性上、致命的な火種になり得た。

 だが同時に、ユウカの願いを無視することも、キミヨにはできなかった。

 

 彼女にとってユウカは、リンや先生を除けば最も気軽に話す仲だった。シャーレの当番中に何度も顔を合わせ、いつも自然な笑顔で話しかけてくれる──その関係は、キミヨにとって確かに“大切”と呼べる筈だ。

 

 戦闘が起こるのは、避けられないだろう。

 だがそのとき、責任を誰が取るのかまで考えた瞬間、ふとキミヨの思考が止まった。

 

 ──なぜ、そこまで考えている?

 

 本来、そんなことを考えるのは先生の役目だ。自分は生徒であり、組織を代表する立場ではない。全体を見て調整するのは、上に立つ者の仕事。自分がそこまで背負い込む必要は、どこにもないはずだ。

 

 むしろ、もっと我儘に振る舞ってもいい。

 責任を負うのは、先生──ならば自分は、“今、助けたいと思った人のもとに立つ”。ただ、それだけでいい。

 

 家で読んだ燈在キミヨの日記にも書かれていたはずだ。

 「"あなたには、あなたがしたいようにして欲しい"」と。

 

 そう思った瞬間、胸の奥にわだかまっていた何かが、ふっと軽くなるのを感じた。

 

 そして、キミヨは答えに辿り着く。

 

 「.....分かりました、ユウカさん。私もセミナー防衛に、微力ながら力を添えます」

 

 その声には、もう迷いがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あなたが....ユウカが呼んだ、あの噂に名高いシャーレの事務員ですか」

 

 静かな空気が張り詰めるミレニアムのオペレーションルーム。その一角で、三人の人物が顔を合わせていた。作戦にはコールサイン“00”の美甘ネル以外のエージェントも参加していたが、この場にいるのはユウカと、彼女の推薦で招かれた燈在キミヨ、そしてミレニアムのブレイン──室笠アカネのみである。

 

 これはキミヨが、ユウカに頼んでアカネとの顔合わせだけを希望したためだった。

 

 「どの噂のことかは分かりませんが.....初めまして、室笠アカネさん」

 

 キミヨは丁寧に一礼すると、落ち着いた声で名乗った。

 

 「燈在キミヨと申します。今夜はよろしくお願いします」

 

 その声音には、年若い生徒とは思えぬほどの落ち着きと礼節がにじんでいた。

 

アカネはキミヨの丁寧な挨拶を聞き終えると、わずかに目を細めた。警戒ではなく、興味の色を滲ませた視線だった。

 

 「....なるほど。確かに“只者じゃない”って噂は伊達じゃないようですね」

 

 言葉には皮肉とも賞賛とも取れる曖昧な響きがあったが、声色はどこか柔らかく、攻撃的な印象はない。c&cのブレーン担当として知られるアカネにしては、珍しく警戒心を露わにしていなかった。

 

 「室笠アカネ。c&cのブレーンを任されてます。今夜はよろしくお願いします」

 

 アカネもまた、軽く頭を下げる。その所作には洗練された礼節があったが、同時にどこか試すような視線も混じっていた。

 

 「....ただ、一つ確認しておきたいのですが」

 

 そう前置きし、アカネはキミヨの瞳をじっと見据えた。

 

 「あなたは“先生の部下”として来たのですか。それとも、あなた自身の意思でこの場に立っているのですか?」

 

 その問いには、単なる興味以上の意味が込められていた。組織としてのシャーレ、そこに所属する個人の意思、そして今夜の作戦に対する覚悟──アカネは、そのすべてを見定めようとしていた。

 

 横で聞いていたユウカが、やや気まずそうに視線を逸らした。キミヨを招いたのは自分であり、下手に問い詰めるような真似は避けたかったからだ。

 

 しかし、キミヨは動じなかった。

 

 

 アカネの問いを受けたキミヨは、短く息を吐いた。まるで、胸の内に絡まっていた言葉の糸をほどくように。

 

 「....半分、先生の部下として。もう半分は、私自身の意思です」

 

 答えは明確で、しかし即答ではなかった。その言葉の裏には、慎重な思考の積み重ねがあった。

 

 「先生だったら、きっと困っている生徒を見捨てたりはしません。だから私も、ここに立っている。でも、それと同じ理由で....私自身も、目の前の人の“助けて”を聞いて何もしないのは、嫌なんです」

 

 静かに、だが強い意志を滲ませてキミヨは続けた。視線は揺らがず、真正面からアカネを見据えている。

 

 「私が正しいかどうかは分かりません。ただ、責任を負うべきは先生であって、私ではない。だからこそ、私は生徒として、自分の“したい”を選びます」

 

 その言葉は、どこか大人びていながら、同時に生徒らしい素直さも含んでいた。

 

 アカネは数秒の沈黙ののち、ふっと小さく笑った。

 

 噂に聞いていた燈在キミヨの人物像とは、もはや別人と言っていいほどの乖離があった。

 

曰く──

 

 

冷静で、機械のように動く理屈と合理主義のかたまり。

感情は基本オフ。無表情で、先生の命令以外は完全スルー。

話しかければ睨まれ、下手に絡めば無言で処される。

銃を持たないで指揮をしているのは、舐めた相手を痛めつけるのが好きだから。実際に、カイザーの1部隊を素手で黙らせたらしい。

シャーレにいる理由は、喧嘩相手を合法的にボコボコにできるから。

最近は、ひっそりと先生の座を狙っているなどという、明らかに盛られた話まで混ざっていた。

 

 

 

 そこまで聞いていたアカネは、内心で「どんな鋼鉄メンタルの番犬が来るのか」と警戒していた。

 

 だが、実際に現れたキミヨはどうだ。

 

 人の声に耳を傾け、自分の言葉で意志を語り、助けを求める声を無視したくないとまっすぐに言える──

 まるで、物語に登場する“真っ当な主人公”のような、芯のある生徒だった。

 

 アカネの胸中に、ひとことが自然に浮かぶ。

 

──いや、噂、盛られすぎでは?

 

 目元では穏やかに笑いながらも、心の中では思わず両手を合わせて、これまで噂話をしていた生徒たちを静かに拝んでいた。

 

「盛るにも限度ってものがあるでしょうが....」

 

 心の中のツッコミを、誰にも聞こえぬよう丁寧に押し込める。

 

 その隣で、ユウカもまた、別の意味で驚きを隠しきれずにいた。

 

 キミヨの言葉は一見、理路整然としており、心ある発言にも聞こえる。だが、その真意を冷静に読み解いたユウカの中に、微妙な違和感が芽生えていた。

 

(....え?良いこと言ってる風だけど、これってつまり責任は先生に全部押しつけるってことでは.....?)

 

 一瞬、額に汗が滲む。

 

(もしかして、キミヨさんって──ヤバい人?)

 

 内心のざわつきを押し隠しながらも、ユウカはごく自然な表情を装っていた。だが、内心ではひそかに“推薦責任”という四文字が胸にずっしりとのしかかっていた。




自分の頭の中のキミヨと読者が考えるキミヨが一致していることを願っています

これまでの話でキミヨがどう言うキャラか分かりましたか?

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