コードギアス:静観者のアリア   作:F.M

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第26話:波紋、それぞれの岐路と白銀の選択

 

 

ユーフェミア・リ・ブリタニアの魂からの叫びは、トウキョウ租界の炎上する空に、確かに大きな波紋を投げかけた。彼女がギアスに操られていたという衝撃的な告白と、それでもなお日本人との融和を諦めないという純粋な願いは、戦場にいた多くの人々の心を揺さぶり、ブリタニア兵、黒の騎士団双方の内部に、困惑と、そしてわずかながらの良心の呵責にも似た感情を呼び起こした。しかし、一度燃え上がった憎悪の炎と、組織としての戦闘行動は、そう簡単には収まらない。彼女の言葉を信じようとする者、それをブリタニアの新たな欺瞞と断じる者、そしてただ混乱に乗じて破壊と略奪を繰り返そうとする者。戦場は、依然として三者三様、いや、それ以上の思惑が複雑に絡み合い、混沌の度を深めていた。

 

アッシュフォード学園の地下秘密基地で、ゼロの仮面を被ったルルーシュ・ランペルージは、ユーフェミアの演説のライブ映像を、言葉を失い、ただ茫然と見つめていた。彼の脳裏には、自らが犯した取り返しのつかない過ち――ギアス暴走によるユーフェミアへの虐殺命令――の記憶が、鮮明に蘇り、胸を締め付ける。彼女が、あの地獄のような状況から生き延び、そして今、このような形で真実を(一部ではあるが)訴え出るとは、彼の計算の埒外だった。

(ユーフェミア……お前は、なぜ…? 俺のギアスによって、あのような目に遭いながら、それでもまだ、あの理想を捨てきれないというのか…? そして、あの白銀の騎士…レオンハルト・アイゼン。彼が、お前をギアスから解放したというのか? 一体、何者なのだ、あいつは…)

彼の心は、ユーフェミアへの罪悪感、彼女の行動に対する驚愕、そしてレオンハルトという存在への新たな警戒心と、底知れぬ興味がない混ぜになった、激しい嵐に見舞われていた。この状況は、彼の計画を根底から揺るがしかねない。しかし、同時に、ユーフェミアの言葉は、ブリタニアの支配体制の矛盾を暴き出し、民衆の心を掴むための、新たな「カード」となり得る可能性も秘めていた。彼は、冷静さを取り戻し、この予期せぬ事態をどう利用し、自らの目的を達成するか、再び思考の駒を動かし始めていた。そして、彼はこのブリタニア軍の指揮系統の混乱と、ユーフェミアという存在が生み出した心理的な動揺を、絶好の攻撃機会と捉えた。

 

一方、トウキョウタワー周辺の戦場で、ランスロットを駆る枢木スザクは、ユーフェミアの悲痛な訴えを、胸が張り裂けるような思いで聞いていた。彼女が操られていたという真実。その事実は、彼の心を激しく揺さぶり、そして彼女への深い同情と、彼女を守れなかった自分への不甲斐なさ、そして彼女をそのような状況に追い込んだ「何か」に対する激しい怒りを呼び起こした。

(ユーフェミア様……あなたは、そんなにも苦しんでいたのか……。そして、僕は、何も知らずに…! だが、信じる。あなたのその言葉を、あなたのその涙を、僕は信じる!)

彼の瞳には、迷いを振り払ったかのような、強い決意の光が宿った。彼は、ランスロットの出力を最大に引き上げ、ユーフェミアの護衛機へと殺到しようとする黒の騎士団のKMFの前に立ちはだかった。「ユーフェミア様は、僕が守る! もう二度と、誰にも傷つけさせはしない!」その白い騎士の太刀筋は、以前にも増して鋭く、そして正確無比だった。

 

エリア11総督府では、コーネリアが、ユーフェミアの演説とその後の戦況の報告を、苦虫を噛み潰したような表情で受けていた。妹の行動は、軍の規律を乱し、敵に塩を送るようなものだ。しかし、その言葉の裏にある純粋な想いと、彼女が何者かに操られていたかもしれないという可能性(レオンハルトからの断片的な報告と、彼女自身の直感)は、コーネリアの心を複雑に揺さぶっていた。

「ギルフォード、ダールトン! 現状、ユーフェミアの身柄はアイゼン少佐が確保している。彼の部隊と連携し、何としてもユーフェミアを無事に総督府へ連れ戻せ! ただし、彼女の行動を利敵行為とみなし、攻撃を仕掛ける者がいれば、それがブリタニア兵であろうと、黒の騎士団であろうと、容赦なく排除せよ! そして、アイゼン少佐には伝えろ…この事態の全責任は、後で厳しく問う、と!」

彼女の命令は、妹への情と、総督としての厳しい立場との間で揺れ動く、苦渋の決断だった。

 

戦場では、レオンハルトとモニカが、ユーフェミアの護衛機を中央に置き、押し寄せる敵と死闘を繰り広げていた。『ジークフリート・レジーナ』のツヴァイヘンダー・ランツェは、白銀の閃光となって敵機を次々と薙ぎ払い、『ディアナ・フェンサー』のルナティック・レイは、的確な精密射撃で敵の連携を断ち切る。二人の騎士の連携は、まさに阿吽の呼吸であり、その圧倒的な戦闘能力は、数の上で勝る敵を寄せ付けなかった。

しかし、敵はブリタニア軍内部の強硬派と、黒の騎士団の過激派という、本来ならば決して共闘することのないはずの二つの勢力だった。彼らは、それぞれの理由でユーフェミアの存在を許せず、あるいは彼女を政治的に利用しようと画策し、レオンハルトたちの前に立ちはだかっていた。

 

その時、レオンハルトの「オーディン・アイ・ネクスト」が、戦場の広範囲にわたって、黒の騎士団による組織的かつ同時多発的な攻撃の兆候を感知した。それは、単なる散発的な戦闘ではなく、明確な戦略目標を持った、大規模な奇襲作戦の始まりだった。

(ゼロ…! やはり動いたか! ユーフェミア様の演説によるブリタニア軍の混乱と、指揮系統の一時的な麻痺を狙って、トウキョウ租界の重要拠点を一気に叩き潰すつもりか! このままでは、総督府すら危険に晒される!)

レオンハルトは、瞬時にゼロの意図を読み取った。ユーフェミアの演説は、確かに一部の人々の心を動かしたかもしれないが、冷徹な戦略家であるゼロにとって、それは利用すべき最大の隙でしかなかったのだ。

 

「モニカ、ユーフェミア様を頼む! スザクとも連携し、何としても殿下を安全な場所へ! 影の騎士団は殿下の護衛に専念!」

レオンハルトは、通信で的確に指示を飛ばす。

「しかし、あなたは!?」モニカが不安げに問い返す。

「俺は、ゼロのこの攻勢を止める! これ以上、この都市を好き勝手にさせるわけにはいかない! 必ず後から合流する!」

彼の声には、絶対的な決意が込められていた。

 

『ジークフリート・レジーナ』は、ユーフェミアとモニカを背に、単機で黒の騎士団の主力部隊が向かっていると思われる方向へと急行した。それは、トウキョウ租界の行政機能が集まる官庁街、そしてブリタニア軍の主要な通信施設が存在するエリアだった。もしここを落とされれば、エリア11のブリタニア統治は致命的な打撃を受ける。

「オーディン・アイ・ネクスト、敵部隊の編成と進撃ルートを詳細に分析。最も効果的な迎撃ポイントを割り出せ!」

レオンハルトの脳内には、複雑な戦術マップが展開され、無数のシミュレーションが繰り返される。

 

官庁街に到達したレオンハルトが目にしたのは、既に黒の騎士団の精鋭部隊――藤堂鏡志朗率いる月下部隊と、カレンの紅蓮弐式、そして多数の無頼――が、ブリタニア軍の防衛ラインを突破し、重要施設へと迫っている光景だった。

「ここまでか…! だが、これ以上は行かせんぞ、黒の騎士団!」

『ジークフリート・レジーナ』は、その白銀の翼を翻し、黒の騎士団の前に敢然と立ちはだかった。

「白銀の悪魔…! やはり出てきたか!」藤堂が苦々しげに呟く。

「今度こそ、あんたを倒す!」カレンの紅蓮弐式が、輻射波動を構えて突進してくる。

 

レオンハルトは、冷静に敵の布陣を見極めた。藤堂の月下部隊は統率が取れており、カレンの紅蓮弐式は圧倒的な破壊力を持つ。そして、その背後には、ゼロの巧妙な指示が隠されているはずだ。

(多勢に無勢…だが、俺の目的は殲滅ではない。時間稼ぎと、敵の勢いを削ぐことだ!)

『ジークフリート・レジーナ』は、ツヴァイヘンダー・ランツェをランスモードに変形させ、まず最も突出してきた紅蓮弐式へと狙いを定める。しかし、それは陽動。ランスの先端から放たれたヴァリス「ケーニッヒスシュトラール」の閃光は、紅蓮弐式を牽制しつつ、その後方にいた月下部隊の連携を乱すように、計算され尽くした角度で撃ち込まれた。

「なっ…!?」

藤堂たちが一瞬体勢を崩した隙に、『ジークフリート・レジーナ』は驚異的な加速で月下部隊の側面に回り込み、ソードモードに切り替えたツヴァイヘンダー・ランツェで、次々と月下の四肢や武装を的確に破壊していく。その動きは、もはや予測不能な領域にあり、藤堂や四聖剣ですら、完全に対応することができない。

「くそっ、この男、なぜこれほどまでに我々の動きを読めるのだ!?」

千葉が叫ぶ。

 

しかし、ゼロの策略はそれだけではなかった。レオンハルトが月下部隊に集中している隙を突き、別動隊の無頼が、官庁街のビル群を利用して、レオンハルトの死角から奇襲を仕掛けてきたのだ。

「レオンハルト様、上です!」遠く離れたモニカからの悲鳴に近い警告。

だが、レオンハルトは冷静だった。「オーディン・アイ・ネクスト」は、既にその奇襲を予測し、回避パターンを算出していたのだ。

『ジークフリート・レジーナ』は、まるで背中に目があるかのように、最小限の動きで奇襲を回避し、反撃のヴァリスで敵機を撃墜する。

 

「面白い…実に面白いぞ、白銀の悪魔! だが、いつまで持つかな?」

ゼロの嘲るような声が、戦場に響く。彼は、この戦いを、まるでチェスの盤面のように楽しんでいるかのようだった。

 

トウキョウ租界の炎は、まだ消えない。ユーフェミアの勇気ある声は、確かに波紋を広げたが、戦いは新たな局面を迎え、より激しさを増していた。白銀の騎士は、圧倒的な数の敵を前に、それでもなお、自らの信じるもののために戦い続ける。彼の選択と行動が、このブラックリベリオンの結末に、そしてエリア11の未来に、どのような影響を与えるのか。それは、まだ誰にも予測できない。ただ、確かなことは、彼の戦いが、多くの人々の運命を左右するであろうということだけだった。

 

 

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