4話 アビドスの幻のシックスウーマン!?
アビドスの住宅街で何も持たずふらふらと歩く男が一人いる。彼は迷子になっていた。太陽は容赦なく照り付け、汗は額を伝い落ちる。視界はまだぼやけておらず、先の景色を見るが崩れている住宅が無限に続くだけで、自分の道が合っているのかもわからずただ歩く。
一つ訂正を加えるが、男は手ぶらで砂漠に行くほどの馬鹿ではない。元々出張用バッグとリュックサックを持ちアビドス高等学校へと出発した。だが悲しいことに、彼がアビドス地区に入って数日後、突如の砂嵐でバッグとリュックサックは消え、持ち物はシッテムの箱とシャーレのIDカードとポケットに入れている紙しか持っていなかった。
「あれ...私はなんでこんなところまで来てるんだっけ...」
男は地面に寝転び、数日前を振り返る。
「おはようございます先生、何を読まれているんですか?」
始業15分前、オフィスに入ったキミヨは、珍しくスマートフォンでゲームをしていなく、手紙らしきものを読んでいる先生に聞いた。
「ん?..あぁ、キミヨおはよう。ちょっとこれをね」
手渡された手紙は、とても綺麗な字でこう書かれていた。
『こんにちは、私はアビドス高等学校の奥空アヤネと申します。
今回どうしても先生にお願いしたいことがありまして、こうしてお手紙を書きました。
単刀直入に言いますと、今私達の学校は追い詰められています。
地域の暴力組織から攻撃を受けているのです。
こうなってしまった事情は、かなり複雑ですが....。
どうやら、私達の学校の校舎が狙われている様です。
今はどうにか食い止めていることができていますが、弾薬や備品が底をついてしまいます。
このままでは暴力組織に、学校を占拠されてしまいます。
先生、どうか私たちの力になっていただけませんか?」
アビドス高等学校より
「..........アビドスですか..」
読み終えた手紙を返し、ポツリと呟く彼女の姿はどこか遠い目をしている。
「キミヨは知っているの?」
「えぇもちろん、アビドス高等学校はキヴォトスで最も歴史が長い学校ですから。ただまぁ、いつからかは分かりませんが大規模な砂嵐で学区の環境は激変、シンボルだったオアシスは無くなり、その影響で住む人も年々減り続け、マンモス校だったアビドス高等学校はなんと現在六人しかいません。それで、先生はどうなされるんですか?」
彼女のいつもの問いに、私は待ってたと言わんばかりに言う。
「もちろん行くよ。だからキミヨ、数日の間ここを任せても良いかな?」
「それは勿論良いのですが...行くのであれば明日でお願いします」
「それは何でかな?出来れば今直ぐにでも行きたいけど...」
いつもの彼女だったらそのまま「行ってらっしゃいませ先生、他の仕事は終わらせておきますので安心して行ってください」と言うはずなのに今日は少し違う。
「先ほども言いましたが、アビドスは砂漠地帯です。先生は砂漠に行った経験が無いと思われますので言っておきますが、舐めてると痛い目にあいますよ。なので、今から砂漠用のリュックと必要なものを買ってきますので先生はお仕事をお願いします」
「痛い目って具体的に言うとどんな感じに?」
「死にます。「死!?」ええ、水や食料が無く目的地も分からないまま喉は渇き、ジリジリと命の灯火が消えて行くのをゆっくり待つだけになりますよ。しかも私の場合、途中で遭難者を背負いながら歩いたものなので、少し三途の川がこんにちはしてました」
「....そんなヤバいところに行くのか。...うわー急に不安になってきた、キミヨも一緒に行くことって無理?」
ダメ元でキミヨにお願いをするが、淡々と彼女は言う。
「何馬鹿なことを言っているんですか。あなたがいない間、誰がリンちゃんからの書類仕事や教材用のBDの制作、それにシャーレの依頼やキヴォトスのパトロールをするんですか」
「....シャーレの当番の子とか?」
「面白い冗談を言いますね先生。ただでさえシャーレの当番に否定的な私がその制度を頼りにすると思いますか。それにそれだとシャーレの当番の子が可哀想です」
「....頑張って一人で行かせてもらいます」
「分かればよろしいのです。では買い物に行ってきますので先生はお仕事頑張っててください」
後日、先生が出発する際にびっしり積まれているリュックと綺麗に折り畳まれた紙を彼女に渡された。紙の表紙には中身は「アビドス高等学校への行き方」と書かれており、自身の似顔絵付きで分かりやすく遭難した際の対処法が裏面にまでびっしり書かれていた。
「せっかくキミヨが準備してくれたのに...だらしない先生でごめん....」
先生は己の不甲斐なさに絶望していると、近くでブチャリンと自転車がブレーキ音が鳴り、音が鳴った方を見ると──
「あの....大丈夫?」
「一応...いきてます」
少しふらつきながらも起き上がり、少女はこちらに水筒を向けている。
「これ、スポーツドリンク。飲む?」
「ありがとう....」
水筒を受け取り、ゴクゴクと喉の渇きを潤す。数時間振りの飲み物に体の奥底から安堵が広がった。その一口は、まるで長い夢から覚めたかのように、喉を満たし、心に一滴の清涼感をもたらした。
「改めてほんとうに助かったよ。ありがとう」
「ううん、気にしないで」
「その制服..もしかしてアビドスの生徒だよね。だったらさ、案内してくれない?私、アビドス高等学校に向かっているからさ」
「ん、もちろん。多分また遭難すると思うから、着いてきて。」
そうして彼女が先導をし、着いていきながらアビドス高等学校へと向かって行った。
「ただいま」
「おかえり、シロコ先輩と...お客さん?」
一番早く気が付いた猫耳少女が疑問を投げかける。
「あれ..でも今日来客の予定は無かったような...」
「でもうちに用があるらしい」
今がチャンスだ。頃合いを見ていた私はIDパスポートをみんなが見える位置に置き、元気に言う。
「『シャーレ』の先生だよ、よろしくね!!」
「...え、ええっ!?あの噂の!?」
「連邦捜査部「シャーレ」の先生!?」
「わあ☆支援要請が受理されたのですね!よかったですね、アヤネちゃん!」
「はい!これで.....弾薬や補給品の援助が受けられます」
彼女らの言葉から察するに、相当の間孤独に戦い続けていたのだろう。特に、アヤネと呼ばれた少女は目じりに涙を浮かべるほどに喜んでいる。
良かった、彼女たちの笑顔を見て遭難してまで来た甲斐があった。
「あ、早くホシノ先輩にも知らせてあげないと....あれ?ホシノ先輩は?」
「委員長は隣の部屋で寝てるよ、私、起こしてくるから」
そう言って出ていく猫耳少女を見送り、アヤネがこちらに向き、口を開こうとしたところで───
「っ!銃声!?」
銃声がした方を咄嗟に覗くと、ヘルメットを被った集団が見えた。
「ヒャッハーーーハッハッハッ!!」
「攻撃、攻撃だ!!奴らはすでに弾薬の補給を絶たれている!襲撃せよ!学校を占領せよ!」
数え切れないほどの人数の集団が銃を乱射しながら、校門へ殺到している光景を見てシロコが顔を歪ませる──
「あいつら.....!!性懲りも無く!」
シロコは愛銃を手に取り、ヘルメット集団の元へ奇襲を仕掛けようとした瞬間、教室の扉が開く──
「ホシノ先輩を連れてきたよ!先輩!寝ぼけてないで、起きて」
「むにゃ....まだ起きる時間じゃないよー」
腕の中で抱えられている少女、ホシノはまだ寝ぼけているのか、言葉はふにゃふにゃ。体は脱力している。そんな態度にアヤネは焦り、必死に声をかける。
「先輩!先輩!起きてくださいヘルメット団が再び攻撃をしてます。そしてこちらはシャーレの先生です、救難信号が届きました」
「ありゃ〜そりゃあ大変だね...あ?先生、よろしく〜むにゃ」
一瞬だが、こちらを品定めするような目で見てきた。大方、私が信用できるかを考えているのだろう。
「先輩、しっかりして!出勤だよ!頑張って!学校を守らないと!」
「ふぁあー....分かったよセリカちゃん。おちおち昼寝もできないじゃないかー、ヘルメット団めー」
セリカの慌てようからただごとではないと気がついたホシノは、恨めしそうにヘルメット団を呼びながら窓を確認する。そのまま、自分の武器であろうショットガンとバリスティックシールドを取り出す。
「直ぐに出るよ。先生のおかげで出し惜しみせずにいける」
「はーい、みんなで出撃です☆」
「私たちはここでみんなのサポートをしましょう。先生サポートお願いします」
「...ああ!任せて」
アヤネの言葉に反応が遅れながらも返事をする。意外だった、彼女にここまで信頼されているとは──
「こちらシロコ、敵を目視した、聞こえてるなら返事を」
「はーい聞こえてますよ☆こちらノノミ、高台につきましたよ」
「ちょ!?数が多すぎる!目視だけでも十人以上いるわよ!」
「アヤネちゃん、敵の大体の位置でいいからおじさん達に送ってくれない?」
「待っ、待ってください、今急いでやっていますので」
液晶を見ながらドローンの位置を変えているアヤネの声色から、相当に苦戦していることが分かる。
「アロナ、いくよ」
端末に声をかけ『任せてください』という返事が聞こえ私もドローンを出す。ドローンの映像に映るのは、ヘルメット団側の圧倒的な人数による物量の多さだ。こちらの戦力では、決定的な代打的を打てず、膠着状態が続いている。
「数は..,46か。よし、これなら問題ないか」
そう言いながら、シッテムの箱を操作してボタンを押す。すると画面に蒼穹が広がる。
「ここからは私も一緒に戦わせてもらうね!」
Battle Compleateの文字が浮かび上がり、ふぅーと一息をつく。彼女らは何かを話しており、参加したいが疲れからか何も動きたくない。数分後、彼女らは戻ってきた。
「いや〜まさか勝っちゃうなんてね。ヘルメット団もかなりの仕掛けてきたみたいだったけど」
「まさか勝っちゃうなんて、じゃありませんよ、ホシノ先輩...勝たないと学校が不良のアジトになっちゃうじゃないですか...」
帰ってきた四人はパイプ椅子に深く腰をかける。ホシノはノノミの膝に寝転がり、セリカは体を椅子に預け、シロコはエネルギーバーを食べてノノミはその光景を見て微笑む。数十分の戦闘とはいえ、神経をずっと尖らせていたのだ、先生の疲れとは別の疲れがあるのだろう。
「先生の指揮が良かったね。私たちだけの時とは違った」
「そうですね、私から見ても先生のサポートは素晴らしかったです。では、改めて自己紹介を、私たちは、アビドス対策委員会です。私は書記とオペレーターを担当している一年のアヤネです。こちらは同じく一年のセリカ」
「どうも」
彼女はぶっきらぼうに言う。信用はされているがまだ信頼はされてなさそうだ。
「二年のノノミ先輩とシロコ先輩」
「よろしくお願いします。先生〜」
「最初に出会ったのは私、そして先生の命の恩人、あ...マウント取ってるわけじゃないから....」
セリカとは違い、ノノミは楽しそうに、シロコは謎の補足を入れて。
「そして、こちらは委員長の、三年のホシノ先輩です」
「いや〜よろしく、先生ー」
ホシノはゆるい声で返事をしたが、その目は私をじっと見つめている。声の柔らかさとは裏腹に、瞳の奥に潜む何かが、彼女の心の奥底を覗かせているようだった。彼女が一番信頼を得るのが難しそうだ。
「以上が私たちアビドス対策委員会のメンバーです。改めて、救難信号の受理、ありがとうございます」
「え...あぁこちらこそ暖かく歓迎してくれてありがとう。みんな知ってると思うけど、シャーレの先生だよ」
アヤネの言葉に違和感が走った。瞬間、呼吸が一瞬止まり、口を開く前に自分の胸の内側に小さな違和感が広がるのを感じた。言葉が出そうで出ない、その微妙な空気のズレをどうしても直さなければと思った。だが、口は勝手に開く。
「...ところでこの学校って他に六人目の生徒が居たりしないかな?」
「いえ、私たちアビドス対策委員会のメンバーしか学校に居ませんが...急にどうしたんですか先生?」
こっちの問いに全員が首を傾げ、代表してアヤネが私に問う。
おかしい、なぜキミヨはあの時六人って言ったのだ。資料の読み間違えか。いや、でもアビドスについて語る時の彼女の表情は何処か確信めいていた。今考えても仕方ないか──
「いや、私の勘違いだったよ。じゃあ早速、物資を届けるからどこか空いた部屋はない?」
「ん...なら私が案内してくる。皆んなは待ってて」
シロコが立ち上がり、私が着いてきてるのを確認して歩き、とある部屋のドアを開け中に入る。
「ここは?」
「ただの空き部屋、これからは先生が使って」
案内された部屋は片付けられており、まるでいつも掃除が行き届いているかのようだった。シロコは外に待機してもらえるように頼み、私はタブレットを取り出してアロナに声をかけ、クラフトチェンバーで物資を作り始めるのであった───
「ん...先生この紙は?」
「これは私の生徒が作ってくれんだ。アビドスに行くと行ったら作ってくれてね」
「わあ☆すごいですこの紙。私が知らないアビドスについても書かれています」
「先生こんなすごいものを持って遭難されていたのですか?」
「....ハハっ!」
アプリでキミヨがいた場合、初期から居るけど実装されず、謎のキャラとして登場してる感じです。
タイトル詐欺になってたらすみません。...詐欺じゃないよね?