この人を仮に「A美さん」とします。 作:あり
(──なるほど。これは、なかなか面白い話だ)
私は、間宵シグレの録音データを文字に起こしながら『真相』を考えていた。
シグレ本人は、どうやら『ちょっと抜け出して天体観測してた』らしいので、匿名での掲載を希望している。ノドカという名前も、できれば『レッドウィンター』であることも明かさないでほしいらしい。
それぐらいの頼みだったら全然聞く。いいネタを貰えたのだし、そもそも最初から話を改変するのは確定事項だ。実話を元に『再構成』した話を掲載する予定なのだから。
天体観測をしていたのは、話に出てきた『ミレニアムの生徒』ということにしてしまおう。あそこでは天文学の授業をやるコースもあるし、そういう部活もいくつかある。宇宙船を作る部活が存在してるなんて噂まであるぐらいだ。
考察……という名の改竄作業を始める。真相は辿り着くものではなく、自らの手で掴み取る物なのだ。
まず、シグレとノドカが出会ったのは間違いなく『超常的な存在』である。そういうことにしよう。
重要な点を整理する。
その生徒は矛盾脱衣を起こしていたが、身体が異常なほど熱かった。
雪の上に寝ていたのに、服は見当たらず、足跡も残っていなかった。
監視カメラの映像が、その夜に限って破損していた上に、データ復元も不可能。
ここで注目すべきは、「身体が熱かった」という点だ。
矛盾脱衣は凍傷状態からくる錯乱であって、実際の体温は低い。だがシグレとノドカが出会った生徒は「鍋のように熱かった」。これは、体温が異常に高かったか、熱源そのものだったことを示している。
シグレは、実際には火傷はしていないが、火傷するほど熱い身体だったということにしよう。生きた人間のものとは思えないほどに、異常な熱。それを持った不可解な存在。
衣服などが散らばっていなかったということは、最初から着ていなかった。
監視カメラの映像がその晩だけ完璧に破損している。正直これは分からない。でも、単なる事故ではないのだろう。
きっとその『彼女』が映像データを破壊したに違いない。ミレニアムの凄腕ハッカーでも復元不可能ということは、『常識を超えた存在』であるということの示唆だろう。
足跡だとか監視カメラの映像だとか、自身が残した『痕跡』を消失させられる存在……いや、『焼失』にしてみるのはどうだろう。
異常な温度の熱を操り、自分を探ろうとする相手を焼き殺そうとする……うん。良い感じだ。それに『匿名投稿』の理由付けにもなって一石二鳥だ。
では、『彼女』の正体は結局どうするべきなのだろうか。
後々変えるにしても、ある程度の推理を披露しておいた方が、読者は喜ぶだろう。
私の仮説をまとめる。
シグレたちが出会ったのは、「既に命を落とした誰かの残留思念」だった。矛盾脱衣の末に凍え死んだ、過去の生徒。雪の中で命を失ったその“記憶”が、あの夜、あの場所に浮かび上がったのだ。
彼女は、死んだ瞬間の下着姿のまま現れた。だから脱ぎ捨てた服は見当たらず、足跡も残らなかった。
しかし、そこにはもう一つの“異常”があった。
──熱。
本来なら凍えているはずのその存在は、内に燃えるような熱を宿していたのだ。触れた者を焼くほどの、強い感情とともに。
痕跡が残らないのではない。“焼き尽くして消している”のだ。
監視カメラの映像が破損していたのも、偶然ではない。
“彼女”は、自分の存在を探る目や記録を──熱によって、意図的に消している。
即ち、それほどのパワーを持ったすさまじい怨念だということだろう。
おそらく、“それ”は復讐を求めて彷徨っている。
かつて自分をこの場所に置き去りにした何者かを求めて、雪原をさまよう亡霊。
だが、シグレとノドカは、その復讐の対象にはならなかった。彼女は立ち去ったのだ。
──彼女たちの優しさが、存在の境界でさえ、わずかに溶かしたのかもしれない。
「……こんな感じかな」
アイデアを出し終えた私は、部屋で一人呟いた。自分で考えたにしては、上出来だろう。
ただ、特集を組むのだから追加であと1エピソードぐらい欲しい。
明日は、また取材に出かけよう。