エリア11の空は、これから訪れる血生臭い祝祭を暗示するかのように、重く垂れ込めた灰色の雲に覆われていた。日本解放戦線の最後の砦、「奇跡の藤堂」こと藤堂鏡志朗の逮捕、そして処刑日が間近に迫っているという報は、ナンバーズの間に絶望と怒りを広げ、同時に黒の騎士団にとっては見過ごせぬ「機会」をもたらした。藤堂に絶対の忠誠を誓う腹心たち――千葉凪沙、朝比奈昇吾、仙波崚河、卜部巧雪からなる「四聖剣」は、主君を救うべく、最後の望みを託して黒の騎士団の門を叩いた。
「我らが主君、藤堂鏡志朗閣下をお救いいただきたい! そのためならば、我々四聖剣、この命、喜んで貴殿らに捧げよう!」
黒の騎士団の秘密基地。千葉をはじめとする四聖剣は、仮面の男ゼロの前に跪き、悲痛な覚悟を込めて懇願した。彼らにとって、藤堂は単なる上官ではなく、日本の誇りと武士道の精神を体現する最後の希望だったのだ。
ゼロ――ルルーシュ・ランペルージは、その申し出を冷静に、仮面の下で鋭い計算を働かせながら聞いていた。藤堂鏡志朗。その名はブリタニア軍にとっても、日本の抵抗勢力にとっても特別な意味を持つ。彼の卓越した戦術指揮能力と高潔な人柄は、黒の騎士団にとって喉から手が出るほど欲しい「駒」であり、何より、彼の加入は組織の正統性と求心力を飛躍的に高めるだろう。
「よかろう。その願い、聞き届けた。黒の騎士団は、諸君らと共に藤堂鏡志朗を救出する。だが、これは取引だ。救出後、藤堂鏡志朗と諸君ら四聖剣は、我が黒の騎士団に加わり、ブリタニア打倒のためにその力を尽くすと誓ってもらう」
ゼロの言葉には、有無を言わせぬ力が込められていた。四聖剣は、一瞬の躊躇の後、力強く頷いた。
その頃、トウキョウ租界にあるブリタニア軍施設では、枢木スザクが、コーネリア総督から直々に、藤堂鏡志朗の処刑執行役という、あまりにも過酷な命令を下されていた。藤堂は、かつてスザクが武道を学んだ際の師であり、尊敬すべき人物の一人だった。その師を自らの手で処刑せねばならない現実は、スザクの心を容赦なく切り刻んでいた。
(なぜ、僕が…。これが、ブリタニア軍人として、名誉ブリタニア人として生きるということなのか…? ユーフェミア様は、こんなことを望んではいないはずだ…)
彼の脳裏には、ユーフェミアの優しい笑顔と、藤堂の厳しくも温かい指導の記憶が交錯し、深い苦悩に沈んでいた。ユーフェミアは最近、スザクを自らの騎士に迎えたいという意向を示し始めていた。その純粋な信頼に応えたいと願う一方で、彼はブリタニアの非情な現実に直面し、自らの正義を見失いかけていた。
奇しくも、ルルーシュもまた、ナナリーの傍を離れる時間が増えた現状を憂い、彼女を守る「騎士」として、スザクにその役目を託せないかと密かに考えていた。二人の幼馴染の想いは、皮肉な形で同じ一点へと収束しようとしていた。
そして、藤堂の処刑が執行される予定の日。厳重な警備下に置かれた処刑場周辺は、張り詰めた緊張感に包まれていた。レオンハルト・ジークフリート・アイゼンは、『ジークフリード・レジーナ』と共に、この処刑場の最終防衛ラインの指揮を任されていた。彼の原作知識は、この日に黒の騎士団が藤堂奪取のために大規模な襲撃を仕掛けてくることを明確に告げていた。
(来る…必ず来るぞ、ゼロ。お前の狙いは、藤堂と四聖剣の確保。そして、この処刑を阻止することで、黒の騎士団の正義を内外にアピールすることだ。だが、そうやすやすと事を運ばせるわけにはいかない。ブリタニア軍の将校として、俺は俺の役割を果たさねばならない。そして、この混乱に乗じて、ユーフェミア様に危険が及ぶことは、絶対に阻止する)
彼のAI「オーディン・アイ・ネクスト」は、処刑場周辺のあらゆる情報をリアルタイムで解析し、予測される敵の侵攻ルート、そして最も効果的な迎撃ポイントを彼の網膜に投影していた。
処刑時刻が迫り、空気が極限まで張り詰めたその瞬間、突如として処刑場周辺で連続的な爆発が発生した。黒の騎士団と、藤堂救出に命を賭ける四聖剣による、大胆不敵な襲撃作戦が開始されたのだ。
「全軍、迎撃開始! 敵は少数だが練度は高い! 油断するな!」
ギルフォードの檄が飛ぶ。
しかし、黒の騎士団の攻撃は巧妙だった。陽動と奇襲を組み合わせ、ブリタニア軍の防衛ラインに次々と穴を開けていく。そして、その先陣を切って突入してきたのは、**キョウトから提供された最新鋭KMF「月下」に搭乗した四聖剣だった。その漆黒の機体群は、旧式の無頼とは比較にならないほどの高い機動力と戦闘能力を有しており、彼らは藤堂への忠誠心だけで、ブリタニアの最新鋭機に果敢に挑みかかってきた。
「四聖剣か…なるほど、主君への忠義は見事だが、あの機体…月下。キョウトの連中が、これほどのものを開発していたとはな。侮れない」
レオンハルトは、冷静に戦況を分析し、『ジークフリード・レジーナ』を発進させた。
「アイゼン少佐、敵の主力は我々が引き受ける! 貴官は、ゼロの動きに集中してくれ!」
ギルフォードからの通信。彼は、レオンハルトの能力を高く評価し、最も重要な役割を託そうとしていた。
「了解。だが、ギルフォード卿、あの四聖剣…侮ってはなりません。彼らの連携と、あの新型機の性能は、並のパイロットでは対応しきれんぞ。私が直接叩く」
レオンハルトはそう言うと、『ジークフリード・レジーナ』のエンジェルフェザーを展開させ、月下を駆る四聖剣の前に立ちはだかった。その白銀の機影は、まるで絶望的な戦場に舞い降りた戦乙女のように、美しく、そして恐ろしかった。
「出たな、『白銀の悪魔』! 我らが主君の道を阻むというのなら、この月下と共に、ここで斬り捨てるまで!」
四聖剣のリーダー格である千葉凪沙が、怒声と共に月下の太刀を構え、突進してきた。他の三機の月下もまた、完璧な連携で『ジークフリード・レジーナ』を包囲しようとする。
「見事な連携だ。そして、その月下という機体も、確かに素晴らしい。だが、それだけでは、この『ジークフリード・レジーナ』の敵ではない」
レオンハルトの操る白銀の騎士は、まるで未来を予知しているかのような神業的な機動で、四聖剣の月下の猛攻を次々とかわしていく。ツヴァイヘンダー・ランツェがソードモードで閃き、千葉の月下の右腕を、朝比奈の月下の脚部を、仙波の月下のセンサーを、そして卜部の月下の主兵装を、的確に、そして瞬時に破壊していく。それは、もはや戦闘ではなく、一方的な蹂躙だった。
「な…なんだ、この強さは…!? 我々の月下が、そして四聖剣の連携が、全く通用しないだと…!? 馬鹿な…!」
千葉は、愕然とした表情でコックピットのモニターを見つめた。彼女のプライドは、ズタズタに引き裂かれた。
レオンハルトは、彼らを完全に破壊することはしなかった。それは、原作知識から、彼らが後に重要な役割を果たすことを知っていたからでもあるし、何よりも、彼らの忠義心に、彼自身が騎士として一定の敬意を抱いていたからかもしれない。しかし、これ以上の抵抗は無意味であると、彼らに骨身に染みて理解させるには十分だった。
その頃、ゼロの指揮する別動隊は、レオンハルトが四聖剣を引きつけている隙に、藤堂が監禁されている施設への潜入に成功していた。そして、藤堂は、同じくキョウトから秘密裏に提供された、彼専用の調整が施された「月下」に搭乗し、再び戦場へと舞い戻る。
「藤堂鏡志朗、参る!」
藤堂の月下は、その卓越した操縦技術と、機体の高性能を遺憾なく発揮し、ブリタニア軍の防衛ラインを次々と突破していく。そして、その前に立ちはだかったのは、かつての弟子、枢木スザクの駆るランスロットだった。
「藤堂さん…! なぜ、こんなことを…!」
「スザクか…! お前も、ブリタニアの犬に成り下がったか!」
師弟の運命的な再会は、互いの刃を交えるという、最も悲劇的な形で果たされた。月下の太刀と、ランスロットのMVSが激しく火花を散らす。それは、互いの信念と正義を賭けた、壮絶な一騎討ちだった。
激しい攻防の末、藤堂の月下の一撃が、ランスロットのコックピットハッチを掠めた。衝撃でハッチの一部が吹き飛び、その下から、苦悶の表情を浮かべるスザクの顔が露わになった。
その瞬間を、ゼロは、自らが搭乗する無頼のコックピットモニター越しに、確かに見ていた。
彼の仮面の下の表情が、凍りついた。
(スザク……!? まさか、ランスロットのパイロットが……スザクだったとは……!!)
親友が、自分の最大の敵の一人として、自分に牙を剥いていたという事実に、ルルーシュは激しい衝撃と動揺を覚えた。それは、彼の計算を、そして彼の心を、大きく狂わせる一撃だった。
レオンハルトもまた、その瞬間を、自機のセンサーを通じて遠目で確認していた。
(やはり、こうなったか……。ゼロ、お前は今、何を感じている? 親友が敵であると知った、その絶望を…)
彼は、ルルーシュの動揺を痛いほど感じ取っていた。そして、この事実が、今後の二人の関係、そして世界の運命に、計り知れない影響を与えるであろうことも。
ゼロは、激しい動揺を押し殺し、藤堂と行動不能にされた四聖剣(彼らの月下は戦闘不能だが、パイロットは無事だった)の回収を最優先とし、全軍に撤退を指示した。黒の騎士団は、藤堂鏡志朗という大きな戦力を手に入れたが、同時にゼロ自身は、スザクという存在に対して、新たな、そしてより深い葛-藤を抱えることになった。
ブリタニア軍は、藤堂の奪還に失敗したものの、黒の騎士団に一定の損害を与えることはできた。特に、レオンハルトの活躍により、四聖剣の月下部隊は壊滅的な打撃を受け、黒の騎士団の攻勢を一時的に鈍らせる効果はあった。
スザクは、師を討つことができなかったこと、そしてゼロに顔を見られたかもしれないという事実に、深い衝撃と無力感を覚えていた。
戦いが終わった処刑場跡地には、破壊されたナイトメアフレームの残骸と、硝煙の匂いが立ち込めていた。
レオンハルトは、『ジークフリード・レジーナ』のコックピットで、静かに目を閉じた。
(これでまた一つ、原作の大きな流れは維持された。だが、ここから先、俺の行動が、ユーフェミア様の運命を、そしてこの世界の未来を、どう変えていくことになるのだろうか…)
彼の胸には、安堵と、そして新たな戦いへの覚悟が入り混じっていた。
漆黒の月下と、白銀の騎士、そして純白の騎士。三者の運命はまだ誰も見えていない。