コードギアス:静観者のアリア   作:F.M

28 / 39
第29話:白銀の騎士叙任と帝都の胎動、そしてエリア11の新たなる波紋

 

ブラックリベリオンの嵐がエリア11を席巻し、そしてゼロというカリスマ的指導者を失った黒の騎士団の瓦解と共にその終焉を迎えてから、数ヶ月の歳月が流れていた。トウキョウ租界の街並みには、未だ戦いの傷跡が生々しく残り、人々の心にも深い影を落としていたが、それでもブリタニア軍による懸命な復興作業と、ユーフェミア・リ・ブリタニア副総督の(公にはまだ限定的だが、しかし着実な)融和への働きかけにより、エリア11は徐々にではあるが、脆く、そしてどこか虚ろな、束の間の落ち着きを取り戻しつつあった。あの血塗られた式典の真相は、未だブリタニアの公式発表の裏に隠されたままであり、ユーフェミアは「虐殺皇女」という汚名を(一部ではあるが)着せられたままだったが、彼女の真摯な姿に触れた者たちの間では、静かながらも彼女を信じる声が広がり始めていた。

 

この未曾有の大規模反乱において、神聖ブリタニア帝国特務少佐レオンハルト・ジークフリート・アイゼンが果たした功績は、計り知れないものがあった。混乱の極みにあった式典会場からユーフェミア副総督の身柄を保護し、黒の騎士団の精鋭部隊、特に藤堂鏡志朗やカレン・シュタットフェルトといったエースパイロットたちを相手に互角以上の戦いを繰り広げ、さらにはゼロの切り札であったはずの試作KMFガウェインを一時的にとはいえ戦術的撤退に追い込んだ。そして何よりも、官庁街の死守と、その後の黒の騎士団残党掃討作戦における彼の的確な指揮と、愛機『ジークフリート・レジーナ』の圧倒的な戦闘能力は、ブリタニア軍の最終的な勝利に大きく貢献したと、コーネリア総督をはじめとする軍上層部から、そして帝都ペンドラゴンの皇帝陛下の耳にまで、高く評価された。

 

その功績を認められ、レオンハルトは帝都ペンドラゴンに召喚され、神聖ブリタニア帝国第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニア陛下より、直々にナイトオブラウンズの称号を授与されるという、破格の栄誉を受けることとなった。彼に与えられたのは、かつて枢木スザクに内定していたものの、彼がユーフェミアの専任騎士の道を選んだために(そして、その後の式根島での一件もあり)空席となっていた「ナイトオブセブン」の地位だった。弱冠二十歳そこそこの若さで、しかもエリアス出身の軍人が、帝国の守護者たる最強の騎士団の一員となることは、ブリタニアの長い歴史の中でも極めて異例のことであり、彼の名声は「白銀の英雄」として、あるいは一部では依然として「白銀の悪魔」として、ブリタニア全土に轟くこととなった。

 

帝都ペンドラゴンの壮麗にして荘厳な宮殿、アリエスの離宮。その謁見の間は、この日のために特別に設えられ、厳粛な雰囲気と、皇帝陛下の絶対的な威光に満ちていた。天井からは、数万のクリスタルでできた巨大なシャンデリアが、まるで天上の星々のような眩い光を放ち、磨き上げられた黒曜石の大理石の床には、壁面に並ぶ巨大なステンドグラスから差し込む色とりどりの光と、居並ぶ帝国貴族や高官たちの豪奢な装いの姿が、万華鏡のように映り込んでいる。その中央を、レオンハルトは、ナイトオブラウンズの正装である純白の騎士服に身を包み、背筋を天に伸ばすかのように、一歩一歩、玉座へと進んでいた。彼の胸には、エリア11での激戦を戦い抜いた者だけが持つことのできる、静かな自信と、しかしどこか、この華やかな世界の裏に潜む深い闇を見据えるかのような、憂いを帯びた影が同居していた。

 

玉座に座す皇帝シャルル・ジ・ブリタニアは、その常人離れした巨躯と、全てを見透かし、そして全てを支配するかのような鋭い眼光で、ゆっくりと近づいてくるレオンハルトを見据えていた。その圧倒的な存在感は、それだけで周囲の空気を震わせ、人々を畏怖させる。その傍らには、帝国宰相にして第二皇子、シュナイゼル・エル・ブリタニアが、いつものように穏やかで人当たりの良い笑みを浮かべて控えているが、そのアイスブルーの瞳の奥には、レオンハルトという新たな「駒」の価値を冷静に測るかのような、怜悧な光が宿っていた。

そして、玉座の周囲には、既にナイトオブラウンズの称号を持つ騎士たちが、まるで神話の英雄たちのように、それぞれの強烈な個性を放ちながら整列していた。ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインの、鋼のような肉体と、全てを圧するような覇気。陽気で社交的なようでいて、その実、底知れない実力と野心を隠し持つナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグ。常に無表情で、まるで精巧な人形のように美しいが、その瞳には何も映していないかのような虚無感を漂わせるナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイム。そして、ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキーもまた、その列に誇らしげに、しかしどこか緊張した面持ちで加わり、レオンハルトの姿を、特別な想いを込めて見守っていた。

 

「レオンハルト・ジークフリート・アイゼン。エリア11における貴様の働き、誠に見事であった。特に、我が娘ユーフェミアを守り抜き、反乱分子の鎮圧に多大なる貢献をしたこと、朕は高く評価する。その功績は、ブリタニアの全ての騎士の模範となるであろう」

皇帝の、地響きのような、しかし威厳に満ちた声が、謁見の間に厳かに響き渡る。その声は、万物を支配する神の宣告のようだった。

「その功績に報い、本日をもって、貴様をナイトオブセブンに叙任する。この『ガラハッド』の名誉にかけて、今後も、ブリタニア帝国のため、その剣を振るい、朕への絶対の忠誠を尽くすがよい」

(ガラハッド…それは、ナイトオブワン、ビスマルクの機体の名のはずだが…? 皇帝は、俺に何を期待しているのだ…?)レオンハルトは内心で訝しんだが、表情には一切出さなかった。

「はっ! 皇帝陛下の御期待に沿えるよう、このレオンハルト・ジークフリート・アイゼン、粉骨砕身、神聖ブリタニア帝国への、そして皇帝陛下への絶対の忠誠を、ここに誓います!」

レオンハルトは、深々と、そして完璧な角度で頭を下げ、力強く、そして明瞭に、しかしその声には一切の感情を乗せずに応えた。その内心では、この皇帝こそがギアス嚮団と深く繋がり、世界の真理を歪め、多くの悲劇を生み出そうとしている元凶の一人であるという原作知識が、冷たい刃のように彼の心を突き刺していた。この男に忠誠を誓うことの矛盾と欺瞞。だが、今はまだ、その感情を表に出すわけにはいかない。彼の目的のためには、この仮面を被り続けなければならないのだ。

 

叙任式が終わり、レオンハルトは他のナイトオブラウンズたちと共に、皇帝主催の、しかしラウンズとその側近のみが招かれた、ささやかな祝賀の宴の席に招かれた。そこで彼は、初めて他のラウンズたちと、より個人的な形で言葉を交わす機会を得た。

「よう、新入りのナイトオブセブン! レオンハルト・アイゼン、だったな? いやあ、君の噂はペンドラゴンでも持ちきりだよ! 特に、あの『ジークフリート・レジーナ』とかいう白いKMFの戦いぶりは、まるで伝説みたいだってね! 俺はナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグだ。これからよろしく頼むよ、先輩!」

ジノは、まるで太陽のような屈託のない笑顔でレオンハルトに近づき、気さくに、そして馴れ馴れしく話しかけてきた。その裏表のない態度は、一見すると好感が持てたが、レオンハルトは、彼のその陽気さの裏に隠された、鋭い観察眼と、決して油断ならない何かを、瞬時に感じ取っていた。

「ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインだ。貴官のエリア11での武勇、そしてユーフェミア殿下をお守りした忠誠心、皇帝陛下も高く評価しておられる。今後、ナイトオブラウンズの一員として、共にこの帝国を守る者として、その力、大いに期待している。何か困ったことがあれば、遠慮なく私を頼るがいい」

ビスマルクは、寡黙で厳格な印象を与えながらも、その言葉には確かな重みと、そしてレオンハルトの実力を素直に認める、武人としての潔さが感じられた。彼の左目に隠された「未来を視る」ギアス(キングスレイヤー)の存在を、レオンハルトは知っていた。この男とは、いずれ、その信念の違いから、刃を交えることになるかもしれない。

そして、アーニャ・アールストレイムは、相変わらず無表情のまま、ただ小さなデジタルカメラでレオンハルトの姿をカシャカシャと撮影しているだけだった。彼女のその行動の真意は、誰にも読み取れない。

 

モニカは、他のラウンズたちの輪から少し離れた場所で、レオンハルトに近づくと、そのアクアマリンの瞳を潤ませながら、小さな声で、しかし心からの祝福を伝えた。

「レオンハルト…本当に、本当におめでとうございます。あなたが、ナイトオブセブンに…まるで、夢のようです。士官学校の頃から、あなたはいつも私の先を行っていましたが…まさか、こんなにも早く、ラウンズとして肩を並べる日が来るなんて…」

彼女の声には、純粋な喜びと、そして彼への深い尊敬の念、さらには、彼がこれから背負うであろう重責への気遣いが込められていた。

「ありがとう、モニカ。君が、ナイトオブトゥエルブとして、先にこの場所に立っていてくれたからこそ、俺もここまで来れたのかもしれない。君の存在は、いつも俺の励みになっている」

レオンハルトは、彼女にだけ分かるように、その声に温かい響きを乗せて応えた。二人の間には、言葉にしなくても通じ合う、深い信頼と、そしてそれ以上の何かが、確かに存在していた。

 

宴が和やかに(少なくとも表面上は)進む中、レオンハルトは、シュナイゼル宰相に個別に、彼の執務室へと招かれた。宰相の執務室は、彼の知性と完璧主義を象徴するかのように、一点の乱れもなく整然としており、しかしどこか人間味の感じられない、冷たい空気が漂っていた。窓の外には、ペンドラゴンの壮麗な夜景が広がっているが、その光は、この部屋の主の心の奥底までは照らせないかのようだった。

「改めて、ナイトオブセブン叙任、心からお祝い申し上げるよ、アイゼン卿。君のエリア11での活躍は、私の予想を遥かに超える、素晴らしいものだった。特に、あの黒の騎士団の切り札であったはずのガウェインを、一時的にとはいえ戦闘不能に追い込んだ君の戦術と技量は、賞賛に値する。そして何よりも、ユーフェミアを無事に保護してくれたことには、兄として、深く感謝している」

シュナイゼルのアイスブルーの瞳が、まるで獲物を品定めするかのように、レオンハルトを射抜くように見つめる。その穏やかな笑みの裏には、鋭い計算と、決して本心を見せない深い謀略が隠されていることを、レオンハルトは知っていた。

「恐縮です、宰相殿下。ですが、結果としてゼロを取り逃がし、ブラックリベリオンという大規模な反乱を完全に防げなかったことは、私の力不足、不徳の致すところです」

「ふふ、謙遜はよしたまえ、アイゼン卿。ゼロは、確かに我々にとって厄介な存在だ。だが、それ以上に警戒すべきは、彼が使う『ギアス』という得体の知れない力、そしてその力の背後にいるかもしれない、さらに大きな、そして邪悪な存在だ。君は、何か特別な情報を掴んでいるのではないかね? 例えば…神根島での出来事の真相や、あるいは、V.V.という謎の人物について…そして、我が父、皇帝陛下が追い求める、世界の真理について…」

シュナイゼルの言葉は、まるでレオンハルトの心の奥底まで全て見透かしているかのような、確信に満ちた響きを持っていた。彼の情報網は、レオンハルトが神根島でのガウェインの出自に言及したことや、あるいはそれ以前の、レオンハルトの不可解なまでの先見性や、ギアスキャンセラーという未知の技術について、既に詳細な情報を掴んでいるのかもしれない。

レオンハルトは、一瞬、全身の血が凍りつくような感覚に襲われたが、すぐに完璧なポーカーフェイスを取り戻した。

「…宰相殿下は、一体何をお知りになりたいのですか? 私は、ナイトオブラウンズの一員として、帝国に忠誠を誓う一介の騎士に過ぎません。帝国の深奥に関わるような、高度な機密事項については、残念ながら、何も存じ上げておりません。ただ、与えられた任務を、全力で遂行するのみです」

彼は、慎重に、そして曖昧に言葉を選び、シュナイゼルの巧みな探りには決して乗らなかった。原作知識というあまりにも危険なカードを、この男の前で安易にちらつかせることは、自らの破滅を意味する。

シュナイゼルは、そのレオンハルトの反応を、まるで面白い芝居でも見ているかのように、興味深そうに眺め、そして、ふっと、まるで全てを理解したかのような、しかしその真意は決して読ませない笑みを漏らした。

「そうかね? まあ、いいだろう。だが、一つだけ覚えておきたまえ、アイゼン卿。君のその類稀なる才能と、君が持つ『何か』は、帝国にとって大きな力となるが、同時に、その使い方をほんの少しでも間違えれば、帝国そのものを揺るがしかねない、危険極まりない刃ともなり得る。私は、君に大いに期待しているよ。良き方向へと、その力を、そして君の『秘密』を使ってくれることをね。我々の…いや、世界の未来のために」

その言葉は、心からの激励のようでもあり、そして同時に、決して逃れられない運命を告げるかのような、冷たい警告のようでもあった。

 

帝都ペンドラゴンの夜は、エリア11のそれとは全く異なる、華やかで、しかしどこか虚ろで、そして底知れないほどの深い闇を隠した光に満ちていた。レオンハルトは、ナイトオブセブンという新たな地位と、それに伴う計り知れない重責、そして帝国中枢に渦巻く複雑怪奇な思惑と陰謀の気配を感じながら、自らに与えられた豪華な執務室の窓から、その欺瞞に満ちた光景を見下ろしていた。

(シャルル皇帝、シュナイゼル宰相、ビスマルク・ヴァルトシュタイン…そして、V.V.とギアス嚮団。俺の戦うべき本当の敵は、この帝都にこそいるのかもしれない。ユーフェミア様を守り、そしてこの世界の歪みを正すためには、この光と影が複雑に交錯する場所で、俺は、俺たちは、戦い抜かなければならないのだ)

白銀の騎士の瞳には、エリア11の戦場で燃えていた直接的な闘志とはまた異なる、より深く、そしてより冷徹な、まるで研ぎ澄まされた刃のような決意の光が灯っていた。彼の新たな戦いは、今、この帝国の心臓部、ペンドラゴンから始まろうとしていた。そして、その戦いは、やがて世界全体の運命を、そして彼自身の運命をも、大きく左右することになるだろう。

 

エリア11では、ブラックリベリオンの傷跡が癒えぬ中、ユーフェミアが、スザクという騎士を得て、そして遠く帝都でラウンズとなったレオンハルトとモニカの存在を心の支えとしながら、自らの理想である「行政特区日本」の実現に向けて、再び静かに、しかし力強く歩みを進めようとしていた。彼女のその行動が、新たな希望となるのか、それともさらなる悲劇の引き金となるのか、それはまだ誰にも分からなかった。

一方、アッシュフォード学園では、記憶を改竄され、弟ロロと共に偽りの学園生活を送るルルーシュ・ランペルージの姿があった。彼の失われた記憶の奥底には、ゼロとしての野望と、ナナリーへの愛、そしてユーフェミアへの罪悪感が、まるで時限爆弾のように眠り続けていた。C.C.は、その彼の傍らで、静かに、そして虎視眈々と、彼が再び「王」として覚醒する日を待ち続けていた。

黒の騎士団の残党たちは、指導者を失い、ブリタニア軍の追撃を逃れながら、各地で潜伏活動を続けていた。彼らの心には、ゼロへの変わらぬ忠誠心と、いつか必ずや再起を果たすという不屈の闘志が燃え続けていた。藤堂やカレンといった実力者たちは、バラバラになった仲間たちをまとめ上げ、反撃の機会を窺っていた。

そして、世界の影では、V.V.率いるギアス嚮団が、シャルル皇帝の壮大な計画「ラグナロクの接続」を実現すべく、不気味な胎動を始めていた。彼らの存在は、まだ世界の表舞台には現れていないが、その影響力は、確実に世界の運命を蝕み始めていた。

 

物語は、R2の開幕を予感させる、新たな波乱の匂いを孕んで、静かに、しかし確実に動き出していた。レオンハルト・アイゼンは、ナイトオブセブンとして、そしてユーフェミアを守る騎士として、この複雑に絡み合った運命の糸を、どう解きほぐし、そしてどのような未来を紡ぎ出していくのだろうか。彼の戦いは、まだ始まったばかりだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。