「スゥ、スゥ・・・・・・」
「・・・・・・」
私はその少年に見惚れていた。
この世界でも、また現実でも見たことがない白と黒がツギハギのように当てられた服と半ズボン。
それ以外の色として赤く長いマフラーが苦しくないよう首に巻かれている。
胸にある三角の銀の胸当てが右肩から左脇、そして右脇を通る帯に支えられ光る。
右手には不思議な雰囲気をかもし出す白い腕輪をしている。しかし腕輪にしては少し太く、真ん中には溝があり縦で見れば角が角ばって六角形になっている。
アバター設定でもできるが、それだけとは思えない何かを思わせるアルビノのように白い髪。少し雑にハネているが、サラサラと風に吹かれてゆれる。
そして私と同じくらいの歳だろうか。少し幼さの残る整った顔から、穏やかな寝息が聞こえる。
何かに引き込まれるように足を進める。周りの花を踏まないように歩き、よく見ようとその少年に顔を近づける。
そして――――
パチッ
「・・・・・・ん?」
「え?」
――――彼と目が合ってしまった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
お互い凍ったように動きが止まる。
風の音と鳥のさえずりだけが耳に入る。
「・・・・・・」
「・・・・・・あの」
と沈黙をやぶるように彼から声をかけられる。そこで顔が近すぎることに初めて気付いた私は、先ほどボア達から必死に逃げていたのが嘘のように一瞬で10mほど後ろにさがり、頭を抱えるようにしゃがんで悶えた。
(なっ、なっ、何してんの私はーーーーーーーー!!!!??
お、男の子にあ、あんなに顔近づけて!! だっ、だってあんなにきれいな顔して気持ちよさそうに寝てたし,こんな場所で寝る人なんて珍しいし、けどもう少しでキっキスできそうだったし・・・・・・って、何考えてんだ私はぁぁ#$○%×△&☆ーーーーっ!!!!??)
頭から雑念を振り払うように全身を左右に激しく動かし、しかしまた考えてしまい背を反らして痙攣したように震える。
そんな私をどう思ったのかさっきの男の子が近づいてくる。
私は頭の中が真っ白になってしまい、身体が思うように動かずに思わず一歩下がってしまう。
しかしそれも気にせず男の子がまっすぐ私に向かってくる。
そして彼は先ほどと同じくらいに顔を私に近づけ、顔を覗いてくる。
そこで私は息を呑む。
先ほどは寝ていて見えなかったが、彼のマフラーと同じ真紅の瞳が私を見つめてくる。
それは白い髪と違い、見る者によってはルビーのように透き通る、しかし血のように深みのある瞳だった。
その瞳に魅せられてまた固まってしまうが、先ほどとは違い冷たいものを背に感じた。
「・・・・・・こんにちは!」
しかしそれも一瞬のこと、
男の子が顔を笑顔に変えてあいさつしてきた。
「・・・・・・あ、こっこんにちは!」
少し呆けてしまったが、自分もすぐにあいさつを返すため頭を下げる。
そして頭を上げると、
「・・・・・・あれ?」
ついさっきまで目の前にいた男の子がいなくなっていた。と思いきやいつの間にか横からまた顔を見ていた。いや、顔だけじゃなく全身を見るように私の周りを回り始めた。時々「おー」とか「ふんふん」と声を上げ、時にはしゃがんだり、時には離れて見たりと余すことなく見られる。
しかしそれには女性の身体をなめるような視線はなく、ただ興味があるだけのようで、邪な感じはしなかった。
だけどその分純粋なのでどう対応すればいいのかわからず、結局なすがままに見られ続け、恥ずかしくて顔が赤くなっていくのがわかった。
やがて満足したのかうんと一つ頷き、手を差し出してきた。
「僕の名前は≪シロン≫! よろしくね!」
「あ、うん。私は≪シリカ≫。こちらこそよろしく!」
そう言って手を握り返した。
勢いに流されてしまったが、男の人に触れてしまった。しかし不思議と嫌な気はせず、暖かいと感じた。
が、逆に自分の緊張が相手に伝わっていないかと、羞恥心でさらに鼓動をはやめていた。
「? どうしたの?」
「ッ!!? ごっ、ごめんなさい!!」
そこで自分だけがまだ手を握っているのに気付き、慌てて手を振り払ってしまった。
「あっ・・・・・・」
(え・・・・・・なんで、私・・・・・・)
少し乱暴に振り払ってしまいつい声が出る。だけど同時に手から温もりが離れてしまったことに少し残念に思う自分がいて、思わず自分の手を見つめてしまう。
しかし相手は気にしなかったのか、また話しかけてくる。
「君はどうしてここに?」
「あっと、私はレベル上げのためにここまで。あなたも?」
「いや、僕は・・・・・・」
そう言うと彼はメニューウインドウを開き、あるキノコを取り出した。
「≪ヒフミダケ≫を採り来たんだ」
「≪ヒフミダケ≫ってあの?」
≪ヒフミダケ≫は第一層では中クラスのアイテムであり、≪はじまりの街≫で売ればなかなかの値段で売れるのだ。
しかしそれは第一層での話であり、上に行けばそれなりに採れるし、味は現実の一般的なキノコを再現したものである。積極的に集めようとするものではない。
食料のためだろうか?と私が不思議に思っていることに彼は気にせず、話を続ける。
「そうなんだ。この近くにはたくさん生えてるからね。まぁそれだけじゃないんだけど・・・・・・」
「もしかして、この場所のこと?」
「うん、だってこの場所は特別(・・)だから」
そういって≪シロン≫は花畑を見る。そう、最初に来た時も思ったが、この場所は異常なのだ。モンスターが居らず、見たことがないの花が咲き乱れ、唯一光が照らされる。
これほど美しく、そして神聖な場所があるなど聞いたことがなかった。もし誰かが訪れれば花は瞬く間に刈られて売られ、モンスターの狩り場所として独占されていただろう。
しかし今はのところ荒らされた様子はなく、彼も花を刈る気はないようだ。
「ここって、きれいでしょ? ここを狩られのは嫌だもんね」
「・・・・・・うん、そうだね」
「アハハ! やっぱり。」
「? 何が?」
≪シロン≫はこっちに振り向く。
「君も、そう思ってくれてると思ってた。 そんな顔してたんだ」
そういって微笑みを返してくる。
その純粋な笑顔につられ、自分も自然と笑顔になる。同じ思いというのが嬉しくもあり、先ほどのことを思い出して少し恥ずかしく感じ、頬に薄く赤が指す。
「ね、ここのことは秘密にしてくれないかな?」
「・・・・・・うん、いいよ」
「よかった。二人だけの秘密だよ」
そういわれて不思議と顔が赤くなる。秘密を共有するということは、二人だけの特別な繋がりを持ったことになる。まるで恋人のような――――
(って何考えてるんだろ私!!? 何かここの気に当てられたのかな?)
顔を冷ますように手で扇いでいると、≪シロン≫が唐突に爆弾を放ってきた。
「ねぇ、これからウチに来ない?」
「え?」
ナンパかと思ったが、すぐにその考えを晴らす。話してみてわかったが、彼は悪とは無縁と言えるほど純粋で、やさしいのだ。現に今も花を踏まないよう常に気をつけて歩いている。
そんな人間がナンパ等するはずがない。
ただ逆に天然でマイペースな所があるみたいだが。
「おいしいものご馳走するよ?」
「えっと、いいよ、別にまだお腹減ってないs『クキュルウゥゥゥ』・・・・・・」
・・・・・・沈黙が落ちる。
彼は少し驚いたような顔をしているので、今の音を聞かれてしまったようだ。
はっ、恥ずかしいぃぃ!!! 穴があったら入りたい!! 顔から火が出るくらいに熱くなり、ポンと爆発する。。
「・・・・・・アッハハハハハハッ!!」
≪シロン≫はお腹をおさえ、森に響くのではないかというほど大きな声で笑う。
逆に私はこれ以上お腹が鳴らないようにおさえる。恥ずかしさから思わず膝から崩れてしまう。
うぅぅぅ!!! 初めて会う男の子にこんなにも恥ずかしいところを見せてしまうなんて!!!!
そしてひとしきり笑ったのか、≪シロン≫は涙を拭いながら手を伸ばしてくる。
「君のお腹の虫も我慢できなかったみたいだ。ほら、行こうよ」
「うぅ。じゃ、じゃあお願いしようかな?」
私はその手を取り立ち上がる。今度はすぐ離そうとするが、それよりもはやく≪シロン≫が手を引いて走る。
「じゃあ行こうっ! あの子達(・・・・)も待ってるし、少し急ごうか!」
「えぇっ!? ちょ、ちょっと待って、自分で走るってば!! あの子達って・・・・・・? それにまだ近くにボアの群れがいるかも・・・・・・」
「大丈夫、僕に任せて! 一応≪ナイフ≫は持ってきてるから!」
「ちょ、一応!? ≪ナイフ≫って最後から二番目に安い武器だよねっ!? しかも料理向きだから耐久度低いし、≪フレンジーボア≫にさえ一撃しか持たないよっ!?」
「ま、なんとかなるさ」
「かなり心配になってきたよ!? 」
そんなやりとりをしながら森を駆ける。ボアの群れに追いかけられた時と同じで巨大な木の根が所々でもり上がっており、走りにくいのは変わらない。
しかし≪シロン≫は逆に根の上を渡りながら飛ぶ。運動神経がいいのか、疲れた様子を見せずにたんたんと進んでいく。
私も手を繋いで引っ張られているので同じように走る。追われていた時よりも走りやすく、あまり疲れなかった。
それはボア達モンスターに襲われていないこともあるが、やはり一番は彼の存在だろう。誰かと共にいる。それだけでも安心できるが、手を繋いで引っ張ってもらっている。
それが何よりも頼もしく、そして暖かかった。
≪死≫への恐怖はいつの間にか晴れ、気付けば二人でまた笑いながら、森の中を駆けていった。
(あれ? そういえば何か忘れてるような・・・・・・?)
「シーリーカー! どーこー?」