バベルタワーを巡る激戦は、ゼロの不可解な撤退と黒の騎士団の混乱によって、ブリタニア軍の辛勝という形で幕を閉じた。しかし、その勝利は多くの犠牲と謎を残し、エリア11の空に漂う不穏な空気は、決して晴れることはなかった。レオンハルト・ジークフリート・アイゼンは、この戦いを通じて、ゼロことルルーシュ・ランペルージの最大の弱点が妹ナナリーであること、そしてそのナナリーの傍に、時を止めるギアスを持つロロ・ランペルージという危険な存在がいることを確信した。ギアスという目に見えない力が、ますます複雑に、そして深く、この世界の運命に絡みつこうとしているのを、彼は肌で感じていた。
戦いの後、エリア11は一時的な平穏を取り戻したかのように見えた。黒の騎士団は、指導者ゼロの不在(表向きは戦略的撤退とされていたが、内部では動揺が広がっていた)と、バベルタワーでの敗北により、その活動を大幅に縮小せざるを得なかった。藤堂鏡志朗やカレン・シュタットフェルトといった幹部たちは、組織の再編と戦力回復に努めながらも、ゼロの真意と次なる指示を待ち続けていた。
ブリタニア軍もまた、この戦いで大きな損害を被り、コーネリア総督の指揮の下、エリア11の防衛体制の再構築と、黒の騎士団残党への警戒を強化していた。ユーフェミア・リ・ブリタニアは、先の演説とバベルタワーでの事件を経て、その身の安全のため、しばらくは公の場への露出を控えることとなったが、彼女の「行政特区日本」への想いは消えることなく、水面下でレオンハルトやスザク、そしてモニカと共に、その実現可能性を模索し続けていた。彼女の純粋な理想は、この血塗られたエリア11において、あまりにも脆く、しかし同時に、一縷の希望の光でもあった。
レオンハルトとモニカは、ナイトオブラウンズとして、エリア11の復興支援や治安維持任務に奔走する日々を送っていた。彼らの活躍は、エリア11のブリタニア人、そして一部のナンバーズからも、徐々にではあるが信頼と評価を得始めていた。「白銀の悪魔」という異名は依然として残っていたが、その背後にある彼の人間性や、ユーフェミアへの献身的な姿勢に気づく者も現れ始めていたのだ。
そんなある日、帝都ペンドラゴンから、彼らに新たな勅命が下された。それは、中華連邦への公式訪問団の一員として、外交交渉および軍事視察に参加せよ、というものだった。表向きは、ブリタニア帝国と中華連邦の友好親善と、相互理解の深化を目的としたものであったが、その裏には、両大国の間で繰り広げられる熾烈なパワーゲームと、そしてギアスに関わる何らかの陰謀が渦巻いていることを、レオンハルトは原作知識から予期していた。
(中華連邦…大宦官たちが実権を握り、民衆が貧困に喘ぐ国。そして、ゼロが黒の騎士団を国際的な勢力へと押し上げるための、重要な足掛かりとなる場所だ。そこへ、俺とモニカが派遣される…皇帝陛下、あるいはシュナイゼル宰相の狙いは一体何だ? 単なる外交儀礼のはずがない)
レオンハルトは、この派遣命令の裏に隠された真の意図を探りながらも、新たな戦場となるかもしれない龍の国への準備を、冷静かつ周到に進めていた。
ユーフェミアは、レオンハルトとモニカがエリア11を離れることに、一抹の不安を隠せないでいた。
「レオンハルト様、モニカさん…どうか、ご無事で。そして、一日も早く、エリア11へお戻りください。あなた方がいない間、私とスザクで、必ずこの地を守ってみせます」
彼女の瞳には、寂しさと、しかしそれを上回る強い決意が宿っていた。
「必ず戻ります、殿下。そして、この中華連邦での任務が、いずれ殿下の理想を実現するための一助となるよう、全力を尽くしてまいります」
レオンハルトは、彼女の手を固く握り、そう誓った。モニカもまた、ユーフェミアに力強い励ましの言葉をかけ、再会を約束した。
数日後、レオンハルトとモニカは、ブリタニア帝国の壮麗な外交使節団の一員として、中華連邦の首都、洛陽へと降り立った。そこは、帝都ペンドラゴンとは全く異なる、歴史と伝統の重み、そして同時に、大国の停滞と民衆の貧困が色濃く漂う、異質な空気に満ちていた。彼らを迎えたのは、中華連邦の最高権力者である天子と、その背後で実権を握る大宦官たちだった。彼らの顔には、ブリタニアへの媚びへつらいと、その裏に隠された底知れぬ野望が、不気味なまでに浮かんでいた。
外交交渉や公式行事が続く中、レオンハルトとモニカは、与えられた自由時間を利用し、あるいは公式な軍事視察という名目で、中華連邦の内部事情や、その軍事力、そして何よりも、ギアス嚮団の残党や、ゼロ(黒の騎士団)と繋がりを持つ可能性のある勢力の情報を、極秘裏に収集し始めた。
「この国は、あまりにも多くの矛盾を抱えている…。壮麗な宮殿のすぐそばに、明日をも知れぬ貧民街が広がり、天子という象徴は祭り上げられ、実権は大宦官という腐敗した官僚たちが握っている。これでは、民衆の不満が爆発するのも時間の問題だろう」
モニカは、洛陽の街を視察しながら、レオンハルトにそう感想を漏らした。
「ああ、その通りだ。そして、その不満と混乱こそが、ゼロにとって格好の活動舞台となる。彼は、この中華連邦を、黒の騎士団の新たな拠点とし、ブリタニアへの反撃の狼煙を、より大規模に上げようとするだろう。我々は、それを阻止しなければならない。いや、あるいは…」
レオンハルトの言葉には、何か別の可能性を示唆するような響きがあった。彼は、この中華連邦の状況を、単なる脅威としてだけでなく、何か別の形で利用できるかもしれないと、考え始めていたのかもしれない。
そんな彼らの前に、一人の少年が現れた。その名は、黎星刻(リー・シンクー)。若くして中華連邦軍の武官となり、その卓越した知略と武勇で頭角を現しつつある、恐るべき才能の持ち主。そして何よりも、彼は、病に苦しむ天子に絶対の忠誠を誓い、彼女のために中華連邦を改革しようとする、熱い理想を胸に秘めていた。
「ナイトオブセブン、レオンハルト・アイゼン卿、そしてナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキー卿。お初にお目にかかります。私は、中華連邦武官、黎星刻と申します」
星刻は、ブリタニアのラウンズである二人を前にしても、一切臆することなく、堂々とした態度で挨拶をした。その瞳には、若さに似合わぬ深い知性と、そして内に秘めた激情の炎が揺らめいていた。
レオンハルトは、この黎星刻という人物に、強い興味と、そしてある種の共感を覚えた。彼もまた、守るべきもののために戦い、そして世界の歪みを正そうとしている。立場は違えど、その根底にある想いは、あるいは通じるものがあるのかもしれない。
(黎星刻…原作では、ゼロのライバルの一人として、そして中華連邦の未来を担う重要人物として描かれていた男か。彼との出会いが、この中華連邦で、俺たちに何をもたらすことになるのか…)
そして、その星刻との出会いと時を同じくして、レオンハルトとモニカは、中華連邦の奥深くで蠢く、さらに大きな陰謀の気配を感じ取っていた。それは、大宦官たちが、ブリタニア帝国と密約を結び、自らの権力を磐石なものとするために、天子を傀儡とし、民衆をさらに虐げようとする計画。そして、その陰謀の背後には、ギアス嚮団の残党、あるいはV.V.の影が見え隠れしていた。
さらに、ゼロ(ルルーシュ)もまた、ナナリーを救出し、黒の騎士団を再興させるための足掛かりとして、この中華連邦に潜入し、大宦官たちと敵対する勢力(例えば、星刻のような改革派や、あるいは反体制ゲリラなど)との接触を試みているという情報も、断片的ながらレオンハルトの元にもたらされていた。
ブリタニア帝国、中華連邦、黒の騎士団、そしてギアス嚮団。様々な勢力の思惑が、この龍の国で複雑に絡み合い、新たな戦いの火種を生み出そうとしていた。
レオンハルトとモニカは、外交使節団の一員という表向きの顔の裏で、この巨大な陰謀の渦の中心へと、否応なく足を踏み入れていくことになる。彼らの目的は、ブリタニアの国益を守ることだけではない。ギアスという脅威から世界を守り、そして何よりも、ユーフェミアが夢見る平和な未来への道を切り開くこと。
白銀の騎士と黄金の騎士の新たな使命は、この異国の地で、さらに過酷な試練を迎えようとしていた。そして、その試練の先には、彼らの運命を、そして世界の運命を左右する、大きな選択が待ち受けているのかもしれない。
R2の物語は、エリア11だけでなく、この中華連邦という新たな舞台を得て、ますますそのスケールを拡大し、加速していくのだった。