コードギアス:静観者のアリア   作:F.M

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第38話:ダモクレスの天秤、白銀と黒の協奏曲、そして終末のフレイヤ

 

神聖ブリタニア帝国第二皇子にして帝国宰相、シュナイゼル・エル・ブリタニアによる天空要塞「ダモクレス」と大量破壊兵器「フレイヤ」を用いた世界への恐怖支配宣言は、ギアス嚮団の壊滅と皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの失踪(Cの世界への幽閉)という束の間の希望を打ち砕き、世界を再び深い絶望の淵へと突き落とした。フレイヤの圧倒的な破壊力の前には、いかなる軍事力も、いかなる理想も無力であり、人々はただシュナイゼルの冷酷な「管理された平和」を受け入れるしかないかのように思われた。しかし、その絶望的な状況に、敢然と立ち向かおうとする者たちがいた。

 

帝都ペンドラゴン郊外の古い教会で、白銀の騎士レオンハルト・ジークフリート・アイゼンと、黒き反逆者ゼロことルルーシュ・ランペルージは、世界の運命を賭けた禁断の同盟を結んだ。シュナイゼルという共通の敵を討ち、フレイヤの脅威を排除し、そして、それぞれの信じる未来を創造するために。彼らの傍らには、ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキー、不死の魔女C.C.、そして、ユーフェミア・リ・ブリタニアの説得と世界の危機を前に、ルルーシュと一時的に和解し、共に戦うことを決意した純白の騎士、枢木スザクの姿があった。さらに、黒の騎士団のエース、カレン・シュタットフェルトと、藤堂鏡志朗率いる四聖剣もまた、ゼロの指揮の下、この無謀とも思える最後の戦いに合流していた。かつて敵対し、憎しみ合った者たちが、今、一つの目的のために、その力を結集させようとしていたのだ。

 

「シュナイゼルの天空要塞ダモクレスは、現在、カムランの上空に静止している。そこには、数十発のフレイヤ弾頭が搭載され、全世界を射程に収めている。我々の目的は、ダモクレス内部に侵入し、フレイヤの発射システムを完全に無力化すること、そして、シュナイゼル兄上本人を捕縛、あるいは無力化することだ」

ルルーシュが、作戦司令室となったアヴァロンのブリーフィングルームで、集まった者たちを前に冷静に作戦概要を説明する。その表情には、かつてのゼロとしての自信と、しかしどこか、これから起こるであろう悲劇を予感させる影が差していた。

「ダモクレスの防御は鉄壁だ。正面からの攻撃は、フレイヤの的となるだけだろう。我々は、陽動と奇襲を組み合わせ、複数のルートから同時に侵入を試みる。レオンハルト卿、貴公の『ジークフリート・レジーナ・セラフィム』と、モニカ卿の『ディアナ・フェンサー・ノクターン』には、その圧倒的な戦闘能力をもって、敵の防衛ラインに風穴を開け、我々の突入経路を確保してもらいたい。特に、シュナイゼル兄上が最も信頼を置く騎士、カノン・マルディーニが駆るであろう新型KMFには、最大限の警戒が必要だ」

レオンハルトは、ルルーシュの言葉に静かに頷いた。彼の愛機『ジークフリート・レジーナ・セラフィム』は、V.V.との壮絶な戦いの後、アイゼン夫妻とロイド・アスプルンドの技術を結集させ、対フレイヤ用の特殊防御フィールドや、ギアス効果を広範囲に中和するシステムなどを搭載した、まさに最終決戦仕様へと強化改修されていた。その白銀の機体は、神々しいまでのオーラを放ち、いかなる絶望をも切り裂く聖剣のような輝きを宿していた。モニカの『ディアナ・フェンサー・ノクターン』もまた、ステルス性能と電子戦能力を極限まで高め、レオンハルトとの連携を最終進化させた、影の如き紅蓮の騎士へと生まれ変わっていた。

「スザク、君の『ランスロット・アルビオン』と、カレン、君の『紅蓮聖天八極式』は、その驚異的な機動力と破壊力で、敵のエース部隊を叩き、我々の進路を切り開け。藤堂と四聖剣は、KMF部隊の指揮を執り、全体の戦線を維持しつつ、ダモクレス内部への突入を援護する。C.C.、君は蜃気楼で私と共に中枢へ向かう。そして…」

ルルーシュは、そこで一旦言葉を切り、レオンハルトの目を真っ直ぐに見据えた。

「…もし、フレイヤの発射が避けられない事態となった場合、その時は、レオンハルト卿、君のギアスキャンセラーと、その特殊防御フィールドに、我々全員の…いや、世界の運命が懸かることになるだろう」

その言葉は、彼らの作戦がいかに危険で、そしてギリギリの綱渡りであるかを物語っていた。

 

決戦の火蓋は、夜明けと共に切って落とされた。

レオンハルトの『ジークフリート・レジーナ・セラフィム』とモニカの『ディアナ・フェンサー・ノクターン』が先陣を切り、ダモクレスの絶対防衛ラインへと突貫する。その圧倒的な速度と連携は、シュナイゼル軍のKMF部隊の虚を突き、瞬く間に防衛網の一部を突破した。

「行かせはしませんわ、レオンハルト・アイゼン卿! あなたのその力は、シュナイゼル殿下のためにこそ使われるべきですのに!」

カノン・マルディーニの駆る、白鳥を思わせる優雅な、しかし恐るべき戦闘能力を秘めた新型KMFが、レオンハルトの前に立ちはだかる。彼は、シュナイゼルへの絶対的な忠誠心と、そしてレオンハルトへの複雑な感情を胸に、その剣を振るった。

「カノン殿…あなたとは、このような形で会いたくはなかった。だが、シュナイゼルのやり方は間違っている! あの男の支配は、世界に真の平和をもたらしはしない!」

レオンハルトは、ツヴァイヘンダー・ランツェ・ノヴァを構え、カノンの猛攻に応戦する。二人の騎士の剣が、激しく火花を散らす。

 

その間隙を縫って、スザクの『ランスロット・アルビオン』とカレンの『紅蓮聖天八極式』が、ダモクレス内部へと続く突入口へと殺到する。彼らの前には、シュナイゼル直属の親衛隊や、かつてのラウンズの生き残り(もしいるならば)といった強敵が次々と現れるが、スザクの神業的な操縦技術と、カレンの紅蓮の圧倒的な火力は、それらをことごとく打ち破っていく。

「スザク! あんた、本当にそれでいいのかよ! ルルーシュと手を組むなんて!」

「今は、シュナイゼルを止めることが最優先だ! 個人的な感情は、その後だ!」

二人は、互いに背中を預け合い、かつて敵同士だったとは思えないほどの完璧な連携を見せた。

 

ダモクレス内部へと侵入したルルーシュとC.C.の『蜃気楼』は、複雑な迷路のような通路を、シュナイゼルの思考を読み解くかのように進んでいく。彼らの目的は、フレイヤの発射制御室、そしてシュナイゼル自身のいる司令室。

「シュナイゼル…お前の思い通りにはさせない…! この世界は、お前の玩具じゃないんだ!」

ルルーシュの瞳には、弟としての、そして世界の変革者としての、最後の戦いに挑む決意が燃えていた。

 

しかし、シュナイゼルの知略は、彼らの想像を遥かに超えていた。ダモクレス内部には、無数のトラップと、ギアスによって洗脳された兵士たちが配置され、侵入者たちを執拗に追い詰めていく。そして、ついに、シュナイゼルは、追い詰められたと見せかけて、あるいは計算通りに、フレイヤの発射シーケンスを起動させた。そのターゲットは、地上の特定の都市ではなく、ダモクレスの周囲に展開する、レオンハルトたちの味方艦隊、そして黒の騎士団の母艦イカルガだった。

「これで終わりだ、ゼロ。そして、レオンハルト・アイゼン。君たちの足掻きも、虚しいものだったな」

シュナイゼルの冷たい声が、ダモクレスの司令室に響き渡る。モニターには、複数のフレイヤ弾頭が発射され、味方艦隊へと迫っていく絶望的な光景が映し出されていた。

 

「まずいっ!!」

レオンハルトは、カノンとの戦闘を強引に中断し、全速力でフレイヤの弾道へと向かった。

「『ジークフリート・レジーナ・セラフィム』、対フレイヤ用エネルギーフィールド、最大展開! ギアスキャンセラー、広範囲モード、照射開始!」

彼の絶叫と共に、白銀の騎士は、その身を盾とするかのように、迫り来るフレイヤの前に立ちはだかった。機体全体から蒼き光の粒子が放出され、巨大なエネルギーの傘が形成される。それは、フレイヤの連鎖反応を物理的に抑制し、さらにギアスキャンセラーの特殊な波長で、フレイヤの起爆メカニズムに干渉しようという、あまりにも無謀な試みだった。

モニカの『ディアナ・フェンサー・ノクターン』もまた、レオンハルトを援護すべく、その隣に並び立ち、自らのエネルギーシールドを最大展開する。

「レオンハルト! 無茶です! あなたまで…!」

「構うな、モニカ! ここでフレイヤを止めなければ、全てが終わる! 俺たちの…いや、ユーフェミア様の未来も!」

 

フレイヤ弾頭が、レオンハルトとモニカの機体に次々と着弾し、凄まじい爆発と閃光が宇宙空間を包み込む。二人のKMFは、その想像を絶するエネルギーの奔流に耐え、きしみを上げながらも、懸命にエネルギーフィールドを維持し続ける。コックピット内には、激しい衝撃と警告音が鳴り響き、レオンハルトとモニカの意識は、何度も途切れそうになる。

(まだだ…まだ、終わらせるわけにはいかない…! ユーフェミア様…モニカ…みんなの未来のために…!)

レオンハルトは、朦朧とする意識の中で、最後の力を振り絞り、ギアスキャンセラーの出力を最大にする。

 

その時、奇跡が起こった。

フレイヤの爆発は、確かに起こった。しかし、その規模は、シュナイゼルの計算よりも、遥かに小さかったのだ。レオンハルトのギアスキャンセラーとエネルギーフィールドが、フレイヤの連鎖反応を完全にではないものの、大幅に抑制することに成功したのだ。味方艦隊は大きな被害を受けたものの、全滅は免れた。

「馬鹿な…フレイヤが…不完全に…!? ありえない…!」

シュナイゼルが、初めてその冷静な仮面の下に、焦りの色を浮かべた。

 

この一瞬の隙を、ルルーシュは見逃さなかった。彼は、C.C.の助けを借り、ダモクレスの司令室へと到達し、シュナイゼルと直接対峙する。そして、最後の切り札であるギアスを、兄シュナイゼルにかける。

「シュナイゼル…お前は、ゼロに仕えろ!」

絶対遵守の命令。それは、シュナイゼルの野望を、完全に打ち砕いた。

 

ダモクレスは沈黙し、フレイヤの脅威は去った。しかし、戦いはまだ終わっていなかった。

レオンハルトとモニカは、満身創痍ながらも、生き残っていた。彼らの機体は半壊状態だったが、その瞳には、まだ戦う意志の光が宿っていた。

彼らの「白銀のレクイエム」は、まだ始まったばかりなのだ。

シュナイゼルを失った世界は、新たな指導者を求めている。そして、その役割を、レオンハルトとモニカは、自ら買って出ようとしていた。世界の憎しみを一身に集める、偽りの絶対悪として。

その先に待つのが、どのような結末であろうとも、彼らは、愛するユーフェミアが生きる、優しい未来のために、その全てを捧げる覚悟だった。

神々の黄昏は終わり、偽りの聖剣が血染めの天秤を揺るがす。そして、白銀のレクイエムへの序曲が、今、静かに、そして荘厳に、奏でられようとしていた。

 

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