一般シャーレ事務員憑依   作:戯け

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タイトル考えてる時が一番好きです


8話 あなたの言う『ゆめ』って——夢?努?それとも、ユメ?

「....強い」

 戦闘が始まってから、すでに幾十もの刻が過ぎていた。指揮をとりながら、先生はそっと唇をかみしめる。

 キミヨが前線に立った、その瞬間から空気が変わった。まるで濃霧が晴れるように、全体の動きが一気に鋭さを増し、整然とまとまりはじめた。

 たしかに、これまでの便利屋たちも決して悪くはなかった。だが――キミヨが指揮を執った今、彼女らはまるで別人のように動いている。見えない歯車が噛み合ったかのように、戦線は滑らかに、そして力強く前進を続けていた。

 「.....倍どころじゃない」

 胸に去来するのは、驚き。そして、ほんのわずかな安堵だった。

 けれど、同時に浮かび上がるのは、抑えきれない羨望の念。

 キミヨは、生徒とともに戦っている。風紀委員から銃を奪い、隣に立ち、援護射撃をしている——それは、先生には到底できない芸当だった。

 彼女自身は「銃の才能なんてないし、戦闘は苦手」と言っていたが、それでも指揮ができるだけで、十分だと先生は思っていた。それに、初めて指揮をするところを見て、アロナという補佐がいる私と比べれば酷かもしれないが、単体でここまでできるのなら、指揮官としての実力は互角と言っても差し支えないのではないか。

 

 

 

 

 「私が....私じゃないみたい」

 アルは荒く息を吐きながらも、迷いなく次の動作へ移る。銃声、怒号、爆音——そのすべてが遠のいていくように、頭の中だけが奇妙な静けさに包まれていた。

 自分の体が、まるで他人のものみたいに軽く、淀みなく動いている。

 

 (彼女....キミヨって言ったかしら)

 ちらりと視線を向ける。戦場のど真ん中で指示を飛ばす彼女の声は、不思議と胸の奥まで真っ直ぐに響いた。

 普段の自分なら、こんな動きはできない。判断も、反応も、ここまで鋭くはない。

 それなのに——彼女の声があるだけで、自分が「兵士」になっている気がした。

 それが不思議で、少し怖くて....でも、どこか心地よかった。

 

 「それに....」

 

 彼女の指揮は、あまりにも的確すぎる。

 どれだけ資料を読み込んでいても、どれだけ先生から情報を共有されていたとしても、初対面の私たちを、ここまで完璧に動かせるだろうか。

 まるで、最初から私たちのすべてを知っていたみたいな動き。

 

 その違和感が、彼女への疑問と興味をいっそう強めていく。

 

 ——そのときだった。

 

 彼女が突然、鋭い声を上げた。

 

 「誰か来る....まさかっ!便利屋、直ちに撤退して!ここからは私たちが引き受ける!」

 

 「えっ、ちょ、どういうこと!?」

 

 「いいから、ここは私たちに任せて!」

 

  押し切るようなその声に、納得のいかないまま、便利屋のメンバーたちは渋々その場を離れていった。

 

 そして数秒後——

 

 

 

 

 「アコ。この状況、きちんと説明してもらうわ。それと、あなた。額から血が流れてるけど、大丈夫?」

 

 突然現れたのは、風紀委員長、空崎ヒナだった。表情は変えず、淡々とした口調で、しかし確実に場を制していく。

 

 「私には、お構いなく」

 

 そう答えたキミヨに、ヒナは一瞬だけ視線を走らせると、すぐにアコへと向き直った。

 

 「あら、そう。それで——アコ。この状況、どういうこと?」

 「そ...その...これは、素行の悪い生徒たちを捕まえようと....」

 しどろもどろのアコ。顔には明らかな焦りの色が浮かんでいる。

 

 「便利屋68のこと?で、どこにいるの?今はシャーレとアビドスが対峙してるようにしか見えないけれど」

 

 「え? 便利屋なら、そこに.....って、あれっ!?」

 

 アコが振り返った先には、誰もいなかった。

 

 その声に、アビドスのメンバーたちもようやく異変に気づく。

 

 「い、いつの間に逃げたのですか!?さ、さっきまで確かにそこにいたはず....。ま、まさか、あなた、委員長が来るのを察知して——」

 

 「さあ。なんのことか、私にはわかりませんね」

 

 小さく肩をすくめて答えるキミヨと、それを見たヒナは深く息を吐いた。

 

 「...はあ、大体把握したわ。アコ。私たちは風紀委員であって、生徒会じゃない。そういうことは『万魔殿』のタヌキたちに任せておけばいいの」

 皮肉めいた口ぶりのまま、通信端末に手を伸ばす。

 「詳しい話は帰ってから。——アコ、通信を切って、校舎で謹慎してなさい」

 

 「....はい」

 

 アコはうなだれたまま、小さく返事をするしかなかった。

 

 

 「こちらアビドス対策委員会です。ゲヘナの風紀委員長ですね、初めまして。この状況について理解されてますか?」

 アヤネは張りつめた声で問う。抑制された敬語の裏に、緊張と警戒が滲んでいる。

 

 「もちろん。事前通達無しでの他校自治区における無断兵力運用、及び他校生徒たちとの衝突」

 

 ヒナはほとんど間を置かず、即答する。

 

 「....けれど、そちらが風紀委員会の公務を妨害したのも事実。違う?」

 

 「違い...ません。あぁもう、便利屋の人たちもいない、あっちの兵力の数は変わっていない、私たちにはもう先生しか... 」

声が揺らぐ。何かに縋るような口ぶりで、最後はか細く途切れた。

 

 「あぅぅ....こう言う時にホシノ先輩が居てくれたら...」

 

 その名前に、ヒナの眉がピクリと動いた。

 

 「アビドスのホシノって...もしかして小鳥遊ホシノ...?」

 ヒナがその名を口にしたとたん、場の空気が揺らいだ。そして次の瞬間、気の抜けた声が割り込んだ。

 「うへ〜、こいつはまた何があったんだか。すごいことになってるじゃ〜ん」

 その声の主に、皆が一斉に振り向く。

 

 

 「ホシノ!?大丈夫だった...?」

 

 「もう先生心配しすぎ、ちょっと昼寝して遅れちゃった」

 

 そう言って笑うホシノ。しかし、彼女の表情を見た瞬間、先生の胸に小さな違和感が灯った。

 

 

 ──嘘だ。

 

 

 彼女は後輩を大切にする人間だ。こんな危機的状況で、ただ「昼寝していた」なんてありえない。おそらく、来たくても来られなかった理由があったのだろう。

 

 「昼寝ぇ!?こっちは色々大変だったのに!ゲヘナのやつらが...!」

 「でも、もう全員撃退した」

 「まだ全員ではないですが...まあ大体は」

 

 「....チッ」

 「キミヨ?」

 「はい、なんですか先生?」

 今、舌打ちをしていなかったか? そう思ったが、先生は深追いせず、再びアビドス対策委員会のほうへ意識を向けた。

 「うーん、事情はよく分からないけど、対策委員会はこれで勢揃いだよ。ということであらためてやり合ってみる?風紀委員長ちゃん」

 

 「.....小鳥遊ホシノ、1年の時とは変わったのね。まるで別人みたい」

 

 「ん?私の事知ってるの?」

 

 「情報部に居た頃にちょっとね。あの事件の後、アビドスを去ったと思っていたけど....」

 

 「....!」

 ヒナを見つめるホシノの瞳に、鋭い光が宿る。

 

 

 「“あの事件”って....?」

 ホシノの表情から察するに、それはよほど重大な出来事だったのだろう。

 

 「まあいい、私も戦うためにここに来たわけじゃないから」

 ヒナはひと呼吸置いてから、仲間の名を呼んだ。

 「イオリ、チナツ」

 「...委員長」

 「...はい」

 二人が応じると、即座に撤収の準備に取りかかる。

 そして数秒後——

 「これまでの風紀委員の行動については、私、空崎ヒナより、アビドス対策委員会に対して公式に謝罪する」

 

 深く頭を下げたヒナに、その場の誰もが目を見張った。

 

 「今後、ゲヘナの風紀委員会がここに無断で侵入することはないと約束する。どうか、許してほしい。.....ほら、みんな帰るよ」

 風紀委員たちは無言でうなずき、ヒナの後を追った。

 

 そのとき、ヒナがこちらに近づき、そっと何かを渡してきた。折りたたまれた紙だ。

 「先生へ」

 それだけ告げると、彼女は一言も言葉を交わさずに去っていった。

 

 「.....終わった、のか?」

 先生のぽつりと漏れたひと言に、張り詰めていた空気がふっと緩んだ。誰からともなく安堵の息が漏れ、それは波のように全体へと広がっていった。

 

 「先生ありがとう〜。おじさんが居ない間皆んなを守ってくれて」

 ホシノが笑いながら軽口を叩く。けれど、その声には確かに、感謝が込められていた。

 「いいよいいよ、困っている生徒が居たら助けるのは当たり前だからね」

 先生は少し照れたように笑い、首の後ろをかいた。

 

 「それに、連邦生徒会の子、君もありがとね〜」

 ホシノの言葉に、周囲のメンバーたちも次々に感謝の言葉を口にする。

 「ん...助かった」

 「あなたが先生が言っていた応援の方ですね、ありがとうございます」

 「ありがとう、助かったわ」

 「ありがとうございます☆」

 それぞれの言葉に、連邦生徒会の少女——キミヨは、首を振った。

 

 「いえ....これも、業務の一環なので....気になさら....ず...」

 その言葉が言い終わる前に、彼女の体がぐらりと揺れた。

 「——っ、キミヨ!?」

 

 

 先生がすぐに駆け寄る。

 

 「キミヨ、大丈夫!? しっかりして!」

 

 けれど、返事はなかった。彼女はそのまま、膝から崩れ落ちるように倒れ込んだ。

 

 意識が遠のいていく中、キミヨの脳裏に、霞がかった思考がよぎる。

 

 

 

 ——ああ....無理、しすぎたか。

 

 それが、かろうじて浮かんだ最後の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——しん、としていた。

 

 

 

 風の音も、誰かの声も、何も聞こえない。

 

 

 

 気づけば、私はどこか知らない場所に立っていた。

 

 

 

 空も、地面も、すべてがぼやけていて、輪郭が曖昧だ。光はあるのに、太陽は見えない。けれど、まぶしくも、暗くもない。不思議な空間だった。

 

 

 

 重力さえ、どこか曖昧で。まるで、空中に浮かんでいるかのような——そんな感覚。

 

 

 

 「....ここは、どこだ?」

 

 

 

 思わず漏れた声は、空気に吸い込まれるように消えていく。

 

 

 

 ——そのときだった。

 

 

 

 「だいぶ無茶しましたね」

 

 

 

 どこからか声がした。振り返ると、そこには....私がいた。

 

 いや、生徒証に写っていた頃の、本物の——燈在キミヨ。

 

 

 

 「いやぁ、待ってましたよ。ぜひぜひ、ゆっくりしていってくださいね〜」

 

 

 

 軽く手を振る彼女に、私は眉をひそめた。

 

 

 

 「....なんとも思わないんですか?」

 

 「ん?なんともって?」

 

 

 とぼけたように首を傾げる彼女に、私は声を荒げた。

 

 

 

 「不慮の事故とはいえ....私なんかが、あなたの身体を乗っ取って....しかも、怪我までして気絶して....。私だったら、ぶん殴ってますよ!」

 

 

 

 彼女は一瞬目を丸くしたあと、肩をすくめて笑った。

 

 

 

 「だって、不慮の事故って自分で言ってるじゃないですか。なら、全然いいですよ。むしろ、私は一向に構わん、ってやつです」

 

 

 

 「いや....それでも....!」

 

 

 

 「じゃあこう言ってほしいの?“とっとと私の身体を返せよ”って」

 

 

 

 ——空気が変わった。

 

 

 

 それまでの陽気な雰囲気が一転し、彼女の眼差しが氷のように鋭くなる。その温度差に、思わず息を呑んだ。

 

 

 

 「..,.!」

 

 

 「それにさ、あんたがどう思おうが、持ち主である私がいいって言ってんだから、それで良くない?ってキミヨちゃんは思いますよ〜」

 

 

 

 ひらひらと手を振る彼女に、私は言葉を失った。

 

 

 

 「....わかった。ありがとう」

 

 

 「うんうん、いい子いい子。....あ、そうだ、日記ね。私の日記。その様子だと読んでなさそうからちゃんと読んでおいて。たぶん、そのへんの話も色々わかると思うから。ま、今はアビドスだから、しばらく先になるかもだけど」

 

 

 

 にっこりと笑うその顔が、妙に底知れなくて、私はただ苦笑いするしかなかった。

 

 

 

 「さて、私からの要件は済んだから...とっとと先生の元に帰ろっか!」

 

 

 

 「ちょ、待って! 俺、まだ——」

 

 

 

 「キミヨちゃんは用がないので知りませ〜ん♪」

 

 

 

 

 

 瞬間、体が宙に浮かぶ感覚が襲った。重力も、足場も、確かだったはずの現実までもが、曖昧になる。

 

 

 彼女の声が、遠くで囁くように響いた。

 

 「行ってらっしゃい、──」

 

 強い風が吹き抜けた。

 

 

 

 視界が白く染まり、音も、熱も、すべてが遠ざかっていく。空間がひずみ、時間の流れすら不明瞭になったかのような感覚。

 

 

 

 ——ああ、またこの感覚。

 

 この胸を締めつけるような虚無感。このどうしようもない喪失。

 

 私は、再び、意識の底へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 燈在キミヨ。

 あの銀行強盗から数日後、先生が彼女をアビドスに呼んだと聞いた。事務作業の応援要請という名目らしいが、先生はさらりとこう言った。

 

 「彼女はアビドスにとても詳しいからね。きっと力になってくれると思うよ」

 

 その言葉に、どれほどの“詳しさ”か尋ねてみたところ、皆が口を揃えて答える。

 

 「ん....私よりも知ってる」

 

 「確かに、私たちよりも知ってますね〜」

 

 「ホシノ先輩も、“あれ”を見れば分かると思いますよ」

 

 アヤネちゃんの言う「“あれ”」という言葉に、首をかしげる。

 

 「先生、あの紙、持っていますか?」

 

 「もちろん。肌身離さず持ってるよ」

 

 先生が懐から取り出した一枚の紙。それを、私とセリカちゃんは初めて目にした。

 

 

 

 「....嘘。ずっと住んでる私が知らない場所なんて...」

 

 「うへ〜....おじさんしか知らないと思ってた場所まで書いてるよ〜...」

 

 

 

 その紙には、アビドス中の隠れスポットがびっしりと書き込まれていた。潰れているあの店も、昔は人気だった自転車屋さんも。

 長年この地に根を張ってきたセリカちゃんですら見覚えのない場所が並んでいる。

 かくいう私も、先輩──ユメ先輩に教えてもらわなければ知らなかった場所すらあった。

 

 無言を貫いていた、あの連邦生徒会の子。

 ──まさか、彼女がアビドスにここまで通じているとは。

 

 

 「これ見せられたら....期待するしかないね〜」

 

 

 

 私は冗談めかしに笑ったが、

 ──もし、先生のような人でなかったとしたら。

 もし、彼女が黒服たちのように、何か企んでいたら。

 

 そのときは、私が止める。

 私が、みんなを守る。

 

 

 紙の端が風に揺れた。

 微かに香る砂の匂いとともに、静かな覚悟が胸に根を張っていくのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 「この子、可愛いですね先生。スクールアイドルとか、興味あったりしませんかね?」

 

 膝枕をしていたノノミちゃんが、楽しげな声でそう言った。

 

 風紀委員会との一件がようやく収束し、私たちは再びアビドスの校舎に戻っていた。今、私たちの目の前には、一人の少女──燈在キミヨが眠っている。

 

 彼女が先生が応援を呼んだその人であり、私の大切な後輩を助けてくれた恩人でもある。調べたところ、戦闘による怪我は軽度だったが、日々蓄積されていた疲労が限界を迎え、最後の一押しとなったのが戦闘だったらしい。その結果、彼女は眠ったそうだ。

 

 当初は保健室での看病を提案していたが、突如ノノミちゃんが「膝枕で癒してあげたい」と言い出し、それならばと、いつもの部屋で歓迎できる準備をしようとなった。

 

 「目が覚めたら本人に聞いてみるといいよ。今、キミヨは“趣味”を探しているからさ」

 

 先生の言葉に、ノノミちゃんはぱっと目を輝かせた。

 

 「おぉ〜!それはいいですね。なにを着せてみましょうか.....アイドル衣装、いいかも....♪」

 

 鼻歌交じりに楽しげに構想を練るノノミちゃんに、セリカちゃんはアヤネちゃんに言う。

 「趣味がアイドルってなんなの?」

 「さぁ?私には分かりません」

 「ん....銀行強盗と一緒」

 

 彼女は、あの場で私たちを助けてくれた。その行動には感謝している。けれど、私は...どうしても気になってしまう。

 

 あの時、彼女が私を見たあの目。

 

 それは、明らかに、はっきりとした“感情”だった。

 

 ──失望。あるいは、落胆。

 

 過去に会ったことがあるのかと記憶を探ったが、思い出せない。あんな特徴的な髪を見逃さないはずがないし、名前も顔も聞き覚えがない。

 では、なぜ....?

 

 もしかして、私のことをどこかで研究対象のように見ている?まるで、黒服みたいに?そんなはず、ない。ないとわかっているのに、私は考えてしまう。

 

 それに──彼女がアビドスについて詳しいという話も、引っかかっていた。

 

 先生に尋ねてみたが、彼女が過去にこの土地に住んでいたという記録はない。だというのに、彼女は、あのユメ先輩と同じくらいアビドスを知っていた。....おかしい。なにもかもが、腑に落ちない。

 

 

 私は、分からなかった。彼女が、分からなかった。

 こんなに“分からない”と感じたのは初めてだった。

 分からないというのは、こんなにも不安で、恐ろしいことなのだと。

 けれど、疑うことしかできない自分が情けなくて、申し訳なくて....私はただ、彼女が目覚めるのを静かに待った。

 

 

 

 ──そして数十分後。彼女は、静かにまぶたを開いた。

 

 

 

 「....ん....ここは....? 誰かの膝の上....ゆめ...?」

 

 

 その言葉に、ノノミちゃんがすかさず返す。

 

 「夢じゃないですよ〜、おはようございます」

 

 彼女の目がゆっくりと焦点を結び、先生も、他の皆も、その目覚めに安堵の色を浮かべた。

 

 ──けれど、私は違った。

 

 私は、その最初の言葉に、確かな“確信”を抱いていた。

 

 

 

 彼女は「ユメ」と言った。

 

 

 

 夢と間違えたのではない。私はそう思った。彼女は“ユメ先輩”を知っている。

 でも──ユメ先輩からは、燈在キミヨという名前を、一度も聞いたことがなかった。

 

 あの先輩が、あれだけ饒舌なユメ先輩が、彼女のことだけを黙っている....?

 ありえない。そう思ってしまった私は、武器を手にしたくなる衝動に駆られた。

 

 だが、彼女は後輩の恩人だ。そんな無礼な真似、できるはずもない。

 

 

 

 だから私は、ユメ先輩の真似をする。

 

 いつものように、笑って、肩をすくめて、軽く言葉を投げかける。

 

 

 

 「おはよう、キミヨちゃん。ここはアビドス高等学校だよ〜」

 

 

 

 その言葉に、彼女は驚いたように目を見開き、そして静かに言った。

 

 

 

 「.....おはようございます。小鳥遊さん」

 

 

 

 ああ、やっぱりだ。

 

 

 彼女はまた──

 

 

 

 

 

 

 私に、失望の目を向けていた。

 




お気に入り登録が100人を超え、uaも6000人超えました。まさかここまで読んでくれるとは予想外で感謝感激です。
これからもダラダラ書くので皆さんどうぞよろしくお願いします。
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