ハリーポッターと灰色の貴族   作:ヨシフ書記長

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連続投稿だべさ
書きたいところに来れてよかった
原作開始します


ハリー・ポッターと賢者の石
賢者の導き


世界を巡る旅を終えたハリーは、アントワーヌと共にロンドンへと戻ってきた。アントワーヌの家に着いた時、郵便受けには彼を待つかのように、厳重な封がされた入学許可証が届いていた。ホグワーツ魔法魔術学校からの手紙は、彼の心に新たな冒険への期待を灯した。

 

「さて、ハリー。ホグワーツでの生活を始める前に、まずは君の道具を揃えに行くとしよう。Allons-y(さぁ、行こう)

 

アントワーヌはそう言うと、ハリーを促した。彼らはリンカーン・コンチネンタルに乗り込み、ロンドンの街中を走り抜けていく。そして、薄暗い下町の一角にひっそりと佇む、一軒の古びたパブの前にたどり着いた。

 

その店の名は「漏れ鍋」。ボロボロの看板には、「漏れ鍋」の文字が書かれている。周囲の景色とは明らかに不釣り合いな黒い高級車をパブの正面に横付けすると、アントワーヌは運転席から降り、ハリーを促した。

 

Voilà(ほら)。着いたよ、ハリー」

 

アントワーヌの言葉に、ハリーは不思議そうに首を傾げた。

このパブに何の用事があるんだろうとハリーはそう思った。

しかし、アントワーヌはそれ以上何も言わず、ただ彼を促した。車を降りた二人は、入り口から中へと入っていった。

 

アントワーヌとハリーが店の中に姿を現すと、店内の騒がしかった空気が一瞬で静まり返った。皆が彼らを珍しそうに見つめている。アントワーヌは、まるで慣れ親しんだ場所であるかのように、カウンターに立つ店主のトムに静かに挨拶をした。

 

「トム、ça fait longtemps(久しぶりだね)。いつもの通路を通りたい」

 

トムは、アントワーヌの言葉に目を見開くと、その視線をアントワーヌの隣に立つハリーへと向けた。

彼の額に走る、あの稲妻形の傷跡を見て、トムの顔から血の気が引いていく。彼は、まさかこの自分が、伝説の少年を目の前にしているとは思ってもみなかったのだ。

 

「あ、あんた…!そ、そこに居るのは…!まさか…!あのハリー・ポッター(生き残った男の子)を…?」

 

トムの声は震え、その目は驚愕に満ちていた。店内の魔法使いたちも、トムの言葉を聞き、どよめき始める。彼らは皆、アントワーヌが連れてきた少年が、かの「生き残った男の子」であることに気づいたのだ。

 

ざわめきの中、客たちはアントワーヌの背中を指差し、ひそひそと陰口を叩き始めた。

 

「ありゃ、アントワーヌ・ド・ポッターじゃないか…闇の魔法使いの」

「あの男が、英雄のハリー・ポッターを連れているとは…」

「グリンデルバルド派の残党と関わっていると噂なのに…」

「まさか、あの男がハリー・ポッターを誘拐しようとしているんじゃ…」

 

ハリーは、その陰口に不安を覚えた。

しかし、アントワーヌは聞こえていないかのように、ただ静かに佇んでいる。やがて、彼はゆっくりと振り返り、店内の魔法使いたちを一人一人、静かに見据えた。

 

Gardez votre calme(落ち着きたまえ)。彼はただの少年だ」

 

アントワーヌの声は…静かでありながら、魔法で増幅されたかのように、店内の隅々まで響き渡った。

その声には、有無を言わせぬ絶対的な威圧感が含まれており、陰口を叩いていた魔法使いたちは、皆、言葉を失って口を閉ざした。彼らは、アントワーヌが持つ圧倒的な力と、彼の冷たい眼差しに畏怖の念を抱き、黙りこくった。

 

アントワーヌは、再びトムに視線を戻した。

 

「へへぇ…奥の扉をどうぞお使いなさってください」

 

トムはそう言うと、扉を指さした。アントワーヌはハリーを連れ、扉の方へと進んでいく。そこを開けると、煉瓦造りの壁があった。アントワーヌは、杖を取り出すことなく、壁の特定の煉瓦を指で叩いた。

 

すると、壁の煉瓦が奇妙な動きを始めた。中央から穴が開き、瞬く間にアーチ状の入り口へと変わっていく。その先には、活気に満ちた、奇妙で不思議な通りが広がっていた。

 

「さあ、ダイアゴン横丁へようこそ、ハリー」

 

アントワーヌはそう言うと、ハリーの背中を優しく押し出した。ハリーは、その光景に目を輝かせた。杖店や魔法薬店、不思議な動物を売る店など、見たこともない店が軒を連ねている。

 

「さあ、まずは銀行からだ。君の親が残してくれた遺産があるからね」

 

アントワーヌは、そう言ってハリーを促した。

 

ダイアゴン横丁の賑わいをかき分け、アントワーヌとハリーは、雪のように白い建物の前にたどり着いた。それは、他とは一線を画す威厳と荘厳さを放つ建物。

 

「さあ、ここだ。魔法界一安全な場所、グリンゴッツ銀行だよ」

 

アントワーヌがそう言うと、ハリーを促して大理石の階段を上った。

 

扉をくぐり、中に入ると、ハリーの目に飛び込んできたのは、驚くべき光景だった。白い顔をした、小さな小鬼(ゴブリン)たちがずらりと並んだカウンターに座っている。彼らの目は鋭く、金の天秤や分銅を使って何かを測っているようだった。

 

ハリーは、その異様な雰囲気に少し気後れしたが、アントワーヌは平然と一番奥のカウンターへと進んでいく。そして、カウンターに座る小鬼に向かって、静かに言った。

 

Bonjour(こんにちは)。ポッター家の金庫を開けてもらいたい」

 

アントワーヌの言葉に、小鬼は顔を上げた。その鋭い目がアントワーヌを捉えた瞬間、小鬼の表情は一変した。驚き、そして深い畏怖の色が浮かび上がる。

そして、その視線は、アントワーヌの隣に立つハリーへと向けられた。

 

小鬼は、アントワーヌの言葉を聞く前から、既に彼が誰であるかを知っていたかのように、震える声で言った。

 

「アントワーヌ・ド・ポッター様……ようこそ、グリンゴッツへ」

 

小鬼の震えは、ハリーにも伝わってきた。

そして、カウンターに並んでいた他の小鬼たちも、アントワーヌの姿を認めると、一斉に顔を青ざめさせ、震え始めた。彼らは、アントワーヌの存在を恐れ、畏怖しているようだった。

 

ハリーは、そんな小鬼たちの様子を見て、困惑した。彼は、これまで小鬼という存在を知らなかったし、彼らを怖がらせるようなことは何もしていない。

 

「どうしたんだろう、おじさん?」

 

ハリーが不思議そうに呟くと、アントワーヌは口元に薄い笑みを浮かべ、静かに言った。

 

Je me demande aussi(私も知りたいぐらいだとも)。僕は小鬼を虐めたことなんて無いんだけれどね」

 

アントワーヌの言葉には、どこか皮肉めいた響きがあった。それは、彼が過去にグリンゴッツ銀行で何かをしたことを示唆しているようだった。

 

ハリーの疑問をよそに、小鬼は震える手で鍵を取り出し、彼らを金庫へと案内した。

小鬼に案内され、アントワーヌとハリーは金庫へと向かうことになった。薄暗く、ひんやりとした大理石の通路を抜けると、彼らの前に現れたのは、急な坂を下っていくトロッコのレールだった。

 

「さあ、乗るといい」

 

アントワーヌが促すと、ハリーは少し緊張しながら小さなトロッコに乗り込んだ。アントワーヌもその隣に腰を下ろす。

 

「どうだい? 楽しそうだろ」

 

アントワーヌはそう言いながら、満足そうに微笑んだ。

 

「でも…もう少し、快適な移動手段が欲しいな」

 

ハリーがそう呟くと、アントワーヌは深く頷き、目を細めて言った。

 

「同感だね。僕もいつか、もっといい移動手段を作れたらと思うよ」

 

アントワーヌの言葉には、ただの冗談ではない、何か深い意味が込められているように聞こえた。彼は、このトロッコの不便さを、魔法の力で解決できる新たな発明の可能性として捉えているようだった。

 

トロッコは、軋みながら急な坂を高速で下っていく。

曲がりくねったレールを、まるでジェットコースターのように駆け抜けていくその移動は、スリルに満ちていた。ハリーは、その速度に驚きながらも、どこか楽しそうに目を輝かせていた。

 

やがてトロッコは、一つの金庫の前で止まった。

それは、他の金庫とは一線を画す、厳重なセキュリティが施された、ひときわ大きな扉だった。アントワーヌが鍵を取り出し、扉に差し込むと、金庫の扉は音もなく開いた。

 

中に入ると、ハリーの目に飛び込んできたのは、驚くべき光景だった。山と積まれた金貨、銀貨、そしてブロンズ貨。それらは、彼の両親が残してくれた、膨大な遺産だった。

 

「Voilà。これだけの遺産があれば、君はホグワーツでの生活を、何の不自由もなく送ることができるだろう」

 

アントワーヌはそう言うと、ハリーに金貨を数枚持つ様に促した。ハリーは、その重みに、そしてその輝きに、感動を覚えた。

 

金庫を後にした二人は、再びトロッコに乗り込み、地上へと戻った。

 

グリンゴッツ銀行を後にしたハリーは、人混みをかき分けながらアントワーヌの後を追った。ダイアゴン横丁の活気は、彼がこれまでに経験したことのないものだった。アントワーヌは、まるでこの喧騒を何とも思わないかのように、まっすぐにある店へと向かっていく。

 

その店の名は、「マダム・マルキンのローブ店」。真新しいローブやとんがり帽子が、きれいに並べられたショーウィンドウは、ホグワーツでの生活への期待をいやがおうにも高めた。

 

二人が店内に入ると、マダム・マルキンがにこやかに迎えてくれた。彼女は、丈の短い紫のローブを着た、ふくよかな魔女だった。

 

「あら、いらっしゃいませ。ホグワーツのローブを揃えにいらしたのですね?」

 

マダム・マルキンはそう言うと、アントワーヌの隣に立つハリーを見て、少し驚いた表情を見せた。しかし、すぐに笑顔に戻ると、ハリーを奥へと案内した。

 

「そちらで測らせていただきますね」

 

ハリーが促されるままに、小さな椅子の上に立った。すると、すでに同じように採寸を受けている少年がいた。彼は、ハリーと同じくらいの年頃で、顔色が青白く、プラチナブロンドの髪をきれいに撫でつけていた。

 

その少年は、ハリーを見ると、まるで最初から知っていたかのように話しかけてきた。

 

「ホグワーツに行くのかい?」

 

「うん」ハリーはぎこちなく答えた。

 

「僕もだよ。僕の父上が言うには、ホグワーツには優秀な魔法使いしかいないらしい。スリザリンに行きたいね」

 

少年は、得意げにそう言った。彼の言葉には、どこか鼻持ちならない響きがあった。ハリーは、その少年の雰囲気に、少し居心地の悪さを感じていた。

 

その時、アントワーヌが二人の会話に気づき、静かに近づいてきた。彼は、プラチナブロンドの少年を見ると、かすかに眉をひそめた。

 

「そういう君もホグワーツに行くのかね?」

 

アントワーヌの言葉に、少年はアントワーヌの顔を見ると顔色を変えた。彼は、驚きと、そして深い畏怖の念が入り混じった表情でアントワーヌを見つめた。

 

「あ、貴方は…」

 

ドラコは、父であるルシウスから「アントワーヌ・ド・ポッター」という名を聞いたことがあった。しかし、その人物がどのような男なのか、詳しいことは知らされていなかった。しかし、目の前にいる男が只者ではないことはわかった。

 

「ふむ、君の父上、ルシウス・マルフォイには、近いうちにご挨拶させてもらおう。Ne t'inquiète pas(心配するな)

 

アントワーヌが自身の父の名を知っていることに、彼は驚きを隠せない。

アントワーヌはそう言うと、ドラコの頭を軽く撫でた。その眼差しは、静かで冷たい威圧感を放っており、ドラコは言葉を失い、ただ黙りこくった。

 

「さあ、ハリー。採寸はもうすぐで終わるだろう?」

 

アントワーヌは、何事もなかったかのようにそう言うと、店の奥へと進んでいった。ハリーは、アントワーヌとドラコの様子を見て、このドラコがただの生意気な少年ではないこと、そしてアントワーヌが彼らの中では悪い意味での有名人であることを改めて悟った。

 

マダム・マルキンのローブ店を後にした二人は、再びダイアゴン横丁の人混みの中へと戻った。ローブの入った袋を提げたハリーは、次の目的地がどこなのか気になっていた。

 

「次は、杖を買いに行こうか。Allons-y(さぁ行こう)

 

アントワーヌはそう言うと、通りの中ほどにある、ひときわ古びた建物へとハリーを促した。他の店が明るく賑やかなのに対し、その店だけはどこかひっそりとしていて、埃っぽい窓には一本の杖が飾られているだけだった。

 

「ここは…?」

 

「オリバンダーの店。君の親が杖を買った店でもある」

 

ハリーは、その店の名前に、両親との繋がりを感じて少し胸が高鳴った。店の扉を開けると、中からは古びた鐘の音が静かに響き、何千本もの杖が入った箱が、天井までぎっしりと積み上げられているのが見えた。

 

Bonjour(こんにちは)、オリバンダー」

 

アントワーヌの声に、店の奥から一人の老人が現れた。彼は、オリバンダー。白髪と白髭に覆われた、痩せこけた老人だった。彼の目は、まるで夜空の星のように、ハリーとアントワーヌをじっと見つめていた。

 

「アントワーヌ・ド・ポッター様…ずいぶんとお久しぶりですな。最後に貴方にお会いしたのは、もうずいぶん前のこと…私がまだホグワーツにいた頃でしたかな?」

 

オリバンダーの言葉に、ハリーは驚いた。アントワーヌは、ただ静かに頷き、そのことには触れなかった。

 

Je suis désolé(すまないね)、オリバンダー。今日は、この子の杖を選んでほしい」

 

アントワーヌがハリーを指差すと、オリバンダーはハリーの顔をじっと見つめ、その額の稲妻型の傷跡に気づいた。彼の目は、さらに鋭く光る。

 

「ああ…ハリー・ポッター様…貴方にお会いできるとは…」

 

オリバンダーは、ハリーを採寸すると、棚から次々と箱を取り出し始めた。

 

「さあ、この杖を振ってみなさい」

 

ハリーは、オリバンダーに言われるがままに、様々な杖を試した。しかし、どの杖もハリーには馴染まず、振るたびに何かが爆発したり、棚の箱が落ちてきたりした。

 

アントワーヌは、ハリーの様子を静かに見守っている。彼の表情は、まるで自分が杖を選んでいるかのように真剣そのものだった。

 

「難しいですな…」

 

オリバンダーは、ついに諦めたように呟くと、店の奥から一つの古びた箱を取り出した。その箱は、他のものとは違い、埃を被っている。

 

「これは…興味深い…」

 

オリバンダーはそう言うと、箱を開けた。中には、まるで何かが宿っているかのように、ぼんやりと光を放つ杖が入っていた。

 

「この杖は、不死鳥の尾羽を芯にした、柊の木でできています…この杖の双子の杖が、もう一本…存在します」

 

オリバンダーの言葉に、ハリーは息をのんだ。そして、その杖を手に取った瞬間、彼の体の中に、温かい力が漲っていくのを感じた。

 

「この杖ですな…。なんと言う…奇妙な因果でございましょうか」

 

オリバンダーはそう言うと、微笑んだ。そして、ハリーにこう告げた。

 

「ハリー・ポッター様…この杖が選んだのは、貴方です。しかし、これの兄弟杖は、かつて貴方を生かした杖でもあり…そして、貴方の両親を殺した杖でもあります」

 

オリバンダーの言葉に、ハリーは動揺した。彼の頭の中では、両親を殺したのが誰なのか、その言葉の意味を理解しようと必死だった。

 

「さあ、ハリー。杖を手に入れたのなら、次の店に行こう」

 

アントワーヌは、ハリーの動揺を察したかのように、静かに言った。彼は、この杖が持つ意味を理解しているようだった。

 

オリバンダーの店を出たハリーは、まだ動揺していた。自分の杖が、両親を殺した杖とつながっているという言葉が、頭の中で何度も繰り返される。アントワーヌは、そんなハリーの様子を気にかけることなく、黙って歩を進めていた。

 

やがて、彼らはひとつの店にたどり着いた。店の看板には、大鍋や天秤が描かれており、「魔法道具店」と書かれている。

 

「さあ、まずはここだ。授業に必要なものを揃えよう」

 

店の中は、天井まで積み上げられた箱や瓶、そして奇妙な道具でごった返していた。ハリーは、リストを見ながら必要なものを探していく。大鍋、ガラス瓶、真鍮の天秤、望遠鏡……。一つ一つ手に取るたびに、ホグワーツでの生活が現実味を帯びてくる。

 

ハリーが天秤を手に取ると、アントワーヌは静かにそれを覗き込んだ。

 

「良い天秤だ。だが、魔法使いにとって、もっと良い道具がある。On y va(おいで)

 

アントワーヌはそう言うと、店の奥へとハリーを促した。そこには、ガラスのショーケースの中に、精巧に作られた奇妙な道具が並べられている。

 

「これは…?」

 

「魔法の道具さ。授業に必要なもの以外にも、魔法界には面白いものがたくさんある。例えば、これは…」

 

アントワーヌは、一つの銀の小箱を指差した。

 

「これは、秘密の小箱さ。特定の呪文を唱えないと、開けることができない。これは、君が将来、自分の秘密を守るために必要になるかもしれない」

 

アントワーヌはそう言うと、その小箱をハリーに渡した。ハリーは、その小箱の複雑な細工に驚き、じっと見つめていた。

 

「さあ、次の店に行こう」

 

アントワーヌは、そう言うとハリーを促した。

 

次に彼らが向かったのは、「フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店」だった。他の店とは違い、そこには多くの生徒たちが集まっており、皆がホグワーツの教科書を買い揃えている。

 

ハリーは、アントワーヌに促されるままに、必要な教科書を手に取った。『標準呪文集』、『闇の力に対する防衛術』、『魔法薬学入門』……。どの本も、彼がこれまでに読んだことのない、奇妙なタイトルだった。

 

ハリーが教科書を手に取ると、アントワーヌは静かにそれを覗き込んだ。

 

Je vois(なるほど)。これらが、ホグワーツで学ぶ教科書か。ハリーは、どの科目に興味があるんだい?」

 

アントワーヌの問いに、ハリーは少し考えた。

 

「まだよく分からないけど…。僕は…闇の力に対する防衛術…に興味がある」

 

ハリーがそう答えると、アントワーヌは薄く笑った。

 

「そうかい。君の父(ジェームズ)も、同じことをよく言っていたよ。Le mal est partout(悪はどこにでも存在する)。闇の力に対する防衛術は、魔法使いにとって、最も重要な科目の一つだ」

 

アントワーヌの言葉に、ハリーは不思議そうにアントワーヌを見つめた。

自分の父が自分と同じ様に言ってたことに少し嬉しさもあった。

 

そうして、2人がフローリッシュ・アンド・ブロッツ書店を出ようとしたその時だった。

 

「おや、アントワーヌ卿。このような場所でお会いするとは」

 

冷たく、滑らかな声が響いた。ハリーが振り返ると、そこに立っていたのは、マダム・マルキンのローブ店で会ったドラコの父、ルシウス・マルフォイだった。彼の隣には、妻のナルシッサ、そして息子であるドラコが立っている。

 

ルシウスは、その銀色の杖を弄びながら、アントワーヌを冷たい目で見ていた。彼の表情には、敬意と、そして隠しきれない警戒と憎悪が入り混じっている。ルシウスは、アントワーヌがグリンデルバルドの思想に近しい者であることを知っていた。

しかし、表立って彼に敵意を向けることはできない。ヴォルデモートが失踪した今、アントワーヌの持つ力と影響力は、無視できないものだったからだ。

 

「これはこれは…ルシウス、ça va(元気かね)? 君の息子も、もうホグワーツに行く歳か。Le temps passe vite(時が経つのは早いものだ)…。君のお父上とはよく喋ったものだが…実に素晴らしい人物だった」

 

アントワーヌは、皮肉めいた笑みを浮かべてそう言った。彼の言葉には、ルシウスを試すような響きがあった。

 

ルシウスは、その挑発に顔をこわばらせた。彼の妻であるナルシッサは、不安そうに夫を見つめている。ドラコは、ただ黙ってその光景を見守ることしかできなかった。

 

「お二人に、ご挨拶を。À la prochaine(また会おう)

 

アントワーヌはそう言い残すと、ハリーを促して書店を出た。ルシウスたちは、ただ静かにその背中を見送ることしかできなかった。

 


 

書店を後にした二人は、人混みをかき分け、次の目的地である「ふくろう専門店」へと向かった。店内は、様々な種類のフクロウで賑わっていた。

 

「さあ、ハリー。ホグワーツでの生活には、フクロウが必要だ」

 

アントワーヌはそう言うと、ハリーに白いフクロウを指差した。

 

「このフクロウはどうだい? Chouette(素敵だろう)?」

 

ハリーは、その白いフクロウに魅了された。そのフクロウは、彼がこれまでに見たどの動物よりも、気品と賢さを感じさせるものだった。

 

「うん、僕…この子にするよ」

 

ハリーはそう言うと、アントワーヌに微笑みかけた。アントワーヌは、ハリーの決意に満足したように頷くと、店主にフクロウの代金を払った。

 

「名前はどうするんだい?ハリー?」

「うーん…。ヘドウィグ…、ヘドウィグって名前にするよ!おじさん」

「いい名だね、可愛がってあげるんだよ?」

 

こうして、ハリーはヘドウィグという新たな家族を手に入れた。

 

ダイアゴン横丁を歩いていたハリーは、ある店の前で思わず足を止めた。店の名前は「最高級クィディッチ用品店」。人集りのショーウィンドウには、真新しい革製のボールやパッド、そして何よりも目を引く、流れるような美しいデザインの箒が飾られていた。

 

ハリーは、その箒に釘付けになった。黒光りする柄には「ニンバス2000」と金の文字が刻まれている。彼は、この箒が、この世で最も速い箒だと聞いたことがあった。

 

ハリーの視線に気づいたアントワーヌは、静かに彼の隣に立った。

 

「クィディッチに興味があるのかい、ハリー?」

 

ハリーは、言葉を失ってただ箒を見つめていた。その姿を見たアントワーヌは、少し寂しそうな、しかし優しい表情を浮かべた。

 

「いいだろう、これを君への入学祝いにしよう。Cadeau de bienvenue(歓迎の贈り物だ)

 

アントワーヌの言葉に、ハリーは驚いて顔を上げた。

 

「でも、僕…」

 

「遠慮することはない。君がホグワーツで、楽しい時間を過ごすことを願っている。Je le souhaite(そう願うよ)

 

ハリーは、アントワーヌの言葉に感謝の気持ちでいっぱいになった。しかし、アントワーヌは、箒を手に取ると、少し戸惑ったように顔をしかめた。

 

「僕はクィディッチの面白さは今一つ理解できないが…」

 

アントワーヌはそう言いながら、箒をくるりと回した。

 

「だが、君の父、ジェームズも好きだったから…やってみるのも面白いんじゃないか?」

 

ハリーは、アントワーヌの言葉に、改めて父との繋がりを感じた。

 

すべての買い物を終えたハリーとアントワーヌは、ダイアゴン横丁を後にし、再び漏れ鍋へと戻ってきた。パブの薄暗い店内に足を踏み入れると、店の扉が開いたままになっており、そこから見慣れた巨体が顔をのぞかせた。

 

「ハリー!やっと会えた!」

 

そう叫びながら入ってきたのは、ハグリッドだった。彼は、いつものように巨大な体で、周囲の客を気にすることなくずんずんと中へ入ってくる。彼の顔には、安堵と喜びが浮かんでいた。ハリーは大男がそう言いながら、近づいてくるのに少し恐怖した

 

「お、すまねぇ…。俺の自己紹介がまだだったな、俺ぁの名前はルビウス・ハグリットってんだ、よろしくな!ハリー」

 

自己紹介を終えたハグリッドはハリーに駆け寄ろうとしたが、その視線がハリーの隣に立つアントワーヌを捉え、動きがぴたりと止まった。

彼の顔から喜びの色は消え、代わりに強い警戒の色が浮かび上がる。ハグリッドは、アントワーヌの存在を危険なものだと見なしているようだった。

 

「お前は…アントワーヌ・ド・ポッター…ハリーに何をした!」

 

ハグリッドの声は、雷鳴のように店内に響き渡った。彼は、アントワーヌがハリーを傷つけるのではないかと警戒し、その巨大な拳を固く握りしめている。

 

アントワーヌは、ハグリッドの威嚇的な態度に、少し眉をひそめた。

 

Calme-toi, Hagrid(落ち着きたまえ、ハグリット)。彼に何もしていない。ただ、ホグワーツの準備を手伝っていただけだ」

 

アントワーヌの声には、ハグリッドをなだめるような響きがあった。しかし、ハグリッドの警戒心は解けない。彼は、ハリーをアントワーヌから遠ざけようと、自分の巨大な体を二人の間に割って入らせた。

 

「本当なら!ダンブルドア校長から、ハリーを迎えに行くのは俺の仕事だったんだ!なのに、お前さん…!」

 

ハグリッドの言葉に、ハリーは驚いた。彼がホグワーツへ行くことを知っていたのは、アントワーヌだけではなかったのだ。

 

アントワーヌは、そんなハグリッドの様子に、諦めたように溜息をついた。その時、漏れ鍋の奥にいた一人の男が、ハリーたちに気づき、静かに顔を上げた。顔色は青白く、常に震えているその男は、クィレルだった。彼は、ハリーの姿を認めると、一瞬安堵の表情を見せたが、すぐにアントワーヌの姿を捉え、その顔色を一変させた。

 

クィレル先生は、アントワーヌを一目見るなり、まるで何かから逃げるかのように、震えながら足早に店を後にした。

 

「ハリーはもう、ホグワーツに行く準備はできている。済まないが、Nous devons y aller(私達はもう行かなくてはならない)

 

アントワーヌはそう言うと、ハリーの肩を叩き、静かにパブを後にした。ハグリッドは、アントワーヌの背中を、複雑な表情で見送っていた。彼の心の中には、アントワーヌへの警戒心と、ハリーが無事であったことへの安堵が入り混じっていた

 


 

漏れ鍋を後にしたハリーとアントワーヌは、再びリンカーン・コンチネンタルに乗ってロンドンの街を駆け抜け、アントワーヌの邸宅へと戻ってきた。邸宅に着くと、アントワーヌは裁判の準備で忙しなく、書斎にこもってしまった。

 

一人になったハリーは、新しく手に入れたニンバス2000を手に、広大な庭へと向かった。早く箒に乗ってみたくて、うずうずしていたのだ。

 

ハリーが箒を地面に置くと、一匹の屋敷しもべ妖精が、小さな体でテキパキと動いて、飲み物とクッキーをテーブルに並べた。彼の名はセバスチャン。アントワーヌの執事兼、屋敷しもべ妖精だ。

 

「ハリー様、よろしければ私がお手伝いしましょうか?」

 

セバスチャンが礼儀正しく尋ねると、ハリーは嬉しそうに頷いた。セバスチャンは、ハリーが箒に乗るのを見守るだけでなく、その扱い方や乗り方を丁寧に教えてくれた。

 

「箒に乗るには、まず『上がれ!』と心の中で強く念じ、箒を呼び寄せてください」

 

ハリーは、セバスチャンに言われるがままに箒に集中し、「上がれ!」と心の中で念じた。しかし、箒はびくともしない。

 

「残念ながら、ハリー様はまだ呪文をうまく操ることができません。ですが、ご安心ください。箒に乗るには、呪文だけが全てではありません」

 

セバスチャンはそう言うと、箒を手に取り、ハリーにこう告げた。

 

「箒に乗るには、箒との一体感が大切です。心と体を箒と一つにしてください」

 

ハリーは、セバスチャンの言葉に耳を傾け、再び箒にまたがった。彼は、箒と自分の心が一つになるのを感じた。そして、ゆっくりと、しかし確信を持って、箒を動かした。

 

箒は、ハリーの意志に従い、地面からゆっくりと浮き上がった。ハリーは、箒に乗って風を切る感覚に、感動を覚えていた。彼は、まるで鳥になったかのように、庭の上空を飛び回った。

 

セバスチャンは、そんなハリーの様子を、誇らしげな笑顔で見守っていた。彼は、ハリーが、アントワーヌとは違う才能を持っていることを知っていた。

 

夜が更け、アントワーヌは書斎で裁判の準備に追われていた。数えきれないほどの資料と書類に囲まれ、徹夜は二日目に入っていた。疲労で判断能力が鈍り始めた頭で、彼は息抜きに窓を開けて外の空気を吸い込んだ。

 

その時、彼の目に飛び込んできたのは、庭の上空を気持ちよさそうに飛ぶハリーの姿だった。ハリーは、プレゼントしたばかりのニンバス2000を操り、まるで空に溶け込むかのように軽やかに飛び回っている。

 

アントワーヌは、その光景をぼんやりと眺めていた。徹夜による思考の鈍りは、彼のいつもの冷静さを奪っていた。

 

「えらく遅いな……」

 

彼は、独り言のように呟いた。クィディッチの知識は皆無に等しい。ただ、目の前の箒が、世間で最高の箒として知られていることだけは知っていた。

 

「クィディッチ用箒の最新型と言っても、あの程度のスピードしかないのか…ふむ」

 

アントワーヌは、ハリーが楽しそうに飛んでいる姿を、なぜか危険な状況と勘違いした。彼の頭の中では、ハリーの箒がもっと速く飛べなければ、何者かに追いつかれてしまうという、奇妙なロジックが組み立てられていた。

 

「あのスピードではハリーが追いつかれてしまうな。よし」

 

彼はそう結論づけると、再び書斎の奥へと向かった。疲労困憊の頭で、アントワーヌはハリーを「守る」という、彼の根源的な衝動に従おうとしていた。

 

アントワーヌは、ハリーを守るという根拠のない使命感に突き動かされ、書斎の奥にある工房へ向かった。彼の頭の中では、疲労が原因で生まれた「ハリーの箒は遅すぎる」という奇妙な結論が、唯一の解決策として膨れ上がっていた。

 

彼は、魔法界では違法とされる、魔法道具の改造に着手した。

そのターゲットは、ハリーのニンバス2000だった。アントワーヌは、魔法工学とマグル工学を融合させる独自の知識を活かし、この改造を計画した。

彼は、マグルが開発したラムジェットエンジンの設計思想にヒントを得た。

 

「ふむ...ラムジェットエンジン。静止状態では機能しないが、高速で移動する物体に取り付けることで、外部から取り込んだ空気を圧縮し、燃料と混合して燃焼させる…」

 

アントワーヌはそう呟くと、魔法の力で工房の壁に複雑な設計図を浮かび上がらせた。その設計図には、ラムジェットエンジンの概念が、魔力の流れを制御するルーン文字と魔法陣に置き換えられて描かれていた。

 

「魔力を推進力に変える効率を最大化するには、箒の先端に魔力を取り込むインテークを作り、そこから取り込んだ魔力を圧縮して推進力に変換する魔法陣を設置すればいい」

 

彼はそう結論づけると、ハリーのニンバス2000を手に取った。アントワーヌは、箒の先端に精巧なルーン文字を刻み始め、柄の内部には魔力を増幅させる微細な魔法陣や魔導具を何重にも埋め込んだ。それは、見た目には全く変化がない、巧妙な改造だった。

 

アントワーヌは、その改造を終えると、満足そうに微笑んだ。彼の疲労困憊した頭では、この改造がどれほど危険で、どれほど魔法界の規則に違反しているかなど、考える余地もなかった。彼にとって重要なのは、ハリーが「追いつかれない」ようにすること、ただそれだけだった。

 

「これで、君の箒は誰にも追いつかれない。良い旅を、ハリー」

 

アントワーヌは、ハリーがまだ眠っている部屋に箒をそっと置くと、再び書斎へと戻っていった。




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