コードギアス:静観者のアリア   作:F.M

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第5話:胎動するエリア11、白銀と純白、そして黒の影

新宿ゲットーに響き渡った『ジークフリード・レジーナ』の静謐なる波動は、エリア11のブリタニア軍に新たな戦術的選択肢をもたらし、同時に反ブリタニア勢力にとっては理解不能な恐怖の象徴となった。「白銀の波動」という異名は、畏怖と共に、彼の若さに似合わぬ戦場の調律者としての評価として、急速に軍内部に広まっていった。コーネリア総督は、その若き特務少佐の類稀なる才能を実戦を通じて確信し、彼とその純白の愛機を、エリア11の不協和音を鎮めるための最重要戦力と位置づけ、困難な任務に次々と投入した。

 

レオンハルトは、コーネリアの信頼厚い騎士であるギルフォードやダールトンらと共に、エリア11各地で頻発するテロ活動の鎮圧、およびその背後で糸を引くとされる謎の指導者「ゼロ」の追跡に明け暮れた。戦場を選ばず、『ジークフリード・レジーナ』はその純白の翼を翻し、ブリタニアに牙を剥く者たちを容赦なく薙ぎ払っていった。彼の戦いは常に、最小限の動きで最大限の効果を上げることを至上命題としていた。それは、思考から導き出された効率性ではなく、戦場の流れを読み、最も抵抗の少ない一点を突くという、彼の感覚のなせる業だった。

 

だが、彼はそのような周囲の評価を意に介さなかった。彼の内なる意識は、常に一つの清らかな波長へと向けられていたからだ。ユーフェミアを守るという、魂の共鳴。そのために、彼はただ、自らの波長を保ち、為すべきことを為すだけだった。

 

そんな中、鉄血の空気が支配するエリア11に、一筋の柔らかな光が差し込むかのような出来事が起こる。神聖ブリタニア帝国第三皇女、ユーフェミア・リ・ブリタニアが、エリア11副総督として着任したのだ。彼女から放たれる純粋で慈愛に満ちた波動は、武力による強権的な統治を進める姉コーネリアとは際立って対照的であり、ナンバーズを含むエリア11の民衆のささくれ立った心に、僅かながらではあるが、調和の可能性を感じさせた。

 

レオンハルトは、その卓越した能力ゆえに、ユーフェミアがエリア11の各地を視察する際の警護任務にも、時折就くことになった。間近で接する彼女は、彼が原作知識として知る以上に、純粋で、理想に燃え、そして驚くほど強い芯を持った少女だった。彼女の、ナンバーズに対しても偏見なく心を開こうとする真摯な姿や、平和を心から願う清らかな言葉は、レオンハルトの心の奥底に眠っていた、人間らしい温かな感情や、忘れかけていた理想の響きを呼び覚ますかのようだった。

 

(この波長だ……。この清らかな響きを、絶対に濁らせてはならない。そのためならば、俺はどんな不協和音の中にでも身を投じよう)

 

ユーフェミアの純粋な瞳に見つめられるたびに、レオンハルトの決意はより一層澄み渡り、彼の行動原理の核心となっていった。

 

一方、水面下では、エリア11の、そして世界の運命を揺るがす新たな胎動が、静かに、しかし確実に始まっていた。

アッシュフォード学園に通う一人のブリタニア人学生、ルルーシュ・ランペルージが、「ギアス」という絶対的な“王の力”を手に入れた。それは、他者に自らの命令を強制できる、抗いようのない異能。彼はその力を使い、仮面の男「ゼロ」として、その恐るべき計画の第一歩を踏み出しつつあった。

 

時を同じくして、トウキョウ租界の一角にあるブリタニア軍特派(技術部)では、一人の名誉ブリタニア人の青年が、自らの運命を大きく左右することになる“白い騎士”との出会いを果たしていた。彼の名は、枢木スザク。彼は、ブリタニア軍に入隊し、内部から世界を変えるという、茨に満ちた困難な道を歩もうとしていた。そして、そんな彼を待っていたのは、天才科学者ロイド・アスプルンド伯爵と、彼が心血を注いで開発した最新鋭の第七世代ナイトメアフレーム「ランスロット」だった。

 

そして、そのランスロットが初めて公の場でその驚異的な性能を誇示する事件が発生する。「オレンジ事件」である。

純血派のジェレミア・ゴットバルト辺境伯が、ゼロの巧妙な策略とギアスによって失脚。それに反発した部隊の暴走を鎮圧するため、ランスロットが緊急出動したのだ。

白い機体は、まるで物理法則を無視するかのような驚異的な機動力で戦場を疾駆し、暴走したサザーランド部隊をパイロットの命は奪わずに次々と無力化していく。

 

「これが……ロイド伯爵の道楽の産物か。確かに、既存のナイトメアとは一線を画す、凄まじい性能だ」

エリア11総督府の作戦司令室で、コーネリアは苦虫を噛み潰したような、しかしどこか興味をそそられているような複雑な表情で、ランスロットの戦闘記録映像を見つめていた。その隣には、ギルフォード、そしてレオンハルトの姿もあった。

レオンハルトは、映像に映し出されるランスロットの動きを、ただ静かに「感じて」いた。彼の目に映るのは、機体のスペックやパイロットの技術ではない。その機体から放たれる、特異な「波長」だった。

(このパイロット……名誉ブリタニア人、枢木スザク。彼の動きには、常軌を逸した何かがある。まるで、自らの命の価値を極端に低く見積もっているかのような……あるいは、死ぬことすら許されないとでもいうような、凄まじいまでの執念と、どこか悲壮なまでの覚悟の波長を感じる)

彼の感覚は、スザクの心の深層に潜む闇の一端を的確に捉えていた。

(このランスロットという機体と、枢木スザクというパイロットは、間違いなく今後のエリア11の戦局において、極めて重要なファクターとなるだろう。ユーフェミア様の波長と、良くも悪くも強く共鳴する可能性が高い)

レオンハルトは、新たな脅威と、そしてエリア11の戦いの複雑さを、改めてその肌で感じさせられた。

 

同時に、ゼロという存在が、ジェレミアのような軍の重鎮の精神すら操るような、得体の知れない「力」――それはギアスであると彼は確信に近い感覚を覚えていたが――を駆使している可能性に、改めて戦慄を覚えた。その力は、通常の軍事力とは全く異なる次元で、人々の心の波長を強制的に書き換えてしまうのだ。

 

オレンジ事件を一つの転換点とするかのように、ゼロの活動はさらに活発化し、その手口はより大胆かつ巧妙さを増していく。そして、ついに彼は、虐げられ、搾取されるイレヴン(日本人)の前にその姿を現し、力強い声で高らかに宣言した。

「聞け! ブリタニアに虐げられし全ての者たちよ! 我々は、力無き者たちの盾となり、力有る者たちへの剣となる! 我が名はゼロ! 我が元に集え! 黒の騎士団を創設し、今こそブリタニアに正義の鉄槌を下すのだ!」

そのカリスマ的な演説と、実際にブリタニア軍を出し抜く手腕は、多くの絶望していたイレヴンの心を掴み、彼らは次々と黒の騎士団へと合流していった。ブリタニアにとっては、単なる散発的なテロリスト集団から、明確な組織と目的、そしてカリスマ的指導者を持った本格的な反乱軍へと、敵の様相が劇的に変化した瞬間だった。

 

レオンハルトは、この黒の騎士団の出現と、ゼロの巧みな情報戦略、そして大衆の心理の波を巧みに操る扇動の巧みさに、これまでのテロリストとは全く異なる、知的な、そして底知れない深淵を覗くような脅威を感じ取っていた。

(ルルーシュ・ランペルージ……いや、ゼロ。君が本当に奏でようとしている旋律は何だ? そして、俺は、この混沌とするエリア11で、どの音を奏で、どの響きを守るべきなのか……)

 

エリア11の空は、ブリタニアの支配を示す絶対的な青と、反逆の炎を思わせる不気味な黒によって、徐々に、しかし確実に二分されようとしていた。白銀の騎士レオンハルトの戦いは、新たな局面を迎え、より複雑な様相を呈し始めていた。彼の前に立ちはだかるのは、純白の騎士ランスロットか、それとも黒の反逆者ゼロか。あるいは、その両方か。

運命の歯車は、それぞれの思惑と願いという異なる音色を乗せて、複雑な不協和音を奏でながら、確実に、そして容赦なく回り続けていた。




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