コードギアス:静観者のアリア   作:F.M

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第32話:バベルの攻防、偽りの弟と白銀の真眼、そして新たなる戦場へ

 

 

バベルタワー上空で繰り広げられる、レオンハルト・ジークフリート・アイゼンの『ジークフリート・レジーナ・イグニス』と、ゼロことルルーシュ・ランペルージの駆る『蜃気楼』との死闘は、ブラックリベリオン終結以来、エリア11で最も激しく、そして世界の注目を集める戦いとなっていた。白銀の騎士は、その神業的な操縦技術と、愛機イグニスの圧倒的な性能、そして戦術支援AI「オーディン・アイ・ネクスト」による精密な未来予測を駆使し、蜃気楼の絶対守護領域という鉄壁の防御を誇るゼロを、徐々に、しかし確実に追い詰めていた。ツヴァイヘンダー・ランツェ・ノヴァが蜃気楼の装甲を的確に捉え、その度に黒い機体からは火花と黒煙が上がる。

 

「くっ…! この男、なぜこれほどまでに私の動きを読めるのだ!? ドルイドシステムによる予測すらも、ことごとく覆してくる…! まるで、未来を見ているかのようだ…!」

ゼロは、仮面の下で苦渋の表情を浮かべ、歯噛みしていた。彼の切り札である蜃気楼の絶対守護領域は、確かに強力な防御力を誇るが、レオンハルトはそのエネルギー消費のパターンや、展開の僅かなタイムラグ、そして何よりも、その防御範囲の限界を瞬時に見抜き、的確に弱点を突いてくるのだ。それは、単なるパイロットの技量を超えた、何か異質なまでの戦闘知性だった。

(このレオンハルト・アイゼンという男…ただのナイトオブラウンズではない。彼は、何かを知っている。俺の…いや、ギアスという力の本質すらも、見抜いているかのような動きだ…!)

ゼロの脳裏に、一抹の、しかし無視できない疑念と恐怖が芽生え始めていた。

 

一方、モニカ・クルシェフスキーの『ディアナ・フェンサー・ルミナ』は、カレン・シュタットフェルトの紅蓮可翔式と、熾烈な空中戦を展開していた。黄金の光と真紅の炎が、バベルタワーの周囲で激しく乱舞する。カレンの操縦技術と紅蓮可翔式の近接戦闘能力は驚異的だったが、モニカもまた、ナイトオブトゥエルブとしての誇りと、レオンハルトから学んだ戦術眼、そして愛機ルミナの高速機動性を最大限に活かし、一歩も引かない互角の戦いを繰り広げていた。

「あんたも、あの白いのと同じで、ブリタニアの犬としてイレヴンを虐げるのか!」

「私は、ユーフェミア様の理想を信じている! そして、これ以上の無益な破壊と憎しみの連鎖を止めるために戦っているのよ、カレン・シュタットフェルト!」

二人の女性騎士の信念が、激しい火花と共にぶつかり合う。

 

そして、地上では、枢木スザクの『ランスロット・コンクエスター』が、藤堂鏡志朗の月下(指揮官機)と四聖剣の月下部隊を相手に、孤軍奮闘を続けていた。ランスロットのハドロンブラスターが火を噴き、月下の太刀がそれを迎え撃つ。スザクは、ユーフェミアの騎士として、そして自らの信じる正義のために、獅子奮迅の戦いを見せていたが、藤堂の老練な戦術と、四聖剣の完璧な連携の前に、徐々に消耗を強いられていた。「生きろ」のギアスは、彼に驚異的な生存能力を与えていたが、それは同時に、彼の精神を蝕み、判断力を鈍らせる諸刃の剣でもあった。

 

戦局は、一見するとブリタニア側が優勢に進めているかのように見えた。レオンハルトがゼロを追い詰め、モニカがカレンを抑え込み、スザクが藤堂と四聖剣を足止めしている。しかし、レオンハルトは、この状況に一抹の違和感を覚えていた。

(ゼロが、これほど単純な力押しで来るとは思えん。何か、別の狙いがあるはずだ。このバベルタワーの戦いは、陽動…? だとしたら、真の目的は一体…?)

彼の「オーディン・アイ・ネクスト」が、戦場全体のデータを再分析し、ある一点に警告を発した。それは、バベルタワーの地下深く、ブリタニア軍の厳重な警備下に置かれているはずの、旧日本の重要機密が保管されているとされるエリアだった。

 

その時、レオンハルトの通信に、アッシュフォード学園に残っていた偽りの弟、ロロ・ランペルージからの、途切れ途切れの、しかし必死な連絡が入った。

『兄さん…! 大変だ…! ナナリーが…ナナリーの部屋に、何者かが…!』

その言葉を聞いた瞬間、ゼロの動きが、明らかに変わった。それまでの計算され尽くした動きとは異なり、焦りと、そして抑えきれないほどの怒りに満ちた、獣のような動きへと。

「ナナリーがどうしたというのだ、ロロ! 答えろ!」

ゼロの、仮面の下のルルーシュとしての素顔が、一瞬だけ垣間見えたかのような、激しい感情の迸り。

レオンハルトは、その瞬間を見逃さなかった。そして、全てを理解した。

(やはりそうか、ゼロ…いや、ルルーシュ! お前の真の目的は、このバベルタワーの混乱に乗じて、ナナリーを安全な場所へ移すこと、あるいは、彼女を人質に取られることを恐れての陽動作戦だったのか! そして、そのナナリーに、今、何かが起ころうとしている…!)

彼の原作知識が、ロロ・ランペルージという存在の危険性と、彼が持つ「時を止めるギアス」の恐ろしさを、鮮明に告げていた。

 

「C.C.! 作戦を変更する! 全軍、アッシュフォード学園へと転進! ナナリーを…ナナリーを救出する!」

ゼロの絶叫が、黒の騎士団全軍に響き渡る。それまでの統率された動きは完全に崩れ、黒の騎士団は混乱の中で撤退を開始した。

レオンハルトは、その動きを見て、確信した。

(ロロ…お前が、ナナリーに何かをしたのか? あるいは、V.V.か、ギアス嚮団の仕業か? いずれにせよ、ルルーシュは、今、完全に冷静さを失っている。これは、好機であると同時に、極めて危険な状況だ)

 

レオンハルトは、即座に決断を下した。

「モニカ、スザク! ゼロは撤退する! だが、深追いはするな! それよりも、アッシュフォード学園の状況が緊迫している可能性がある! 我々も急行する!」

彼は、黒の騎士団の追撃よりも、ナナリーの身に何が起こったのか、そしてそれが今後のルルーシュの行動にどう影響するのかを、最優先事項として捉えたのだ。ユーフェミアの悲劇を回避するためには、ルルーシュという存在を、そして彼のギアスを、より深く理解し、コントロールする必要がある。

 

『ジークフリート・レジーナ・イグニス』、『ディアナ・フェンサー・ルミナ』、そして『ランスロット・コンクエスター』の三機は、黒の騎士団の追撃を振り切り、全速力でアッシュフォード学園へと向かった。

学園に到着した彼らが目にしたのは、秘密情報部のエージェントたちの死体と、そして、何事もなかったかのように佇むロロ・ランペルージの姿だった。ナナリーは、部屋の中で無事だったが、怯えきっていた。

「一体、何があったのだ、ロロ! 説明しろ!」

レオンハルトが問い詰めるが、ロロはただ無表情に、「黒の騎士団の残党が、ナナリー様を狙って侵入してきたので、僕が撃退しました」とだけ答えた。その言葉には、感情の起伏が全く感じられない。

(この少年…やはり、何かを隠している。そして、この異常なまでの冷静さ…これが、ギアスの影響か?)

レオンハルトは、ロロの瞳の奥に潜む、深い闇と、そして彼が持つであろう「時を止めるギアス」の片鱗を感じ取り、背筋に冷たいものが走るのを感じた。この少年は、ゼロ以上に危険な存在になるかもしれない。

 

バベルタワーの戦いは、ゼロの突然の撤退と、黒の騎士団の混乱によって、ブリタニア軍の辛勝という形で幕を閉じた。しかし、その裏では、ナナリー誘拐未遂(あるいは、ロロによる何らかの干渉)という新たな事件が発生し、ルルーシュの心に深い傷と、そしてロロへの歪んだ依存を生み出すことになった。

レオンハルトは、この一連の出来事を通じて、ギアスという力の多様性と、それが人間の心に与える影響の恐ろしさを、改めて痛感した。そして、ユーフェミアを守るためには、ルルーシュだけでなく、このロロという存在にも、最大限の警戒を払わなければならないと、強く認識した。

 

エリア11の戦いは、新たな局面を迎えていた。ゼロは、ナナリーを守るという一点において、より過激な、そして予測不可能な行動に出る可能性がある。そして、その傍らには、時を止めるギアスを持つ、感情の欠落した暗殺者がいる。

白銀の騎士は、この複雑に絡み合った運命の糸を解きほぐし、愛する人々を守り抜くことができるのだろうか。

彼の真の戦いは、ギアスという目に見えない力との戦いへと、その様相を変えようとしていた。そして、その先には、中華連邦という新たな戦場が、彼らを待ち受けているのかもしれない。R2の物語は、まだ始まったばかりだった。

 

 

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