コードギアス:静観者のアリア   作:F.M

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第16話:式根島の激闘、遠隔地の白銀

エリア11のトウキョウ租界。総督府の静寂な一室で、レオンハルト・ジークフリート・アイゼンは、窓の外に広がる鉛色の空と、デスクのホログラムモニターに映る太平洋上の嵐を、対照的な二つの現実として見つめていた。彼のAI「オーディン・アイ・ネクスト」は、ブリタニア軍の広域偵察網と、モニカからもたらされた断片的な情報を統合し、遠く離れた離島、式根島で繰り広げられる死闘を、冷徹なデータとして彼の脳裏に構築していく。

 

(動き出したか……。ゼロ、お前は藤堂鏡志朗という「大義」を手に入れ、黒の騎士団を本物の軍隊へと昇華させるために、この島を血の祭壇にするつもりか)

 

モニター上の無数の光点が、ブリタニアのナイトメアフレームと、それに食らいつく黒の騎士団の機影を示していた。彼の脳内では、無数のシミュレーションが瞬時に展開され、そのどれもが、これから起こるであろう悲劇的な転換点を指し示していた。

 

***

 

その頃、式根島の空は硝煙で黒く染まっていた。

ユーフェミアの騎士となったばかりの枢木スザクは、ランスロットを駆り、戦場の嵐の中心で咆哮していた。純白の機体は、まるで一体の舞い降りた熾天使のように、黒の騎士団の無頼部隊を蹂躙する。ヴァリスが火を噴けば、敵機は装甲を貫かれて沈黙し、MVS(メーザーバイブレーションソード)が閃けば、その腕や脚が宙を舞う。スラッシュハーケンが岩壁や敵機を捉え、予測不能な三次元機動で弾幕を回避し、死角から必殺の一撃を叩き込む。それはもはや戦闘ではなく、一方的な狩りだった。

 

だが、それこそがゼロの罠だった。突出したランスロットは、いつしか味方部隊から切り離され、孤立していた。海岸線に追い詰められたその時、スザクは足元の地面が不気味な青い光を放つのを見た。

「何だ、これは……!?」

突如、ランスロットの全身を凄まじい不協和音が貫いた。コックピット内の計器類が一斉に狂ったように明滅し、アラート音が鼓膜を突き破らんばかりに鳴り響く。機体の心臓部であるユグドラシルドライブが、まるで扼殺されるかのように悲鳴を上げていた。ゲフィオンディスターバー。KMFの動力源たるサクラダイトの機能を麻痺させる、悪魔の兵器。

「くっ…! 機体が、動かない…!」

ランスロットは、まるで琥珀の中に囚われた虫のように、その動きを鈍らせていく。その絶好の機会を、黒の騎士団が見逃すはずはなかった。

 

絶体絶命の窮地に陥ったランスロット。その目の前に、漆黒の無頼改が舞い降りた。コックピットから現れたのは、仮面の男ゼロ。

「枢木スザク…なぜ、我々の誘いを受け入れない!」

電子変声されたその声は、スザクの記憶の奥底にある、懐かしくも忌まわしい響きを伴っていた。

「お前がやっていることは、ただのテロだ! 僕は、こんな方法では世界を変えない! 内部から、正々堂々と変えるんだ!」

スザクの激昂に、ゼロ(ルルーシュ)は仮面の下で歯噛みする。その時、空が裂けるような轟音と共に、巨大な影が差した。ブリタニアの空中戦艦アヴァロン。そのハッチから、漆黒の巨大KMF、ガウェインが射出される。両腕に備えられたハドロン砲が、周囲の空気を歪ませるほどのエネルギーを収束させ、禍々しい光を放ち始めた。その照準は、ランスロットと、その周囲に群がる黒の騎士団全てに向けられていた。

 

「…させるか!」

スザクは、最後の力を振り絞り、ゼロの胸倉を掴み上げた。

「スザク! お前も死ぬぞ!」

スザクの瞳は、狂気に染まるほどに覚悟に満ちていた。

「構わない!それで正義を貫けるなら!」

その叫びは、ルルーシュの脳裏に幼い頃の記憶をフラッシュバックさせた。純粋すぎるが故に、自らを犠牲にしかねないスザクの危うさ。このままでは本当に死んでしまう。計算も、戦略も、全てが吹き飛んだ。ただ、親友を失いたくないという、原始的な衝動が彼を突き動かした。

ルルーシュは、仮面の下で表情を歪め、最後の禁忌を犯す。

「枢木スザク……お前は……生きろッ!」

ゼロの瞳から放たれた真紅の光が、スザクの魂を捉えた。その瞬間、スザクの脳裏に、血に濡れた父の姿がフラッシュバックし、彼の精神の根幹が、ギアスという絶対的な力によって書き換えられる。「生きる」ことを強要する、永遠の呪縛。

 

ギアスの呪いに突き動かされたスザクは、突然ゼロの拘束を解き、まるで獣のように、動かないランスロットを無理矢理再起動させようと暴れ始めた。その混乱の中、ガウェインから放たれたハドロン砲の極太の光線が、拡散しながら大地を舐め尽くした。膨大なエネルギーが、ゲフィオンディスターバーに囚われたランスロットを飲み込み、周囲の海を沸騰させ、大地を抉り、地形そのものを変貌させる。凄まじい爆炎の中で、ランスロットは木の葉のように吹き飛ばされ、その機体反応は、完全に消失した。

 

***

 

遠く離れたトウキョウ租界。レオンハルトの全身を、突如として悪寒が襲った。彼の「オーディン・アイ・ネクスト」が、式根島で発生した、通常ではありえない高エネルギー反応を捉えたのだ。それは、物理法則を超えた、精神に直接干渉する力が発動した際にのみ観測される、極めて微弱な、しかし確かな魂の波紋だった。

 

(今だ……! ゼロ、お前、何を……!?)

 

彼の脳裏に、原作でスザクにかけられた「生きろ」のギアスが鮮明に蘇る。その呪いが、スザクの運命をどれほど歪めたかを知るレオンハルトにとって、この反応はまさに終末の警鐘だった。

「クソッ……! やはり、このタイミングでギアスを……!」

レオンハルトは、拳を強く握りしめ、歯噛みした。式根島に介入しないという選択。それはユーフェミアの安全を優先し、歴史の修正力を最小限に抑えるための苦渋の決断だった。だが、運命の歯車が狂っていくのを、ただ傍観することしかできない無力感に、彼は焼かれるような焦燥を感じていた。

モニターは、ランスロットの機体反応消失を告げている。

(ランスロットが…! そして枢木スザクが…行方不明に…!? 「生きろ」のギアスをかけられた状態で…!)

 

レオンハルトの表情に、焦りが浮かぶ。あのギアスは、スザクを生存本能の怪物に変える。その力が、今後、ユーフェミアにどのように作用するのか、予測不能な脅威が生まれたのだ。

式根島の戦いが収束した後、レオンハルトは改めてギアスという力の恐ろしさを痛感した。物理的な力では対抗できない、精神を汚染するその能力は、まさに彼の最大の警戒対象だった。

 

「ギアスキャンセラー……。これが、ユーフェミア様を守るための最後の砦となる。絶対に、間に合わせなければならない……」

 

彼の自室のモニターには、ギアスキャンセラーの改良データが表示されていた。両親との連携で開発は順調に進んでいるが、完璧な作動にはまだ時間が必要だった。

式根島での出来事は、ブリタニア軍、特にコーネリア総督にとって大きな痛手となった。藤堂という強力な戦術家が黒の騎士団に加わったことで、その脅威度は桁違いに跳ね上がったのだ。

レオンハルトの心には、スザクの身にかけられたギアスの呪縛と、それに気づかず彼を英雄視するであろうブリタニアへの複雑な感情が渦巻いていた。

白銀の騎士は、遥か遠くで起きた宿命的な出来事を胸に刻み、来るべき決戦に向けて、その覚悟を一層固めていく。エリア11の未来は、ますます不穏な影に覆われようとしていた。

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