あれから日が暮れるまで子供たちと遊び、今はもといた宿へと歩いていた。
アンリさんやサーシャさんにシロン、そして子供達も泊まっていくようにすすめてくれたが、さすがにそこまでさせてもらうわけにはいかない。
それに少し考えたいこともあったので、約束があると言って断った。
そして宿に着くまで、アンリさんに言われたことを思い出していた。
「シロンと一緒に・・・・・・か」
それはもちろんいいことなのかもしれない。
シロンと一緒にボアの群れに追われていた時も怖いという思いより、むしろ楽しいと思う気持ちの方が大きかった。
なにより彼女(・・)とはまた違った暖かさが心を包んでくれる。だから彼と一緒に・・・・・・うん、三人(・・)で行けたら楽しいだろうな。
「けど・・・・・・なんであの時答えられなかったんだろう?」
なんで・・・・・・いや、本当はわかっているのだ。
シロンと初めて会った時・・・・・・彼の目を血のようだと思ったあの時に、彼の瞳から白い髪とは真逆の・・・・・・黒い何か(・・)がいた。それは凍えるように冷たい闇のような、負を凝縮したような黒色で、それに恐怖を感じてしまった。
一瞬だったので私の勘違いなのかもしれない。しかし時々彼とが目合うと私が感じたあの黒い何か(・・)を思い出してしまう。
思わず寒気を感じて腕をさする。しかし身体の震えは治まらず、息が荒れる。
わかってる、シロンは怖くない、怖くないはずだ。
なのになんで・・・・・・
なんで・・・・・・
「シーリっっカちゃ~~~~~~~~んっ!」
むにゅっ
「っ!? きゃあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!??」
なっ、何!? 後ろから誰かにむっ、胸を揉まれてるぅっ!!!??
「ん~~やっぱり少し小さいかな。けどこのさわり心地はなかなか」
いや、私は知ってる。この声。こんなことするのは・・・・・・
「≪ミレイ≫ちゃんでしょっ!!!!」
「ピンポーン! だ~い正解! 正解した人には大きくなるようもっともんであげる!」
「あ、ちょっ、んっ、待ってって、あん」
≪ミレイ≫ちゃんはやめようとせず、さらに激しく揉んでくるので思わず艶っぽい声が出てしまう。
それからしばらく揉まれ続けていた。
≪ミレイ≫、本名“金本 美鈴(かなもと みすず)”は私と同じ学校の同級生で、SAOへの参加を誘ってきたのは彼女だ。
彼女も私と同じで景色魅了された一人で、それに加え彼女はコミュニケーションの輪を広げたいと、このSAOに参加したと本人は言っていた。
人懐っこい性格の彼女は人付き合いが得意で、このSAOでもすぐに友達を作れていた。
それにクラスのムードメーカーで、とても頼りになる存在だ。SAOがデスゲームとなったあの日でも、自分よりもまず私を心配して励ましてくれたのだ。
そんな彼女は私の憧れであり、全幅の信頼を置いている。
・・・・・・ただ、悪乗りすることが多く、いたずらを仕掛けてくるのが玉に瑕だ。
「ほれほれほれ~」
「あっ、ん、ちょっやめ、あん、だめえぇぇぇぇぇ!!??」
・・・・・・こんなふうに
満足して放してくれた時にはミレイちゃんの顔がつやつやと輝いていた。逆に私は息を荒くしてへたりこんでいた。
「もう、どこいってたのよ。こっちは迷ったのかと思ってあの森の中必死に探し回ってたのに。
これは心配させたお・し・お・き」
少し火照った顔を手で扇いで息を整えていた私に、ミレイちゃんは指を振りながら言ってくる。
「はぁ。もう、どこがおしおきなの? ただ自分が満足したいだけじゃないのー」
「ふっ、まぁいいじゃないの。あたしが揉んだおかげでおかげで少しは大きくなってるはずよ!」
「そんな急に大きくなるわけないじゃん!!」
「ほぅ、自分の胸はもう大きくならないって自覚してるみたいね。ついにあきらめた?」
「お、大きくなるもん!! 牛乳のおかげで将来は安泰だもん!!」
「けどその牛乳を今まで飲んでいてそれだけじゃあ、ねぇ? それに比べて牛乳をあまり飲んでないあたしでもほら、こんだけあるしさ」
そういって自信満々に胸を張るミレイちゃん。その動きに合わせ12歳にしては大きいメロンがぽよんと音が鳴るようにはねる。
くぅっ!? なんてプレッシャーなの!? あんなものを苦労せずに手に入れるなんて!? てか大きすぎでしょっ!!
わ、私のなんて・・・・・・
「・・・・・・」
ふにょ、ふにょ
「ん? どうしたのさ、急に黙って?」
ぽよんっ、ぽよんっ
・・・・・・神様って、理不尽だよね
「ん? (キュピーンッ)っ!ははぁん、なるほどやっぱり大きくしたいのか。だったらやっぱりあたしが揉んであげるしかないようね。
ほらよく言うじゃない、揉めば胸は大きくなるって。ま、あたしに任せなよ! 優しくしてあげるから、はぁ、はぁ」
そう言ってミレイちゃんは怪しい目をして手をワキワキしながら一歩一歩近づいてくる。さすがにこれ以上されては身が持たないので、引きつった口の筋肉を必死に動かして別の話題に逃げる。
「そ、そういえばミレイちゃんはあの後どうしてたの?」
「はぁ、はぁ、ん? あぁ、シリカと別れた後のことね。あの後は森全体をマッピングするためにいろいろ回ってたんだよ。
と言っても特に目立った場所はなかったからレベル上げやアイテム探ししてたんだけどね。
まぁ、ちょっと見たことない≪ヘビーボア≫ってのに出会って逃げてたんだけど、そのあとマッピング完了したから、シリカと待ち合わせした所に戻ってみるとあんたいないじゃんっ!?もしかしたらと思って森の中走り回って全部の場所探したけどいないし、≪はじまりの街≫で信号見つけたから急いで帰ったの!!
けどシリカはあたしのこと気にしてなさそうにしてたんでちょっとムカッてきてね。悪戯しかけてやろうと思ったの」
「そ、そうなんだ・・・・・・」
そこでふと気になるところがあった。
ミレイちゃんはあの森のマッピングが完了したと言った。しかし特に目立った場所も無かったし、それに全部の場所を走り回ったのに私を見つけられなかったとも言っていた。
けど私はシロンと一緒にあの秘密の場所にいたのだ。マッピングが完了しているのにあの場所には来なかった。あの場所が目立たないなんてありえない。
もしかして――――
(あの場所って、マップに表示されない隠しエリアってこと?)
けど、隠しエリアで誰か一人でも入ればその人のマップには記録されるはず。なのに私のマップには記録されていなかった。
(バグで発生した場所? それともまだ行ったことがない上の階と繋がった場所? けどあんなきれいな場所がそんなバグとかでできるわけがない。それにあそこだけ他の場所とは違ってかなり作りこまれてるみたい。)
「シリカ? どうしたの? さっきから変だよ?
あ、そういえばシリカ結局どこ行ってたの?」
また深く考えているとミレイちゃんは心配して問いかけてくる。
・・・・・・うん、そうだね。ミレイちゃんに聞いてみようかな。ミレイちゃんなら人付き合いも多いから答えてくれそうだし。
私はあの場所のことだけを隠して話した。あの後自分もボアの群れに襲われたこと、シロンに出会って助けてもらったこと、教会でご飯をごちそうしてもらったこと、アンリさんからシロンを連れて行って欲しいと話されたこと、そしてそれに答えることができず、シロンに対して暖かさと共に恐怖を感じていること。
話終えた私はミレイちゃんに尋ねてみた。
「私、どうすればいいのかな?」
「ふーん、なるほどね。・・・・・・ねぇ、シリカ」
ミレイちゃんは先ほどまでの表情から一転、とても真剣な顔で聞いてきた。いつもとは違うその雰囲気は時たま見せる本気の顔。それを見るといつも普段とのギャップで驚いてしまう。
「シリカはどう思うの?」
「えっと、だから何て言うのかな。一緒にいると心がほっとして暖いの。けど、あの瞳を見ると何か怖い時があって・・・・・・」
「じゃあ、どっちの気持ちの方が大きいの?」
どっちって言われると・・・・・・
あの瞳から感じた黒い何か(・・)は私の周りを全て闇に包んでしまいそうで確かに怖い。
けど、初めて出会った時に見た寝顔とか、子供達と遊んでる時の笑顔とかを思い出すと・・・・・・
「うーんと、えっと、暖かい・・・・・・・・かな?」
そう言うとミレイちゃんは顔を崩してガクッと頭を落とした。
? どうしたんだろ?
そうして顔を上げた時にはいつもの茶目っ気のあるミレイちゃんに戻っていた。
「(この子もしかして気付いてない?)そう。なら答えは決まってるじゃない。
その大きい方の気持ち、暖かいと思う気持ちを大事にしたら? 素直に思った気持ちがあなたの思いなんだから、今まで通りでいいんじゃない?
別に両方の気持ちを持ちながら考えればいいと思うけど、あんたそういう難しいこと考えられないでしょ?」
「う゛っ!? そ、それだとまるで私が単純みたいじゃないっ!?」
「あら違うの? だったら次に『違いますぅっ!!』って言わないよね?」
「違いますぅっ!! あっ・・・・・・!!?」
「ぷっ、ほら言った」
そう言ってミレイちゃんはお腹を抱えて笑いだす。うぅ、私そんなに単純なのかな? ってそんなに笑わなくてもいいじゃないっ!?
「(まぁ、シリカは単純って言うより純粋なんだけどね)で、悩みは晴れた?」
「あっ!! ・・・・・・うん、ありがとうミレイちゃん」
ミレイちゃんはすごいな。どんな人にも分け隔てなく接することができるし、どんな悩みごとも解決して最後は笑顔にしてくれる。
そんなミレイちゃんはやっぱり私の親友であり、憧れだ。思わず目が潤んでしまう。
「どういたしまして。やっぱりいつものシリカが一番だから」
「ミレイちゃん・・・・・・」
「イジリがいが!」
そう言って親指を立ててグッと突き出してくる。
「って、イジるのっ!!? はぁ、もう・・・・・・」
やっぱりミレイちゃんはミレイちゃんだった。こいうところは見習いたくない・・・・・・
「さ、冗談はここまでにして宿に戻ろ!」
「冗談・・・・・・なの? はぁ、そうだね。もう戻ろう」
今日はいろいろ大変な一日だったけど、ミレイちゃんとのやりとりで一番疲れた気がする。
けど、迷いは晴れた。怖い思いはまだ心の隅に残ってるけど、やっぱり安心できる気持ちの方が大きい。
また明日あの教会に行ってみよう。考えを決めるのはまだ先でもいいのだから。
そうして笑いながら前を進むミレイちゃんを追うように宿へ足を進めるのだった。
だが私はまだ知らない
明日その決断を迫られることを
そして別れと始まりを告げる歯車が動き出していることを