サイクリングをしよう
「ん、遅くなった」
約束の日、シャーレのビルの下で、キミヨはシロコを待っていた。
シロコが前に言っていた通り、今日は動きやすい体操服姿だ。
本当は、シロコの自宅で集合する予定だった。だが、その話を聞きつけた他の四人に「ずるい」と駄々をこねられ、結局、アビドス高等学校に泊まり、翌日にショッピングへ行く流れになった。そのため、先生に頼んで仕事を昨日までに片づけ、シャーレで寝泊まりしていたのだ。
「いえ、全然大丈夫で....す」
キミヨはそう返しかけたが、言葉が止まった。
シロコが跨っているロードバイクの後ろに、もう一台、綺麗に連結されたロードバイクが目の前にあった。
「.....これは?」
「ん、昔使ってたロードバイクを引っ張り出して掃除してたら、ちょっと熱が入って。古い部品は全部交換した。キミヨにあげる」
その言葉に、キミヨはさらに驚いた。
動きやすい格好で、と言われた時から、ロードバイクで遊ぶのだろうとは察していた。せいぜい二人乗りでもするのだろう、そんな想像をしていた。しかし、まさか一台まるごと渡されるとは思っていなかった。
「....本当に、貰っても良いんですか?返せるものが何も....」
「いい。これはキミヨに、色々お世話になったお礼だから」
そう言うシロコだが、その理由はすべてではない。ロードバイクに興味を示してくれたキミヨを、絶対に逃さないために包囲する、そんな思惑を彼女は口にしなかった。
「………………」
「...迷惑だった?」
反応が返ってこないキミヨにシロコは問いかけた。その問いかけに、キミヨははっとして意識を取り戻した。
「あ、いえ。とても嬉しいですよ。買う費用も浮いて、しかもデザインもかっこいいですね」
キミヨはシロコのセンスの良さを賛美する。その言葉に、シロコは胸を張って、ふんすと答える。
「それでは、砂狼さんに頂いたことですし、どこか行きましょうか」
「なら、乗り方を教える。腰はその位置で――...もしかして、キミヨって乗ったことある?」
「.........いえ。乗った経験はありませんが、動画などで予習はしていました」
ロードバイクに跨るキミヨのフォームは、初心者とは思えなかった。しかし、その説明を聞いて納得したシロコは、キミヨにサムズアップを向けた。
「ん、なら早速行こう」
風を感じ、ペダルを回すリズムが心地よくて、私はどんどん速く走りたくなった。目の前の道が広がり、気持ちが軽くなる。体全体が風と一緒に流れているみたいで、爽快感に包まれていく。
「もっと速く、もっと速く..!」
無意識にペダルを踏み込み、風を切るスピードを上げる。周りの景色は次々と流れていくけれど、私はただひたすらに走ることに集中していた。
その時、ふと気づいた。
「...あれ?」
振り返ると、キミヨの姿が見当たらない。最初は教えながら一緒に走っていたけれど、いつの間にかキミヨを置いて先に行ってしまったようだ。
「どこで待とう...?」
自分で置いていったというのに、呑気に考えてしまう。とりあえず近くの自販機で、自分の分と切れているだろうキミヨの分のスポーツドリンクを買って待っていると、遠くからロードバイクの音が聞こえてきた。
「来た...」
何と言って謝ろうかと考えながら、音の方へ目を向けると、一生懸命に走っているキミヨの姿が見えた。そして、次第にキミヨの表情が見えてくる。怒っているのか、それとも何かを感じ取っているのか。シロコはその表情に息を呑んだ。
キミヨの顔には言葉では表せない複雑な感情が浮かんでいた。捨てられた子犬のような寂しげな表情にも見え、でもどこか興奮しているような、そんな入り混じった感情が伝わってきた。シロコはその表情を見て、心の中で何かが引っかかるのを感じた。
そのままシロコの元まで辿り着いたキミヨが、息を切らしながらも、ハッキリとした声で言った。
「絶対に追いつきますから!だから...だから全力で走ってください!」
その言葉に、キミヨの強い決意が込められているのがシロコにも伝わった。必死に、でもどこか純粋に、キミヨは自分を追いかけてきている。シロコはその気持ちを感じながらも、その言葉が本当に自分に向けられていたのか、疑問に思った。
「シロコはどれが欲しいの?」
「ん…今、考えてる最中」
二人の客がロードバイクを見ていた。片方の男は付き添いのようで、もう1人の中学生くらいの子が悩んでいる様子を温かく見守っている。
「私のことは気にしないで、シロコが思う存分考えてね」
「でも、いいの?最近知ったけど、ロードバイクってすごく高い」
不安そうな表情を浮かべながら尋ねるシロコに、男はにっこりと答える。
「全然いいよ。これからのシロコの人生の門出に対するお祝いだからね。お金のことは心配しなくて大丈夫」
「ん…ありがとう」
シロコは少し照れながらも感謝の言葉を伝えた。その後、しばらく考え込んでいたが、ようやく決心したのか、指を差して言った。
「これが欲しい」
「おぉ、デザインがカッコイイね」
男はシロコのセンスの良さを賛美する。その言葉に、シロコは胸を張って、ふんすと答える。その反応に男は微笑みながら財布からカードを取り出し、店員を呼びに行こうとした。
「ちょっと待っててね」
「あと、これも欲しい」
「え、2台欲しいの?」
男はシロコの分だけを購入するつもりでいたため、まさかの言葉に驚愕した。
「ん、一緒に始めよう」
「....ちょっと考えさせてね」
男は考え込む。数十秒経っても動かない男に痺れを切らしたシロコは上目遣いで問いかける。
「....ダメ?」
男は考え込んだ。だが、その眼差しに耐えられなかったのか、ついに言った。
「可愛すぎる!!」
ダッシュでレジに向かう男の背中を見送りながらシロコは小さな声でつぶやいた。
「....ちょろい」
その言葉を呟いたシロコは、思わず口元が緩んで嬉しそうな笑顔を浮かべていた。男の反応が予想以上に可笑しくて、少し得意げな気持ちが湧き上がる。自分の想定通りに事が運んだことが、心地よく感じられたのだった。
20話近く投稿して話が全く進んでいないことに絶望してます
これまでの話でキミヨがどう言うキャラか分かりましたか?
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