この人を仮に「A美さん」とします。 作:あり
基本的には、嘘です。
また別の日、取材目的でシャーレを訪ねた私を出迎えたのはアビドスの生徒だった。名前は、奥空アヤネ。アビドスというのは、莫大な借金を抱えてしまっている学校。借金返済のために少ない生徒たちで何とか頑張っているらしい。
健気な生徒たちだとは思う。でも、今回の取材目的はそういう『良い話』を求めてはいないのだ。
「怖い話……ですか。うーん……」
アヤネは、うんうん唸っていた。
特に思い当たるものは無いらしい。別に嘘でも良い。今作った話をさも『私が体験しましたよ』みたいな顔で話しても、私は全然構わないのだ。
「そうですか……じゃあ……」
そう伝えると、アヤネはゆっくりと話し始めた。私が求めているのは『事実』ではなく、『怖い話』なのだ。
えっと……これは、ちょっと前の話なんですけど。
クロノスの生徒さんなら、私たちアビドスが借金を抱えていることはご存じですよね?
その借金を少しでも返そうと、活動の一環として私たちは廃材を集めて売ってるんです。
ビナーから剥ぎとっ……いえ、砂漠のあちこちに落ちてる鉄くずやら、古い機械の残骸やら。地味だけど、そこそこお金になるんですよ。
最初のころは、高く買ってくれる人も多かったんです。けど、だんだん私たちの足元を見るようになってきて……。
「アビドスは弱いから」とか、「他に売り先ないだろ」って態度で、急に買取価格を半分にされたり、倍の量を要求されたり。中には、脅すようなこと言ってくる人もいました。
集めてる金属の中には、希少なパーツも混じってたからかもしれませんけど……もう、いろいろ限界でした。
そんな時です。
ある人が現れました。今までと同じどころか、むしろ倍額で買い取ってくれたんです。
しかも、どんな廃材でも文句ひとつ言わずに受け取ってくれて、対価もその場ですぐに。
大量にある時は、自分から軽トラで引き取りに来てくれる、ものすごく親切な人でした。
歳は……たぶん私より年上……って感じでしょうか?きっと何かしらの事情で学校に行けないんだと思います。まぁ……いろんな事情があるブラックマーケットの子ですから、深入りはしようとも思いませんでしたけど。
体もがっちりしていましたし、結構鍛えているんだと思います。顔は隠していたのでよく分かりませんでしたが、ピンクの長髪を後ろで結んでいたのが印象的でした。
あとは……いつもちょっとだけ暑そうにしていましたね。
いつもの場所は、冷蔵庫なのかってぐらい冷やされていましたし、常にうっすらと汗をかいてて……暑がりなんだなぁとは思いました。
でも、ある時私たちの先輩……ホシノ先輩っていうんですけど、「あの人、ちょっと怪しくない?」って言ってきたんです。
確かに!って私たちは思いました。
悪徳でも『業者』ではあった彼らとは違って、とてもじゃないですが『組織力』があるようには思えませんでした。
彼女はいつも一人。出迎えるのも、運転してくるのも、荷物を下ろすのもぜんぶ彼女。それなのに、買取業者っぽい設備も名札もなにもない。
ポンと大金叩いて買い取ってくれるのに、軽トラはお世辞にも綺麗とは言えません。
全員で話し合いながら色々考えているうちに、私たちの中で疑惑が強まっていったんです。
普通の業者なら、そんなことって……あるんですかね?私たちは悪徳業者としか会えなかったからよく分かってませんでしたが。
その日は「これ、ちょっと確かめた方がよくないか?」って、みんなで話し合って。
もし、本当にただの買い取り業者だったら問題なし。素材が欲しくてこっそり集めているミレニアムの物好きとかだったならそれでも良し。
ただ、私たちを利用して何かヤバいことをしてるんなら、その時は──止めなきゃいけないと思ったんです。
そして、実行日。私たちがブラックマーケットでいつものように廃材を持ち込んで、彼女の待つあの場所へ向かっている途中でした。
「おい!お前ら!」
突然、声をかけられました。
声の主を確認すると、以前廃材の買取をしていた業者の一人でした。
「最近は売りに来なくなって、いったい何のつもりだ!何の権利で他所に売っている!!」
「あんな『誰も使ってないただの廃墟』にこそこそと山ほど廃材を持ち込んで……何を考えてやがる!」
──廃墟?
私たちは思わず顔を見合わせました。
彼女がいつも待っていた、あの冷えた建物……。
でも、それは確かに、看板も何もない、誰の施設ともわからない場所でした。
彼が引き連れてきた不良たちを撃退した後、その言葉が気になった私たちは、いても立ってもいられず、急いでその場所に向かいました。
……でも、そこには誰もいませんでした。
私たちが持ち込んだ廃材も、欠片すら残っていなかったんです。
あの異様な冷気は消え、建物の中は外と同じくらいの温度で、ただ静かで……何もない。
そこに彼女がいた痕跡なんて、どこにもなくて。
──私たちは、何も言えませんでした。
それ以来、彼女とは一度も会っていません。いえ、会えなかったの方が正しいですね。
探しても、調べても、あの生徒が一体どこの誰なのかは分かりませんでした。
そして、関連があるかは分かりませんが、ビナっ……いえ、砂漠に落ちている廃材の量が目に見えて減り始めました。
それどころか──砂漠の奥の方で正体不明の戦闘反応が確認されることも起き始めたんです。
確証はないけど……私は直感で思っています。
あれは、きっと……あの生徒だ。
──私たちは、一体誰と取引していたんでしょうか
「……こんな感じで大丈夫でしたか?」
非常に興味深い内容でしたよ、と伝えるとアヤネは嬉しそうに微笑んでいた。