ミモザ   作:月島柊

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〈七華編〉後編

 

 遠足当日がやってきた。

俺は星崎と班を2人で組み、アトラクションを周る。解散時刻は15時だが、解散場所がパーク内のため、解散後はパーク内で遊んでいられる。おそらく帰る人はごく僅かだろう。

俺も星崎とアトラクションを乗り回し、気付けば12時。昼になっていた。星崎と俺は昼食を買いに来ていた。

 

「月島くん、何にする?」

「俺はカレーにしようかな。星崎さんは?」

「じゃあ……私もカレーにしようっと」

 

俺達は個別でカレーを買いに並ぶ。待っている間にも学年の人達を何回か見かけた。その中には手をつないだ荒田と七華もいた。見るたびに俺は七華に視線を無意識のうちに送っていた。七華もこちらを一瞬見るが、目が合ったのに気づくと俺は目を逸らす。気まずくなるからだ。

俺と星崎はカレーを受け取ると、空いている席を探した。ちょうど2人分空いている場所があり、俺と星崎はそこの席に座った。

 

「月島くん、ちょうどいい機会だから聞いちゃっていい?」

 

席に座ってすぐ、星崎が珍しくそんな重めな話を振り始めた。

 

「いいけど、どうした?」

 

俺が聞き返すと、星崎は身を少し乗り出して言った。

 

「水野さんとは、いいの?」

 

星崎は真剣な眼差しで俺を見る。いつもだったらはぐらかしていたが、そうはいかないらしい。

 

「いいって、どういう意味で?」

 

俺は分かっていない風を貫こうと、口調を意識した上で言った。

 

「分かってるでしょ。水野さんと月島くん、仲良かったじゃん。なんで最近話してないんだろうって」

 

星崎は引き下がろうとしない。むしろ全て分かっているかのようで、俺のほうが負けている。

 

「……別に荒田から盗ろうとしているわけじゃないから」

「それが本気?」

 

星崎はまだ俺の目をじっと見つめてくる。

 

「本気だよ。七華だってそのほうが──」

「月島くん、水野さんのこと好きでしょ」

 

星崎に言われ、俺は身体全体が固まる。少し鳥肌が立つ。

 

「な、なんで?」

「だって、水野だってそのほうが、なんて気にしてるとしか思えないもん」

 

言われてみれば、確かにそんな感情が無いとは言い切れないのかもしれない。

 

「気づいてなかったの?」

「多分……でも、荒田と七華は付き合ってるだろうし」

 

俺がそう言うと、七華は首を横に振る。

 

「私は違うと思う。水野さん、荒田くんといるときに笑顔ないもん」

 

それでも、荒田と七華が付き合っているのは既知の事実であろう。ここまで噂が広がり、クラス公認かのようになっていたら、今さら「付き合ってません」など信じ難い。

 

「付き合ってるだろ。七華は元から表情に出さないよ」

 

俺がそう言うと、七華は身を引いた。これで質問攻めは終わりらしい。

だが、星崎の言っていたことも一理ある。俺も七華のことを諦めきれていないのだ。

俺は昔小さい頃、七華と遊んでいたときのことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七華は当時から元気いっぱいの女の子ではなかった。遊んでいてもそこまではしゃぐような性格ではなく、冷静な子だった。

俺も七華とはよく遊んでいた。家も隣で、小学校も一緒。夕方に遊んだりして、それがほぼ毎日だった。

ある日、俺と七華は少し離れた公園の滑り台で遊んでいた。その時のことは鮮明に覚えている。俺が小学1年生の頃で、まだ入学してから半年も経っていない頃だった。そんな中で、教室内で好きな人の話が少しだけ持ち上がったことがあった。

ただそれもそこまで大規模だったわけではない。ただ「あの子が好き」「俺も好き」のような、恋愛感情でないものだ。当時の俺も恋愛はよくわからなかった。将来結婚することは親から知っていたが、それまでの過程は知らなかった。

こんなことがあり、俺と七華は滑り台の下にあったトンネルの場所で話した。

 

「僕、七華ちゃんが好き!」

「私も。愁夜のこと好き」

 

おそらくその日にあったことの延長線みたいなノリなところもあったのだろう。よく幼馴染み同士で言ってしまうことだ。

 

「私、将来愁夜と結婚したい」

「いいよ!僕も七華ちゃんと結婚する!」

 

その時は一体どんな感情だったのだろう。少なくとも、今とは全く違う感情だろう。七華が当時どんな感情でそう言ったのかも、そして今どんな感情なのかも、俺は知らない。知るわけがない。

そして今の俺。俺はきっと、七華のことを──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 解散時刻が近くなり、俺達は最後のアトラクションをあとにした。解散場所に向かう途中、アーチをくぐり、ショップの横を通っていく。その横にある、トイレへ向かうやや細い道に、七華が座り込んでいるのが一瞬であるが見えた。俺と星崎はそのまま素通りし、解散場所へ向かう。

 

「月島と星崎、揃いました」

 

俺は先生に集合したことを報告する。

 

「はい、了解。そしたらあとは自由でいいよ」

 

星崎は先生から聞こえないところまで俺を引っ張る。引っ張られて俺も星崎についていく。

 

「月島くん、諦めたくないんだったら今だよ」

 

星崎が俺に言う。星崎もおそらく気づいていたのだろう。さっき集合する前、細い道のところで七華が座り込んでいるのが。

 

「でも、あいつは……」

 

俺が歯切れ悪くそう言うと、星崎は俺の背中を叩いた。

 

「好きなんでしょ。水野さんのこと。本当に荒田くんに取られたままでいいの?」

 

星崎の言葉は少し強めだった。

どこかで、七華が荒田に取られているのが気に食わない自分がいた。荒田から取る、ということはしないと言ったが、俺はきっと七華は好きなんだ。いや、俺は好きなんだ。一度この感情をリセットしに行く。ただそれだけ。そう、それだけ──

しかし、俺の中で七華が完全に荒田のものになった体の想像をしてしまった。七華は完全に俺から離れ、もう話すこともなくなり、俺はずっと幼馴染みの七華を遠くから見守ることしかできなくなる。それも、あんな性格の荒田に。

 

「くそっ!」

 

俺は咄嗟に走り出した。さっき七華がいたところまで、荒田がそれに気づくより先に着かなければならない。俺はただそれだけ考えてさっきの場所まで走った。

さっきの細い道で、まだ七華はうずくまっていた。俺はそれを見つけるとすぐに七華の名前を呼んだ。

 

「七華!」

 

俺が呼ぶと、七華はすぐ俺に気づいた。そのまま俺は七華を抱きしめた。今まで七華を抱きしめたことはあっただろうか。まぁ、今はそんなことどうでもいい。今はとにかく、七華を抱きしめていたい。

 

「愁夜……なんで……」

 

七華は俺の胸のあたりから話す。今にも泣き出してしまいそうな声だ。

 

「子供の頃の約束を果たしに来た。結婚したい、っていう」

 

俺はまた力を入れる。もう一生渡したくない。

 

「お前が荒田と付き合ってるって言っても、七華は俺のものだ。迷惑なんか知るもんか」

 

すると、七華は俺のことをぎゅっと抱きしめ返してくる。そして、七華は泣きそうになりながらも言う。

 

「付き合ってない……無理やり付き合わされてるだけ……あんな人嫌い……っ」

 

七華は言い終わるとついに泣き出した。俺は今まで自分が抱いていた勘違いに今更気付いた。そう、誰も「付き合ってるらしい」と言っていただけで「付き合ってる」とは言っていなかった。七華はまだ、手の届くところにいた。

 

「七華……もういいよ。俺と一緒にいよう、ずっと」

 

七華は泣きながら強く頷く。

すると、周りにいた人々から拍手が沸き上がった。いつもならば恥ずかしいところだが、今はそんなのどうでもいい。俺と七華は抱き合ったままだった。

 

「何をしてる!」

 

七華の身体がビクッと震えた。俺が声の方向を見ると、そこにいたのは荒田だった。汗だくで、息を切らして立っている。

 

「なんだ、荒田」

「なんだじゃない!なぜ月島が七華ちゃんを!」

 

事情を知った以上、俺が七華を荒田に「はいどうぞ」とするわけがない。俺は荒田に対して強い口調で言い放った。

 

「無理矢理恋人にさせる奴に七華をあげるわけがないだろ。もう一生関わるな」

 

俺がそう言うと、周りにいた観客の1人が声を上げた。

 

「だって、あの抱き合ってる2人相性いいもんね」

「そうそう。だって見るからにあの男乱暴すぎるじゃん」

 

その声と俺からの言葉で怯んだ荒田は、その場から逃げていってしまった。

 

「七華、立てる?」

 

七華は頷く。俺はゆっくり七華を抱えながら立ち上がる。七華もゆっくり立ち上がって、完全に立つことができると七華は俺と手を繋いだ。

 

「付き合ってるんでしょ。なら、手くらい繋いでよ……」

 

七華は恥ずかしがっているのか、まだ泣きそうなのか分からないが、俯きながら言った。

 

「いいよ。恋人繋ぎがいい?」

 

そう言うと、七華は俺の顔を勢いよく見上げる。

 

「なっ!も、もう!バカ!」

 

そう言った七華の顔はほんのり赤かった。結局、恥ずかしがっているのか泣いていたからなのかは分からなかったが、この際それはどっちでもいい。まず俺がすべきなのは七華を楽しませることだ。

 

「七華、行くよ」

 

七華と恋人繋ぎをして、俺達はまたアトラクションに向かった。

 

 

 

 これで驚いたのは、七華はアトラクションが意外と苦手だということ。ジェットコースターに乗っているときも安全バーなどの掴まるところではなく、ずっと俺の腕か俺自身にしがみついていた。

そしてそれは今も。ジェットコースターの順番が回ってきて、ついに次だというところで、七華は俺の腕にしがみついた。

 

「七華?それだと乗りづらいんだけど」

「だって怖いし!生きてる心地がしないの!」

 

七華は必死で弁明する。いや弁明にもなっていないが。でも、それもかわいい。

 

「じゃあ、乗ってから抱きついてくれる?」

「絶対だからね!すぐ掴むから!」

 

七華は俺の腕から離れる。そうか、彼女ってこういうことなんだ。俺は今まで何を考えていたんだろうか。何を彼女の基準にしていたんだろうか。

アトラクションに乗るとすかさず七華は俺の腕を掴む。本当にダメなんだなぁ、と思いつつ、かわいいとも思っていた。

 

「七華、かわいい」

「んなっ!ふ、不意打ちしないでよ!」

 

ちょっとツンデレっぽいところもあって、好きになる。もう好きになってるんだけどさ。

アトラクションが終わると、七華は疲れ果てた様子でアトラクションを降りる。自然に恋人繋ぎをしているが、七華も気付いていないらしい。

 

「もう暗くなっちゃったね」

 

七華が空を見て言った。いくら5月でも20時になったら暗くなる。パーク内の装飾も夜を照らしてくる。

 

「そろそろ帰ろうか?親だって心配するだろうし」

 

俺がそう言うと、七華は「あっ」と声を漏らした。何かを思い出したようで、七華は俺に言う。

 

「今日、私親いない」

「俺も今日は姉貴しかいないな……」

「……」

 

いきなり雰囲気が変わってきた。さっきまで楽しんでいたが、今は急に恋人らしくなり、俺も意識し始めてしまった。

 

「ねぇ、ちょっと」

 

七華は俺の肩に手を置き、俺の耳元まで顔を近づける。そして、七華は囁き声で俺に言う。

 

「今日、うち来ない?」

 

俺はその言葉に込められた意味を一瞬にして察した。

 

「……行こう」

 




こんにちは、柊です。
今回で七華が主役の回は終了ですが、次回からはあの相方、星崎が主役になります。頑張ってますので、どうぞ楽しみにしてお待ち下さい。
さて、近況報告でも。最近は7月なのに暑いですね。まだ8月になっていないというのに、こんなに暑いなんて。8月はどうなってしまうんでしょう。
みなさん夏といえば何を思い浮かぶんでしょう。スイカだったり、プールだったり、あ、家でゴロゴロする人もいますよね。私はゴロゴロする人です。
プールに行っても、たしかにビキニの女子高生とかいるかも知れないですけど、私自身泳げないので楽しくも何ともないです。面目ない。
海もいいですけどね。毎回泳いでいる人を見て羨ましがってます。
それでは、また次回お会いしましょう。それでは!
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