ハリーポッターと灰色の貴族   作:ヨシフ書記長

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誤字脱字があるかもしれない。
だけど何とかかけた
戦闘描写が難しい…すげぇよ…




白い雪、赤き星

日刊預言者新聞には、衝撃的な大見出しが踊っていた。

 

「国際魔法法廷、異例の閉廷! ド・ポッター卿、ハリー・ポッター氏の親権を暫定的に獲得か!?」

 

法廷から堂々と出てくるアントワーヌ・ド・ポッター卿の写真は、その不敵な笑みと共に彼の勝利を物語っていた。

記事は、国際魔法法廷での審問がいかに異例かつ混乱を極めたかを詳細に報じている。

未成年魔法使い(ハリー・ポッター氏)の誘拐容疑、複数国家への外交秩序破壊行為、禁忌魔術研究の嫌疑で召喚されたにもかかわらず、全ての拘束を自力で解き放ち、法廷内でシガレットを吸うという前代未聞の行動に出た。さらに、裁判官やアルバス・ダンブルドア氏をも痛烈に批判し、魔法界の偽善を糾弾したのだ。

 

法廷は最終的に、ハリー・ポッター氏の意思を尊重するため、『次なる審問において、少年本人の意思を問う場を設ける』という異例の決定を下し、暫定的な閉廷となった。

この決定により、アントワーヌ・ド・ポッター卿は、ハリー・ポッター氏と共に英国を離れることが事実上許可された形となる。

 

また、法廷閉廷後…闇の帝王ヴォルデモート卿の忠実な僕である死喰人の残党、アルビオン・ディクソンがアントワーヌ・ド・ポッター卿によって法廷に"放り込まれた"。

これは、ド・ポッター卿がヴォルデモートの残党を捕獲し、国際的な司法の場に引き渡したという皮肉な結果となった。

英国魔法省は、アルビオン・ディクソンの身柄を確保し、今後の調査と裁判を国内で行う方針を発表。アルバス・ダンブルドア氏は今回の件についてコメントを控えたが、その表情には深い憂いが浮かんでいたという。

 

この結果は、魔法界に大きな波紋を広げた。アントワーヌ・ド・ポッター卿の真の目的は何なのか? ハリー・ポッター氏の未来は、そして魔法界の秩序は、どこへ向かうのか? 今後の動向が注目される。

 


 

ド・ポッター本邸の書斎には、朝早くからフクロウ便がひっきりなしに届いていた。アントワーヌは、いつものように深いソファに腰掛け、優雅な手つきで煙草を燻らせている。その傍らで、ハリーは次々と届く郵便物を分類していた。中には、見慣れない豪華な封筒がいくつも含まれている。

 

「おじさん、これ、なんだかきれいな手紙がいっぱい来てるよ!」

 

ハリーが目を輝かせながら差し出したのは、厳かな封蝋が施された羊皮紙の束だった。アントワーヌは興味深げに一本を手に取り、封蝋を破った。

 

「へぇ…イルヴァーモーニー魔法魔術学校からか」

 

アメリカにある、北米最高の魔法学校からの入学案内だった。続いて別の封筒を開くと、そこからは薔薇の香りが漂ってきた。

 

「こちらはボーバトン魔法アカデミーか。相変わらず趣味が良いな」

 

フランスの優雅な魔法学校からの招待状だ。他にも、ブラジル魔法術学校(カステロブルーショ)や、マホウトコロなどの世界各地の有名魔法学校からの手紙が山のように届いていた。しかし、ダームストラングからはカルカロフがアントワーヌの訪問を拒否しているため、手紙は来ていなかった。あの国際魔法法廷での一件が、ハリーの存在を改めて世界に知らしめた結果だった。

 

ハリーは戸惑いを隠せず、アントワーヌを見上げた。

 

「何処に行くか…まだ決めれてないのに、こんなに沢山…」

 

アントワーヌはにやりと笑い、煙草の煙をゆっくりと吐き出した。

 

「心配ないさ、ハリー。君の未来は君が選ぶものだ。だが、この世界は広い。色々な場所を見て、色々な知識に触れるのも悪くない。そして、その上で、君が本当に進みたい道を見つければいいさ」

 

そう言って、アントワーヌは最後に残った、ひときわ分厚い封筒を手に取った。それは…他のどれとも異なる、無骨で飾り気のない、しかしどこか重々しい空気を纏っていた。

羊皮紙は厚く、封蝋には見慣れない紋章が刻まれている。黒い二重の円の中に、赤い星が中央で輝いているのだ。

 

アントワーヌの表情が、一瞬にして真剣なものに変わった。

彼はゆっくりと封を開け、中を読み進めていく。

 

「これはコルドフストリーツからか…」

 

アントワーヌの声が、わずかに低くなった。

 

「コルドフストリーツ?」

 

ハリーが首を傾げた。聞き慣れない名前に、好奇心が刺激される。

 

「ああ。ロシアにある魔法学校だ。正確には、ソビエト連邦時代に、共産主義魔法理論の牙城として築かれた、非常に特殊な場所だ」

 

アントワーヌは、手紙の内容から目を離さずに言った。彼の脳裏には、ソビエト連邦の混乱期における、魔法界とマグル界の複雑な関係が去来していた。コルドフストリーツは、単なる魔法学校ではない。

それは、一つのイデオロギーと、それに伴う独自の魔法開発を追求してきた、まさにその象徴だった。

 

「共産主義魔法理論?」

 

ハリーはさらに困惑した。アントワーヌはゆっくりと顔を上げ、ハリーの目を見つめた。その瞳には、かつてないほどの真剣な光が宿っていた。

 

「ああ。マグル社会の共産主義が…魔法界に与えた影響の最も純粋な形だ。彼らは、魔法もまた…個人のものではなく、共同体のためにあるべきだと信じた。そのために、彼らは独自の魔法を開発し、その知識は外界にほとんど漏れることがなかった。しかし、連邦の崩壊の足音と共に、その秘密の一部が露見し始めている…」

 

アントワーヌは一呼吸置き、手紙を静かにテーブルに置いた。

その目は、遠いロシアの地を見据えているかのようだった。

 

「ハリー。君は今、世界の中心にいる。そして、世界の様々な場所が、君を欲している。このコルドフストリーツからの手紙は、その中でも最も『異質』なものの一つだ。彼らが君に何を求めているのか、そして君がそこで何を見つけることができるのか…」

 

アントワーヌは、ハリーの小さな肩に手を置いた。

 

「彼らが受け入れを表明するのは、非常に珍しいよ。政治色が強く、かつての共産主義体制下で“魔法は国家のもの”とされている学校だからね」

 

アントワーヌはそう呟くと、再びハリーに向き直った。

 

「どうだ? ホグワーツに行く前に、少し、遠回りをして、『世界の裏側』を覗いてみる気はないか? 君がどこの学校を選ぶにしても、それは君自身の目で見て、感じて決めるべきだよ」

 

ハリーは、アントワーヌの言葉に、胸が高鳴るのを感じた。

まだどこの学校に行くか決めかねていたハリーにとって、アントワーヌの提案は、新たな可能性の扉を開くように感じられた。

目の前に広がる未知の世界への扉が、彼の好奇心を掻き立てたのだ。

共産主義魔法理論。闇の帝王(ヴォルデモート)とは異なる、別の「闇」が存在する場所。アントワーヌの隣で、ならばどこへでも行ける気がした。

 

「うん! 行く!」

 

ハリーは迷うことなく答えた。アントワーヌは満足げに頷き、再び煙草を口に運んだ。その瞳の奥には、新たな計画への興奮が宿っているようだった。

 

「よし。では、早速準備を始めよう。ロシアは寒いぞ、ハリー。暖かい服をたくさん用意しておくように」

 

それから2日後、アントワーヌとハリーは、彼のガレージに収められていた夕陽の色をしたプリムスロードランナーに乗り込んだ。

排気管から野太い唸り声を上げた車は、地面を蹴って一気に加速し、東へと飛び去った。

 

彼らの行く先は、雪と氷に覆われた広大なロシアの大地。ソビエト連邦崩壊の足音が聞こえる…歴史の転換期にある魔法界の…もう一つの顔を巡る旅が…今、始まった。

 


 

アントワーヌとハリーを乗せた夕陽色のプリムスロードランナーは、英国を飛び立ち、ユーラシア大陸を東へと進んでいた。

マグルから見ればただの車だが、巧みな隠蔽呪文と飛行呪文が施されており、その速度は音速を超え、彼らは瞬く間にロシアの広大な雪景色の中にいた。

窓の外は、どこまでも続く白銀の世界が広がっている。時折、凍てついた森や、点在する小さな集落が視界を横切った。

 

「寒いね、おじさん」

 

ハリーが身を震わせながら呟いた。車内はアントワーヌの魔法で暖かく保たれているはずだが…視覚から伝わるロシアの極寒が肌にまで染み入るようだった。

 

「ああ。ここから先は、魔法界においても、そう気軽に立ち入れる場所じゃない。特に、コルドフストリーツはな」

 

アントワーヌの声には、どこか警戒の色が滲んでいた。彼はステアリングを握りながら、遠くに見える地平線の彼方を見つめていた。

 

しばらくの沈黙の後…アントワーヌはふと思い出したように口を開いた。

 

「そういえば…昔、ここからそう遠くない場所でね?面白い仕事をしたことがあるんだよ」

 

ハリーが興味津々にアントワーヌの顔を見上げた。

 

「面白い仕事?」

 

「ああ…マグル側の話だけどね。ソビエト連邦が、金星探査機を開発していた時期があっただろう? ベネラ計画というやつだ」

 

ハリーは首を傾げた。産まれる前の事だからか…そんな話を聞いたことがなかった。

 

「あの頃、彼らは金星という人類未踏の土地に探査機を送ろうとしていたんだが…金星の環境は想像を絶するほど過酷でな。高熱、高圧、硫酸の雨……普通の技術では、探査機が着陸してすぐに壊れてしまう。そこで、彼らは私に頼ってきたんだ」

 

アントワーヌはどこか懐かしむような目で遠くを見つめた。

 

「金星という人類未踏の土地だから魔導道具の要素を入れて欲しいって頼まれてね。厳しい環境下でも動かせる為に、魔導具の知識を使って探査機の開発をしたんだよ。マグルには理解できないだろうが、魔法の原理を応用すれば、常識外れの耐久性や機能を持たせることが可能になる。彼らはその結果に驚嘆していたな」

 

ハリーは目を丸くした。おじさんが、そんなマグル側の…しかも宇宙開発にまで関わっていたとは!アントワーヌの知識と能力の広さに改めて驚かされた。

 

「おじさんって、本当に色々なことを知ってるし、やってたんだね!」

 

ハリーの純粋な感嘆に、アントワーヌは満足げに笑った。

 

「当然だろう? 世界は広い。そして、知るべきことは、まだまだ山ほどある。君もこれから、もっと多くのことを知ることになるだろうさ」

 

数時間後、車は広大な針葉樹林の奥深くに分け入り、やがて巨大な鉄の門の前に停車した。

門には何の紋章もなく、ただ無機質な鋼鉄の塊がそびえ立っている。その上には、魔法によってか、常に雪が降り積もり、周囲の風景に溶け込むように見えていた。

 

アントワーヌが杖を取り出すことなく、左手の指に嵌められた重厚な金属の指輪に軽く触れると、門が重々しい音を立てて内側へと開いた。

その向こうには、凍てつくような寒さの中に、巨大な建造物が姿を現した。それは城というよりは、要塞…あるいは厳重な研究所といった趣で、灰色の石造りの壁は高くそびえ立ち、窓は少なく、まるで外界との接触を拒むかのようだった。

 

「着いたぞ、ハリー。刑務所の様な見た目のここが、コルドフストリーツだ」

 

車を降りると、凍てつく空気がハリーの肺を刺した。周囲には人影はなく、ただ風の唸り声だけが聞こえる。

アントワーヌはハリーの手を引くと、迷うことなく建物の中へと足を踏み入れた。

 

広々としたエントランスホールは、飾り気がなく、ひたすら実用性を追求した造りだった。壁にはかつての共産党を思わせる…力強いプロパガンダ風の壁画が描かれ、魔法使いが協力し国家のため奉仕する姿が描かれている。

 

奥から、硬質な足音が響いてきた。

 

現れたのは、一人の男だった。彼の容貌は、ハリーが今まで見てきた魔法使いとは明らかに異なっていた。

白髪は短く刈り込まれ、背筋はピンと伸び、その立ち姿はまるで軍人のようだった。何よりも目を引くのは、鋼のように冷たい灰色の瞳だ。その眼差しは鋭く、まるでハリーの魂の奥底まで見透かすかのように感じられた。彼は杖を持っておらず、代わりに指にはアントワーヌと同じような金属の指輪が嵌められている。服装はソ連軍服に袖を通し、胸には勲章をつけ、質実剛健な印象を与えた。

 

「よく来たな、アントワーヌ・ド・ポッター」

 

その声は、深みがあり、しかし感情の起伏がほとんど感じられなかった。

 

「久しぶりだな、デミトリ」

 

その男──コルドフストリーツ学院校長、そして元ソ連魔法軍情報局の長官の肩書きを持つデミトリ・グレゴロヴィチ・マリニンに、アントワーヌは不敵な笑みを向けた。

彼の顔には、旧知の相手と再会した時の、ある種の楽しげな色が浮かんでいたが、同時に緊張感も漂っていた。

 

デミトリの冷たい視線が、アントワーヌの隣に立つハリーに向けられた。彼の灰色の瞳は、ハリーの額の傷跡をじっと見つめ、何かを探るように細められた。

 

「彼が……例の少年か(生き残った少年)…。ハリー・ポッター…」

 

デミトリの声は静かだったが、その中に潜むただならぬ圧力に、ハリーは思わず息を飲んだ。アントワーヌはハリーの肩を軽く叩き、前に出るよう促した。

 

「ああ。私が引き取った。そして、君が招待状を送った。随分と気まぐれなことだ。コルドフストリーツが外の人間を受け入れるなど、かつては考えられなかった」

 

アントワーヌの言葉に、デミトリの口元が微かに動いた。それは、笑みとも嘲笑ともつかない、感情の読めないものだった。

 

「時代は変わった。それに、君が連れてくる少年だ。興味がないわけがないだろう。我々の『理論』が、彼に何をもたらすか……あるいは、彼が我々にもたらすものがあるか、見極めさせてもらう」

 

デミトリの言葉の奥には…彼自身の、そしてコルドフストリーツ凍てつく要塞の抱える深い思惑が秘められているようだった。

 

デミトリは二人をエントランスの奥へと案内した。

彼の後に続いて廊下を進むと、ハリーはさらに驚かされた。廊下には均等な間隔で部屋が並び、それぞれに番号が振られている。まるで兵舎のようだ。

ところどころにある掲示板には、簡素なスローガンや、整然と並べられたスケジュール表が貼られている。

 

「ここは…なんだか、学校じゃないみたいだね」

 

ハリーが思わず呟くと、アントワーヌが小さく頷いた。

 

「普通の一般的な魔法学校とは全く違う。ここは訓練施設といった方が正しいだろうね。見ての通り、ここは寮別ではなく、男女別に厳しく分けられている。そして、全ては国家のために、共同体のためにあるという思想が根底にあるのさ」

 

アントワーヌの言葉に、ハリーは改めて周囲を見渡した。

確かに、生徒らしき姿は見えないが、廊下の雰囲気、壁の意匠、そして何よりもデミトリという人物の存在が、この学校が魔法を学ぶ場所というよりは、魔法使いを育成する士官学校のような印象を与えていた。

 

デミトリに案内されたハリーとアントワーヌは、コルドフストリーツの奥へと進んでいった。簡素だが堅牢な廊下は、まるで迷宮のようだった。

ところどころに設置された頑丈な扉の向こうからは、耳慣れない音が聞こえてくる。金属がぶつかり合う音、鋭い叫び声、そして時には魔法の光が漏れ出すのが見えた。

 

「ここは…一般的な魔法学校とは、学ぶ内容も、その方法も根本的に異なる」

 

デミトリは抑揚のない声で言った。

その言葉には、コルドフストリーツの教育に対する揺るぎない確信が込められているようだった。

 

やがて彼らは、広大なアリーナのような空間に辿り着いた。そこでは、何人もの生徒が、指導員らしき人物の厳しい号令のもと、魔法の訓練に励んでいた。

しかし、その光景は、ハリーが想像していた魔法の授業とはかけ離れていた。生徒たちは、単に呪文を唱えるだけでなく、素早い動きで障害物を避け、連携して魔法を放ち、まるで戦場の兵士のように動いている。飛び交う呪文は、美しい光のショーではなく…的確に目標を打ち砕くための冷徹な武器だった。

 

「あれは、応用魔法の実戦訓練だ。我々は、魔法を個人の娯楽や学術的な探求のためだけにあるとは考えていない。魔法とは…国家の力であり、秩序を維持するための道具だ」

 

デミトリの言葉は、この学校の哲学を端的に表していた。

 

さらに奥へと進むと、彼らは別の訓練場に案内された。そこでは、杖を握る代わりに、生徒たちが互いに組みつき、体術で競い合っている。

 

「信じられるか、ハリー? ここは徒手格闘の授業まであるんだよ」

 

アントワーヌが面白そうにハリーに囁いた。実際に、生徒たちは体術の型を学び、そして実際に相手と組み手を行っていた。

魔法使いが肉体を鍛えるという発想自体が、ハリーにとっては衝撃だった。

 

「魔法使いが…どうしてそんなことするの?」

 

ハリーの疑問に、アントワーヌは顔を上げてデミトリを見た。デミトリは何も言わず、ただその鋼のような瞳で訓練の様子を見つめている。

 

「非常時における対応、そして何よりも個々の身体能力と精神力の強化だ。杖や魔法に頼りすぎれば、いざという時に脆くなる。彼らは、魔法が使えなくても、あるいは使えない状況に陥っても、任務を遂行できるだけの『個』を鍛え上げる」

 

アントワーヌがハリーの耳元で続けた。

 

「つまり、ここは魔法使いの士官学校のようなものだ。徹底的に魔法使いを組織化し、軍事運用する様がまざまざと見えるだろう? 彼らには、宗教観など存在しない。あるのは、ただただ、魔法の使える人材を育成し、組織化するためだけの効率化されたシステムなのさ」

 

ハリーは、今まで魔法について抱いていたイメージが、根底から覆されるような感覚を覚えた。

彼が想像していたような、杖を振って簡単な呪文を唱えるだけの「魔法」とは全く違う。ここには、彼が知る由もない、厳しく、そして現実的な「魔法」の側面が存在していた。

 

「さあ、案内はここまでだ。ハリー・ポッター。君の資質を試す時が来た」

 

デミトリが静かにそう告げた。ハリーは、これから自分がこの異質な学校で何を経験するのか、期待と不安が入り混じった目でデミトリを見つめた。

 

デミトリは、ハリーを先ほどの実戦訓練が行われていたアリーナへと連れて行った。

広大な空間の中央には、魔法陣が描かれた円形の決闘場が設えられている。周囲には、すでに数人の生徒と指導員が集まっており、彼らの視線がハリーに注がれた。

 

「ハリー・ポッター。君の資質を見極めるため、ここで簡単な模擬戦を行ってもらう」

 

デミトリの言葉に、ハリーはごくりと唾を飲み込んだ。まだ杖も持っていない自分に、一体何ができるというのだろう。

 

「相手は…彼女だ」

 

デミトリが指差した先には、一人の少女が立っていた。ハリーより少し背が高く、引き締まった体つきをしている。

短い黒髪はきっちりと整えられ、その瞳には一切の感情が読み取れない。まるで、小さな軍人のようだった。

 

「ミーシャ・ブタノヴァ・ロマノフ。12歳。同年代の者には負け知らずだ」

 

デミトリが紹介すると、少女は無言でハリーに一礼した。

その仕草は淀みがなく、訓練された兵士のそれだった。ハリーは、彼女の纏う空気に、思わず身構えた。

 

「おじさん、僕、まだ杖も持ってないのに…」

 

ハリーがアントワーヌを見上げると、アントワーヌはにやりと笑い、自分の杖をハリーに差し出した。

 

「これを使え。私の杖は、選ばれた者にしか真の力を貸さない。だが、ハリーになら、少しは手加減してくれるだろうさ」

 

アントワーヌの杖は黒檀のような深みのある色合いで…柄には複雑な彫刻が施されている。ハリーが手に取ると、わずかに温かい感触がした。

しかし、どこか上から見られているような選ばれていない感覚が拭えなかった。

 

「準備はいいか?」

 

デミトリの問いに、ハリーはアントワーヌの杖を握りしめると、小さく頷いた。

 

「始め!」

 

デミトリの号令と共に、ミーシャが電光石火の速さで動いた。

彼女は杖を構えることなく、素早くハリーとの距離を詰め、体術で攻め込んできた。ハリーは咄嗟に身をかわすが、ミーシャの動きは予測不能で、まるで訓練された獣のようだった。

 

「ぐっ!」

 

腹部に鋭い蹴りを受け、ハリーは思わずうめき声を上げた。ミーシャは容赦なく、次々と攻撃を繰り出す。魔法使いがこんなにも肉弾戦に長けているとは、ハリーは想像もしていなかった。

 

「これで終わりだ!」

 

ミーシャが鋭い声と共に、ハリーの顔面に拳を突き出した。ハリーは咄嗟に腕でガードするが、その衝撃で体勢を崩し、地面に倒れ込んだ。

 

「ハリー・ポッター、立て!」

 

デミトリの冷徹な声が響く。ハリーは歯を食いしばり、必死に立ち上がろうとする。全身が痛み、息が上がる。

 

だが、ここで負けるわけにはいかない。

 

その時、ハリーの脳裏に、アントワーヌの言葉が蘇った。

 

『突拍子もない事をすることが、勝つ秘訣さ』

 

ハリーは、倒れたままアントワーヌの杖を強く握りしめた。杖は、まだ彼に完全には応えてくれない。しかし、この状況で、何かをしなければ。

 

ハリーは、ミーシャの次の動きを予測した。

彼女はきっと、とどめを刺しに来る。その一瞬の隙を突くしかない。

 

ミーシャが再びハリーに迫る。その動きは、先ほどよりもさらに速く、正確だった。ハリーは、ミーシャの足元に意識を集中した。

 

「今だ!」

 

ハリーは、全身の魔力を杖に集中させるように念じ、地面を叩きつけた。杖から放たれたのは、強力な呪文の光ではなく、地面を滑るように広がる、目に見えない衝撃波だった。

 

ミーシャは、その衝撃波に気づくのが一瞬遅れた。彼女の足元がわずかに揺らぎ、体勢が崩れる。その一瞬の隙を、ハリーは見逃さなかった。

 

ハリーは…残された力を振り絞り、アントワーヌに教えられた呪文をミーシャに向けて突き出した。

 

「エクス…!」

 

呪文の途中で、ハリーの意識は途切れた。

 

しかし、その一瞬…アントワーヌの杖の先端から、眩い光が放たれた。

それは、ミーシャの体をかすめ、彼女の髪をわずかに焦がした。

 

ミーシャはバランスを崩してよろめき、決闘場の外へと飛び出した。

 

「そこまで!」

 

デミトリの短い号令が響き渡った。

 

ハリーは、意識を失いながらも…その口元に微かな笑みを浮かべていた。ボコボコにされたが、確かに一矢は報いた。アントワーヌの杖は、ハリーを選んではいない。だが、確かに…ハリーに力を貸してくれたのだ。

 

アントワーヌがハリーの元に駆け寄ると、デミトリが静かにミーシャに声をかけた。

 

「ミーシャ・ブタノヴァ・ロマノフ。油断したな」

 

ミーシャは…焦げた髪に触れ、悔しそうに唇を噛んだ。

彼女の冷徹な瞳に、初めて感情の揺らぎが見えた。

 

「申し訳ありません、校長」

 

ミーシャは、視線をデミトリから外し、意識を失って倒れているハリーをちらりと見た。

彼女はこれまで、訓練でこれほど手こずったことはない。ましてや…杖すらまともに使えないはずの相手に…あの一瞬、隙を突かれたのだ。

敗北の悔しさとは異なる、奇妙な感覚が胸に広がる。まるで、自分の完璧な世界に、予期せぬ小さな石が投げ込まれたような……。その小さな異物が、妙に心に引っかかり…静かに彼女の心をざわつかせていた。

 

デミトリは、何も言わず、ただハリーとアントワーヌを見つめていた。

その鋼のような瞳の奥には、何らかの思惑が渦巻いているようだった。

 

 

ハリーが医務室で目覚めると、アントワーヌが心配そうに隣に座っていた。簡単な治療魔術が施されたおかげで、体の痛みはすでに引いている。

 

「気分はどうだい?ハリー?使った魔法薬が効いたかな?」

 

「うん、もう大丈夫。それより…おじさん…僕、ミーシャに……」

 

ハリーが言い淀むと、アントワーヌは軽く頭を撫でた。

 

「ああ、見ていたよ。なかなか面白い戦いだったね。あの一撃は、まさに君の『本質』が見えた瞬間だったね」

 

アントワーヌの言葉に、ハリーは少しだけ誇らしい気持ちになった。

しかし、次の瞬間…アントワーヌは立ち上がり、扉の方へ目をやった。

 

「さて、次は私の番だ」

 

アントワーヌの言葉が終わるか終わらないかのうちに、デミトリが医務室の扉を開けて入ってきた。

彼の表情は相変わらず冷徹だが、その瞳の奥には、どこか期待のような光が宿っているように見えた。

 

「準備は整ったか、アントワーヌ・ド・ポッター」

「いつでもどうぞ、デミトリ…。準備は早い方なんだ」

 

二人の間に、張り詰めた空気が流れる。

ハリーは、二人の間に漂う、かつての戦友のような、あるいは好敵手のような、複雑な関係性を感じ取った。

 

彼らがアリーナへ向かうと、そこにはすでに多くの生徒が集まっていた。先ほどハリーの試合を見ていた生徒たちだけでなく…さらに多くの生徒たちが、期待に満ちた目で決闘場を見つめている。

校長であるデミトリと、謎の訪問者アントワーヌの決闘は、彼らにとって滅多に見られない光景なのだろう。

 

デミトリとアントワーヌが向かい合う。デミトリの顔には、警戒心が露わに浮かび上がっていた。彼は一歩前に出て、静かに一礼する。対するアントワーヌは、その口元に優雅な微笑みを湛えながら、全く同じように応じた。

その仕草一つにも、二人の性格の違いが表れているかのようだった。

 

「始め!」

 

訓練官の号令と共に、試合の火蓋が切られた。

 

デミトリは開始と同時に、迷わずアントワーヌとの距離を詰めた。

その動きは素早く、徒手格闘の訓練を積んだ者ならではの研ぎ澄まされた体術が光る。彼は一瞬でアントワーヌの間合いに入り込み、強力な一撃を放とうとした。

 

しかし、アントワーヌは慌てる様子もなく、その攻撃を普通に体術で受け止めた。

腕で受け流し、体勢を崩さずにデミトリの動きをいなす。そして、流れるような動作で、片手を魔法で強化し、まるで突き立てるナイフのように、デミトリの喉元へと鋭く突き出した。それは、純粋な物理攻撃でありながら、魔力によって強化された、恐るべき一撃だった。

 

デミトリは、その予想外の攻撃に慌てて距離をとった。彼の冷徹な瞳の奥に、わずかな驚きと焦りがよぎる。

アントワーヌが魔法使いとしての実力だけでなく、肉弾戦にも長けていることを、改めて思い知らされた瞬間だった。

 

アントワーヌは、距離を取ったデミトリを見て、にこりと笑いながら言った。

 

「久しぶりだよ、肉弾戦込みなのは大戦以来だ」

 

その言葉には、かつて二人が共に、あるいは敵として、激しい戦場を駆け抜けた過去が垣間見えた。

 

アントワーヌは、持っていた杖を、まるで指揮棒のように優雅に振った。

すると、周囲の空気から結晶化するように、きらびやかな衣装をまとった人形が次々と姿を現す。

それは、マグルの物語に出てくるような「くるみ割り人形」の兵士たちだった。人形たちは、アントワーヌの魔法の指揮棒に合わせて、人のサイズへとみるみる大きくなっていく。そして、命令を受けたかのように、一斉にデミトリを襲い出した。

 

デミトリの表情に、かつてないほどの緊張が走った。彼は即座に防御の構えを取るが、次々と襲い来るくるみ割り人形の兵士たちは、ただの幻影ではない。それぞれが魔力によって生命を与えられ、巧みな連携でデミトリを追い詰めていく。

 

くるみ割り人形の兵士たちが、デミトリに襲いかかる。一体一体はそれほど強力ではないが…その数と連携は侮れない。

デミトリは、鋼のような瞳にわずかな苛立ちを浮かべると、杖を持たない右手を素早く掲げた。

 

「散れ!」

 

彼の指にはめられた金属の指輪から、圧縮された魔力の波が放たれる。それは物理的な衝撃波となり、迫り来るくるみ割り人形たちを次々と魔法で爆発していった。

木製の破片やきらびやかな衣装が飛び散り、一瞬にして広大なアリーナに散乱する。デミトリは、人形たちが消滅する隙を突き、一気にアントワーヌへと肉薄しようとした。

その動きは迷いがなく、完全に標的を捉えている。

 

しかし、アントワーヌはデミトリの猛攻を予想していたかのように、挑戦的な笑みを浮かべていた。彼は、爆風で乱れた前髪を優雅に払いながら、再び杖を指揮棒のように振るった。

 

その瞬間、アリーナの空間に異変が起きた。空中に裂け目が生まれ、そこから次々と何かが飛び出してくる。

 

それは、古色蒼然としたものから、比較的近代的なものまで、多種多様な銃だった。火打ち石式のフリントロック式のライフル、重厚なボルトアクションライフル、連発式のレバーアクション銃、そして一部には自動小銃らしき影さえも見えた。

それらは空中に静止し、まるでアントワーヌの指示を待つかのように、銃口をデミトリに向けていた。

 

「さて、行進曲を始めようか、デミトリ」

 

アントワーヌの声は…どこか楽しげで、まるでこれから始まる戦いを愉しんでいるかのようだった。

彼の周囲には、数えきれないほどの銃器が整然と並び、その全てが魔力によって浮遊し、デミトリを狙っている。

 

デミトリの冷徹な表情に、初めて明確な驚愕の色が浮かんだ。

彼はコルドフストリーツの校長として、そして元ソ連魔法軍情報局の長官として、魔法の軍事利用においては誰よりも長けていると自負していたはずだ。

だが、アントワーヌの魔法は、彼の想像を遥かに超える、異次元の領域に踏み込んでいるように見えた。

 

アントワーヌの「行進曲を始めようか、デミトリ」という言葉がアリーナに響き渡ると、彼の指揮棒のように振るわれた杖が、空中を浮遊する無数の銃たちを完璧に統率した。

 

次の瞬間、アリーナに轟音が響き渡った。

 

空中に浮遊していた多種多様な銃器が、まるで生き物のように一斉に、デミトリ目掛けて火を噴いたのだ。

フリントロック式の旧式銃からは白煙が上がり、ボルトアクションライフルは鋭い発射音を立て、機関銃らしきものはけたたましい連射音を響かせた。四方八方、様々な角度から、目に見えない鉛玉の嵐がデミトリへと殺到する。

 

デミトリは、その圧倒的な弾幕に、さすがに表情を歪めた。

彼はこれまで、どんな魔法攻撃も正面から受け止めてきたような絶対的な自信を纏っていたが、この予期せぬ物理的な猛攻には、明確な焦りを見せた。

 

「プロテゴ・マキシマ!」

 

デミトリは、慌てたように叫び、防御呪文を唱えた。彼の全身を青白い光が包み込み、迫り来る弾丸を弾き飛ばそうとする。

 

だが、アントワーヌはそんなデミトリの様子を見て、さらに挑戦的な笑みを深めた。

 

「防護呪文で防げるといいね、無論…弾頭は変えてあるから、死にはしないよ」

 

アントワーヌの声が、銃声の合間を縫って響く。

その言葉は、デミトリの防御呪文が完全に通用するわけではないことを示唆していた。弾丸が防御呪文に衝突するたびに、通常の呪文が弾ける音とは異なる、鈍い音が響く…。中には防御の光をすり抜けてデミトリの体に食い込んでいるような箇所さえ見えた。

 

デミトリの顔に、苦痛と困惑の表情が浮かぶ。通常の銃弾ではない。アントワーヌが仕込んだ「弾頭」とは、一体何なのだろうか。それは、魔法防御を無効化する特殊な材質なのか、あるいは内部に何らかの魔術的な仕掛けが施されているのか…。

 

生徒たちは、これまでの訓練とは全く異なる、生々しい「実戦」の光景に息を呑んでいた。彼らにとって、校長がこれほど追い詰められる姿は、初めて見るものだった。

 

アリーナは、銃声と魔法の衝突音、そして飛び散る破片の音で満たされ、まるで本物の戦場と化していた。

 

 

アリーナを埋め尽くす銃声と、デミトリの防御呪文が弾ける音が鳴り響く中、アントワーヌは相変わらず優雅に杖を振るっていた。

宙に浮いた無数の銃器からは、容赦なく弾丸が撃ち出される。

 

デミトリは必死に「プロテゴ」の呪文を連呼し、全身を青白い魔法の光で覆っていた。

しかし、アントワーヌの不敵な予告通り、その防御は完全ではない。弾丸が防御呪文にぶつかるたびに、奇妙な鈍い音が響き、中には光の膜をすり抜けてデミトリの体に当たるものもあるようだった。

 

やがて、その異変は視覚として現れた。

 

デミトリの軍服のあちこちが、カラフルな色で染まり始めたのだ。まず、彼の足元に赤い飛沫が広がり、次いで胸元には鮮やかな青い斑点が、さらに肩には黄色い跡が次々と浮かび上がってくる。

銃弾が防御呪文を破って彼の体に当たると、まるで風船が弾けたかのように、色とりどりの液体が飛び散った。

 

「これは……!」

 

デミトリは、自分の染まっていく軍服を見て、思わず動きを止めた。

その冷徹な顔に、これまでの戦いでは見られなかった、明確な困惑の表情が浮かび上がる。

彼の額には、不快感と理解不能な状況に対する苛立ちから、深く眉間に皺が寄っていた。彼は、相手の意図が全く読めないこの状況に、ひどく狼狽しているようだった。

 

「どうした、デミトリ? まだ『行進曲』は始まったばかりだぞ?」

 

アントワーヌは、楽しげな笑みを浮かべたまま、さらに追い打ちをかけるように言った。彼の杖の動きに合わせて、浮遊する銃器の向きが次々と変わり、デミトリの防御の隙間を縫うように、カラフルな弾丸が撃ち込まれていく。

 

アリーナの生徒たちは、この奇妙な光景に息を呑んでいた。

彼らにとって、校長のデミトリがこんなにも人間らしい動揺を見せるのは初めてのことだった。そして、この「魔法の弾丸」が、ただの弾丸ではないことを理解し始めた。それは、殺傷目的ではなく、明確な意図を持ってデミトリを"彩って"いるのだ。

 

「モノクロの世界には飽き飽きしててね、特に軍服の色は見飽きたよ」

 

アントワーヌの魔法は、常に相手の常識を覆し、予想の斜め上を行く。

 

デミトリは、色とりどりの染みが広がる自身の軍服を見下ろし、深く息を吐いた。彼の鋼の目が、アントワーヌを鋭く睨みつける。

 

デミトリの軍服が色とりどりのペイントで染まっていく中、彼の顔には怒りとも困惑ともつかない感情が渦巻いていた。

アントワーヌの挑発的な言葉が、彼の冷静さをさらに揺さぶる。

 

「ぬぅん!」

 

デミトリは、低く唸り声を上げると、これまでの冷静さをかなぐり捨てたかのように、決闘場の地面に右の拳を力強く突き立てた。杖を持たない彼の指にはめられた金属の指輪が、鈍い光を放つ。

 

その瞬間、アリーナの地面が大きく揺れ動いた。デミトリの拳から放たれた魔力が大地を伝播し、まるで巨大な波のようにアントワーヌへと迫る。地面が隆起し、ひび割れ、土塊が宙を舞いながら、破壊の波がアントワーヌを飲み込もうとする。

それは、純粋な物理的な破壊力と魔法が融合した、デミトリの奥の手だった。

 

「これはこれは……」

 

アントワーヌは迫り来る大地の波を見て、眉一つ動かさなかった。

むしろ…その口元には、一層嬉しそうな笑みが浮かんでいた。彼は、まるで目の前の光景を心から楽しんでいるかのようだった。

 

アントワーヌは、迫り来る大地の波を避けようともせず、ただ静かにその場に立っていた。

そして、どこか懐かしむような目でデミトリを見つめながら、呟いた。

 

「昔…コッサクの魔法使いと戦ったのを思い出すよ、彼はとても強かった」

 

その言葉は、デミトリの放った攻撃とは全く関係のない唐突なものだった。

しかし、その言葉の裏には、アントワーヌが経験してきた数々の戦い、そして彼が対峙してきた強大な魔法使いたちの記憶が垣間見えた。

デミトリの攻撃は、彼にとって、過去の強敵との戦いを呼び起こさせるものだったのかもしれない。

 

大地の波がアントワーヌを飲み込もうとするその瞬間、彼の周囲の空間がわずかに歪んだ。

次の瞬間、アントワーヌの姿は、まるで幻のように消え失せた。彼が立っていた場所には…ただ、波打つ地面だけが残されている。

 

デミトリは、自分の攻撃が虚しく空を切ったことに…再び眉間に深い皺を寄せた。

アントワーヌの魔法は、常に彼の予想を超えてくる。そして…その余裕綽々とした態度が、デミトリの苛立ちをさらに募らせていた。

 

アリーナの生徒たちは、息を呑んでその光景を見守っていた。校長のデミトリが、これほどまでに追い詰められ、そして感情を露わにする姿は、彼らにとって衝撃的だった。

アントワーヌの魔法は、彼らの知る「共産主義魔法理論」の枠を遥かに超えている。

 

渾身の一撃は空を切った。アントワーヌは、まるで煙のようにその場から消え失せた。残されたのは、デミトリの拳が穿った巨大な亀裂だけだった。土煙が舞い上がり、アリーナは一瞬、静寂に包まれる。

 

その静寂を破るかのように、土煙の中からアントワーヌの声が響いてきた。しかし、彼の姿はどこにも見えない。

 

「流石はコルドフストリーツだね、現在…他の魔法使いよりかはとても実践向きだ、賞賛に値するよ…!だけど…」

 

アントワーヌの声は、どこか楽しげで…デミトリを嘲笑っているかのようにも聞こえた。

デミトリは、警戒心を剥き出しにして周囲をキョロキョロと見回すが、アントワーヌの居場所を特定できない。彼の冷徹な瞳には、苛立ちと焦りが色濃く浮かんでいた。

 

「悲しいかな…実戦経験が少し少なすぎるね」

 

その言葉が、デミトリの耳に届いた瞬間…彼は直感的に危険を察知した。反射的に自分の上を見上げると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 

デミトリの頭上の空間が、まばゆく光り輝き始めたのだ。

その光の中から…悠然とした表情のアントワーヌが、まるで舞台の主役のように姿を現す。彼は片手で杖を指揮棒のように持ち、もう一方の手を優雅に広げていた。

 

そして、デミトリの視線の先…アントワーヌのすぐ後ろには、おぞましいほど巨大な兵器が鎮座していた。それは、第一次世界大戦の塹壕戦を思わせるような、無骨で巨大な榴弾砲だった。その黒い砲口は、正確にデミトリの頭上へと向けられていた。

 

デミトリの顔から、血の気が引く。この規模の兵器を空中に出現させ、しかもターゲットの頭上に直接持ってくるなど、彼の知る魔法の常識では考えられないことだった。

 

生徒たちは、あまりにも現実離れしたその光景に…言葉を失っていた。

彼らが訓練で教わってきた「実践」とは、あまりにもかけ離れた、真の「実戦」が目の前で繰り広げられている。

 

アントワーヌは、砲口の向こうで呆然と立ち尽くすデミトリを見て、にこりと笑った。

 

「さあ、いよいよフィナーレだ」

 

アントワーヌの優雅な微笑みの後ろで、巨大な榴弾砲が重々しく軋んだ。黒々とした砲口はデミトリを正確に捉え…その威容はアリーナ全体を圧倒する。

 

その内部で、ゴトン、と鈍く…しかし確実に、弾が装填される重々しい音が響いた。

金属と金属が擦れ合うような、冷たい響き。それは、これから放たれるであろう破壊の予兆であり、デミトリの脳裏に警鐘を鳴らす。

 

デミトリの顔には、かつてないほどの緊張が走った。彼の「プロテゴ」呪文では防ぎきれない、通常の魔法とは異なる性質の攻撃。

そして…今、目の前の男は、マグル兵器を魔法で操り、信じられない規模の砲撃を放とうとしている。彼は、自身の合理的な思考では理解しがたい、異質な魔法の前に立たされていた。

 

生徒たちは、その光景に息を呑み、静まり返っていた。

彼らが訓練で教わってきた魔法、そして彼らが知る「魔法使いの戦い」の常識は、アントワーヌによって次々と打ち破られていく。

校長が…これほどまでに、簡単に追い詰められる姿は、彼らにとって衝撃以外の何物でもなかった。

 

アントワーヌは、榴弾砲の装填音を聞きながら、満足げに目を細めた。彼の杖が、最後の指揮を執るかのように、ゆっくりと振り下ろされる。

 

「最後の音符だ。受け取ってくれるかな?」

 

その声と共に、重々しい装填音がアリーナに響き渡り、巨大な榴弾砲の砲口がまばゆい光を放ち始める。デミトリの頭上には、圧倒的な破壊力が迫っていた。

彼の冷徹な灰色の瞳には…動揺と、そしてわずかながらも屈服の色が浮かび上がっていた。

 

「……参った」

 

デミトリは、苦渋を舐めるかのような表情を浮かべながら…低く、しかしはっきりとそう告げた。

彼の声は、轟音寸前の緊張感に満ちたアリーナに、静かに響き渡った。

 

その言葉を聞くと、アントワーヌは満面の笑みを浮かべた。彼の指揮棒のように振り下ろされようとしていた杖の動きがぴたりと止まる。

榴弾砲の砲口から放たれていた光も、音もなく消え失せた。

 

「賢明な判断だ、デミトリ」

 

アントワーヌは、再び優雅に杖を構え直すと、頭上にあった巨大な榴弾砲を音もなく消し去った。

それまでアリーナを覆っていた張り詰めた空気は、一瞬にして霧散した。

 

生徒たちは、その光景に呆然と立ち尽くしていた。

絶対的な存在である校長が、まさか「参った」と口にするとは、彼らの想像を遥かに超えていた。

それは、アントワーヌ・ド・ポッターという人物が、彼らの知るコルドフストリーツの常識をいかに逸脱しているかを、まざまざと見せつける瞬間だった。

 

デミトリは、依然として眉間に深い皺を寄せたまま、自身のカラフルに染まった軍服を見下ろした。

その表情には、敗北の悔しさだけでなく、アントワーヌの予測不能な魔法に対する、深い思索が込められているようだった。

 

「やはり、君には敵わないな」

 

デミトリは静かに呟くと、アントワーヌに視線を向けた。その言葉には、ある種の諦念と、そして長年の経験からくる理解が滲んでいた。

アントワーヌは、そんなデミトリに満足げに頷いた。

 

「さて、これで私達の『歓迎会』は終わったわけだが、本題に入ってもいいかな、デミトリ?」

 

アントワーヌの言葉に、デミトリは深く息を吐き、視線をハリーへと向けた。

 

決闘の興奮冷めやらぬアリーナから離れ、アントワーヌとハリーはデミトリに客室へと案内された。簡素だが清潔な部屋は、余計な装飾がなく、実用性を重視したコルドフストリーツの思想が隅々まで行き届いている。

窓の外には、すでに深々と雪が降り積もり、闇の中に白銀の世界が広がっていた。

 

デミトリは、壁の棚から無骨なガラスのボトルを取り出すと、三つの小さなグラスをテーブルに並べた。

彼の顔から、先ほどの決闘での困惑の表情は消え、いつもの冷徹な面持ちに戻っていた。しかし、その瞳の奥には、アントワーヌへの新たな認識が宿っているようだった。

 

「君の好物であるかはわからんが…ジョージアのワインよりも今はこれがいいだろう。特に体を温めるには良い」

 

デミトリがボトルを傾け、グラスに透明な液体を注ぐ。それは、強いアルコールの香りを放つウォッカだった。

 

「おお、これは嬉しいな、デミトリ」

 

アントワーヌは、そのグラスを手に取り、嬉しそうに目を細めた。

彼はグラスを傾け、一気に液体を喉に流し込んだ。ウォッカの強い刺激が、アントワーヌの喉を焼くが、彼はまるで芳醇なワインでも飲んでいるかのように、満足げな表情を浮かべた。

 

「やはり最高だ。君のところのウォッカは、いつ飲んでも格別だよ」

 

アントワーヌの言葉にデミトリはわずかに口角を上げた。

それは、彼が見せた数少ない、人間らしい感情の表れだった。ハリーは、二人の間に漂う奇妙な友情とでもいうべき空気に、そっとグラスを手に取った。

しかし、デミトリが注いだのは、ハリーのグラスには水だった。

 

「彼はまだ子供だ。アルコールは控えてもらう」

 

デミトリの言葉に、アントワーヌがからからと笑った。

 

「そうだな、ハリー。君にはまだ早い。だが、いつか、大人になったら、この味を覚えておくといい」

 

ハリーは、グラスの水を飲みながら、アントワーヌとデミトリのやり取りを静かに見守った。

彼らが過去にどのような関係を築いてきたのか、このウォッカが…二人の間にどのような物語を紡いできたのか。

この凍てつくロシアの地で…。ハリーは、彼の知る「魔法界」とは全く異なる、もう一つの世界の深淵に触れていることを実感した。

 

ウォッカを飲み干したデミトリは、空になったグラスをテーブルに置くと、アントワーヌに正面から向き合った。その瞳には、今この瞬間の対等な魔法使いとして、アントワーヌを認める光が宿っていた。

 

「それで、本題とやらを聞かせてもらおうか、アントワーヌ・ド・ポッター」

 

デミトリの言葉に、アントワーヌは再びウォッカを口に含みながら、不敵な笑みを浮かべる。

そして、アントワーヌはグラスをテーブルに置き、姿勢を正した。その表情は、先ほどまでの陽気さから一転、真剣なものに変わっていた。

 

「まず一つ目の目的は、君にハリーの資質を見てどう思うか、聞きたかったからだ」

 

アントワーヌはそう言うと、ハリーに視線を向けた。ハリーは、二人の会話に耳を傾けながら、緊張した面持ちでデミトリを見つめている。

 

デミトリは、ハリーをじっと見つめた。

その鋼のような瞳は、ハリーの奥底まで見透かすかのように感じられた。ミーシャとの決闘を思い出し、デミトリはゆっくりと口を開いた。

 

「彼の資質は……確かに凄まじい。未熟ではあるが…その魔力の奔流、そして何よりも、あの状況下で一矢報いた発想力と執念。まさに光る原石だ。我々の教育を受ければ、恐るべき魔法使いとなるだろう」

 

デミトリの言葉は、彼としては最大限の賞賛だった。ハリーは、その言葉に驚きと喜びの入り混じった表情を浮かべた。

 

「ふむ、流石はデミトリ。見る目がある」

 

アントワーヌは満足げに頷いた。

 

「そして、もう一つ…君に頼みたいことがある」

 

アントワーヌの言葉に、デミトリの眉間にわずかな皺が寄った。彼の直感が、次に語られる内容が、単なる個人的な依頼ではないことを告げていた。

アントワーヌは、一呼吸置いて、静かに語り始めた。

 

「君は知っているかい?大戦中、私が生み出してしまった最悪の魔導兵器のことを」

 

デミトリの瞳が、一瞬にして鋭く光った。

その言葉が指すものが何であるか、彼はすぐに理解した。それは、魔法界の歴史において、最も忌まわしい兵器の一つとして記録されているものだった。

 

「まさか……オブスキュラスを使った魔導反応爆弾か」

 

デミトリの声には…かつてないほどの緊張と、そして嫌悪が混じっていた。その兵器が、どれほどの破壊力を持つか、彼は身をもって知っていた。

 

「ああ。終戦間際、グリンデルバルド派の人間が、私の元からそれを盗み出した。そして、それが各国へ流失した可能性がある」

 

アントワーヌの言葉に、デミトリの表情はさらに硬くなった。

オブスキュラスを核とした魔導反応爆弾が、もし世界中に散らばっているとしたら、それは魔法界全体を揺るがす危機となる。

 

「真の目的は、その流出した爆弾を…全て処分しに来たということだ」

 

アントワーヌの瞳には…かつての罪の生産、そして、自らが生み出した兵器の残滓を完全に消し去ろうとする強い決意が宿っていた。それは…彼自身の過去との決着でもあった。

 

デミトリは、アントワーヌの言葉を静かに受け止めた。

彼の顔には、この新たな任務の重みが刻まれていた。コルドフストリーツの校長として、そして元情報局長官として、彼はこの問題の重大性を誰よりも理解していた。

 

ウォッカのグラスが、二人の間に静かに置かれている。その透明な液体は、彼らが背負う過去の重みと、これから始まる新たな戦いの予感を映し出しているかのようだった。

 

アントワーヌは、目の前のウォッカグラスを指でなぞりながら、目を伏せた。その表情には、過去の出来事に対する複雑な感情が入り混じっているようだった。

 

「私が開発した魔力抽出機は、確かにオブスキュラスの治療用であった。オブスキュラスを抱える子供たちを救うため、彼らの中に渦巻く闇の魔力を安全に抜き取るための装置だったんだ」

 

アントワーヌの声は、どこか遠い過去を語るようだった。ハリーは、その言葉に息を呑んだ。そのオブスキュラスを「治療」するという発想自体が、彼にとっては初めて聞くものだった。

 

「しかし、抽出した純粋な魔力は……非常に強力な力だった」

 

アントワーヌは言葉を選びながら続けた。その「純粋な魔力」という言葉に、デミトリの冷徹な瞳がわずかに揺れた。

 

「私は当時、魔導人形を開発していた。その抽出した魔力を、人形に生命を与えるための動力源として利用できないかと考えていたんだ…失敗した抽出機の贖罪の為にもね」

 

アントワーヌは…グラスを軽く触りながら、さらに深く目を伏せた。その声には、後悔のような響きが混じっていた。

 

「だが、その際……ある事故が起きた。魔力抽出機から得られた純粋な魔力は、私の想像を遥かに超える不安定なものだった。魔導人形に組み込もうとした瞬間、過剰な魔力が一点に集中し、制御不能に陥ったんだ。例えるなら、オーバーロード現象ともいえる事だった」

 

アントワーヌは、そこで言葉を区切った。その言葉の先にある光景が、どれほど凄惨なものだったか、容易に想像できた。

 

「結果として、私の研究室が吹き飛んだ。その爆発の規模は、まるで強力な爆弾が炸裂したかのようだった。その時、私は理解したんだ。オブスキュラスから抽出された純粋な魔力、使い方次第では、凄まじいエネルギーが手に入るのでは?…とね」

 

アントワーヌは…ゆっくりと顔を上げ、デミトリの目を見つめた。

その瞳には、自らが作り出してしまった「最悪の兵器」に対する深い責任感が宿っていた。

 

デミトリは、アントワーヌの告白を静かに聞いていた。

彼の顔には、この問題の根深さと、アントワーヌが背負う重荷への理解が浮かんでいた。オブスキュラスの治療という善意から生まれたものが、最悪の兵器に転じる。それは、魔法の持つ両義性を、まざまざと見せつける物語だった。

 

「研究室が吹き飛んだ事故の後、私は考えたんだ。あの純粋な魔力の爆発的なエネルギーを…圧縮すれば制御出来ないか…とね」

 

アントワーヌの言葉に、デミトリの表情がわずかに強張った。その思考の先に何が生まれるか、彼には容易に想像できたからだ。

 

「そして、その探求の先に生まれたのが、あの魔導反応爆弾だったという訳だ」

「あぁ、あの時…トリニティ実験を見て…私は酷く後悔したよ」

 

アントワーヌは、ゆっくりと顔を上げ、デミトリの目を見つめた。

その瞳には、自らが作り出してしまった兵器に対する複雑な感情が渦巻いていた。

オブスキュラスの闇を救うための研究が、結果として、より大きな闇を生み出してしまったという皮肉。

 

デミトリは、アントワーヌの言葉に深く頷いた。彼の顔には、この問題の根深さと、アントワーヌが背負う重荷への理解が浮かんでいた。オブスキュラスを核とした魔導反応爆弾。

それは、魔法界の歴史において、最も忌まわしい兵器の一つとして記録されることになった。

 

「それで?その爆弾が世界に散らばっている、と」

 

デミトリの声は低かったが、その中には、この事態への対処を決意する響きが含まれていた。

彼の鋼のような瞳には、アントワーヌが持ち込んだこの新たな任務の重みが刻まれていた。コルドフストリーツの校長として、そして元情報局長官として、彼はこの問題の重大性を誰よりも理解していた。

 

オブスキュラスを核とした魔導反応爆弾。その恐るべき存在が、世界に拡散しているかもしれないという事実に、彼の冷徹な思考も凍りつくようだった。

 

アントワーヌは、ウォッカグラスをゆっくりと回しながら、さらに言葉を続けた。その声には、自らの研究が招いた結果に対する、深い苦悩が滲んでいた。

 

「私は…あの爆弾が幾つ生み出されたのか、私自身も把握出来ていない」

 

アントワーヌの告白に、デミトリの眉間に深い皺が刻まれた。

開発者であるアントワーヌですら把握できていないという事実は、問題の根深さを物語っていた。

 

「なるべくあの研究は…戦中全て手元に置いていたはずだ。私の管理下にあったはずなんだ」

 

アントワーヌは、悔しそうに唇を噛んだ。彼がどれほど厳重に管理していたとしても、その努力を嘲笑うかのように、闇は忍び寄っていたのだ。

 

「だが、一部のゲラート過激派は、そんなことお構い無しだったからね」

 

アントワーヌの言葉に、デミトリの瞳が鋭く光った。ゲラート・グリンデルバルド。

彼の名を冠する過激派は、大戦末期にアントワーヌの研究を狙っていたことは、情報局長官であったデミトリも知るところだった。彼らは、グリンデルバルドの思想を盲信し、目的のためなら手段を選ばない狂信者たちだった。

 

「彼らは、魔法界の秩序を破壊し、マグルを支配するという目的のためなら、どんな禁忌にも手を出す。オブスキュラスの魔導反応爆弾が、彼らの手に渡ったとすれば……」

 

デミトリは、それ以上言葉を続けることができなかった。その先にある未来は、想像するだけでも恐ろしいものだった。

 

アントワーヌは、空になったグラスをテーブルに置くと、デミトリの目を見つめた。

 

「だからこそ、君の力が必要なんだ、デミトリ。君の持つ情報網と…コルドフストリーツの力を借りて、散らばった爆弾の行方を突き止め、全てを処分したい」

 

アントワーヌの言葉には、強い決意が込められていた。

自らが作り出してしまった闇を…自らの手で葬り去る。それは、彼に課せられた避けられない使命だった。

 

アントワーヌの提案に、デミトリは静かに頷いた。彼の顔には、この新たな任務の重みが刻まれていた。オブスキュラスの闇が生み出した最悪の兵器。その拡散を食い止めるため、二人の魔法使いは、再び手を取り合うことになった。

 

客室の窓の外では、雪が静かに降り続いていた。その白銀の世界とは対照的に、彼らの心の中には、深い闇と、そしてそれを打ち破ろうとする決意が燃え盛っていた。




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