この人を仮に「A美さん」とします。 作:あり
「……なるほど」
私は自室で、一人静かに息を吐いた。
──既視感。いや、正確には「既聞感」だ。
シグレが語っていた“謎の存在”を思い出す。雪の中で消えた、下着姿の異様に熱い謎の存在。そして今回は“暑がりな”人物。
……ただの偶然だろう。暑がりな生徒なんて珍しくもない。
『レッドウィンターの山奥の不審者』と『謎の廃材買い取り人』に関連がある方がおかしいのだ。
──けれど、読者としては関係があった方が考察のし甲斐があって面白いだろう。
だから、そういうことにする。
この2人は、同一人物だ。
彼女を仮に『A美』として、ストーリーを考えてみよう。
とりあえず、最初は舞台設定から整えていく。
アヤネからは『内容の再構成』の許可を得ている。アビドスは生徒数が少なく個人情報の特定が容易だ──そんな理屈を並べて説得し、『学校』を変更する承諾も取り付けた。
となれば、やはり前回と同じ『ミレニアム』が妥当だ。
今回は砂漠ではなく、立ち入り禁止の危険区域――『廃墟』を舞台にしよう。
ミレニアムの生徒なら、廃材を集める動機付けも自然だ。
舞台が定まれば、次は重要な要素の整理に入る。
一見何の関連もない二つの事象であっても『箇条書き』にすれば、まるで関連している事象かのように思えるものだ。
まず、暑がりな様子。
シグレの語る存在は、「鍋でも触ったかのような熱さ」の人物だった。
一方、アヤネの証言では、「いつもちょっとだけ暑そうにしていた」「取引場所は冷房が効いていた」「常にうっすらと汗をかいていた」。
前者は本当にそういう存在だったとしても、後者はどう考えてもただの暑がりでしかない。けれどここには『ありもしない共通点』が見出せそうだ。
次に、物理的な痕跡の消失。
シグレの話では、服も足跡も記録された映像さえも消えていた。
アヤネの方では、取引に使われていた現場が跡形もなく消え、廃材もすべて姿を消していた。
現実的に考えれば、後者はブラックマーケットの業者がトラブルを察知して夜逃げしただけなのだろう。
勝手に場所を使い、同業者に筋を通さずに取引していたものだから反感を買ったにでも違いない。
──でも、そんな真相じゃ面白くない。
やはりここは、『痕跡すら残さない超常的存在』として描くべきだ。
では、彼女が金属廃材を集めていた理由は?ここに何か面白い理由を見つけ出せないだろうか。
これはまだはっきりしないが、まぁ、それは追々考えていくとしよう。なんなら読者が『勝手に』真相を暴いてくれるかもしれない。
さて、A美という存在について私が導き出した今のところの真相は――
「かつて行われていた人体実験によって生み出された、失敗作の怨念」
ある組織が、人工的に“強い生徒”を作り出そうとしていた。
だが、失敗した。
そして、廃棄されたのだ。雪山に。
A美は矛盾脱衣を起こし、暑さの中で凍えながら死んだ。
だが、置き去りにされたという強い怨念は、死ななかった。
彼女の魂は今も雪山をさまよい、時折、外に飛び出しては『復讐』の準備を進めている。
廃材を集めていたのも、きっとそのためだ。
ただ一つ確かなのは──
彼女はもう人間ではない。だが、人間だった記憶が、今も彼女を動かしているということ。
そして、彼女はまたどこかに現れるだろう。
それは、復讐対象のすぐそばかもしれないし──
あなたの前かもしれない。
「……よし」
いい感じにできた。
エピソードが二つあれば、雑誌のコーナーの一つとしては十分な文章量だろう。
原稿を書き上げ、送信。
上機嫌に夕飯を終える頃には、編集長から「Good!」と一言だけ返ってきていた。
「……ふふふ」
たったそれだけなのに、たまらなく嬉しくなってしまっている自分がいた。