コードギアス:静観者のアリア   作:F.M

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第37話:神々の黄昏、偽りの聖剣と血染めの天秤、そして白銀のレクイエムへの序曲

 

 

中華連邦の奥深く、人知れず存在したギアス嚮団の本拠地は、今や世界の運命を左右する激戦の舞台と化していた。ナイトオブセブン、レオンハルト・ジークフリート・アイゼンの駆る『ジークフリート・レジーナ・イグニス』は、その白銀の翼から蒼き炎のような粒子を放ちながら、嚮団の指導者V.V.が搭乗する異形のナイトメアフレーム「ジークフリート」と、施設の広大な地下ドーム空間で死闘を繰り広げていた。ジークフリートは、巨大な球形の本体から複数のアームを展開させ、高出力のエネルギー兵器を乱射してくる。その動きは、従来のKMFとは全く異質であり、予測が困難だった。

 

「なぜだ、V.V.! お前は、C.C.と同じ、不老不死のコードを持つ者のはずだ! なぜ、シャルル皇帝のような、世界を歪めようとする狂人の計画に加担する!? 永遠の時を生きるお前が、なぜこのような破壊と停滞を望む! 世界を、人間を、ここまで愚弄する権利が、お前たちにあるというのか!」

レオンハルトの怒りに満ちた声が、爆炎と閃光が乱舞する地下空間に響き渡る。彼のツヴァイヘンダー・ランツェ・ノヴァが、ジークフリートの堅牢な電磁装甲に次々と斬撃を叩き込むが、V.V.の操るジークフリートは、その巨体に似合わぬトリッキーな三次元機動と、強力なエネルギーシールドで巧みに攻撃を捌き、一進一退の攻防が続いていた。

「ふふ…面白いことを言うな、転生者レオンハルト・アイゼンよ。お前のような、世界の理から外れたイレギュラーな存在に、シャルルの、そして僕の崇高なる目的が理解できるはずもないだろう。嘘と偽りに満ち、絶えず争い、傷つけ合うこの愚かな世界は、一度無に帰し、僕達によって、真の調和と永遠の安らぎがもたらされるべきなのだ。ギアスとは、そのための聖なる力であり、我々はその選ばれし導き手なのだよ!」

V.V.の声は、子供のような無邪気さと、狂信的なまでの歪んだ確信に満ちていた。その瞳には、レオンハルトの言葉など一切届いていないかのように、絶対的な選民意識が宿っていた。

 

レオンハルトは、V.V.との激しい戦闘の最中にも、「オーディン・アイ・ネクスト」を通じて、施設内部の、そして世界の状況を、可能な限り把握し続けていた。ルルーシュが、父であるシャルル皇帝のホログラムと対峙し、母マリアンヌの死の真相、そして自らが皇帝の壮大な計画の駒として、ギアスという力と共に弄ばれてきたという衝撃的な事実に直面していることを。そして、その絶望の果てに、ルルーシュが父シャルルへの完全なる反逆を決意し、C.C.の導きと、そして彼女自身の命を賭したかのような協力を得て、アーカーシャの剣、そしてCの世界――人間の集合無意識、神の領域にも等しい場所――へのアクセスを試みようとしていることを、彼は断片的な情報から推測していた。

(ルルーシュ…お前は、ついに皇帝と直接対決する道を選んだか。そして、Cの世界へ…それは、あまりにも危険な賭けだ。そこは、人間の理解を超えた領域。下手をすれば、お前自身の精神が、その巨大な情報と意識の奔流に飲み込まれてしまうぞ…! だが、あるいは、それこそが、シャルル皇帝の計画を根底から覆す唯一の可能性なのかもしれない…)

レオンハルトは、ルルーシュの身を案じながらも、今は目の前のV.V.を倒し、このギアス嚮団という狂気の連鎖を断ち切ることが最優先だと判断した。彼の行動が、間接的にルルーシュを助けることになるかもしれないという、微かな期待も胸に秘めて。

 

「V.V.! お前の歪んだ理想も、そしてお前たちの神々の遊びも、ここで終わりだ! この『ジークフリート・レジーナ・イグニス』の真の力、そして、俺が背負うものの重さを、その不老不死の魂に刻みつけてやる!」

レオンハルトは、ギアスキャンセラー『シールド・オブ・ヴァルハラ』の出力を、防御ではなく、指向性の高エネルギーパルスとしてジークフリートの複雑な制御システムへと照射するという、極めて危険な賭けに出た。それは、先のガウェイン戦で偶然発見した、ギアスキャンセラーの思わぬ副次効果――ギアス能力だけでなく、高度な電子システムにも干渉し得るという可能性――に賭けた、一か八かの試みだった。

「なっ…!? 機体の制御システムが…反応しない!? 馬鹿な、これはギアスではないはずだ!」

V.V.のジークフリートが、一瞬、その予測不能な動きを不自然に停止させる。その僅かな、しかし決定的な隙を、レオンハルトは見逃さなかった。

「喰らええええええっ!!! ツヴァイヘンダー・ランツェ・ノヴァ、最大出力!!!」

ツヴァイヘンダー・ランツェ・ノヴァが、ランスモードで白銀の閃光を放ち、ジークフリートの脆弱なコアユニットを、寸分の狂いもなく正確に貫いた。轟音と共に、V.V.の愛機ジークフリートは内部から爆散し、ギアス嚮団の長きにわたる暗躍は、ここに一つの終止符を打たれたかに見えた。しかし、V.V.は不老不死のコードを持つ。彼の肉体は滅んでも、その歪んだ意識は、あるいはCの世界へと逃れたのか…? レオンハルトの脳裏に、一抹の不安がよぎった。

 

V.V.を倒したレオンハルトが、ルルーシュとC.C.が向かったであろうCの世界へのゲートへと急行しようとした、まさにその時、彼のコックピットの通信モニターに、エリア11のモニカから、絶叫にも似た、そして絶望に満ちた緊急連絡が叩きつけられた。

『レオンハルト! 大変です! トウキョウ租界上空に…フレイヤが…! シュナイゼル宰相が、トウキョウ租界に向けて、フレイヤ弾頭を使用した模様です! 総督府が…街が…!』

「何だと!? フレイヤだと!? あの男、ついに禁断の大量破壊兵器を、実戦で…しかも、味方の都市に向けて使用したというのか!?」

レオンハルトの表情が、これまでに見せたことのないほどの驚愕と、そして燃えるような怒りに凍りつく。シュナイゼル・エル・ブリタニア。その怜悧な頭脳と穏やかな仮面の裏に隠された、冷酷非情な本性が、ついに牙を剥いたのだ。黒の騎士団との戦闘が膠着状態に陥ったトウキョウ租界で、戦術的な優位を得るため、あるいはその恐るべき破壊力を世界への最終警告としてデモンストレーションするため、彼は躊躇なくフレイヤ弾頭の使用を命令したのだ。その一撃は、トウキョウ租界の中心部を文字通り消滅させ、数十万というおびただしい数の、ブリタニア人も日本人も区別なく、全ての命を無慈悲に奪い去っていた。それは、もはや戦争ではなく、一方的な、そして狂気の大量虐殺だった。

 

(シュナイゼル…貴様だけは、絶対に、絶対に許さん…!)

レオンハルトは、Cの世界へ向かうことよりも、まずこのフレイヤの脅威を排除し、シュナイゼルの狂気を止めなければならないと、瞬時に判断した。彼は、ルルーシュとC.C.に、そしてナナリーの運命に一抹の、しかし今は振り払わねばならない不安を残しながらも、『ジークフリート・レジーナ・イグニス』の進路を、再び絶望に染まるエリア11へと、全速力で向けた。

 

その頃、Cの世界では、ルルーシュが父シャルル皇帝と対峙し、ギアスという力の本質、人間の嘘と願い、そして世界の真理について、壮絶な、そして孤独な問答を繰り広げていた。そして、彼は、シャルルの「誰もが偽りのない心で繋がり合う優しい世界」という歪んだ理想の欺瞞を暴き、C.C.の、そしておそらくはそこに集う多くの死者たちの想いを背負い、神(世界の集合無意識)そのものにギアスをかけ、世界の理を、未来を、書き換えるという、前代未聞の、そして神への挑戦とも言える行動に出る。「明日が欲しい」という、ただそれだけの、しかしあまりにも切実な願いのために。その結果、シャルルとマリアンヌの意識はCの世界に囚われ、彼らの「ラグナロクの接続」計画は完全に阻止された。しかし、その代償として、ルルーシュは、世界中の憎しみを一身に背負い、それを断ち切るための「ゼロレクイエム」という、あまりにも過酷な運命を、自ら選択する覚悟を、より一層、そして悲壮なまでに固めることになったのかもしれない。

 

エリア11へと舞い戻ったレオンハルトと、彼に合流したモニカは、フレイヤによって焦土と化し、巨大なクレーターを残すのみとなったトウキョウ租界中心部の惨状を目の当たりにし、言葉を失った。かつてそこには、多くの人々の生活があり、笑顔があり、そして未来があったはずだった。その全てが、たった一発の兵器によって、無に帰したのだ。

ユーフェミアもまた、その報道映像を通じて、シュナイゼルが引き起こした、あまりにも非人道的で、そして無差別な破壊に、深い絶望と、そしてこれまで彼女が抱いたことのないほどの激しい怒りを覚えていた。

「これが…ブリタニアの正義なのですか…? これが、平和のための戦いなのですか…? シュナイゼルお兄様は、一体何を考えていらっしゃるの…!?」

彼女の瞳からは、悲しみと怒りの涙が止めどなく溢れていた。スザクもまた、ランスロット・アルビオンのコックピットで、シュナイゼルの冷酷非情な判断と、その結果生まれた筆舌に尽くしがたい悲劇に、激しい怒りと無力感を燃やしていた。彼は、もはやブリタニアという国家の正義を、そして自らが信じてきた道を、信じることができなくなりつつあった。

 

そして、シュナイゼルは、フレイヤという絶対的な戦略兵器を背景に、世界に対して天空要塞「ダモクレス」からの恐怖による支配を宣言。黒の騎士団も、そしてブリタニアの他の勢力も、彼に逆らうことができず、世界はシュナイゼルの冷酷な計算と管理下に置かれようとしていた。それは、ギアスによる支配とはまた異なる、しかし同様に人間の尊厳を踏みにじる、新たな形の圧政だった。

この絶望的な状況の中で、レオンハルトとモニカは、ついに、そして最終的な決断を下す。それは、彼らが長年胸の奥底に秘めてきた、あまりにも過酷で、そして究極の自己犠牲を伴う計画――「白銀のレクイエム」の実行だった。

「モニカ…もう、これしかないのかもしれない。この世界の憎しみの連鎖を、そしてギアスとフレイヤという二つの呪われた力を断ち切り、ユーフェミア様が心から夢見る、本当の優しい世界を、未来を遺すためには…」

レオンハルトの声は、極度の疲労と葛藤を滲ませながらも、その奥には鋼のように硬い、そしてどこか清々しいまでの決意が秘められていた。

「ええ、レオンハルト。覚悟はできています。あなたがその道を選ぶのなら、私はどこまでも、たとえそれが地獄の底であろうとも、あなたと共に歩みます。私たちのこの命が、未来への、そしてユーフェミア様の笑顔への礎となるのなら…それこそが、私たちの騎士としての、そして人間としての、最高の誉れです」

モニカもまた、その美しいアクアマリンの瞳に涙を浮かべながらも、愛する人と共に究極の選択をするという、力強く、そして慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。

 

彼らは、まず、シュナイゼルのフレイヤとダモクレスという、人類にとって最大の脅威を無力化する必要があった。そのためには、一時的にではあれ、敵対していたはずのゼロ…Cの世界から帰還し、父シャルル亡き後のブリタニアの新たな「敵」として、そして世界の変革者として再びその黒き翼を広げようとしていたルルーシュ・ランペルージとの、禁断の共闘が不可欠となる。

レオンハルトは、C.C.を通じて、極秘裏にルルーシュに接触を試みた。ペンドラゴン郊外の、人気のない古い教会。月明かりだけが差し込む薄暗い聖堂で、二人は再会した。レオンハルトはナイトオブラウンズの制服を、ルルーシュはアッシュフォード学園の制服を身に纏い、その姿はあまりにも対照的だった。

 

「ルルーシュ・ランペルージ。いや、今はゼロと呼ぶべきか。久しぶりだな、と言うには、少々状況が複雑すぎるが」

レオンハルトが、静かに口火を切った。その声には、敵意も、そして友情も感じられない、ただ純粋な事実確認のような響きがあった。

ルルーシュは、闇に溶け込むように佇み、感情の読めない声で答えた。

「レオンハルト・アイゼン…ナイトオブセブンか。お前が、まさかV.V.を倒し、ギアス嚮団を壊滅させるとはな。正直、驚いている。そして、Cの世界で父上が消滅したのも、お前の仕業ではないだろうな?」

その言葉には、探るような響きと、隠しきれない警戒心が滲んでいた。

「皇帝陛下の件は、私の関知するところではない。だが、シュナイゼルの暴走は、もはや看過できん。フレイヤという力は、世界を破滅に導くだけだ。私は、それを止める。そのためならば、いかなる手段も厭わない」

「手段を厭わない、か。それは、かつての俺と同じだな。だが、お前がシュナイゼルを止めたとして、その先に何がある? お前は、この世界をどうするつもりだ?」

ルルーシュの問いは鋭く、レオンハルトの真意を見抜こうとしていた。

レオンハルトは、しばしの沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。

「…俺は、この世界の全ての憎しみを、俺自身に集める。そして、それを断ち切る。それだけだ」

その言葉は、あまりにも突拍子もなく、そして自己犠牲に満ちていた。ルルーシュは、仮面の下で目を見開いた。

「…お前が、ゼロレクイエムを、やるというのか…? 馬鹿な、それは俺が…」

「お前がやるはずだった計画、か? だが、今の状況では、お前一人の力では不可能だろう。そして何よりも、お前にはまだ、守るべき妹がいる。違うか?」

レオンハルトの言葉は、ルルーシュの心の最も柔らかな部分を的確に突いていた。ナナリー。彼女の存在こそが、ルルーシュの行動原理の全てだった。

「…なぜ、そこまで知っている? お前は、一体何者なのだ?」

「俺が何者であるかは、今は重要ではない。重要なのは、シュナイゼルという共通の敵を倒し、そして、この狂った世界に、真の平和をもたらすことだ。そのためには、お前の力が必要だ、ゼロ。一時的にでいい、俺と手を組め。シュナイゼルを倒した後ならば、お前は自由だ。ナナリーと共に、新しい世界で生きるがいい」

それは、悪魔の囁きのようでもあり、そして同時に、絶望の淵にいたルルーシュにとって、唯一の希望の光のようでもあった。

ルルーシュは、長く、そして深い沈黙の後、静かに、しかし確かな声で答えた。

「…分かった。一時的になら、手を組もう。だが、勘違いするな、レオンハルト・アイゼン。俺は、お前を信用したわけではない。ただ、シュナイゼルという邪魔者を排除するためだ。そして、その後に、お前が本当に世界の憎しみを引き受けるというのなら…その時は、俺が、この手で、お前を裁くことになるだろう」

「それで構わん。いや、むしろ、そうしてもらいたい。それが、俺の…いや、俺たちの願いだ」

レオンハルトの瞳には、悲壮なまでの覚悟が浮かんでいた。

こうして、白銀の騎士と黒き反逆者は、世界の運命を賭けた、一時的な、しかし互いの全てを賭けた、奇跡的とも言える禁断の同盟を結ぶことになった。

 

彼らの最初の、そして最大の目標は、天空要塞ダモクレスと、そこに搭載された無数のフレイヤ弾頭。そして、それを鉄壁の布陣で守るシュナイゼルの最新鋭ナイトメアフレーム部隊と、ギアスに操られたカノン・マルディーニなどの側近たち。

レオンハルトの『ジークフリート・レジーナ・セラフィム』(V.V.との壮絶な戦いの後、アイゼン夫妻とロイドの技術を結集させ、対フレイヤ用の特殊防御フィールドや、ギアス効果を広範囲に中和するシステムなどを搭載した、まさに最終決戦仕様へと強化改修された白銀の神髄)、モニカの『ディアナ・フェンサー・ノクターン』(同じく、ステルス性能と電子戦能力を極限まで高め、レオンハルトとの連携を最終進化させた黄金の影)、ルルーシュの『蜃気楼』、スザクの『ランスロット・アルビオン』(ユーフェミアの説得と、世界の危機を前に、ルルーシュと一時的に和解し、共に戦うことを決意する)、カレンの『紅蓮聖天八極式』、そして黒の騎士団とブリタニアの反シュナイゼル派の残存戦力の全て。

それぞれの想いと、それぞれの正義、そしてそれぞれの愛する者の未来を胸に、彼らは人類の存亡を賭けた、最後の、そして最大の戦いへと、その翼を広げていく。

 

白銀のレクイエムへの序曲は、今、まさに、血染めの天秤の上で奏でられようとしていた。その旋律は、あまりにも悲壮にして、しかしどこまでも壮大。そして、その先にあるのは、真の平和か、それともさらなる絶望か。

世界の運命は、彼らの、そして彼らを選んだ者たちの、双肩に託されたのだった。

 

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