わかる人にはわかる・・・、ってTV全部観てるひとにもわかるか
感想、評価、アドバイスよろしくお願いします
「ほら、もうすぐだよ!」
「はぁ、はぁ、まっ、待ってよぉ!!」
あれから森を抜け、≪はじまりの街≫に戻ってきた。
しかしここまで戻って来る間にも大変な目にあった。自然と笑い話しあっていたがその声は存外大きかったらしく、すぐにボアの群れに見つかってしまったのだ。
どうするのかと思わずシロンの顔を見るが、彼は頬をつり上げたまま頷くだけで何もしない。
と、思いきやいきなり体を寄せてきた。急なことに思わずビクッと体がはねる。しかし次の 瞬間にはさらなる驚きで頭が真っ白になる。
「ちょっとごめんよ。ほいっと」
「へ? へ?・・・・・・はぅあっ!!!??」
右手を背中に回し、左手を両方の膝裏くぐるように持って落とさないようにバランスを整える。
そう、俗に言う“お姫様抱っこ”である。
あえてもう一度言おう。“お姫様抱っこ”である。
「・・・・・・『ボフンッ』!!!!??」
「ん? どうかした?」
わた、わ、わた私は、い、今、おおおおぉぉぉぉおおお姫様抱っこされてるぅぅーー!!?
さらっと流れるようにされたので始めは何をされたのかわからなかったが、理解し始めると体が熱くなり、頭が許容量を超えて爆発した。
彼は不思議そうにしていたが気にせず、私を抱えたまま走り出す。
(あぅあぅあぅぅぅぅ!!? これって、夢それとも現実?・・・あ、ゲームか。ってそんなんじゃなくて!! お、男の人にこんなことされるの初めてだし。お、重く・・・ないかな? 部活でちゃんと動いてるし、食事とかもにも気を付けてたし・・・あ、けどここゲームだからあの時から変わってないんだ。いやでも――――――)
と私が自分の世界で悶々と考えている間に、シロンはいつの間にかボアの群れから逃げ切っていた。さすがにあの群れから私を抱えながら逃げ切れたのには驚き、思わず聞いてみた。
そしたらなんと木の上を飛んで逃げたらしい。「慣れてるから」と笑いながら答えたシロンに対し、私は固まってしまった。わ、私を抱えながら、飛んでたの?
その身体能力にもビックリして詳しく聞いてみたかったが、それよりも気になったことがあったので顔を赤くしながら聞いてみた。
「私・・・・・・お、重くなかった?」
そしたら彼は
「ん~、こないだ狩った≪フレンジーボア≫よりは軽かったよ?」
となんとも返しにくい答えをくれた。モンスターと比べられても・・・
そして少し落ち込んだ気持ちのまま≪はじまりの街≫近くまできたので降ろしてもらい、彼の案内で街の外れ近くまで来たのだ。
けどこっちは宿と離れていて人が少ないし、あまり何もないと思うんだけど・・・
「着いた、ここだよ!」
シロンの声が聞こえそちらに振り向く。するとそこには一軒の家が建っていた。
それは街の中央付近にある石でできた物とは違い、木で作られていて、普通の家よりも大きい。
そして何よりも屋根に取り付けられた十字架が特徴的なそれは――――
「ここって・・・・・・教会?」
そう、それはまさしく教会だと思わせるものだった。
確かにゲームでは教会というものはよく存在し、生き返らせてくれる場所である。
しかしこのSAOでは転移門の前で蘇生されるし、蘇生アイテムもあるので存在していない。まぁ家を買ってリフォームすればできるのだけど、する人は少ない。
それに・・・この世界はゲームであっても生き返ることができず、死に直結している。だからそれを思い起こさせる教会を建てようとする人はいない。
はず、なのだが・・・
「ただいまー。今帰ったよー!」
シロンは気にせず教会に向かって声を上げる。すると中が騒がしくなり、子供が出てきた。
「あ! やっぱりシロン兄ちゃんだ!! シロン兄ちゃんが帰ってきたぞー!」
「わーい! お兄ちゃーん!」
「兄ちゃんおかえりー!」
「ねぇねぇ、シロン兄さんあそぼー!」
「バーカ、兄ちゃんはオレとあそぶんだよ!」
「ちがうよー、あたしとだよー!」
たくさん、そうたくさん出てきた。みんな小学生あたりの歳で、最高で11才、最低でナーヴギア規定年齢の6才あたりの子たちだ。
彼ら彼女らは瞬く間にシロンを囲み、背中に乗ったり抱きついたりした。それにシロンは抵抗せずに慣れているのか受け入れている。
「はいはい、そこまで。みんなー! お客さんもいるみたいだから中に入りましょー!」
『はーーーい!』
と、そこに女性の声がかかる。
そちらに顔を向け、思わず息を呑む。
そこにいたのは、まさに聖母を思わせる美しい女性だった。
歳は20代前半だろうか? ローブを着ていながらもわかるスマートなボディに整った顔立ち。きめ細かな髪は腰まで届く程長く、若草色のそれは草原のように広く全てを受け入れてくれる印象を受ける。
細く垂れた目にはシロンとはまた違う澄んだ翡翠の輝きとともに優しさを感じさせられた。
その女性の後ろにももう一人肩口で切り揃えられた髪に眼鏡をかけた女性がいる。その女性も美人に分類されるのだが、比べてしまうのは悪いがやはり前者の女性とは世界が違うように思えてしまう。
そしてなによりも母性あふれる――――
(お、大きい・・・・・・!!?)
胸
思わず自分のものと比べてしまう。
(・・・・・・うぅ。い、いやまだこれからの成長しだいでは!! けどあの子(・・・)はもうあんなに大きかったし、それに比べて私のは・・・牛乳だって毎日飲んでるのに・・・でもあっちが普通よりはやく成長しただけで、まだまだ私にも・・・いやけど――――)
「あの・・・・・・」
「ひゃいっ!!?」
自分の胸の未来についていろいろと考えていると、先ほどの女性に声をかけられた。
「あなたは?」
「あ、こちらは≪シリカ≫。森で出会って、そのままウチへご飯に誘ったんだ。」
「は、はじめまして。≪シリカ≫といいます。」
「まぁ、そうなの。はじめまして、こちらで教会を管理させてもらっている≪アンリ≫と申します。子供たちは私を≪マザー≫と呼びます。
ウチのシロンがお世話になったようで。」
「私は≪サーシャ≫といいます。どうもありがとうございました。」
そう言い二人は頭を下げてくる。
「い、いえいえ。こちらこそ危ないところを助けていただいたので、お礼を言うのはこちらの方で・・・・・・」
「いえいえそんな・・・・・・」
「いえいえこちらこそ・・・・・・」
なかなかお互いが納得がつかず頭を何度も下げあう。
「おーい! 三人とも、そろそろご飯にしよう! みんな待ってるよ!」
そこに当の本人のシロンが私たちに呼びかけた。
空気を読まないマイペースな彼に私たちは顔を見合わせ、思わず苦笑する。
「ではどうぞウチに寄っていって下さい。お礼と言えるかはわかりませんが、ご飯でもご一緒に・・・・・・」
「いや、でも・・・・・・」
とそこに袖を引っ張られる感じがして、横を向く。そこには一人の女の子が私の袖を掴んで見上げていた。
「おねーちゃんもいっしょにいこ?」
「えぇっと・・・・・・う~~ん・・・・・・・」
「ねぇ、ねぇ、いこ?」
その上目使いの瞳に思わず胸を射抜かれ、頷いてしまった。
女の子は嬉しいのか笑顔になり、私の手を引っ張って教会の入り口へ進む。
アンリさんたちも微笑みながら後について来て、入り口にいたシロンも微笑みながら招き入れた。
あれから昼食をいただき、しばらく教会にいさせてもらっていた。
昼食には先ほどの森で採った≪ヒフミダケ≫を使ったカレーを食べた。幸いにも人参や玉ねぎ、ジャガイモに似た食材とルーが近くで入手でき、肉も≪フレンジーボア≫から採れたものを使って作れた。
しかしさすがに20人程の子供と大人二人、そしてシロンとシリカと大勢いるので肉が足らず、そのため≪ヒフミダケ≫を足すためにシロンはあの森に採りに行ったようだ。
もちろんお金に換える分も残してあり、保存用も含めかなりの数を採って来たようだ。
・・・ええそれはもうたくさん。全て出すと一部屋埋まるぐらいに。
その後はシロンと一緒に子供達と遊んだ。最初は少し警戒されていたが、シロンに紹介されると少しずつだが話しかけてくれて遊ぶようになった。
といっても遊ぶものが特にないので私は外での冒険の話やここでの服やおしゃれの話で女の子、シロンはモンスターとの戦いや武器の話で男の子が周りに集まっていた。
しかし最近の子供はませているのか、「シロン兄ちゃんの彼女?」「どこが気に入ったの?」とそういう話でせめてくる。思わず顔を赤くして否定するのだが、それをさらにからかわれてしまう。
でもある程度話してからある一部の子たちはシロンの方を見て、そしてまたこっちを向いて苦笑しながら「頑張ってね」と言ってくる。
最近の子は本当に・・・ませている。
「シリカさん、ちょっといいですか?」
「あっはい、どうしました?」
「少し、お話しませんか?」
子供達は私に気を許してくれたのか、笑顔で話を聞いてくる。楽しく話していると、アンリさんが私を呼び出し、少し離れた席へと誘う。
私は残念がる子供たちと離れそこに座るとサ―シャさんがお茶を出してくれた。それにお礼を言いながらアンリさんと向き合う。サーシャさんは私の代わりに子供達のもとへむかったようだ。
「改めて、シロンがお世話になりました」
「いえ、それは私の方で・・・・・・」
「まぁ、それについてはこれで最後ですので」
「はぁ・・・」
そこまで話すとアンリさんはお茶に手をつけ少し間を空け、先ほどの雰囲気から一転して真剣な、それでいて悲しげな表情をして尋ねてきた。
「あなたがシロンと出会ったのは・・・・・・様々な色の花が咲いている場所ではないですか?」
「えっと、アンリさんもあの場所をご存知で?」
「・・・・・・やっぱりあの子は、またあそこに・・・・・・」
二人だけの秘密じゃなかったんだ・・・と思わずガクッと落ち込んでしまうが、アンリさんはそれに気付かず下を向いて一瞬考え込み、すぐに話を続ける。
「・・・・・・シロンがあの場所を許したのなら、シリカさんには話しておくべきですね」
「あの・・・・・・いったい何のことですか?」
さすがに気になったので尋ねてみる。
すると予想以上の話が出てきた。
「実はあの子、シロンはね・・・・・・
記憶喪失なんです」
「・・・・・・え?」
沈黙だけが場を包む。
向こうでは子供達の笑い声が聞こえ、しかしこちらと世界を分けるように境界線が引かれているように思える。それほどの静けさ。
それを破るようにアンリさんは話を続ける。
「私がこの教会を開こうと思ったのはね?
茅場晶彦によりこの世界が遊びじゃなくなった日。私も始めはショックで何も考えられなかったけど、子供の泣き声を聞いたんです。その時慰めてあげたのですけど、同時に思いました。子供たちは親と離れてしまって、一人ぼっちになってしまった。そんな子達がこれから生きていけるか不安になって、誰かが助けてあげないといけないって。
だから私は同じ思いだったサーシャと一緒に安くて大きい家探して買い、子供達を集めて教会を開きました。まぁ、ただ十字架はあった方が子供達にはこの家だとわかりやすいと思ってつけただけなんですけど。
その後も他に子供達が迷ってないかといろいろな場所に歩き回って、そしてあの森の奥、様々な色の花が咲くあの場所で寝ているシロンを見つけました。
家に連れ帰って話しを聞こうとしたんですけど、シロンという名前以外覚えていなくて・・・。
一応頭に怪我がないか診たんですけど何もなく、健康そのものでした。もしかしたらナーヴギアの影響かもしれないと思ったのですけど、以前の記憶以外の、例えばジャガイモとかナイフ等の日常的なものは覚えているのでそれ以上はもうどうしようもなく・・・。
それ以来私になついてくれて、ここで預かることにしました」
「・・・・・・そう、だったんですか・・・・・・」
シロンを見ると、そんな雰囲気を感じさせず、逆に笑っていた。
出会った時は景色と見た目のインパクトで感じとれなかったが、今思えばどこかさびしげな表情を一瞬見た気がした。
「そこでシリカさんにお願いがあります。」
「は、はい。」
「あの子を・・・シロンをあなたに連れて行ってほしいのです。」
アンリさんは先ほどの表情から悲しさを呑み込み、真剣な表情で私にお願いしてきた。しかしどうして私なのか。それを尋ねてみた。
すると、
「あの子があの場所を許したのなら、それはあなたに何かを感じたのでしょう。信頼した人以外にはあの子、話さないのですよ?」
「そ、そうなんですか?」
えぇ、とアンリさんは笑う。し、信頼・・・・・・してくれてるんだ。
「それにあの子は他の子以上に私を頼りすぎているのです。
私を助けようと教会を手伝ってくれるのは嬉しいのですが、あの子の記憶を探すためにもさまざまな場所に行って、見て、感じて、体験して欲しいのです。
私にもしものことがあったらシロンは・・・・・・」
「そ、そんなこと言わないで下さい!!」
「えぇ、もちろん生きる意志は捨てません。しかしここは何があってもおかしくない世界になってしまいました。
教会はサーシャにまかせているので大丈夫です。
ですからもしものことがあれば、シリカさん・・・その時はお願いします」
そう言いアンリさんは頭を深く下げる。
しかしその時の私は何故かすぐに答えが出せず、ただ黙っていることしかできなかった。