ナイトオブセブン、レオンハルト・ジークフリート・アイゼンと、ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキー。二人の若きラウンズが、それぞれ進化した愛機『ジークフリート・レジーナ・イグニス』と『ディアナ・フェンサー・ルミナ』と共にエリア11へと正式に帰還してから、数ヶ月の歳月が流れた。ブラックリベリオンという未曾有の大規模反乱が残した爪痕は依然としてエリア11の各地に深く刻まれ、トウキョウ租界の復興は道半ばであったが、ブリタニア軍の統治体制は徐々にその機能を取り戻し、表面上は一応の落ち着きを見せ始めていた。しかし、その静けさは、まるで嵐の前の静けさのように、どこか脆く、そして不気味なまでの緊張感を孕んでいた。
エリア11副総督ユーフェミア・リ・ブリタニアは、先の式典での悲劇的な事件と、その後の潜伏生活、そしてレオンハルトから明かされた衝撃的な真実を経て、精神的に大きく成長し、その瞳には以前にも増して強い意志の光を宿していた。「虐殺皇女」という汚名は、ブリタニアの公式発表の操作と、レオンハルトやモニカ、そして姉であるコーネリア総督(彼女もまた、妹の身に起こった不可解な事件の真相を独自に探ろうとしていた)の尽力により、完全ではないものの、ある程度は「何者かに操られた悲劇の皇女」という同情的な見方へと変化しつつあった。しかし、ユーフェミア自身は、決してその記憶から目を背けることなく、自らの名の下に多くの命が失われたという事実を重く受け止め、その償いと、そして真の平和実現のために、全霊を捧げる覚悟を決めていた。
彼女は、騎士となった枢木スザクと共に、エリア11内のブリタニア人とナンバーズ双方の代表者たちと精力的に対話を重ね、相互理解と融和の道を模索し続けていた。「行政特区日本」の構想は、形を変え、より現実的で段階的なものとして再検討され、その実現に向けて、彼女は水面下で粘り強い努力を続けていた。スザクは、そんなユーフェミアの純粋な理想と、彼女が背負う運命の過酷さを誰よりも理解し、ただひたすらに、彼女の剣として、そして盾として、その傍らに仕え続けていた。「生きろ」というギアスの呪縛は、依然として彼の行動に影響を与えていたが、ユーフェミアという守るべき存在が、彼の精神的な支えとなっていた。
レオンハルトとモニカは、ナイトオブラウンズとして、エリア11の治安維持と再建、そして依然として散発的に活動を続ける黒の騎士団残党の掃討といった任務に従事していた。彼らの専用機は、その圧倒的な性能をもって、いかなる抵抗勢力をも寄せ付けず、エリア11のブリタニア軍にとって絶対的な抑止力となっていた。しかし、レオンハルトの真の戦いは、帝都ペンドラゴンの中枢にこそあった。彼は、ラウンズとしての立場を利用し、皇帝シャルル・ジ・ブリタニアやシュナイゼル宰相の動向、そして何よりもギアス嚮団とV.V.の暗躍に関する情報を、モニカと共に慎重に収集し続けていた。原作知識を持つ彼にとって、それらの存在こそが、この世界の歪みと悲劇の根源であることを理解していたからだ。ギアスキャンセラー『シールド・オブ・ヴァルハラ』のさらなる改良と、その小型化、そして可能であれば量産化に向けた研究も、両親の協力を得て極秘裏に進められていた。ユーフェミアの悲劇を二度と繰り返さないために、そして、いつか来るであろう、ギアスという力との全面対決に備えて。
そんな偽りの平和と、水面下での熾烈な情報戦が続くエリア11で、一年という月日が流れようとしていた。ブラックリベリオンの記憶は、人々の心の中で風化しつつあるかのように見えた。
そして、その偽りの日常の中で、最も大きな変化を強いられていたのは、ルルーシュ・ランペルージだった。
黒の騎士団を率い、ブリタニアに反旗を翻した仮面の男ゼロ。その正体は、皇帝シャルルによって記憶を完全に改竄され、アッシュフォード学園で、偽りの弟ロロ・ランペルージと共に、平凡な、しかしどこか空虚な学生生活を送る一人の少年に戻っていた。彼の記憶からは、ゼロとしての野望も、ナナリーへの愛も、そしてユーフェミアへの罪悪感も、全てが消し去られていた。ただ、時折、説明のつかない喪失感や、悪夢にうなされる夜があるだけだった。
しかし、彼の共犯者であり、不死の魔女であるC.C.は、決して諦めてはいなかった。彼女は、ルルーシュの傍らで、あるいは彼の周囲で、彼が再び「王」として覚醒し、自らの運命と契約を果たすその日を、静かに、そして虎視眈々と待ち続けていたのだ。彼女の暗躍は、ブリタニアの監視網を巧みにかいくぐり、黒の騎士団の残党たち――カレン・シュタットフェルト、藤堂鏡志朗、四聖剣、扇要、玉城など――とも密かに連絡を取り合い、再起の時を窺っていた。彼らの心には、ゼロへの変わらぬ忠誠心と、いつか必ずやブリタニアに一矢報いるという不屈の闘志が、消えることなく燃え続けていた。
そして、運命の歯車が再び大きく動き出す、その時は来た。
エリア11に、中華連邦からの使者として、大宦官たちが派遣されてきた。表向きは友好と経済協力のためとされていたが、その裏では、ブリタニアと中華連邦の間の、新たなパワーゲームと、そしてギアスに関わる何らかの陰謀が蠢いていた。
この外交使節団の警護という名目で、アッシュフォード学園の体育館が一時的にブリタニア軍によって接収され、そこに、偶然にも、記憶を失ったルルーシュと、彼を監視するブリタニアの秘密情報部のエージェントたちが居合わせることになる。
そして、その混乱の中へ、C.C.は、黒の騎士団の精鋭部隊と共に、大胆不敵な奇襲を仕掛けた。彼女の目的はただ一つ、ルルーシュ・ランペルージの記憶を覚醒させ、再び彼をゼロとして戦場へと引き戻すこと。
「思い出すがいい、ルルーシュ! お前が誰であり、何を成すべきだったのかを!」
激しい戦闘の最中、C.C.は、傷つき倒れたルルーシュに覆いかぶさり、その唇を重ねた。その瞬間、ルルーシュの脳内に、封印されていた記憶が、激流のように蘇る。ゼロとしての野望、ナナリーへの愛、ユーフェミアへの償いきれない罪悪感、そして、ブリタニアへの燃えるような憎悪。
「そうだ…俺は…ゼロだッ!!!!」
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは、再び、仮面の反逆者ゼロとして覚醒した。その瞳には、紅いギアスの紋様が、以前にも増して強く、そして禍々しく輝いていた。
その報は、瞬く間にエリア11総督府のレオンハルトの元にもたらされた。
「ゼロが…復活した…だと…!?」
彼は、その報告に驚愕しながらも、どこかで予期していた事態の到来に、身の引き締まる思いを感じていた。原作R2の物語が、ついに始まろうとしている。そしてそれは、ユーフェミアの運命を左右する、新たな戦いの始まりでもあった。
「モニカ、緊急事態だ。ゼロが、中華連邦の使節団を襲撃した。おそらく、アッシュフォード学園にいる、記憶を失っていたルルーシュ・ランペルージを覚醒させるためだろう。そして、それは成功した可能性が高い」
「ルルーシュが…ゼロとして…!?」モニカもまた、その報に息を呑んだ。「では、これから…」
「ああ、黒の騎士団は再興され、ブリタニアへの本格的な反撃が再び始まるだろう。そして、我々もまた、否応なくその渦中へと巻き込まれることになる。ユーフェミア様の警護体制を、最大限に強化しなければならない。そして…」
レオンハルトの視線は、帝都ペンドラゴンの方角へと向けられていた。
「…V.V.とギアス嚮団、そして皇帝陛下の動きにも、最大限の警戒が必要だ。彼らが、このゼロの復活をどう利用し、何を仕掛けてくるか…」
帝都ペンドラゴンでは、皇帝シャルルが、ゼロ復活の報を、まるで全てを見通していたかのように、静かに聞いていた。その傍らには、V.V.が、子供のような姿で、しかし不気味な笑みを浮かべて佇んでいる。彼らの壮大な計画「ラグナロクの接続」は、着実にその最終段階へと近づきつつあった。
そして、シュナイゼル宰相もまた、この新たな動乱を、自らの野望を実現するための好機と捉え、冷徹な計算を始めていた。彼の手には、既にフレイヤという、世界を破滅に導きかねない禁断の力が握られようとしていたのだ。
エリア11の空は、再び暗雲に覆われようとしていた。偽りの平和は終わりを告げ、新たな戦いの嵐が吹き荒れようとしている。
白銀の騎士レオンハルトと、黄金の騎士モニカは、ユーフェミアというかけがえのない存在を守るため、そして、この世界の歪みを正すために、その進化し続ける愛機と共に、再び過酷な運命へと立ち向かう。
彼らの前には、復活したゼロ、記憶の枷から解き放たれようとするスザク、そしてギアス嚮団やシュナイゼルといった、さらに強大な敵たちが待ち受けている。
IFの物語は、原作の大きな流れに沿いながらも、レオンハルトとユーフェミアという二つの光によって、確実に、そして新たな希望の萌芽を孕みながら、その次なる章へと進んでいくのだった。