コードギアス:静観者のアリア   作:F.M

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第12話:交錯する思惑、白銀の決意と紫の理想

ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキーからの心のこもった返信は、硝煙と欺瞞に満ちたエリア11で孤独な刃を振るうレオンハルトの魂に、一筋の温かな光を灯した。遠く離れた帝都に、己を理解し、その身を案じる存在がいる。その事実だけが、彼が抱える重圧と、誰にも明かせぬ苦悩を、ほんの僅か和らげてくれる。だが、感傷に浸る時間は許されない。エリア11の情勢は依然として予断を許さず、黒の騎士団という名の嵐は、日増しにその勢力を強めていた。

 

そして、レオンハルトにとって最も心を砕くべきは、副総督ユーフェミア・リ・ブリタニアの動向だった。ゲットー視察を経てエリア11の現実を肌で感じた彼女は、ブリタニア人とナンバーズの真の融和を目指し、より具体的な行動を開始しようとしていた。その純粋で高潔な理想は、レオンハルトの心を強く打つが、同時に、原作知識を持つ彼には、それが彼女自身を破滅へと導く危うい光の道であることも明白だった。

 

「アイゼン少佐、近々、私はエリア11の文化人や、ナンバーズの中でも穏健派とされる方々を招き、非公式な意見交換の場を設けたいのです。互いを理解し合うことこそが、融和への第一歩となるはずですから」

 

ユーフェミアは、総督府の執務室で、希望と期待に瞳を輝かせながらレオンハルトにそう打ち明けた。姉の武力統治とは異なるアプローチで、この地に平和をもたらそうと本気で信じているのだ。そのあまりにも純粋な理想に、レオンハルトは胸を締め付けられながらも、冷静に言葉を返した。

 

「殿下のお考えは、誠に素晴らしい。しかし、現在のエリア11は、その善意すらも毒牙にかける獣が潜む場所です。ブリタニア内部の強硬派、ナンバーズの過激派、そして何より、ゼロと黒の騎士団がこの動きを静観しているとは思えません。彼らは、殿下のその清らかな心すらも、自らの野望のための駒として利用するでしょう」

 

彼の言葉は、彼女の熱意に冷や水を浴びせるようだったかもしれない。だが、彼は彼女に現実という名の盾を授ける必要性を感じていた。ユーフェミアの表情が、わずかに曇る。

「…少佐は、私のやろうとしていることは、無意味だとおっしゃりたいのですか?」

「決して。殿下のそのお心は、このエリア11にとって、そして帝国にとってもかけがえのない宝です。ですが、宝を守るためには、細心の注意と、時には非情なまでの現実認識が必要となります。どうか、私の言葉をお聞き入れください。今回の会合、その全てを私に委ねてはいただけませんか。場所、参加者、そして警備体制。殿下の理想を、私が現実のものとしてみせます」

 

レオンハルトは、彼女の理想を否定するのではなく、その実現のための剣となることを誓った。ユーフェミアは、彼の真摯な眼差しと、その言葉に込められた深い憂慮を感じ取り、しばらく黙考した後、静かに頷いた。

「……わかりました、アイゼン少佐。あなたを信じます。どうか、私のこの小さな一歩が、大きな過ちとならないよう、お力をお貸しください」

「御意。殿下のそのお心、このレオンハルト・アイゼンが必ずやお守りいたします」

力強く応える彼の胸に、彼女の信頼という名の重責と、刻一刻と迫る「原作の悲劇」の影に対する焦燥感が渦巻いていた。

 

このユーフェミアの動きと並行して、レオンハルトは彼女を守るための準備をさらに深化させていた。両親が開発を進めるギアスキャンセラーは、彼の脳波パターン、あるいは特定の音声コードによって瞬時に起動できるよう、最終調整の段階に入っていた。一瞬の遅れが、取り返しのつかない事態を招くことを、彼は誰よりも理解していたからだ。

 

さらに、彼は自らが指揮する特務小隊の中から、特に信頼できる数名の部下を選び出し、極秘裏に特殊訓練を開始していた。要人警護、隠密潜入、緊急時の脱出支援。彼らはレオンハルトの真の目的を知らされずとも、隊長の並々ならぬ覚悟を肌で感じ取り、黙々と過酷な訓練に励んでいた。レオンハルトは、彼らに「影の騎士団」とでも呼ぶべき役割を与え、来るべき日に備えさせていたのだ。

 

一方、黒の騎士団の動きもまた活発化していた。レオンハルトの諜報網は、ゼロが次なる一手として、日本解放戦線の「奇跡の藤堂」こと、藤堂鏡志朗の救出作戦を計画しているという情報を掴んでいた。

(藤堂鏡志朗…彼が黒の騎士団に加われば、組織は本物の軍隊へと変貌する。それはブリタニアにとって大きな脅威となる。だが、原作通りならば、彼の存在が後の黒の騎士団に大きな影響を与える。俺は、この流れを阻止すべきか? それとも、静観し、原作通りに進ませるべきか…?)

彼は再び、難しい選択を迫られていた。

 

そんな折、レオンハルトの元に、モニカから極秘の私的通信が入った。それは、彼女がラウンズとしてペンドラゴンで得た、断片的な、しかし極めて重要な情報を含んでいた。

『レオンハルト…エリア11で、何か大きな動きがあるという噂を耳にしました。詳細は不明ですが、皇帝陛下直属の機関が、何か特殊な“実験”を計画しているとか…そして、その実験には、エリア11の特定の人物が関わっている可能性がある、と…』

モニカの声には、隠しきれない不安の色が滲んでいた。

(皇帝直属の機関…特殊な実験…まさか、ギアス嚮団か!? そして、その実験とは、ユーフェミア様に関わることなのか…!?)

レオンハルトの背筋に、冷たい汗が流れた。原作では、嚮団がユーフェミアの悲劇に直接関与したという明確な描写はなかった。だが、この世界では、何かが微妙に異なっているのかもしれない。

「ありがとう、モニカ。その情報、非常に助かる。何か新しいことが分かれば、また知らせてほしい。そして、君も十分に気をつけてくれ。ペンドラゴンもまた、伏魔殿だ」

『はい…レオンハルトも、どうかご無事で』

短い通信は、互いの身を案じる言葉で締めくくられた。

 

モニカからの情報は、レオンハルトの警戒心をさらに強めた。ユーフェミアの周囲には、ゼロだけでなく、ブリタニア内部の、より深く、そして邪悪な陰謀が渦巻いているのかもしれない。彼は、自らが抱える秘密の重圧と、迫り来る危機感を胸に、それでも前に進むしかなかった。

ユーフェミアの理想を守るために。そして、彼女の笑顔を、未来へと繋ぐために。

白銀の騎士の決意は、エリア11の混沌とした空の下で、より一層、鋭く研ぎ澄まされていくのだった。

そして、黒の騎士団の影は、確実に、次の標的へと忍び寄っていた。

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