一般シャーレ事務員憑依   作:戯け

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絆ストーリー的な何か。



3話 先生思い切り良すぎません?

 シャーレのオフィスに、静かな緊張が漂っていた。

 

 私は正座をして頭を下げている。机の上には、私がこの間つい衝動買いしてしまった高額プラモデルが、誇らしげに鎮座していた。

 

「先生...これは流石にどうかと思います」

 

 真正面に座る燈在キミヨが、真剣な表情でそう言った。

 

「...はい。申し訳ないとは思っています」

 

 素直に答えると、彼女の視線がさらに鋭くなった。思わず言い訳しようと口を開きかけたが、良い案が浮かばず、何も言えずに口をつぐむ。

 

「もし、不慮の事故で生徒がこの“おもちゃ”を壊してしまったら...先生は生徒に弁償させるおつもりですか? “ウン十万”もするようなおもちゃを」

 

 眉をひそめながら、彼女が追い討ちをかけてくる。

 

……正論すぎて、ぐうの音も出ない。私は情けなく肩をすぼめ、ただひたすらに頭を下げ続けるしかなかった。

 

「それに、そんな高額なおもちゃにお金を使いすぎたら、先生の生活はどうなるんですか?」

 

 さらに畳みかけるように言うキミヨに、私は答えた。

 

「コッペパンともやしだけでも、生活は成り立つと思います」

 

 わりと本気だった。

 

 呆れたような顔をした彼女が、小さくため息をつきながら言った。

 

「...そんなこと言われても、私は先生の体も大事だと思っています。あなた一人のものじゃないんですから」

 

 その一言に、私ははっとした。

 

 確かに、自分の健康を軽視して、無理を重ね、挙げ句の果てに趣味に浪費。もし私が倒れてしまったら、生徒たちを守れるのか?教育者としての責任を果たせるのか?

 

 考えれば考えるほど、自分の行動の浅はかさに頭を抱えたくなった。今すぐ過去の自分をぶん殴りたい。

 

 私は一つ、決意を固め、彼女に言った。

 

「もう二度と...おもちゃは買いません」

 

 キミヨは一瞬、目を見開き、そして無表情のまま呟いた。

 

「....は?いや...マジですか、あんた...」

 

 あまりにも真顔だったため、その表情と彼女の整った顔立ちが相まって、正直ちょっと怖かった。

 

 沈黙の時間が流れる。

 

 やがて、キミヨは小さく、でもはっきりと口を開いた。

 

「私は、別に“おもちゃを買うな”とは言いたいわけじゃないんです。限度を知れって言ってるだけです」

 

 まっすぐに私を見つめたまま、言葉を続ける。

 

「趣味は、人にとって生きる希望だと思います。たとえそれが周囲に理解されないものだったとしても....それを奪う権利なんて、誰にもないって思うんです。まぁ....私、趣味なんてないから、実際のところよくわかんないですけど」

 

 その言葉は、どこか寂しさを帯びていた。

 

 まるで、感情を抑えて生きてきた誰かが、初めて心の奥を少しだけ覗かせたような、そんな声音だった。

 

 何か、声をかけたかった。

 

 けれど、どう言えば良いのかわからず、私は手元にあったBlu-rayのケースをそっと手に取った。

 

「..,ならさ。これから趣味を一緒に見つけていかない?試しに...今から《カイテンジャー》でも観てみる?」

 

 キミヨの目がわずかに見開かれる。少し考え込む素振りを見せた後、彼女は小さく微笑んで頷いた。

 

「....そうですね。仕事も終わってますし、先生の“ウン十万”払わせる趣味に興味もありますから。今から観ましょう」

 

「よし! じゃあお菓子と飲み物買ってくるけど、何がいい?」

 

 彼女は少し悩みながら、可愛らしく指を立てて言った。

 

「お菓子はカステラで....飲み物は、いちごミルクでお願いします」

 

「了解、カステラといちごミルクね!」

 

 私はウキウキしながらエンジェル24へと走り出した。

 

「先生先生!カイテンロボめちゃくちゃカッコいいです!! 観終わったらすぐにポチりますので、先生のおすすめをぜひ教えてください!!」

 

 夜は更け、二人で《カイテンジャー》を一気に全話観た。その日は、解散することなく、気づけば時計の針が一周していた。

 

 

 

 

翌朝。

 

「おはようございます、先生。キミヨ」

 

 私は珍しく軽やかな足取りでシャーレの部室へと入っていった。目的はただひとつ――親友であるキミヨと、ちょっと手がかかるけど憎めない先生に会うことだ。

 

 扉を開けた先にいたのは、あまりにも元気なキミヨと、すっかり魂の抜けたようにソファで寝息を立てる先生の姿だった。

 

「先生、先生!!もう一回全話観ましょう!」

 

 キミヨが叫ぶ。瞳はキラキラと輝き、完全に“推し”の顔になっている。

 

 先生は....もう限界らしく、スゥー....スゥー...と平和な寝息を立てていた。

 

 思わずため息が漏れる。だが、机に並ぶ書類を確認して、私は目を見開いた。

 

 三日分の仕事が、すべて終わっている。

 

 そう、今は勤務時間だけど、文句は言えない。むしろ、これだけやっておいて、そのうえで趣味に打ち込んだのだ。ならば、咎める理由なんてどこにもない――けれど。

 

 けれど、私は知っている。

 

 本当は怒りたくないだけだ。久しぶりに見た、あんな楽しそうなキミヨの顔を、壊したくなかったのだ。

 

 だからこそ、私は悩みに悩み、数分の間黙り込んだ。

 

 だが、やがて心を決め、二人に向かって声を上げた。

 

「二人とも!! 何をしているんですか!!!」

 

 雷のような怒声がオフィスに響いた。

 

 ビクン!と驚いて飛び上がる先生。キミヨも、口をぱくぱくと動かして言葉を失っていた。

 

その様子が、あまりに間抜けで――そして微笑ましくて、私は思わず小さく笑ってしまった。

 




果たして彼女には、どんな過去があるんでしょうね。
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