コードギアス:静観者のアリア   作:F.M

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第28話:漆黒の巨影、白銀の神髄、そして終焉の黒き反乱

 

トウキョウ租界官庁街上空に突如として出現した漆黒の巨人、ナイトメアフレーム「ガウェイン」は、その圧倒的なまでの威容と、両肩に搭載されたハドロン砲から放たれる不気味なエネルギーの波動によって、戦場にいた全ての者の動きを一瞬にして凍りつかせた。ブリタニア兵も、黒の騎士団の兵士も、そして先ほどまで死闘を繰り広げていた藤堂鏡志朗やカレン・シュタットフェルトさえも、その規格外の存在感を前に、ただ息を呑むしかなかった。それは、既存のKMFの概念を根底から覆すかのような、異次元の脅威だった。

 

「ガウェインか! 神根島でブリタニアが開発していたものを、ゼロの奴が盗み出したというのか! そして、あのコックピットの反応…複数…まさか、ゼロとC.C.の二人乗りか!」

レオンハルト・ジークフリート・アイゼンは、『ジークフリート・レジーナ』のコックピットで、目の前に立ちはだかる漆黒の巨人を冷静に分析していた。彼の表情には、驚愕と最大限の警戒の色が浮かんでいたが、その瞳の奥には、この未知なる敵に対する挑戦的な光が宿っていた。原作知識を持つ彼にとって、ガウェインの存在とその恐るべき性能は既知のものであった。しかし、実際にこうして対峙するのは初めてであり、そのプレッシャーは想像を遥かに超えていた。特に、ゼロとC.C.というギアスに深く関わる二人が同時に搭乗しているという事実は、この戦いが単なるKMF同士の物理的な戦闘ではなく、ギアスという不可視の力が複雑に絡み合う、予測不可能な領域へと突入したことを意味していた。

 

「レオンハルト・アイゼン…『白銀の悪魔』よ。貴様の力、確かに見事だ。だが、このガウェインの前では、いかなる騎士も無力と知れ!」

ゼロの合成音声が、ガウェインの外部スピーカーを通じて、戦場に傲然と響き渡った。その声には、絶対的な自信と、レオンハルトへの明確な敵意が込められている。

次の瞬間、ガウェインの両肩に搭載されたハドロン砲が、禍々しい紫色の光を収束させ始めた。それは、戦略級の破壊力を持つ、ガウェイン最大の武器。まともに喰らえば、いかなるナイトメアフレームも一瞬で塵芥と化すだろう。

 

(ハドロン砲…! 原作通りならば、その威力は絶大だが、チャージに若干の時間を要し、そして発射後の反動も大きい。さらに、あの巨体では、精密な回避行動は不得手なはずだ。そして何より、あのドルイドシステムによる未来予測…あれこそがガウェインの真の厄介さ。だが、それも完全ではない。予測にはパターンがあり、それを逆手に取れば…!)

レオンハルトの脳内では、「オーディン・アイ・ネクスト」がガウェインのスペックデータ(原作知識と、これまでの断片的な情報を元に構築されたもの)と、ゼロ、C.C.の思考パターンを照合し、超高速で最適な戦闘シミュレーションを繰り返していた。彼は、恐怖に怯むどころか、この強大な敵をどう攻略するかという、戦術家としての本能を最大限に研ぎ澄ませていた。

 

「C.C.、ハドロン砲、発射準備!」

「了解だ、ルルーシュ」

ガウェインのコックピット内で、二人の会話が交わされる。C.C.がメインの操縦とハドロン砲の制御を行い、ルルーシュがドルイドシステムを駆使して戦術指揮を執る。それが、ガウェインの基本的な運用方法だった。

 

ハドロン砲の砲口が、確実に『ジークフリート・レジーナ』を捉え、強烈なエネルギーが解放されようとした、その刹那――

「甘い!」

『ジークフリート・レジーナ』は、まるでゼロの思考を先読みしたかのように、ハドロン砲の発射軸線からコンマ数秒のタイミングで、高速スライド移動を開始。同時に、ヴァリス「ケーニッヒスシュトラール」を、ガウェインの巨大な脚部関節に向けて、連続して精密射撃を見舞った。

「なっ…!? 回避しただと!? ドルイドシステムの予測を、さらに上回る動きだとでもいうのか!?」

ゼロが驚愕の声を上げる。レオンハルトは、ドルイドシステムの予測パターンを逆手に取り、あえて予測されやすい単純な直線回避と見せかけ、その直後に予測不能なフェイントを織り交ぜることで、ハドロン砲の照準を完璧に狂わせたのだ。

ガウェインの脚部に着弾したヴァリスの弾丸は、その重装甲を貫通するには至らなかったが、確実にダメージを与え、その巨体のバランスをわずかに崩させた。

 

「C.C.! 体勢を立て直せ! あの白銀の機体、我々の予測データを学習し、それを超える動きをしているぞ!」

「分かっている! だが、この巨体で、あの小さな蝿のような動きに対応するのは骨が折れる!」

C.C.もまた、レオンハルトの神業的な操縦技術に、内心で舌を巻いていた。

 

レオンハルトは、一瞬の好機を逃さなかった。『ジークフリート・レジーナ』は、エンジェルフェザーを駆使し、ガウェインの死角へと回り込みながら、ツヴァイヘンダー・ランツェをソードモードで構え、その白銀の刃を、ガウェインの比較的装甲の薄いスラスターユニットやセンサー類に向けて、嵐のような連続斬撃を叩き込んでいく。

「ハドロン砲だけが取り柄の、鈍重な的ではないか! その巨体、俺にとっては格好の的だ!」

レオンハルトの挑発的な言葉が、ゼロの神経を逆撫でする。

「小賢しい真似を! C.C.、ゲフィオンネット展開! あの機体の動きを封じろ!」

ガウェインの指先から、特殊なエネルギーフィールドを展開するゲフィオンネットが射出され、『ジークフリート・レジーナ』の動きを拘束しようとする。

「それも予測済みだ!」

レオンハルトは、ギアスキャンセラー『シールド・オブ・ヴァルハラ』のエネルギーフィールドを応用し、ゲフィオンネットの干渉を一時的に無力化。逆に、そのエネルギーの余波を利用して、ガウェインのセンサーシステムに強烈なノイズを送り込み、その索敵能力を大幅に低下させた。

 

「な…何だこの現象は!? ドルイドシステムが正常に機能しない!」

「センサーにも強力なジャミングが! アイゼン、貴様、一体何をした!?」

ゼロとC.C.が、かつてないほどの動揺を見せる。彼らの最大の武器である情報アドバンテージが、レオンハルトの未知の技術によって無効化されつつあったのだ。

 

(ギアスキャンセラーの副次効果か…あるいは、オーディン・アイ・ネクストとの相乗効果か。いずれにせよ、これで奴らの目は一時的に潰せた!)

レオンハルトは、この好機を逃さず、再び猛攻を開始する。『ジークフリート・レジーナ』は、ガウェインの巨体を翻弄し、その装甲の隙間を的確に狙い、次々とダメージを与えていく。ハドロン砲は、もはや脅威ではなく、その巨大なエネルギーチャージの隙は、格好の攻撃チャンスとなっていた。

戦況は、誰の目にも明らかだった。白銀の騎士が、漆黒の巨人を圧倒している。それは、単なるKMFの性能差ではなく、パイロットの技量、戦術眼、そして何よりも、相手の能力を見抜き、それに対応する知性の差がもたらした結果だった。

 

「くそっ…! このままでは…! これほどの男が、ブリタニアにいるとは…!」

ゼロは、ガウェインの損傷が拡大していくのを感じ、仮面の下で苦渋の表情を浮かべた。このまま戦闘を継続すれば、ガウェインは撃墜され、自分たちも捕虜となるだろう。それは、黒の騎士団にとって致命的な敗北を意味する。これ以上の戦闘は無意味だ。撤退し、再起を図らねばならない。そう判断した、まさにその時だった。

 

突如、ゼロのコックピット内に、最優先緊急通信が割り込んできた。それは、アッシュフォード学園に潜伏させていた協力者からの、絶望的な報告だった。

『ゼロ様! 大変です! ナナリー様が…ナナリー様が、正体不明のKMFに連れ去られましたッ!! V.V.と名乗る子供のような人物が…!』

 

その言葉は、ゼロ…ルルーシュ・ランペルージにとって、世界の終わりを告げる鐘の音のように響いた。

「な……なんだと……? ナナリーが……V.V.に……攫われた……?」

彼の仮面の下の表情が、一瞬にして凍りつく。全ての思考が停止し、目の前の戦闘も、黒の騎士団の運命も、ブリタニア打倒という野望さえも、彼の頭の中から消し飛んだ。ただ一つ、愛する妹の身に起こった最悪の事態だけが、彼の心を支配した。

「馬鹿な…ありえない…! なぜだ…! 誰だ、V.V.とは…!」

彼の声は、もはやゼロとしての威厳はなく、ただの兄、ルルーシュ・ランペルージの悲痛な叫びだった。

 

「ルルーシュ、しっかりしろ! 今は戦闘中だぞ!」

C.C.が叱咤するが、彼の耳には届いていない。

「撤退だ…全軍、撤退する! ナナリーを…ナナリーを探しに行かねば…!」

ゼロは、全ての作戦行動を放棄し、ガウェインの進路をアッシュフォード学園へと向けようとした。その姿は、もはや革命の指導者ではなく、ただ妹の安否だけを気遣う、一人の脆い人間に戻っていた。

 

レオンハルトは、その突然の変化と、ゼロの通信内容の断片(「ナナリー」「V.V.」といったキーワード)を「オーディン・アイ・ネクスト」が傍受したことで、即座に事態を正確に把握した。

(ナナリー・ランペルージが、V.V.に攫われたのか…! やはり、原作通り、このタイミングで…。だから、ゼロは全ての戦闘を放棄して撤退するのか。彼の最大の弱点は、いつだってナナリーだ。これでは、黒の騎士団は…)

彼の表情に、憐憫とも、あるいはある種の納得ともつかない複雑な色が浮かんだ。「…やはり、撤退したか、ゼロ」 彼の低い呟きは、誰に聞かれるでもなく、コックピット内に虚しく響いた。

 

ガウェインが戦場から離脱を開始したことで、黒の騎士団の他の部隊もまた、絶対的な指導者であるゼロの突然の撤退命令と、その理由不明の行動に、指揮系統を失い、混乱状態に陥り始めた。統率を失った軍隊ほど脆いものはない。

 

「今だ! 総攻撃をかけよ! 黒の騎士団を一人残らず殲滅するのだ!」

この好機を逃さず、コーネリアの命令が戦場に響き渡る。ブリタニア軍は、勢いを取り戻し、混乱する黒の騎士団へと猛反撃を開始した。

藤堂やカレン、四聖剣といった幹部たちは、必死に部隊をまとめ、撤退しようと試みるが、一度崩れた戦線を立て直すことは容易ではなかった。

レオンハルトもまた、この状況を静観するわけにはいかなかった。彼は、ユーフェミアとモニカの安全を確保した後、再び戦場へと戻り、ブリタニア軍の追撃を援護し、黒の騎士団の残党を掃討していった。しかし、彼の心には、先ほどのゼロの絶望に満ちた声と、彼が愛する妹のために全てを投げ打とうとする姿が、重く残っていた。

(ルルーシュ…お前は、これからどうするつもりだ? そして、V.V.とギアス嚮団…彼らの本当の目的は何だ?)

彼の原作知識が、次なる脅威と、より大きな陰謀の存在を示唆していた。

 

ブラックリベリオンは、こうして、ゼロという絶対的な指導者の突然の戦線離脱と、それに伴う黒の騎士団の内部崩壊によって、急速に終息へと向かった。ブリタニア軍は、一時は壊滅寸前まで追い詰められたものの、最終的には勝利を収め、エリア11の支配体制を維持することに成功した。

しかし、その勝利はあまりにも多くの犠牲と、そして拭いきれないほどの憎悪と不信を人々の心に残した。ユーフェミアの理想は踏みにじられ、黒の騎士団は壊滅し、そしてゼロは姿を消した。

 

戦いが終わったトウキョウ租界の焼け跡で、レオンハルトは、満身創痍の『ジークフリート・レジーナ』のコックピットから、静かに空を見上げていた。

(終わった…のか? いや、これは、新たな始まりに過ぎないのかもしれない。ルルーシュは、ナナリーを取り戻すために、必ず再び動き出すだろう。そして、ギアスという力は、依然としてこの世界に存在し続ける…そして、V.V.という新たな敵も…)

彼の戦いは、まだ終わらない。ユーフェミアを守り、そしてこの世界の歪みを正すための戦いは、これからが本番なのだ。

白銀の騎士の瞳には、疲労の色と共に、未来への、そして自らの使命への、静かで、しかし揺るぎない決意が宿っていた。ブラックリベリオンの終焉は、彼にとって、新たなIFの物語の幕開けを意味していたのかもしれない。

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