咲夜の従者としての宿命、運命。
従者としてどう生きるか。そういうこと。

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生涯、メイド長

この世界の幻想郷。

一言で表すなら、バイオレンス。

弾幕だとか、里の掟だとか、そんな物は存在しない。

里は全て賢者の慈悲、四重の博麗大結界により完全管理されている。

でなければ、妖怪は里であろうと、限りなく襲い続ける。

人間はその力にひれ伏すのみ…。

巫女はどうだろうか、ひれ伏している?

否、超人的な力を得て、妖怪の撲殺を続けている。

博麗霊夢には絶対的な主従権限があり、これを静止させることが出来るのは、賢者、八雲紫のみ。

この異様な竦みにより、幻想郷の均衡は釣り合っている。

 

これは私の人生、全てを主に捧げた物語。

私、十六夜咲夜は最後まで…決して変わらない。

成長という事ではない、人として、仕える者への敬意が、忠誠心が変わらないという事。

最後まで、本気で主を愛していた。

平穏な生活と言うのは…絶対に亀裂が生まれ、または亀裂が隠されている、もしお嬢様がそうならば私はどうするか……。

変わらない…お嬢様をいつまでも愛す。

……そんなメイド長。

十六夜咲夜の物語、よ。

 

 

紅魔館にて、数日間の出来事だった。

「お嬢様ーー」

最近、お嬢様はよく眠りになられる。

「起きて下さい」

だが、夜更かしをしている訳でもない。

「う…うぅぅん…ふあぁ~」

起床後、身支度を済まされ、早速お一人で傘を持ち、自ら御出掛けになる。

「お嬢様…もう一度、お聞きして宜しいでしょうか…何故、私がありながら、太陽により、健康状態に支障が出うる可能性のある、一人で…御出掛けなど…」

返答はいつも同じ。

理由を聞いても、「大丈夫」「気にしないで」としか言わない。

でも、そんなに言われたら気になるのが私の人間性、例え…主でも。

今日もお嬢様は御出掛けになられるそうで。

今日は独り言のつもりでお嬢様へ話し掛けてみる事にした。

「何故…隠し事…でも………」

そうブツブツ言う私の小言を遮るように…

「……咲夜!」

「はっはいッ、お嬢様!」

「しっかりしなさい、メイド長でしょ!」

「は…はい!」

「良いのよ、私の心配はしなくて」

「……体調面、精神面共に…"大丈夫"ですか?」

大丈夫か、そう聞かれたら私だって…「大丈夫」と言ってしまうのに…分かっていたのに…言ってしまった…

「……えぇ、大丈夫だから。それより明日は満月よ、小さなお茶会も開きたいし、準備を怠らないように。」

「そう…ですか、行ってらっしゃいませ。」

 

これからの行動…。

魔が差しただけ。と、言い訳させて。

 

 

「こ…れは…」

従者でありながら…お嬢様の従者でありながら!

私はお嬢様を裏切り…疑い…。

尾行した。時を止め動き…隠れ時を動かし。

それ程…覗いてはいけない禁忌、お嬢様の気遣い、"後悔"…その言葉が今の感情。

ここは、博麗神社!

妖怪をも越える、超力の持ち主、博麗霊夢。

お嬢様は…この霊夢に…。

 

土下座をしていた!

霊夢がブツブツ喋ってる…お嬢様は…その言葉に反応して…頭を地面に…地面…に……。

≪カチッ≫

『……止まれ』

私だけの世界、時を操る能力。

『…お嬢様………何故…』

唖然とした感情、そしてグツグツと沸いてくる怒りの感情。

『お前は…お嬢様にッ!土下座をさせた!』

お前を殺す理由、巫女であろうと…関係ないッ!

『このナイフで、ぶっ殺して差し上げます』

ザシュッ

お嬢様を土下座させた…それだけで極刑よッ!

『博麗霊夢ッ!』

無論、脳天ッ!

 

 

そのナイフが…脳天へ届く瞬間、彼女は動き出した。

『なっ…』

『レミリア・スカーレットの従者、でしょ。時を止めて…尾行して…ったく』

『博麗…霊…夢』

言葉が上手く出ない…、恐怖心…なの?

『私の能力はね…とうに限界を越え、重力、光、時から脱出する事だって可能よ、長年の修行でね。』

ゆっくりと…お祓い棒が私へ近付いてくる。

ズプッ

胴体へ…ゆっくりと突き刺さっていき…。

『グッ………ガァァ……』

『これは警告、二度はないから、勿論…手加減はしているわよ、貴方、人間だから。』

その立ち振舞いは、カエルを睨んだ蛇のように…鋭く…恐怖を感じた。

私は蛇に睨まれたカエルだった。

お祓い棒が自身へ向かって来ていても、刺さっても、全く動けず、時が止まっているとはいえ、お嬢様の目の前で、かつて無い程の醜態を見せてしまった。

『クッ………』

私は後退りをし、帰還しようとした。が。

『貴方にはそれぐらいの脳があって良かったわ。でも吸血鬼は…精々頭を擦る脳しか無いみたいだけど』

無意識なのかしら、私は霊夢へナイフを向け、飛び掛かった。

『お嬢様を侮辱するな、下劣な人間がッッ!』

『ぶっ飛べ!』

ダァァァァアアアアン

傷口をぶっ叩かれた感触を最後に私の意識は途絶えた。

 

 

…刺し傷、そして、腹部へ重症を負い、気付いたら紅魔館周辺の森へ帰還していた。

全身が傷だらけで、むち打ちにもなっていた。ひょっとしたら、博麗神社から紅魔館周辺まで叩き飛ばされたのかも知れない。

まず、出迎えたのは門番、紅美鈴だった。

お嬢様に私、二人が何も告げず出て行った影響で、紅魔館内で色々と問題が起きたらしい、妖精メイドは混乱を招き合い、統率は崩れ、館内はぐちゃぐちゃ。お嬢様の妹様、フラン(フランドール・スカーレット)様も、統率の乱れに巻き込まれ、混乱状態。

その後、全員が落ち着いたものの、それぞれが疲労状態、負の連鎖と言うものかしらね…。

「咲夜さん、その傷は…」

「霊夢にやられ…て、時を止めてても…お構い無しに動いてくるのよ…そして…お嬢様は…。お嬢様はァッ!!」

「!…落ち着いて下さい!……私がパチュリー様の元へ運びますから、安静に。」

 

美鈴に連れられ、パチュリー(・ノーレッジ)様の居る大図書館へ連れられた。

「咲夜!?」

パチュリー様も…多少なりこの混乱に呑まれていたらしい。服が荒れて…中々に疲れ気味のようね。

内臓こそ無事なものの、出血もあり、危険な状態らしい。

パチュリー様にこの事を話せる筈もなく…無論、美鈴にも…。

お嬢様がその先、どうなったかは…まだ知らない。

霊夢の目が効いている、それだけで十分なほど抑止力になっている故に何処にも行けない…本当に悔しいわ。

 

お嬢様がご帰還為されたのは、朝日が登る直前、五時程だった。

「お嬢様…」

私はもう…なんて声を掛ければ善いのか。

きっと…私を置いて外出した時、いつもあのような事を為されていたのだろう。

そして、お嬢様は言った。

「咲夜…明日、博麗神社に住む、博麗霊夢。あの霊夢と…抗争、をする事が決まった」

お嬢様は…涙を堪え、従者の前で、主としての威厳を保つように、振る舞っていた。

「お嬢様ァ……」

私はお嬢様へ抱き付いた。

溢れ出る、その感情、それは絶対に勝てないという絶望、これまで噂にしか聞かないが、永遠亭、命蓮寺、旧地獄、地底と異変を起こした数々の箇所を破壊している。

今回…ひょっとしたら私の反乱のせいで…。

「咲夜、決して貴方のせいじゃない…」

「!…お嬢様…それはどういう…」

「尾行には気付いてたわよそういう運命だから、でも、話していなかった私も私だし。」

「お嬢様…なら"あの"異変の落とし前は!」

「私の土下座で助かるなら…安い物よ」

紅魔異変…他の異変を起こした主犯格が全滅させられている。でもッ…私達には何も無かった…。その理由!それは…!お嬢様の!お嬢様のッ!

そしてお嬢様は口を開いた。

「…抗争の終焉、即ち、紅魔の敗北…総員の死亡、よ。」

「そ…んな」

「美鈴達には…私が話すから。」

そう言い、お嬢様は去っていく。

「お嬢様!最後に!」

振り替えるお嬢様へ、私は問いかける。

「勝つ見込みは!有るのでしょうか!」

「無い…そう思った時、敗北は確定する。運命を操る力、舐めないで?」

その言葉に少々気が抜けた気がした。

「は…はは…はははッ…そうですよね!絶対に勝ちますもんね!」

その嗤いは…自身の先入観を嘲笑ったのか、お嬢様の…冗談に………。どちらにせよ…その後、鏡で見た私の顔は、絶望を前にした"嗤うしかない"という状況を体現した顔だった。

 

 

霊夢が来たのは…その日の夜。

吸血鬼のお嬢様へ、敵の気遣いなのか、吸血鬼が不利にならない、深夜だった。

ドォォォンン!!!

「来たようね…。咲夜、貴方はここに居て、私達でカタを付けるから。」

「え……お嬢様…?どういう事ですか!私を置いて…その他の勢力で!戦いへ向かうとは!」

「咲夜、貴方は怪我をしているの、…………分かる?」

裏切られた…気分。

もしかして…足手まとい…だったり…。

だったら……私は…尽くして…きて…。

お嬢…様の為に…死ねない…?

「足手…まとい…なの?」

「そんな事ありません!咲夜さん!」

「余計な事を言うんじゃあないわよ!美鈴!」

「………はい…。」

「行くわよ!」

「待…!待って下さい!私を!連れていって下さい!私は従者として…ここで…尽くしたいのです!…もし…連れて行かないのなら!…今、ここで!死にます!!!」

「五月蝿い!」

お嬢様に、腹部を思いっきり叩かれ、私は気絶した。

勘違いかもしれないけど…意識が飛ぶ寸前、お嬢様が私に授けた……言葉。

「あ し てる、咲 。」

聞き……取れない………聞き取れません…お嬢様…。

あいしてる…咲夜………絶対に聞こえません!…私には……決して…………私は従者…です…。

主人とは…一歩手前に居なければ……成らない立場……なん…で………す。

「咲……、家族…然……よ。あいしてる。」

「…。」

その言葉を最後に、お嬢様は戦場へと向かって行った。

美鈴を連れ…パチュリーを連れ。妹様を連れて。

 

 

 

ザァァァァアアアアアア

雨の音で、私は目を覚ました。

ゆっくりと、視界が鮮明に成っていく。

「ぅ……うう……」

うつ伏せになっていた私は、頭を起こす。

一番最初に目に着いた物は……。

お嬢様だった。

私の目の前で…膝立ちをし、笑顔で…。

「あ……あぁぁ………」

笑顔…で…………。

「ああああ…………」

泣いて………。

「お嬢様……お嬢様!」

四肢が…壊れていて……。

「咲夜…」

「お嬢様ああああああ!」

私が、体を起こそうとした瞬間。

お嬢様は私に噛みついた。そして…。口を開いた。

「"全部壊して。全部…全部。"」

その言葉を最後に…お嬢様は永い…永い眠りに付かれた。

「あ……あぁ…………お嬢様……お嬢様ァァァアアアアアアアアア!!!」

レミリアお嬢様の言葉…全部壊す……。

これは、運命…なの?

「………妹様は!美鈴は!………パチュリー様は!」

人影らしき物は見つからない…。

 

全…っ………た。く。

 

 

何…よ。…し…視界が…。

 

「う……ウグッ………グッ……………がッッ……。」

首筋か…ら、血が?……お嬢様…の……血?

いえっ…違う…私の血と…お嬢様の血…。

混血…?

お嬢様の吸血鬼の血と…私の混血…。

お嬢様は…吸血鬼で、それに噛まれれば……。

吸血鬼になる…?

「私は吸血鬼になった…?」

全部壊して…って……。

「お嬢様の…最後の"意思"なの?」

それとも運命…?

あれ……何だか…体が軽いわね…。

羽根のように…と言うか。

あぁ………人間としての罪…だとか、人間じゃあ無くなって…何だが…心地良い。

「お嬢様、行って参ります。」

≪カチッ≫

止まった世界の中で………カタを……そして敵をッ!……討つ!

 

『ぶっ殺す』

『は?……あれだけ惨敗しておいて?あと…だから、その言葉は弱者の言葉。貴方や…貴方の かわいーいおじょーさまー が使うにはお似合いかもね。』

もう耳を傾けない。絶対に。

お嬢様への信念が私の中に有るから。

弱者の言葉?いえっ…それは違う…

『だから、もうぶっ殺しましたわよ。』

『は

    ?』

ストン

≪カチン≫

「頭部の切り落とし、綺麗な程落ちたでしょう?止まった時の中の時を止めたのよ。次元を越える事に近いわね。運命は、能力、人生、全てをぐちゃぐちゃにだって出来るの。」

「………。。。。」

「もう屍かしら?それは結構。」

博麗霊夢はこの幻想郷にとって貴重な存在らしい。

彼女が死ねば、幻想郷が壊れるとか、壊れないとか。

そう思い、私は博麗神社の縁側へ腰を掛けた。

………そういえば…満月ね。

[咲夜]

「……!、お嬢様!?」

[貴方のこと…あいしてるから。]

もしかしたら…幻聴かもしれない………でも、もし…私の中でお嬢様が生きていたら…その血を貰って…生きていたら…。嬉しい。

「……私もあいしております。」

 

 

 

「そっ、良かった」

「……はっ!」

「貴方の血を飲ませて貰って暫くの間、猶予が出来たの。」

お嬢様は羽で飛ばれていた。

四肢は以前、使い物にならないようだ。

「だとしても!お嬢様!どうしてここが!」

「運命…と言いたい所だけど……もうそんな力も無いし…貴方の主で…家族だからかしら?」

その言葉を聞いて…。

私は心の底から嬉しかった。

「お嬢様…おすわりになられて下さい。」

私の隣、ホコリ(霊夢)を払い、座るよう促す。

でも…お嬢様は私の膝の上を選んだ。

「ここが落ち着くの、選ばせて。」

「そう…ですか。」

「幻想郷はもうすぐ壊れるけど、どうする?」

やはり……、なのね。

「どうする…と言いますと?」

「最後まで、従者で居る?それとも、もっと…家族っぽくなる?」

「か…家族…ですか…。」

勿論従者としての責務を完遂したい、そんな気持ちもあるが…もし家族になれば…。

「ま、今はそんな事良いわね。それよりー、貴方やるじゃない、霊夢を倒すなんて」

「お褒めに預かり光栄です。」

「………伝えないといけないことがあるの……咲夜の吸血鬼化なんだけど…その……。」

「分かります…私はもう直ぐ死ぬのでしょう?」

「………そう…。」

「お嬢様のために尽くしたい…生涯、メイド長として、お嬢様に尽くしたい…その願いを叶えられました。それだけで充分でございます。」

「ありがとう……ねぇ…私がこんなこと言うのも変だけど…来世でも、美鈴とパチュリーとフランと咲夜と、一緒に居たいと思うの」

「………そうですか。」

「だって、家族だし…大好きだし……。」

お嬢様の頬に一筋の光が見える…。

「お嬢様…。」

私はお嬢様を抱きしめた。

そして…。

「うっ………グスッ……」

私も共に、涙を流した。

「もう…絶対、ぜっっったいに!来世でも家族で居るんだから!」

「……はい。」

「美鈴とも、パチュリーとも、咲夜とも!」

「………は"い"。」

「大好きだから…ね。」

お嬢様は…私の血により得た、最後の一時で…

一…時……で…………愛を伝え………て。

私も………もう…眠………い……わ。

 

生涯、メイド長 ー完ー

 




ハーメルン初投稿です。
pixivで活動してたんですが近々こちらへ移籍を検討中といった所です。
今回はお試しでpixivの中で最新の小説を。

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