コードギアス:静観者のアリア   作:F.M

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第4話:エリア11の風、白銀の騎士と聖剣

E.U.西部戦線におけるレオンハルト・アイゼンの初陣は、単なる一兵卒の武功譚に留まらなかった。それはブリタニア軍の戦術史に、静かな、しかし決して無視できない波紋を広げる伝説として語り継がれた。「白銀の波動」――その異名は、彼の戦果の異常さと、戦場の不協和音を支配し調律するかのような戦術眼、そして旧式機サザーランドで最新鋭機を屠る神業への畏敬と戦慄を込めて、戦場の兵士たちの間で囁かれるようになった。その名は風に乗り、やて帝都ペンドラゴンの深奥、第二皇子にして帝国宰相シュナイゼル・エル・ブリタニアの怜悧な知性を刺激し、そして彼の妹、「ブリタニアの魔女」の異名を持つ第二皇女コーネリア・リ・ブリタニアの耳にも、無視できぬ響きを持って届いた。

 

折しも、帝国は未曾有の不協和音に揺れていた。最重要植民地エリア11において、総督クロヴィスが正体不明のテロリスト「ゼロ」に暗殺されたのだ。この報は帝国の威信という完璧なハーモニーを乱し、エリア11をナンバーズの積年の憎悪が渦巻く、一触即発の不協和音の坩堝へと変えた。この国家的危機を鎮圧すべく、皇帝シャルルは次期総督として、その武勇と鉄の意志で知られるコーネリアを指名した。

 

「レオンハルト・アイゼン……。兄上(あにうえ)がそこまで肩入れするとはな。先の戦闘記録は確かに目を見張るものがあったが、あれが本当に新兵の動きだと?」

ペンドラゴンの壮麗な執務室で、派遣準備に追われるコーネリアは、シュナイゼルからの秘匿通信を受けながら、送られてきたデータファイルに目を通していた。そこには、レオンハルトの戦術分析、心理プロファイル、そして何よりもシュナイゼル自身の所見が記されていた。

『ああ。アイゼン技術士官夫妻の忘れ形見でね。士官学校でも全ての評価基準を振り切っていたようだ。彼の戦場の「流れ」を読む能力は、既存の尺度では測れない。コーネリア、君が赴くエリア11は、単なる武力という強音だけでは平定できん。彼の静かなる力は、必ずや君の助けとなるだろう』

電話の向こうのシュナイゼルの声は穏やかだが、その波長はどこまでも平坦で、底が見えない。コーネリアは短く鼻を鳴らした。兄が特定の個人、それも若年の士官を推すのは極めて稀だ。それだけこの青年に価値を見出しているのか、あるいは自分への牽制か。兄の真意は読めぬが、提示された「楽器」が使えるのであれば、試してみる価値はある。

「よかろう。その『白銀の波動』、私の目で真価を試す。エリア11へ帯同させよ。だが、不協和音を奏でるようなら、容赦なく弦を断ち切るぞ」

『ふふ、君らしいな、コーネリア。それでこそ、私の可愛い妹だ』

シュナイゼルの含み笑いが、通信の最後に響いた。

 

その決定は、レオンハルトにとって、予期していた流れの一つだった。シュナイゼル宰相が自分に注目しているであろうことは、士官学校時代、彼の放つ氷のように静謐で、しかし全てを見透かすような波長から感じ取っていた。彼のような情報と人材という音符を操る人物が、自分の奏でる特異な音色を聞き逃すはずがない。

 

エリア11への出発を数日後に控えた日、レオンハルトは両親の私邸の地下深くへと招かれた。そこで彼を待っていたのは、彼の魂と共鳴するために生まれた、特別な「楽器」だった。

広大な格納庫に足を踏み入れたレオンハルトは、静かに息を呑んだ。そこに佇んでいたのは、彼のためだけに造られた、純白の最新鋭ナイトメアフレーム。神話の聖騎士の甲冑の如く気高く、そして美しかった。

滑らかな曲線と鋭角が融合した純白の装甲には、高貴さを示す金と、知性を感じさせる青のアクセント。背部には、鳥の翼を思わせる可変式スラスターユニット「エンジェルフェザー」が装備され、静止してなお、大空へと羽ばたくかのような躍動感を秘めていた。

その名は、『ジークフリード・レジーナ』。

竜殺しの英雄の名を冠し、王妃の高貴なる魂を宿す、世界にただ一機の専用機。

「レオンハルト……これが、私たちからお前への餞別だ」

父アルブレヒトが、誇りと緊張の入り混じった声で言った。

「お前の初陣の戦闘データから感じ取れる特異な波長、そしてエリア11という過酷な戦場の不協和音を想定し、持てる技術の全てを注ぎ込んだ。この機体は、お前の感覚と完璧に共鳴するはずだ」

母エルヴィラもまた、この機体の制御システムに関わっていた。その瞳には息子への深い愛情と、拭い去れぬ不安の色が浮かんでいた。

『ジークフリード・レジーナ』には、彼の超人的な感覚を最大限に引き出す最新技術が惜しみなく投入されていた。二刀流とランスモードを使い分ける可変MVS、圧倒的な破壊力と精密射撃を両立する専用ヴァリス。彼の感覚を補助し、戦場の流れを可視化する高度戦術予測AI「オーディン・アイ・ネクスト」。そして何よりも――ユーフェミアを守るという彼の感覚から生まれた、「精神の波長を整える」ための試作型ギアスキャンセラーが、胸部装甲内に秘密裏に搭載されていた。

「レオンハルト、この機体がお前の剣となり、盾となるだろう。だが、決して驕るな。強すぎる音は、時に自らの内なる調和を乱す」

父の厳しい言葉が、レオンハルトの胸に深く響く。

母は、そっと彼の肩に手を置いた。「あなたの感じるままに進みなさい。私たちは、いつだってお前の奏でる音を信じているわ」

レオンハルトは、両親の想いが凝縮された白銀の騎士を前に、静かに頷いた。この楽器で、守るべき波長を守り抜き、自らの信じる旋律を奏でる。

 

数日後、帝都はコーネリア派遣軍の壮大な出征式典の喧騒に包まれた。巨大戦艦グロスターの格納庫には、『ジークフリード・レジーナ』が静かに出撃の時を待つ。レオンハルトは特務少佐の階級を与えられ、コーネリア直属の幕僚として、新たな戦地へと向かう。

 

艦内のブリーフィングルームは、出港後も変わらぬ緊張感に支配されていた。コーネリアを中心に、ギルフォード、ダールトンといった歴戦の騎士たちが放つ硬質な波長が満ちている。その中にあって、最年少でありながら「白銀の波動」の異名を持つレオンハルトの存在は、その静謐さ故に、逆に異質なものとして注目を集めた。

「アイゼン少佐、エリア11の現状について、君の見解を聞かせてもらおう。兄上が買う君の『感覚』、とくと拝見させてもらおう」

コーネリアの紫電の瞳が、真っ直ぐにレオンハルトを射抜く。

レオンハルトは臆することなく立ち上がり、落ち着いた声で己の分析を述べ始めた。それは理論の羅列ではなかった。エリア11に渦巻く憎悪の「淀み」、テロリスト「ゼロ」が生み出すカリスマという「引力」、そしてブリタニアの圧政が生む「不協和音」。彼は、戦場の空気を、そこにいる者たちの感情の波長を、まるで音楽を語るように描写していった。

ギルフォードら騎士たちの、若輩者への懐疑的な視線は、次第に純粋な関心と、ある種の畏敬の念へと変わっていった。この青年は、戦いを計算しているのではない。感じているのだ。

 

やがて艦隊はエリア11の軌道上に到達した。眼下に広がるのは、かつて日本と呼ばれた島国。美しい自然のハーモニーは損なわれ、都市はブリタニア人の租界と、ナンバーズが住むゲットーに無残に分断されていた。その光景が放つ歪な波長は、レオンハルトの肌をピリピリと刺した。

(ここが、物語の舞台……そして、ユーフェミア様の清らかな波長が、乱される場所か。『ジークフリード・レジーナ』…この楽器があれば、あるいは…)

彼の胸に、転生者としての知識からくる使命感と、一人の人間としての静かな決意が、深く、そして穏やかに共鳴していた。

 

エリア11総督府に到着したコーネリアは、その日のうちに大規模なテロリスト掃討作戦「純血のブリタニア」を開始した。まさに「ブリタニアの魔女」の異名に違わぬ、鉄血の統治の始まりだった。

レオンハルトは、コーネリア直属部隊の切り込み隊長として、作戦の最前線に『ジークフリード・レジーナ』と共に投入された。最初の任務は、ゼロの潜伏が疑われる新宿ゲットーへの強行偵察と、抵抗勢力の殲滅。

白い騎士が、その静かなる波動を、初めてエリア11の大地に響かせる時が来た。

 

新宿ゲットーの入り組んだ、瓦礫と廃墟が続く路地で、『ジークフリード・レジーナ』は、その圧倒的な性能を遺憾なく発揮した。背部の「エンジェルフェザー」が純白の翼のように展開し、機体はまるで重力を感じさせないかのように、ビルの壁を蹴り、空中を舞う。それはもはや兵器の動きではなく、戦場という舞台で舞う、一人のバレエダンサーのようだった。

「目標、セクター4のビル屋上に陣取る敵部隊! 一掃せよ!」

コーネリアからの苛烈な命令が飛ぶ。

レオンハルトは無言で応じ、専用ヴァリス「ケーニッヒスシュトラール」を構えた。スコープが敵影を捉える。それは、ブリタニア軍から鹵獲した旧式のサザーランドだった。その機体から感じるのは、恐怖と、やけっぱちの覚悟が入り混じった、悲しい波長。

(抵抗の意思……だが、これもまた、流れの一部)

引き金を引くことに、躊躇いはない。だが、憎しみもない。ただ、不協和音を調律するかのように、淡々と。

放たれた高出力エネルギーの奔流は、夜空を切り裂く一条の光となり、ビルごと敵部隊を蒸発させた。圧倒的な破壊力。だが、彼の真価はそこではなかった。

「隊長! 後方より敵増援! 数が多い!」

部下の乱れた波長が通信機を震わせる。

「問題ない。流れを整えるだけだ」

レオンハルトは可変MVS「ツヴァイヘンダー・ランツェ」をランスモードへと変形させ、反転。押し寄せる敵KMFの群れへと単機で突貫した。

ランスの切っ先が閃く。敵機は触れることすらできず、次々と装甲を貫かれ、爆散していく。ランスを巧みに操り、薙ぎ払い、突き、敵の群れを蹂躙するその様は、まさに荒れ狂う奔流を鎮める、治水者のようだった。

 

「報告! アイゼン少佐の部隊、目標セクターの制圧完了! 敵抵抗勢力、全て沈黙!」

「損害は?」

「アイゼン少佐の部隊、損害軽微! 敵KMF20機以上を撃破!」

作戦司令室に響き渡る報告に、ギルフォードをはじめとする幕僚たちは息を呑んだ。

モニターに映し出される『ジークフリード・レジーナ』は、月光を浴びて純白の装甲を輝かせ、まるで戦場に舞い降りた天使のようだった。だが、その足元に広がる破壊の跡は、その機体がもたらしたものが神の慈悲ではなく、悪魔的なまでの調律の力であることを雄弁に物語っていた。

 

コーネリアは、その映像を玉座から冷徹な瞳で見つめていた。

(噂以上だな……兄上の言う通り、規格外の力だ。だが、その波長、本当に私と共鳴しているのか?)

彼女の胸に、レオンハルトという楽器への期待と、その底知れぬ力への微かな警戒心が芽生える。

 

レオンハルトは、コックピットの中で静かに息を吐いた。AI「オーディン・アイ・ネクスト」が収集した戦域データは、テロリストたちの練度が低いことを示していた。だが、その背後には、統率された動きと、明確な戦術目標という、静かで知的な「旋律」が存在することも示唆していた。

(やはり、ゼロがいるな。この不協和音の裏で、奴は別の曲を奏でようとしている)

彼の本当の戦いは、まだ始まってもいなかった。この新宿ゲットーでの一方的な蹂躙は、これから始まる壮大なコンチェルトの、ほんの序章に過ぎないことを、レオンハルトだけが「感じて」いた。




【専用ナイトメアフレーム】

1. レオンハルト・ジークフリート・アイゼン専用機

R1(エリア11赴任時~):『ジークフリート・レジーナ (Siegfried Regina)』

コンセプト: 高機動近接戦闘型。指揮官機としての情報処理能力も併せ持つ。

外観: 白基調、金と青のアクセント。騎士甲冑を思わせる流麗かつシャープなフォルム。背部に可変式高性能スラスターユニット「エンジェルフェザー」。

武装:

可変MVS「ツヴァイヘンダー・ランツェ」(ソードモード:二刀流、ランスモード:連結長槍)

専用携行型ヴァリス「ケーニッヒスシュトラール・ヴァリス」

両腕部小型ブレイズルミナス・エミッター、腰部・脚部小型ミサイルランチャー/スラッシュハーケン

システム: 高度戦術予測AI「オーディン・アイ・ネクスト」、ギアスキャンセラー(試作型を改良し胸部内蔵)
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