この人を仮に「A美さん」とします。   作:あり

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【月刊██████:納涼!夏のホラー特集 第一回】
『雪』


 

【取材記録1】

 

 シャーレに来た私を出迎えたのは、初めて会う生徒だった。名前は、間宵シグレ。どうやらレッドウィンターの生徒らしい。

 

「怖い話かぁ……最近体験したことでもいいなら、あるよ」

 

 私が『そういう話』を集めていると話すと、彼女は少し考えるそぶりを見せてから話し始める。

 

 ──シグレから渡されたドリンクは『不思議な味』がした。

 

 

 

 

 

 『矛盾脱衣』って、知ってる?寒いのに服を脱いじゃう行動で、凍えるぐらい寒いのに暑いと勘違いしちゃって起きることなんだ。当然こんな雪の中で服を脱いだら……最悪、死んでしまう。

 

 それでこの前、ノドカと一緒に山奥で天体観察をしてた時のことなんだけど……

 

 ノドカが望遠鏡を使ってる間、私は周りを見回してたんだ。あたり一面雪で真っ白。木々の騒めきぐらいしか聞こえてこない静かな時間……そんな時だった。

 

 

 

 さく……さく……

 

 

 

 雪を踏むような音が聞こえてきたの。

 

 このあたりには、たまにクマが出るからもしかしたら……ってことで目を凝らして周囲をよく観てみた。

 

 記者さんは、何があったと思う?

 

 ……人影だった。

 

 私はびっくりして、ノドカに『あそこに誰かいるよ!』って言ったの。そしたらノドカは望遠鏡で確認して……こう言った。

 

 『あの人!服を脱いでる!』……だってさ。

 

 そう、最初に言った矛盾脱衣。レッドウィンターで過ごす人なら誰でも知ってる現象。

 

「早く対処しないと最悪凍死しちゃう!」そう思って、私とノドカは毛布と上着を持って駆け寄ったの。

 

 私たちが駆け寄ると、その人は既に下着だけになってて、雪の上に寝てた。ノドカが『大丈夫ですか!?』って毛布をかけようとしても、『暑いからいらない』って返すの。

 

 うん。典型的な矛盾脱衣だよね。

 

 絶対に服も毛布も使おうとしないから、私が無理やり服を着せようとした。

 

 そしたら、その人の身体がものすごく熱かったんだ。まるで火にかけてた鍋を素手で触ってしまったのかと思うほどに、ね。

 

 私が大声でびっくりしたのを見て、その人も驚いたのか、下着姿のまま山の奥へと消えていったの。

 

 2人で茫然としてた時、気が付いた。明らかに、おかしい点が一つ。

 

 何だと思う……?

 

 

 

 周囲に脱いだ服なんてなかったの。

 

 

 

 朝になって改めて付近を捜索してみても、服も、足跡も、あの人の痕跡は何もなかった。

 

 ノドカがあの人が心配だからってことで、私は『先生』に連絡したんだ。

 

 それから先生が色んな所に掛け合って監視カメラの映像とかを調べてもらったの。でも、その晩の映像データは何故か全て破損していて見られなかった。

 

 おかしいよね。多分その人が映ってる映像だけが完璧に破損してるの。『ミレニアムの凄いハッカー』さんに頼んでも復元できなかったらしいし……。

 

 あの夜に私たちが出会った人を示す証拠は、もうどこにもない。

 

 まるで雪のように解けて、消えた。最初からそんな人いなかったみたいに……。

 

 私たちが出会ったのは、一体何だったんだろうね。

 

 

 

 

 

「どう?面白かった?真相はもしかしたら『ただの不審者』なのかもしれないけどね」

 

 話を終えた間宵シグレは、ドリンク片手にクスクスと笑った。

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