この世には喜びや感謝、愛など幸福の感情が溢れている。しかしそれに相対、もしくはそれを上回るぐらいに怒り、悲しみ、絶望などの負の感情も多く存在している。
人によっては正の感情よりも負の感情の方が大きい者だってザラにいる。
故にこうなることは必然だったのかもしれない………
月がでていない新月の夜、とある山の中で異変が起こっていた。
木々が生い茂る森、その中でドス黒いオーラが充満している。そのオーラは遠く離れた様々な場所からその一点に集まってきていて、だんだんと大きくなり森そのものを飲み込んでいく。
そして黒いオーラが森全体を包み込んだ所で、それが一気に凝縮されエネルギーの柱となって空に放出された。その衝撃で周りの木々は吹き飛ばされ、地面もごっそりと抉り取られる。
エネルギーの柱は数分もの間放たれていたが、やがてゆっくりと細くなり消えていき、後には巨大なクレーターだけが残される。
「………」
いや、それだけではなかった。そのクレーターの中心、そこには先程までいなかった筈の少年が1人、ポツンと立っていた。
「ここは………」
周りを見渡しながら、少年はそう呟く。そしてひとしきり見回すと、クレーターから出てゆっくりと歩き始める。
「感じる……僕の中にある闇を、負の力を……」
ふと立ち止まると、片手を天に掲げた。すると掌に黒いエネルギーが溜まっていき、サッカーボールサイズの球体が生成される。
そしてそれを森の奥へと投げつけた。
ドゴオォォォォォ!!
その瞬間、大きな爆発と共に森が消し飛んだ。
「……ふふ、成る程。そういうことかぁ……」
それを見て自分が何者か察した少年は僅かに笑みを浮かべ、夜の暗闇へと消えていった。
後にとある山で巨大なクレーターや不自然に消し飛んだ森が発見されニュースで取り上げられることになるが、それ以外何も分からず、一月もすれば人々の記憶から忘れられていった。
だから人々は知るよしもない。まさかあの現場で、とんでもない存在が生まれていたことなど……。
それから十数年後……
「あ〜あ、退屈だなぁ」
とある街にある公園、そこに置かれたベンチに座っている少年は空を見上げながらそうぼやく。
ふと前に目を向ければ幼児達が笑顔で駆け回ったり、遊具で遊んだりしている。
「楽しそうだなぁ、僕もあんな風に楽しい気分になりたいよ」
「……その言葉、アタシが聞いたの一体何回目でしょうねぇ」
いつの間にか少年の後ろに立っていたデスメタル風の服装をした少女がジト目でそう言う。
「ふふ、ごめんごめんリリス。別に退屈なのが嫌な訳じゃないけど、やっぱり刺激が欲しくなるものじゃん?」
少年はリリスと呼んだ少女に笑みを浮かべながら軽く謝る。しかし彼女の指摘については否定しないことから、こんなことを何度も言っているのは事実らしかった。
「それで?またベルフェから何か情報を貰ってきてるんでしょ?」
「はい。ここからかなり離れた場所にあるノーブル学園。そこやその周辺でプリキュアという者達が目撃されているそうです」
「ふーん、プリキュア……もっと詳しく」
「ベルフェの調べによると、プリキュアは3人。キュアフローラこと春野はるか、キュアマーメイドこと海藤みなみ、キュアトゥインクルこと天ノ川きららと判明しています」
「そこまで調べ上げたんだ。流石はベルフェだね」
既に正体まで調べ済みということに、思わずここにいない部下に称賛の言葉をかける。
「どうやら彼女達はディスダークという世界を絶望に包もうとしている輩達と戦っているようです」
「ディスダークねぇ……世界を絶望だけにして何が面白いのさ」
プリキュアに興味を持っていたのに対し、ディスダークの情報には興味なさげな少年。その目的自体にも否定的なようだった。
「それで、いかがしますか?………いえ、その表情で理解しました」
リリスは少年にどうするか尋ねようとしたが、彼が満面の笑みを浮かべているのを見て何を思っているかすぐ理解した。
「会いに行ってみようかな、そのプリキュアっていう子達に。僕を楽しませてくれるかもしれないしね」
「ではすぐに向かいましょう。彼女達はノーブル学園で寮生活をしているとのことですので、学園に行けばおのずと出会えるかと……」
「分かったよ。あ、リリスはその間どっかで時間を潰しててよ。たまには1人で行動したいからね」
「………かしこまりました、殺斗様」
リリスの少し間を置いた了承を聞いた少年、殺斗は未だ見ぬプリキュアへの出会いにその笑みをさらに深めるのであった。