外典:クイーンズ・クラウン   作:linez

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小鳥遊忍 その①

 後日。ところ変わって愛媛県にある埠頭。

 真・帝国学園がその全貌を現し、轟音と共に沈んでいった場所には、不気味なほど静かで陰鬱な空気が流れていた。特に明るい場所が好きな塔子にとっては、立っているだけで気分が悪くなってしまいそうだ。真・帝国学園との凄惨な試合内容を思い出してしまうせいもあって、1分と経たないうちに帰宅の選択肢が頭をよぎってくる。

 閑古鳥の鳴く埠頭ではあったが、今は調査の拠点として非常に重要な場所となっており、既に現地には鬼瓦率いる捜索チームが集まっていた。

 

「ああ、君たちが。ちょうど良い、彼と一緒に出てもらおう」

 

 挨拶もそこそこに、鬼瓦に2人が同行する場所を依頼された。

 さらに、今回の小鳥遊忍の捜索に協力を申し出ていた者がもう1人。

 

「あれ…あんた、もしかして源田?」

 

 遠目からでも分かる尖ったような髪型に、王者の貫禄を十二分に携えたがっちりとした体格、そして特徴的なフェイスペイント。

 帝国学園のゴールキーパー、源田幸次郎だった。

 

「ん?おお!確か…財前と浦部だったか。その節は本当に世話になった。変わりないか?」

 

「ああ、元気でやれてるよ」

 

 帝国学園での合同練習を覚えていたようで、源田は元気そうな塔子とリカの様子を見ると落ち着いた挨拶を交わした。

 

「源田やんか〜!やっぱあんたもイケメンやなー!怪我はもうええんか?」

 

 源田の精悍な顔つきを見たリカが目を輝かせる。

 相変わらず、イケメンには目がない。リカのメロメロタイムに呆れていた塔子だったが、源田本人は異性からのこういった反応に慣れているらしく、さほど迷惑がっているわけでもなさそうだ。突っ込むのも面倒になった塔子は、隣のお調子者を意識の中から閉め出した。

 

「吉良監督のおかげですっかりな。それより、小鳥遊と話すのを手伝ってくれるということらしいが」

 

「うん、その瞳子監督が協力するようにって。あたし個人としてもあいつを放っておくのはもったいない気がするから」

 

「フッ、雷門らしい考えだな。だがお前たちが来てくれたなら、あるいはスムーズに進むかもしれないな」

 

「ちょっと塔子!うちらむっちゃ評価されとるや…むぐぅ」

 

 はしゃいでいるリカの口を平手で塞ぐと、塔子は源田に「ごめん、続けて」と言った。

 

「……続けるぞ?鬼瓦さんのおかげであいつのいる場所の目星はつけられているんだ。これを」

 

 どうやら源田は塔子が合流するより早く小鳥遊の捜索に協力していたようで、目撃情報から推察された、小鳥遊がいると思われる場所をすぐに端末で共有してくれた。

 どうということはない、ここからなら車ですぐに行ける郊外の地区だ。それから、生徒数の減少によって吸収合併、および廃校となった小さな中学校もその近くにある。小鳥遊の身元を調べたところ、彼女はその学校の生徒だったという。

 

「今から俺たちは鬼瓦さんとその場所に向かう。それと、同行してくれるのは…」

 

「お嬢様〜!!」

 

 源田が言い終わらないうちに、塔子の耳にタコができるほど聞き覚えのある、野太い声がした。

 嫌な予感と共に振り返ると、大柄な体躯には不釣り合いなほど素早い動きでこちらに走ってきていた。

 

「げぇ、スミス!?マイもいる!」

 

「まさか瞳子監督からの依頼でここに来られるとは…。ですがご安心を。必ずや我々がお守りいたします!」

 

 大急ぎで塔子の所に駆けつけてきたのは、角巣英二と館野舞の2人。聞くところによれば、塔子の父親である財前宗介直々の命令で小鳥遊の捜索にあたっているということだ。

 そこに塔子が協力すると聞きつけたため、捜索チームの一員として迎えつつも警護する形をとったらしい。

 

「…結局スミスと一緒か」

 

「総理とお嬢様あるところ、この角巣ありですから。さあ、準備が出来ましたら向こうの車に。ご安心ください、館野の運転技術はフィクサーズ随一、私も総理誘拐事件以降さらに自分に喝を入れて修練を積みましたので」

 

「わ、分かったってば」

 

 角巣は宗介だけでなく、塔子の警護にも非常に熱心な男だった。宗介を警護しているのは塔子が生まれる前からのことで、さながら将軍と古参の家臣のようだと、SPフィクサーズの間ではしばしば話題に上がっている。

 それほどの男にとって、宗介の家族が特別な存在となるのは必然。つまりは、角巣は実の父親よりも塔子に対して過保護なのだ。

 エイリア学園との一件以降は多少なりとも緩くなったのだが、それを差し引いても角巣の熱心な仕事ぶりは、元々自立心の強い塔子にとっては鬱陶しくも感じてしまう。

 

「お嬢様、本当に大丈夫でしょうか?無理はなさらず…」

 

 歩きながら角巣が尋ねてくる。

 

「大丈夫だって!…ったくも〜、あたしもう子供じゃないんだからさ。マイもなんか言ってやって」

 

「あなたのことを第一に考え、守るのが私たちの仕事よ。子供だろうと大人になろうと、私たちの任務は変わりません」

 

 サッカーの練習やトレーニングにもよく付き合ってくれた、歳の離れた姉のような存在である舞だが、彼女にとっても仕事は仕事。

 塔子の不満は、いつものように突っぱねられてしまった。

 

「人数はいた方が良い。俺たちは協力させてもらう側なんだからな」

 

「それは、そうだけどさ」

 

 分かってはいるけど、やっぱり納得はできない。

 源田のしっかりとした物言いに、塔子はしかめ面をして顔を背けた。

 

「ええやん!こんなVIP気分になれる機会なんてほとんどないで!うちは大歓迎や〜!」

 

「本当調子良いんだから…。で、リカ。その荷物は何なんだよ」

 

 いかにも子供扱いをされて不満そうな塔子とは正反対に、リカは図々しいほどふんぞり帰りながら大きめのバッグを車のトランクに積んでいた。

 

「強いて言うならお助けアイテムやな!」

 

「浦部、俺たちは遠足に来てるわけじゃない。あまり余分なものは持っていかない方が良い」

 

 源田の至って真っ当なアドバイスも、なぜか楽しそうにしているリカはまるで聞き入れそうにない。

 

「やん、お気遣いおおきに!でもな源田、うちだって真面目に考えてこれ持って来たんやで?特に今回は、むしろ無いと困るんちゃうかな」

 

「なんだよ、何が入って……」

 

 リカの自信がかえって不審に思えた塔子と源田に、リカはバッグの中身を見せた。

 

「…そういうことか。まあ、アリかもね」

 

「せやろ?」

 

 またリカが好きなものを持ってきたのか…と呆れかけていた塔子も、リカのアイデアには内心驚いていた。

たしかにこれなら、上手く小鳥遊を支えるかもしれない。

 

「ほな出発や!よろしくお願いしまーす!」

 

 意気揚々としているリカの号令で、舞の運転するキャラバンは埠頭を後にした。

 

 

 

………

 

 

 

「そういえばさ、源田」

 

「ん?」

 

 15分ほど車を走らせたところで、塔子が口を開いた。

 後ろの座席ではリカがワイヤレスイヤホンをつけてお笑い番組を鑑賞している。

 

「真・帝国の選手はあの後どうなったの?試合した後、みんなあそこから脱出は出来たけど」

 

 雷門と真・帝国との試合は、大きな代償を払い、不本意なスコアながらも当初の目的は果たした。だが、その後影山と共にスタジアムとなった潜水艦は海へと沈んでいった。あの時の光景は今でも記憶に新しい。

 佐久間と源田は病院に搬送され、ほかの真・帝国のメンバーも警察に連れて行かれたのは塔子も見ていた。

 そこからは、すぐ大阪に向かったため分からない。

 

「ほぼ全員と連絡はついて、今でも時々取り合っている。何だかんだで元気にサッカーを続けられているようだ。1人、郷院って奴が帝国に編入したり、そのあたりは心配には及ばない…。そう言いたかったんだが、小鳥遊と不動だけ、連絡が途絶えている」

 

「不動もか」

 

 その男の名前に、塔子は強く反応した。あのいかれた態度と異常なまでに強さを求める亡霊のような貪欲さ。仲間が傷ついてもむしろ楽しそうにしていて、全てが気に入らない男だった。

 

「不動に関しては、別の捜索チームが出ている。雷門の響木監督も協力しているらしいな」

 

「響木監督が…そうなんだ」

 

 とはいえ、プレーの質はあの鬼道と互角以上に渡り合っていたあたり、本物だ。

 機密事項とはいえ、FFIの開催を知らされていた塔子には、響木が不動の捜索にあたっている意味がすぐに分かった。

 個人的には嫌いな奴だが、不動が代表になっていざこざを起こしたとしても、円堂たちと一緒にやればどうにかなるだろう。

 それよりも、塔子は小鳥遊のことが気になっていた。

 

「どんな奴なの?小鳥遊って」

 

 塔子が源田に尋ねると、後ろでお笑い番組を観ていたリカがそっとイヤホンを取った。

 

「そうだな。あまり喋るタイプではなく、黙々と練習をこなしていた。俺や佐久間が話しかけても、最低限のこと以外は話さない。だが試合になると、途端に饒舌になる…ざっくりとした印象ではこんなところだ。選手としては…そうだな、紅一点ということをまるで感じさせないくらい、ミッドフィルダーとしての素質に優れていた。勝負へのこだわりやそれを実現させるためのアイデア、頭脳はもちろんボール捌きも上手かったよ」

 

「あんたにしちゃ随分ざっくりやな。他にないんか?なんか、こういうのが好きとか、好きな男とか」

 

「…あの時の俺たちは、異常なまでに力を欲していた。逆に言えば、それ以外はどうでも良かったんだ。チームメイトとの対話も、何もかも。影山の言うことだけを聞いて、自分たちでは何も考えなかった。だから、チームを組んでいた時は結局あいつらがどういう人間なのか、分からず仕舞いで終わったな」

 

「なんや、聞いてた以上に物騒なチームやな」

 

「うーん…そうなると…」

 

 塔子は唸った。

 源田の言ったことは間違いではない。むしろ、塔子から見た小鳥遊の印象の合致している。

 あの試合のキーマンは不動だったわけだが、無論不動だけで試合を回していたわけではない。状況が状況だったため、大した接触もせずに試合は終わってしまったが、今思い返してみれば小鳥遊の技術も相当のものだった。

 小鳥遊に佐久間へのパスを通されそうになった局面も何度もあったし、不利な条件下とはいえ鬼道や一之瀬をもってしても中盤は制圧できず、最終的に染岡と吹雪の力を以てしても雷門は1点しか取れなかったのだ。それほどのチームの中で主力となっていた小鳥遊の実力は、もはや言うに及ばず。

 小さい頃から女子サッカーの試合をたくさん観てきた塔子からしても、あれほどの逸材はそういないだろう。

 

「…まずは、話してみよう」

 

 でも、あの逸材を仲間にできた暁には、きっと頼もしい仲間になるのだろう。

 だったら、やってみせる。

 試合が終われば、仲間。

 円堂の言葉を実現させるためにも。

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