異世界から帰還したTS錬金術師さん   作:TSしか書かないマン

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第1話 墓の前で

「あー、もうそんな季節かー」

 

『本当はお母さんも一緒に行きたかったんだけど……』

 

「ごめんね、ちょっと忙しくって」

 

『いける時に行きなさいよ』

 

「ごめん、来年は一緒に行こ」

 

 1DKの手狭な一人暮らし用の部屋。

 

 そんな部屋でベッドに腰かけながら、黒髪の女性はどこか物悲し気に遠くを見ながらスマホを耳にあてていた。

 

「じゃあ、そろそろ切るね」

 

 話が一通り終わり、その女性は通話を切った。

 

「そろそろ行かなきゃな」

 

 ぽふり、とベッドに上半身を投げ出した。

 

 

▽▲▽▲▽

 

 若干太陽が沈み、空が赤くなってきたころ。

 

 彼女は半袖にショートズボンというラフな夏服で、田舎の街中を歩いていた。

 

 傍を見ると日中の猛暑により干上がったU字溝と、その先には家庭菜園が広がっていた。

 

 典型的な田舎の風景である。

 

「なつかし、ここに帰ってくるのも何年振りだっけ」

 

 かつて彼女が暮らしていた場所に、懐かしさを感じつつ彼女は足取りを緩めない。

 

 それから暫く歩いていると、寺が見えてくる。

 

 寺の敷地の中に入ると、そこにはずらりと墓が並んでいた。

 

「えーっと、どれだどれだ……あ、あった」

 

 一つの墓を見つけると、彼女はそこへ行き、膝をかがめた。

 

「お兄ちゃん、久しぶり」

 

 墓には「青崎悠馬」と彫られていた。

 そんな墓には、かつて彼女の兄の好物であった二つのカステラが供えられている。

 

「はぁ、だから腐るっつーの。母め、いい加減学ばないか」

 

 このまま放置していて腐るだけだし、もったいないので彼女はいつもの様にそのカステラをつまみ、口に運んだ。

 

「おいし」

 

 カステラは純粋に甘くて、ふわふわだった。

 

 ふと、そんなカステラを口にしていると彼女の兄が美味そうにそれを食っているかつての懐かしい光景が目に浮かんできた。

 

 

▽▲▽▲

 

「我が妹よ、カステラのその紙はちゃんとねぶるんだぞ?」

「えー、お兄ちゃんげひーん」

「ふふふ、下品かどうかは僕が決める」

 

 田舎の和風づくりの室内。

 畳のいぐさのいい匂い。

 柱には自分たちの身長を記した線が引かれている。

 

 懐かしい、かつての光景。

 そんな光景にはいつもお兄ちゃんがいる。

 

 お兄ちゃんには特別な才能があった。

 

 親戚が集まるときには、決まってお兄ちゃんはピアノを弾いた。

 演奏が終わると、いつもみんな席を立って拍手をする。

 

 お兄ちゃんの指は雪のように白くて、細長くて、とても綺麗で、ピアノを弾くときはいつも踊るように優雅に指で鍵盤を弾いていた。

 

 子供の時の私は、お兄ちゃんにあこがれてまねてピアノを弾いてみたけど、お兄ちゃんのようにうまく弾くことは出来なかったし、人を惹きつけることも出来なかった。

 

 きっと、お兄ちゃんは天才だったんだと思う。

 

 そして世界もまたそんなお兄ちゃんを放っておかなかった。

 

「やっほ、妹よ、コンクール優勝してきたぞ。賞金が出たから今日は焼肉だ」

「やるやん。で、焼肉はどこっていうのさ」

「ふふふ、聞いて驚くなよ。叙〇苑だ」

「やったー」

 

 いつのまにかお兄ちゃんはあっちこっちのコンクールに行くようになって、そのたびに優勝してきた。

 

 既に新聞やらテレビやらの取材で引っ張りだこなようで、とても忙しそうだった。

 

 誰もがお兄ちゃんが大成することを疑わなかった。

 

 もうすぐ、世界で活躍するようになるだろう。そう思われた。

 だけど、現実は残故だった。

 

 そのあたりでお兄ちゃんは亡くなった。

 

 死因は事故だった。

 

 前方不注意のトラックに轢かれて、一発で絶命。

 

 お兄ちゃんはまるで幻のように消えていった。

 

 

▽▲▽▲

 

 ふとそんなかつての記憶を思い出しつつ、彼女はカステラを頬張っていた。

 

「本当に、幻だったのかもね」

 

 そもそも彼女の家と言うのは代々凡人ばかりであった。

 

 父も母も、そして彼女自身も凡人だった。

 勉強も運動も、芸術も凡。

 

 だったというのにいきなり彼女の兄のような人物が生まれるというのはおかしな話であった。

 

 だから、神様がいきなり現れて、青崎悠馬が幻であったと言っても彼女は疑わなかった。

 

 だけどそう思うと、不思議な悲しさがあった。

 

 悲し気に彼女が墓を見つめていると、隣から話しかけられる。

 

「──やっほ、そのカステラ僕も食べていいかい?」

 

 そちらの方を見ると、黒髪の清楚な女の人がいた。

 

 長い黒のロングコートを着ている。

 右手には艶やかな革の手袋をはめている。

 

 見た目は大人びており、大学生かそのくらいだろうか。

 

 モデルでもできそうなくらい整った容姿。

 長いまつ毛の奥には紅い瞳を覗かせており、妖しさを放っている。

 

 そして、何よりも印象的なのはその見覚えのある雰囲気だった。

 誰かに……似ている気がした。 

 

「カステラ……いいですよ」

「ありー。いただきます。うめうめ」

 

 おいしそうにカステラを頬張るその人。

 

 そんな様子を見て、ふとどうしてこんな美人が兄の墓に来ているのだろうかと疑問に思う。彼女か何かなのだろうか。

 

 疑問に思ったので、質問してみることにした。

 

「で、あなたは誰なんですか?」

 

 するとそんな質問に、彼女は何てことなさそうに目を細めながら言った。

 

「ふふふ、やっぱりカステラは大好物だ」




この物語については滅茶苦茶モチベーションが高いので更新頻度は高めだと思います。
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