一般シャーレ事務員憑依   作:戯け

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7000文字流石に疲れました。原作のシーンをどれくらい入れるかの調節が難しい。


7話 過去は瓦礫の下に置いていった。はっきり言って──思い出したくないから

 ......静かだった。

 

 何も聞こえない。風の音も、人の声も、銃声も。

 

 ただ、自分の呼吸の音だけが、ぼんやりと頭の奥で響いていた。

 

 

 「っ.....が、は.....」

 

 吹き込んだ拍子に、肺に溜まった粉塵が喉を焼く。

口の中が鉄みたいな味でいっぱいだ。

 

 瞼を開けると、視界は暗く、狭かった。

 

 「....私は気絶していたのか....」

 頭上は潰れた天井。崩れた壁の破片が身体にのしかかり、脚は完全に動かない。

 

 「....っ、ビクともしない」

 どうにか退かそうと力を込めるが、瓦礫は全く動かない。

 

 「....先生が来るまで待つか」

 自嘲気味にそう呟いて、目を閉じた。

 頼れる誰かが、どこかで気づいてくれる。そう信じる以外、今の私には何もできなかった。

 

 

 ──暗い。

 ──冷たい。

 ──何かの匂い....コンクリートと、額に落ちる血と、焦げた金属の臭い。

 

 

 (....あの子達もこう言う気持ちだったのか...)

 

 ──時間が、巻き戻る。

 ──意識が、瓦礫の中から記憶へと沈んでいく。

 

 

 赤く染まった空の下、避難所の前に複数の少女たちが集まっていた。

 焦げた風が頬を撫でるたび、どこか遠くで小さく爆ぜる音が響いてくる。だが、この場の空気は、それとは対照的に静かだった。

 

 「.....ごめんなさい。私も、ツルギさんみたいに強ければ....一緒に行けたのに」

 小さな肩を震わせながら、そう呟いた子がいた。

 

 「どうか、死なないでください。....生きていれば、何かが起こります。でも、死んだら……それで終わりです。だから....」

 ひどく心配そうな顔で、涙をこらえながら言葉を紡ぐ子もいた。

 

 他にもたくさんの子がいた。

 震えながらも、必死に笑ってくれた子。声がうまく出ないのに、それでも手を握ってくれた子。

 誰もが、自分の言葉で、私を送り出してくれた。

 

 怖さを隠すような笑顔。泣きながらも前を向く瞳。

 それでも、皆に共通していたのは──

 

 「.....いってらっしゃい」

 

 その一言だった。

 

 私は小さく息を吸い、できる限り明るく笑った。

 「ああ──行ってくるよ」

 

 そう返したときの、自分の声。

 あの瞬間は、本当に、そう思っていたのだ。

 

 

 

 ──時が流れる。

 

 

 

 「生存者は....生存者を見つけ出さないと!」

 かすれた声が、風の中に消えかけていた。

 

 「......生存者は、居ないと思います」

 もう一つの声が、冷たく、淡々とそう告げる。

 

 

 静かだった。

 灰にまみれた風景。崩れた壁。潰れた建物。

 どこまでも広がる、終わった世界の匂い。

 

 「そんなわけないだろ....!誰か、誰か絶対に生きているはずだ!」

 

 瓦礫の隙間からのぞく、血に濡れた制服の袖。

 機械の腕。獣のような爪。

 倒れていたのは、名も、顔も、すぐに思い出せる子たちばかりだった。

 

 叫んだ。喉が裂けるほどに。

 けれど、誰も──何も、返事をしなかった。

 

(あの時の瓦礫も、重かった)

(必死で掘って、爪が剥がれても、手が血に染まっても、それでも──)

 

 ──遅かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……でも、今は違う。

 

 

 

 「......柴大将を助けないと」

 

 先生を待つ?いつ来るかもわからないのに?

 そんな甘い考えに縋っている暇があったら──一人でも多く、助けてみせろよ。

 

 

 

 「......邪魔だ。それに、外がうるさいんだよ」

 

 

 さっきまで微動だにしなかった瓦礫を、歯を食いしばって押し退ける。

 筋肉が悲鳴を上げ、呼吸が荒れる。だが、止まらない。止まれない。

 埋もれた声を信じて──柴大将を探し始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──キミヨが目覚める数十分前

 

 

 

 「先生! 気絶している大将が.....!」

 

 セリカの叫び声に、周囲の空気が張り詰めた。砂塵が舞い、あたりにうっすらと血の匂いが漂っている。

 

 「ん、早く.....シェルターに運ぶ」

 

 先生の指示を受けて、シロコとセリカは力を合わせて大将を担ぎ上げシェルターに運ぶ。数秒後、戻ってきたシロコが辺りを鋭く見渡した。

 

 「誰が.....こんなことを?」

 

 そのときだった。砂煙の中から、ぼんやりと浮かび上がる四つの人影。

 

 「これぞまさに! 血の涙もない大悪党! そんじゃそこらのザコには到底できない鬼畜の所業! 悪人中の悪人じゃん!」

 

 混乱しているアルをムツキは揶揄って楽しんでいる。

 

 「あんたたち.....よくも、こんなひどいことを!!」

 

 セリカの怒号が、静寂を裂いた。その瞬間、ハルカとアルの顔が更に青ざめ、明らかに狼狽していた。ムツキはそんなアルをからかうようにクスクスと笑い、カヨコは腕を組んで、呆れたような表情でため息をつく。

 

 ――ハルカが暴走したのか? それとも、今までのアルの姿は演技で、あれもこれも私たちを油断させる罠だったのか……。いや、後者はないか。だが、どちらにせよ――これはもう、ただの騒動では済まされない。

 

 「....あんたたち。絶対に、許さないから」

 

 セリカの瞳に、怒りの炎が宿る。

 

 「っ、そっ、そうよ!! これでわかったでしょう、アビドス! 私がどんなに悪党かをっ!」

 

 アルが声を張り上げた。自分でも何を言っているのか分かっていないのだろう。

 言葉は支離滅裂だったが、それでも必死に虚勢を張っていた。

 

 ──その瞬間だった。

 

 『先生、気をつけてください!! 砲弾が――!』

 

 「みんな、早く下がって! セリカッ!」

 

 先生の叫びと同時に、シロコたちは即座に戦闘体勢に入る。先生は皆んなより一歩前に出ていたセリカの手を掴み、素早く物陰に連れ込む。

 

 そして、次の瞬間──轟音。

 耳をつんざく爆音と共に、土煙と破片が空を裂いた。

 

 さっきまで彼らが立っていた場所。そこに、凄まじい爆発が巻き起こっていた。

 

 「けほっ......けほっ....アロナ、みんなは....!?」

 

 『大丈夫です、先生。皆さん、傷ひとつなく無事です。それに……あの砲撃は私たちではなく、《便利屋68》を狙っていたようです。そして、ここから数キロ先に生体反応が、反応からしてゲヘナの風紀委員会です」

 

 「先生.....一体、何が起きているんですか?」

 

 ホログラム越しにアヤネが先生へ問いかける。

 

 「便利屋68を狙っている.....風紀委員会が攻撃してきたんだ。便利屋68のメンバーはゲヘナの生徒だからね」

 

 先生の声は落ち着いていたが、その目は鋭く空を見据えている。

 

 「先生大丈夫ですか」

 

 ノノミとシロコも合流したようだ。

 

 「ん、先生どうする?」

 

 「冗談じゃないっての!便利屋は私たちの獲物なんだから!」

 

 「でも一歩間違えれば、政治的な問題になる可能性すらあります…アヤネちゃん、ホシノ先輩にはまだ連絡がつきませんか?」

 

 ノノミの問いにアヤネは小さく首を振る。

「.....駄目です、普段ならここまで連絡がつかない事は無いはずなのに.....」

 

 アビドスを誰よりも愛し、仲間を思う彼女が、この状況で動かないはずがない。

 ということは──ホシノにも、何かがおきている...?

 

 「この状況...私たちはどうすれば良いのでしょうか?」

 

 ノノミの声には、不安が滲んでいた。ホシノの不在が、仲間たちの心に重くのしかかっている。

 

 「じゃあ便利屋をこのまま風紀委員会に引き渡しちゃう?」

 

 沈黙。

 それはまるで、全員が一度、心の底まで問いを飲み込んだかのようだった。

 

 「....他に選択肢はない。風紀委員会を阻止する」

 

 鋭く言い放ったのは、シロコだった。

 

 「シロコちゃん!?」

 

 「.....その通りです、風紀委員会が私達の自治区で戦術的行動をしたという事は、政治的紛争が発生するという事。便利屋の皆さんが悪い事をしたのは事実です。ですが、他の学園の風紀委員会が私達の許可もなく、こんな暴挙を執行しても良いという意味ではありません」

 

 

 「そうよ!便利屋を罰するのは私たち!柴関ラーメンを壊した代償を払ってもらわないと」

 セリカは拳を握りしめ、唇を噛みながら叫ぶ。

 

 先生は無言のまま一歩、前へと踏み出す。

 その視線が、仲間たち一人ひとりに向けられる。

 誰も目を逸らさなかった。

 

 「──それじゃ、みんな。準備はいい?」

 

 その問いに、誰ひとり言葉で答える者はいなかった。

 だが、全員の頷きが何より雄弁だった。

 銃を構える手には、もう迷いはなかった。

 それぞれが覚悟を定めた瞳に、揺らぎはない。

 

 その瞬間、アロナの声が届いた。

 

 『先生、風紀委員会の正確な位置と作戦行動データを送信します。マップを展開──完了しました』

 

 「ありがとうアロナ」

 

 先生の声が低く、確かに返される。

 そして、その瞳が鋭く光を帯びた。

 

 「今から──反撃開始だ」

 

 

 風紀委員会の防衛線を抜ける道中、私たちの前には何人もの生徒たちが立ち塞がった。

 だが──そのすべてを、私たちは難なく退けていた。

 

 こちらの動きに迷いはない。

 一糸乱れぬ連携と、的確な判断。アビドスは確実に強くなっていた。

 対する風紀委員側は連携も緩く、明らかに即席の布陣だった。

 

 ──だが、ただ一つだけ、気にかかる点があった。

 

 (……妙だな)

 

 私は一人の倒れた風紀委員の足元に転がる薬莢を見下ろし、眉をひそめた。

 

 「.....なぜ、ゴム弾で私を撃ってくる?」

 

 実弾ではない。明らかに殺傷を避ける意思がある。

 だが──相手が便利屋であるなら、むしろ実弾で臨む方が合理的なはずだ。

 便利屋のメンバーは多少の銃撃では止まらない。彼女たちは、そういう連中だ。

 

 それなのに──

 この“制圧”用の装備は、まるで最初から私たちを標的にしていたような、そんな感触があった。

 

 (つまり……これは“想定済み”だった?)

 

 そう思った瞬間、胸の奥に冷たい違和感が湧き上がる。

 それは戦場にいる者が持つ、危機の兆し。確かな直感

 

 「先生? どうされたのですか?」

 

 合流し、私の隣を歩くアヤネが、心配そうに顔を覗き込んでくる。

 

 「......いや、なんでもないよ。ごめんごめん。それじゃ、進もうか」

 

 今は立ち止まる時じゃない。

 きっと、この疑問の答えは──もう少し先にある。

 

 再び歩き出して数分後、私たちは広く開けた交差点に出た。

 瓦礫に囲まれた無人の交差路。遠くから、風で紙屑が舞う音が聞こえる。

 

 そして──その中央に、二つの影が待ち受けていた。

 

 一人は、銀色の髪をツインテールに結んだ少女。

 その冷ややかな視線と、寸分の狂いもない銃の構え。

 その立ち姿を一目見ただけで、彼女が指揮官格であることが分かった。

 

 そして、もう一人──。

 

 その姿を目にした瞬間、私は無意識に眉をわずかに動かす。

 

 「.....久しぶり、チナツ」

 

 私の声に、少女──チナツの肩がわずかに揺れた。

 彼女は冷たい眼差しを向けながらも、ほんの一瞬、目を伏せる。

 

 「.....こんな形でお目にかかるとは思いませんでした。先生がそこにいらっしゃると知った瞬間、撤退を決断すべきでした。.....私たちの判断ミスです」

 

 言葉とは裏腹に、チナツの手はわずかに震えていた。

 それは、かつて共に戦った記憶に揺れる心の証か、それとも今から始まる対立への恐れか──その判断はつかない。

 

 そのとき、アヤネが一歩前へと出た。

 背筋を正し、凛とした声で名乗る。

 

 「アビドス対策委員会の奥空アヤネです。所属をお願いします」

 

 アヤネが一歩前に出て名乗ると、銀髪の少女が口を開きかける。

 

 「それは....」

 

 

 しかし、その返答は最後まで語られることはなかった。

 

 『──それは私から答えさせていただきます』

 

 突如、クリアな通信音声が場の緊張を裂く。

 

 「通信.....?」

 

 「アコちゃん.....?」

 

 『こんにちは、アビドスの皆様。私はゲヘナ学園所属の行政官──アコと申します』

 電子の声に、戦場の空気が変わる。アコの口調は落ち着いていたが、底知れぬ圧があった。 

 

 『まず、先程までのイオリの愚行は、私の方から謝罪させていただきます』

 

 イオリが狼狽するが、通信の向こうからは容赦ない声が返る。

 

 「なっ!私は命令通りにやったんだけど!?アコちゃん!?」

 

 『命令に、「まず無差別に発砲せよ」なんて言葉が含まれていましたか?』

 

 「そ、それは....」

 

 『ましてや他の学園の自治区の付近なのだからその辺りは注意するのが当然でしょう?』

 

 静かに、だが厳しく断じられる。

 アコの論理と語調は、相手の逃げ道を完全に封じていた。

 

 

 『失礼しました、対策委員会の皆さん。私達はあくまで、私達の学園の校則違反をした方々を逮捕するために来ました。色々と望まない事はありましたが、まだ違法行為とは言えないでしょうし、やむを得なかったということでご理解いただけると幸いです。風紀委員会としての活動に、ご協力をお願いできませんか?』

 穏やかな言葉とは裏腹に、その声の裏には譲歩の意志がまったく見えない。

 

 「先ほども言いましたが....そうはいきません!」

 アヤネが一歩も引かずに言い放つ。

 

 『あらっ.....?』

 

 「他校が他の自治区で戦闘行為をするだなんて、これは自治区の観点からして、明確な違反です!便利屋の処遇は、私達が決めます!」

 

 その堂々とした姿に、私は思わず微笑みそうになる。

 少し前のアヤネなら、ここまで言い切ることはできなかったはずだ。

 

 私も前へ出て、静かに言葉を重ねる。

 「ごめんアコ。でも、便利屋の処遇は私たちが決めさせてもらうね」

 

 『これは困りましたね。...仕方ありません。ヤるしかなさそうですね』

 

 その瞬間、乾いた銃声が響き渡った

 

 「ぐあっ!」

 

 「うわあっ!」

 叫び声とともに、数人が倒れる。

 その場にいた全員が一瞬、凍りついた。

 

 「な、なんだ。何が起こっている」

 

 イオリの困惑した声が響く。

 

 「──許せない...!」

 

 その声は、背後から聞こえた。

 怒気と悲しみを滲ませた、震える声。

 

 ──ハルカだ。

 

 そして──

 

 「許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!」

 まるで呪詛のように繰り返す声。

 その怒りに引き金が重なり、至近距離から撃ち込まれた弾が、イオリを地面に沈めた。

 

 イオリが苦鳴とともに崩れ落ちる。

 

 「──嘘をつかないで天雨アコ」

 

 低く、鋭い声。

 カヨコだ。

 

 

 包囲を抜け、便利屋68のメンバーたちがこちらへと歩み寄ってくる。

 カヨコを先頭に、アル、ムツキの姿もあった。

 

 「偶然なんかじゃないでしょ、最初からあんたが狙ってたのはこの状況だった」

 

 その鋭い指摘に、私は思わず呟く。

 

 「.....やっぱり、か」

 

 『面白い話をしますね、カヨコさん』

 

 通信越しのアコが、まるで冗談でも聞いたかのようにくすりと笑う。

 

 「え?え?どういうことよ」

 

 セリカが戸惑いの声を漏らす。アビドスの面々も皆、困惑の表情を隠せない。

 

 

 「最初はどうして風紀委員会がここに現れたのか理解ができなかった。風紀委員会が他の自治区まで追ってくる理由、それも、私達を狙って?こんな非効率的な運用、風紀委員長のいつものやり方じゃない。だからアコ、これはあんたの独断的な行動に違いない」

 

 カヨコの口調は静かだが、その瞳には確信が宿っている。

 

 ──それにしてもよかった、風紀委員長はこんな強引な手を使う人物ではないらしい。

 

 「それに──」

 カヨコは更に続ける。

 

 「私達を相手するにしては多すぎるこの兵力、最初から別の集団との戦闘を想定していたとすれば、説明がつく。とはいえ、アビドスは5人しかいない。なら結論は一つ。まぁ、先生はとっくに気づいているだろうけど。」

 

 

 そして、静かに──だが、はっきりと告げた。

 

 「アコ、あんた最初から先生を狙ってここまで来たんだ」

 

 「....ッ!」

 

 「な、なんですって!?」

 

 「先生を...狙ってた.....?」 

 

 驚愕に目を見開くシロコたち。

 場の空気が一瞬で張り詰め、銃の安全装置が外れる音すら響く。

 

 『カヨコさんが居るのに、のんきに雑談なんてしている場合じゃありませんでしたね。──まぁ、構いませんがね』

 

 (ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、....)

 

 「12時の方向、それから6時の方向、3時…9時…風紀委員会のさらなる兵力が四方から集結しています....!」

 

 アヤネの声が緊張感を帯びる。

 

 

 『何故私たちがこのようなことをする経緯はティーパーティがシャーレの報告書を持っているところから始まりました。そこで私たちもチナツの報告書を読むと....どう考えても怪しい匂いがするじゃないですか。なのでエデン条約が締結されるまで先生を私達風紀委員会の庇護下にお迎えさせて頂きたいのです』

 

 その言葉に、私は静かに首を振った。

 

 「そんなことさせるわけないだろ」

 ──その声が響いたのは、私ではなかった。

 

 「.....キミヨ!?」

 驚いて振り返る。

 そこには、息を荒げ、服は血で汚れ、額から鮮やかな一筋の血を流す少女がいた。

 その制服は、間違いなく──連邦生徒会のもの。

 

 「その制服は.....連邦生徒会? 一体誰ですか」

 

 警戒を露わにするアコの問いに、少女──キミヨは短く答えた。

 

 「私のことなんてどうでもいいだろ」

 

 深く息を吸い込み、言葉を切り替える。

 

 「便利屋68」

 

 名を呼ばれ、アルがぎこちなく反応する。

 

 「な...何かしら」

 

 「今から私があなた達を指揮します。協力していただければ、柴関ラーメンを爆破したことを私からは何も言いません。だから協力してください」

 

 「...そう、あの時。カウンターにあった丼。あなたのだったのね」

 

 アルが小さくつぶやいた。

 

 「どうする、社長? 今なら逃げられるけど.....社長?」

 

 「ねぇ、カヨコ。あなたなら、もう分かってるんじゃない?」

 

 「.....何を?」

 

 「ご飯を食べに来た子をボロボロにさせた。そのうえ私たちが逃げるなんて」

 

 彼女は一歩踏み出し、声を張る。

 

 「そんな三流の悪党みたいなこと──私たち便利屋が、するわけないじゃない!!」

 

 その言葉に、他の三人も次々と続いた。

 「.....あはー」

 「アル様を邪魔する人は全員.....消します」

 「(昨日あっさり逃げてなかったっけ)まぁ、いいけど」

 

 そんな三者三様の返答に、キミヨがふっと小さく笑う。

 

 「流石だね、アル」

 

 誰にも聞こえないような、風に溶けるほどの小さな呟きのあと、彼女は鋭く告げた。

 

 「それじゃあ──便利屋68、戦闘開始だよ」

 

 その声が、戦いの幕を切り裂いた。




ヘイローあるのにボロボロなキミヨ可哀想。
最近バンドオブブラザーズというドラマを観ました。六話が特に面白かったです。
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