メガネは最高   作:息抜きのあんこ

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勢いで書いた。メガネは最高。異論は認める。


01.メガネかけてますね。+100点

 メガネは最高である。何にも勝る強化パーツだ。

 メガネを外したら美少女だとか、メガネはデバフだなんていう馬鹿が多いことこの上ないが、メガネという存在があることで初めて効果を発揮することを忘れてはいけない。メガネがなければ埋没する個性も、メガネさえかければ一つの特徴を得ることができるのだ。

 第一、メガネを外した方が可愛いなんて言うのは幻想だ。確かに一瞬だけ普段と違った姿を見ることで新鮮さがあるのは否定しないが、それでも普段の姿をベースにその新鮮さがあるということは忘れてはいけない前提事項である。それに冷静になれば普通にメガネかけてる方が良い。当たり前の真理である。

 

「この子は?」

「わからぬ」

 

 教室の中央、外に出たくない昼下がり、クラスメイトからスマートフォンに映る女子(おなご)の写真を見せられて、いまいちピンと来なくてそのまま素直な感想を零す。

 それで興味を失くせばいいものの、酔狂なクラスメイトたちはその返答を予期していたかのようにスマートフォンとを手元に戻し、画面を変えてからもう一度こちらに寄越した。

 

「じゃあこいつは?」

「良いと思う」

 

 メガネがよく似合う女子(おなご)の写真を出されたので、そう即答する。

 万能アイテムたるメガネをかければどんな人間も素晴らしい個性を獲得するのだから、良いという肯定以外の感想は有り得ない。

 それなのにクラスメイトたちはまるで呆れたような顔を見せながらお互いに視線を交わし合い、揃いも揃って残念な生き物を見るような視線をこちらへ向ける。まるで珍獣にでもなったかのような気分にさせてくるクラスメイト達は、一体何が目的でこんなことをしているのだろうか。

 

「ちなみに理由はメガネ?」

「そうだけど」

「やっぱお前おかしいって」

 

 当たり前すぎる質問に肯定を返せば、変人認定が返ってきた。

 そのあまりの所業に抗議を行いたくはあったが、世間一般と自身の回答がずれていることは自覚していたために自重する。一枚目に見せられた画像に映っていた女子(おなご)が世間的には好まれる容姿であり、各人の採点基準によって判断を下した場合にそちらを良しとする場合が多いのは重々承知しているのだ。承服はしていないが、ちゃんとそこは弁えているのである。

 しかし皆の採点基準はどうなっているのだろう。確かに容姿が整っていることは十分加点対象ではあるのだろう。身体的特徴なんかも含まれるのかもしれない。しかしそんなものは些細なもので、メガネさえあれば特別ボーナス100点が乗る以上、何よりも優先される評価基準だと思うのだが。強いて言えばメガネをかけている時間の割合によって加点は変わるため、勉強しているときだけメガネをかける人や本気の時だけメガネを外してしまう人なんかはいつでもメガネをかける人と比べると低かったりするが、それでも他の評価基準と比べて配点が高いことには疑いようもないはずなのだが。

 

「折ヶ谷と七瀬を比べて折ヶ谷の方が良いって言ってるようなもんだろ? さすがにねえだろ」

 

 え、普通に折ヶ谷さんの方が可愛いと思うけど。

 口には出さなかったものの、反応で悟られてしまったのだろう。こちらを囲んでいたクラスメイトが若干引いている気がする。だってただ美人なだけで他の美人に埋もれている没個性の七瀬さんより、メガネをかけている折ヶ谷さんの方がキャラも立っているし普通に可愛いという簡単な現実になぜ皆は気付いていないのだろう。

 そもそも可愛さというのは容姿とその付属部品全てを持って判断されるものなのだ。顔の造形だけ良ければいいというものではない。髪型、メイク、アクセサリーなど要素は様々だが、最大にして最高の配点はメガネにある。どんなに芋っぽい人間だろうが、どんなに刺々しい印象を与える人間でも、メガネさえかけてしまえば全てのマイナスは中和されて加点に変わる。

 メガネとは、そういうものなのだ。

 

「なになにー、新井(あたらい)くんの席に集まってるなんて珍しいね」

 

 昼休みももうすぐ終了という頃合いだったので、ちらほらと自分の席に戻り始めた生徒たちが人だかりとなっているこの現場を発見し、声を掛けてきた。

 先程話題に上がっていた、七瀬という生徒である。

 

「こいつの性癖がおかしいのを検証してたんだよ」

「昼間から何やってんのー? 新井くんもそういうのあるんだねー、やっぱ男子だもんねー」

 

 委員会に出ていて食事を摂れていなかったので、こちらから注意が逸れたタイミングで広げていた弁当からの栄養補給を再開する。弁当箱とは名ばかりのタッパーに放り込まれている昼食であるものの、両親が調理して作ったという点は他の人たちと変わらず、機能的にも特段困っていないために特に抗議はしていない。やや武骨で見た目に難があることは否定しないが、それも慣れてしまえばさほど気になることではないのである。

 しかしこちらは気にしなくとも、彼らからすれば珍しいそれは、気付けば言及せずにはいられない代物のようで。

 

「新井、そんなんで飯食ってんの?」

「弁当箱買ったりしないの?」

 

 それは本人たちにとっては驚きと疑問の声なのだろう。悪気はないのだろうが、無意識に嘲りが混じっているのを感じ取ってしまうのは、こちらの受け取り方の問題なのかもしれない。

 さりとてメガネという最強パーツの性能を理解していない人間からの攻撃など響かない。

 前提が違うのである。

 

「弁当箱なんて、ご飯とおかずが入ればよくない?」

 

 茄子の煮汁で茶色く染まった白米たちを飲み干してからそう言えば、なんとも微妙な空気がその場を支配する。呆れている者、反応に困る者、馬鹿にしようとして周囲の空気を見て押し黙る者。各々思うところはあるのだろうが、誰もが口を発するという選択肢を選ばなかったが為に沈黙がその場を制し、次の話題の到来を手招きしていた。

 

「そういや、新井くんの性癖ってなんだったの?」

 

 真っ先に沈黙を破ったのは七瀬さんだった。

 こういうことを恥ずかしがらずに言えるから周囲からの評価が高いのだろうなと焼き鮭の骨を外しながら考える。骨をタッパーの丸い蓋に移した後は皮を外して、皮にこびりついた一番おいしいところをこそぎ取って口に放り込みながら耳だけそちらに向けておく。

 

「こいつマジもんのメガネフェチっぽい」

「そんなに? え、どのぐらいなの?」

「お前より折ヶ谷の方が可愛いってよ」

「え、流石にそれは厳しくない?」

 

 声が止まる。視線を感じて円筒の器(べんとうばこ)を覗いていた顔を上に戻せば、七瀬さんだけでなくクラス全体からこちらに目が向いてるようだった。

 そんなに注目するような内容だろうか。ごく当たり前のことなのに。

 何を聞かれるわけでもなかったのでそのまま視線を下に落として白飯を頬張れば、どこからか呆れたようなため息が耳に届く。それを飲み込むのを見計らったようなタイミングで、七瀬さんがこちらに問いを投げてきた。

 

「新井くん、折ヶ谷さんより私の方が可愛いと思ってるでしょ?」

「そう? 一般受けしやすい顔かどうかなら、そうなんじゃないの?」

 

 期待していた回答ではなかったのか、若干七瀬さんの表情が固まったのが分かった。先程までのクラスメイト達だけでなく、教室が一時的に静まり返る。

 その反応で、それが当然の共通認識だったんだというのが(わか)って、残酷だなと思う。

 だって、この件で一番傷つくのは七瀬さんではなく、折ヶ谷さんの方なのである。本人も自覚があったかもしれないけれど、それでも口に出されると嫌な気持ちになるものだ。

 明言は避けたけれどあの回答だって顔自体は七瀬さんの方が良いと言っているようなものだ。傷つけないようにするならばもっと茶化して答えるべきだったかと反省する。しかしそれはそれでよくない気もして、口は災いの元だなと実感させられた。

 あとでちゃんと謝っておかないと。

 いや、好きなジュースを一カ月ぐらい奢らなきゃダメかもしれない。

 とりあえず、何か要求されたら二つ返事で丸呑みにしようと考えながら、おかずの汁でグダグダになったもう既に白くないお米たちを流し込んだ。

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