借金女男爵の竜舎経営   作:サイリウム(夕宙リウム)

10 / 10
10:やる事多いですわ!

 

「着陸よーい。はいゆっくりー、ゆっくりー。」

 

「ぎゃ、がぎゃ!」

 

「怖くな~い、怖くない。重力だけじゃ二人とも死なないから。大丈夫大丈夫。」

 

 

卵の親、その飛竜から逃げ延びた私たちは、ようやくその追手を振り切り屋敷まで帰って来ました。しかしまぁ一悶着起きてましてね?

 

急降下の恐怖がちょっとまだ残っているのか、『もうこのままずっと空飛んでる!』みたいなことを言い始めたシャグル。一応降りる気はあるみたいなのですが、さっきからずっと怖い怖いと言いまくっているのです。確かに気持ちは分かるけど……。

 

シャグル? もし飛び続けていたらもっと怖い思いすると思うけどいいの? 体力も魔力もすっからかんになって、後は何もできずただ落ちるのを受け入れるだけ、みたいになるけど。

 

多分そっちの方が怖いわよ?

 

 

「ぎゃー!!!」

 

「はいはい嫌なのね。解ったから早くおりましょう? ほら下で婆やが待ってくれてる。ちょっとずつだったら怖くないから、降下してみましょ? ね?」

 

 

その背を出来るだけ優しく撫でながら、そう宥めます。

 

顔も声色も幼子を導く姉のような感じにしてますが……。実は内心結構焦ってます。はい。

 

飛竜から逃げる際。自身はシャグルの離陸サポートなどを行いました。基本的に彼の魔力を借りて行った形にはなるのですが……、そのすべてを彼の魔力だけで補えたわけではありません。というかそもそもあの渓谷にたどり着くまで結構魔力を使っていたので実はもう魔力切れ寸前なんですよね。

 

まぁそんなこと言えば『いざとなればお前助けてくれるよね?』みたいなこと言ってた彼の不安をあおるだけ。口にすることはできません。あ、ちなみに今だけで高度500くらいありますから、落下しただけで全身大怪我が確定しております。

 

シャグルが肉体の頑強さから。私がわざわざ運んできた卵を放棄し、五点着地を上手く出来てようやく、“死なない”だけです。はい。

 

と、ということで頑張ってくださいまし! ほらシャグルなら出来る出来る!

 

 

「ぐ、ぐる……。ぎゃ!」

 

 

覚悟を決めたのか、そう叫ぶとゆっくりとですが高度を下げていく彼。

 

じりじりと恐る恐る降りていく姿は少し滑稽ではありますが、一切声にも顔にも出さず、ただ見守ります。

 

初めて会って急降下を喰らったのが十数日前。直後に空を飛ばせていれば彼の心に巣食っていた恐怖を拭うことが出来たのかも知れませんが、既に過ぎてしまった話。本来彼の身体に備わっているはずの機能すら扱えぬほどに、その感情は大きくなっていました。

 

 

(けれどまだ短い方。)

 

 

飛び上がることは出来たのです。ここからトラウマの根幹。“落下”を克服し、成功した経験を積ませてやれば、すぐにその名にふさわしい飛行能力を取り戻してくれるはずです。

 

さ、シャグル。貴方なら出来ますわ。

 

 

「その調子、ゆっくりー、ゆっくりー。」

 

「……ぎゃ。」

 

「もうちょっと、もうちょっと……!」

 

 

高度を下げながら、彼が起動する何かしらの魔法。その肉体が徐々に軽く成って行き、同時に降りていきます。羽ばたきや風を使用せず、また人のように何かの理論に基づかない魔法。彼が生まれながらに覚えていたのであろうそれを、たどたどしい操作で行使していきます。

 

しかし、確実に下がる高度。

 

そして。

 

 

「……よっし! 完璧!」

 

「ぎゃー!!!」

 

 

出来ましたわねぇ! うんうん!すごいすごい!

 

ぱっと彼の背から飛び降り、空いた右手でその鼻を撫でてやります。

 

すると上手くいった安堵からか、私の手に顔を寄せて自分から撫でに来てくれる彼。ふふ、可愛らしい子。でも多分すぐに……。

 

 

「……ぐるぅ? ぎゃ!? ぎゃぎゃぎゃ!!!」

 

 

なんか私に撫でられてたことや、背に乗ってたことを非難して来る彼。あはー! うんうん、シャグルはこうでなくっちゃ。跳ねっかえりがないと面白味がありませんものねぇ。

 

 

「にしても、自分から撫でて貰いに来るとは……! デレましたわね?」

 

「ぎゃぎゃぎゃっ!!!」

 

 

はいはい、元気な否定をありがとう。

 

そんな風に暴れ始めたシャグルの口に干し肉、持って来ていた彼のおやつを突っ込んで黙らせながら、婆やのもとへと向きます。

 

 

「おかえりなさいませ、お嬢様。ご要望通り籠をご用意しております。」

 

「あら、ありがとう婆や。それとただいま、ね。」

 

 

婆やにそう言うと、頭を下げてくれる彼女。

 

幼いころからずっと世話になっているのが婆やです。故に娘や孫のように雑に扱ってくれても構わないと言っているのですが、いつもこうして頭を垂れてくれます。そもそも私ってまだ彼女にお給金払えてないので、雇用関係すらないようなものなのだけど……。ほんと申し訳なさしかありませんわ。

 

現状に甘えてしまっていますし、少なくとも雇用関係だけは成り立つようにしませんと。

 

 

(して、お願いしていた籠ですが……。うん、流石完璧ですわね。)

 

 

彼女にお願いしておいたのは、飛竜の卵を持ち運びできる大きな籠。

 

卵自体のサイズが米俵なので一つにつき一個の籠となってしまいますが、その分多めに用意してもらっていたので大丈夫そう。しかもわざわざ下にクッションを敷いて衝撃が伝わらないようにしてくれているあたり、婆やの気遣いが光っています。

 

ほんと感謝しかありませんわね。

 

 

「ちょっと危なかったけど、無事持ち帰ることが出来たわ。」

 

「この卵が……。昔、先々代様に見せてもらったのとそっくりですねぇ。」

 

「もしかしたらその血筋の子なのかもね。……さーって、どう差配しましょうかねぇ。」

 

「ぐる。」

 

 

さっきあげた干し肉を食べきり、卵に目を付け始めこちらに寄って来たシャグルの口を片腕で抑えながら、思考を巡らせます。

 

飛竜の卵は、その形状を見るだけで何かを判別することは出来ません。オスなのかメスなのかは勿論、その血統を証明することも難しいのです。そこを貴族の名を使うことで正統性を担保し、血統であることを証明するのですが……。

 

 

(没落寸前な我が家の名にどれだけ信頼性があることやら。)

 

 

あの飛竜がいた渓谷ですが、立地的に力のない者が辿り着くのは難しく、また他領の飛竜が紛れ込めないようになっています。つまりあの地で育まれている飛竜たちは我が家が逃がした過去の飛竜たちによってその血が構築されていることになります。

 

故に血統的には確かに我が家の飛竜ではあるのですが、それを証明することは私に出来ませんし、男爵家の名をもって担保とすることも出来ません。

 

 

(我が家の現状が他家にどれだけ把握されているかも不明瞭ですからね……。)

 

 

う~む、考えることが多くて頭痛いですわ。

 

 

「してお嬢様、幾つかの卵を売ると仰っていましたが……。どれを、どこへお売りになるのですか?」

 

「一番中身の小さい子を領外の商家に、って形でしょうね。値段は下がるけどそれが妥当だと思うわ。」

 

 

大丈夫だとは思うのですが……。この世界では普通に貴族同士での戦争が起こります。

 

領土だったり、爵位だったりを奪い合う感じですね。無論王家がそれを止めたりすることもあるのですが、色々と根回しし請求権を獲得、『新品の古文書』から『そこ元からウチの領土じゃね?』とか言い出す奴が結構いるのです。

 

それを止めるために王家が色々牽制したり、王都にある学園で次代の統治者たちが関係性の構築に励んだりするのですが……。私その辺り結構疎かというか、嫌われる人にはメチャ嫌われてたんですよねぇ。首席取るためにちょっと無茶して、恨み買ってそうなこともありましたし。

 

 

「なので周辺他家に戦力に直結する飛竜を売るのは論外、輸送などに使ってくれる商家、出来れば王都近くの資金力がある所に売るのがベストですわね。我が家の現状がバレておらず、ヴァロックの名前が通用すれば……。200万ぐらいは行けるかなぁ、って感じですわね。」

 

 

後はそれをどうやって差配するか。

 

卵を育てる以上孵化器は用意しなければなりませんし、厩舎の再建も必須です。合わせてシャグルに色々教えて問題なく飛行できるよう訓練もしなきゃなりませんし、町の防衛戦力拡充のため装備の購入と未払い賃金の清算。あとは新規人材、兵士と厩務員の獲得のため求人の用意もしないと……。

 

 

「……お嬢様は色々とお忙しいようですし、シャグルちゃん。先にお夕飯にしますか?」

 

「ぎゃ! ぐぎゃ!!!」

 

「えぇ、お嬢様からは前々からご許可頂いているので。問題ありませんよ。今日は牧場からお肉を頂いたので、そちらに香草を詰めて焼いてみました。ソースも飛竜の方が食べられるものをご用意していますよ。」

 

「ぐるっ!? ぎゃるる~♪」

 

「あらら。飛び跳ねちゃって。何を言っているのかは解りませんが、可愛らしい子ですねぇ。」

 

 

うーむ。やる事多いですわね。

 

ですが結局卵を売らねば話は進みません。

 

 

(かといって、我が領内に飛竜を飼える様な商人と伝手がある者といえば……。オットーくらい。)

 

 

私、いえ我が家が300億を借りている相手である彼ぐらいしか、思い浮かびません。

 

無論彼以外にも商人はいるのですが、我が領とその周辺を繋げる行商人のような方々がいるくらいで、飛竜を取り扱える方はいません。自然と彼にお願いすることになると思うのですが……。

 

そもそも、お仕事受けてくれるかしら。

 

 

(もう商人やめる、みたいな感じでしたからねぇ。)

 

 

王都で彼から父の話を聞いた後、自身はオットーと別れ全速力でこの地まで帰って来ました。一応彼の出身もこの町であるため、荷馬車にでも乗りながらゆっくりと帰って来ると思うのですが……。父がしでかしてしまったことを考えると、もうこの地に帰ってこない可能性もあります。

 

そして帰って来たとしても、以前のように取引を願えるとは限りません。

 

此方としては信頼できるのが彼しかいない以上、土下座して何とかお願いするしかありません。更に今後のこと、飛竜を売って借金返済を狙うのであれば、オットーがこれまで持っていた飛竜関連の販路などについて跡を告げる様な人物を用意する必要があります。

 

 

(私じゃ育成ができても、取引は出来ません。そしてこれまで我が家を支えてくれていた彼のノウハウが失われるのは絶対に避けねばならぬ案件です。)

 

 

……彼が受けてくれるか解りませんが、帰って来ることを信じてその候補者も探した方がいいかもしれません。王都からこの地まで荷馬車で大体2月程度。飛ばせばもっと早く移動できますが、私が移動に使った時間と、この地に着いてから経過した時間を差し引けば……。今月中に帰って来てくれるはずです。

 

そ、それまでに色々何とかしなければ。

 

 

「え、えっと? それで私がやらないといけないことは……?」

 

 

・借金300億の返済

・そのために飛竜の育成、販売

・飛竜の育成に必要な厩舎の再建

・残す卵2つを確実に孵化

・成体になるまで育て、レースや戦で名を高め血統を再評価させる

 

・飛竜の販売に必要な販路の確立

・そのノウハウを持つ大商人オットーの引き留め

・その後継者探し

 

・領主として町を守る

・まず兵士たちに未払いの賃金を払い、再契約

・武器を集め、兵達を武装させることで防衛戦力とする

 

・シャグルの訓練

・まだ扱いが解っていないらしい魔法などの練習

・飛行訓練を通してトラウマの完全消去

 

 

「……や、やること! やることが多い! いやマジで本当に多い!」

 

 

え、うわぁ。え? 本当にどうしよう……。

 

ばっと地面に書き上げてみましたが、本気で多いですわ。しかもこれに併せて貴族としての内政とか外政もしなきゃならないんでしょ? いまそれどころじゃないから放置してますけど。

 

 

「と、とりあえずお金かからなくて今すぐできる様なことからしましょうか、うん。」

 

 

となるとシャグルの訓練と、後継者探しってところですわね。

 

 

「今日はもう遅いですし、後継者の方は明日からにしましょう。私がこの地を離れた3年間の間に新しい商人が旗揚げしてるかもしれませんし、情報集めから進めていきましょうか。となると……。シャグルー! ちょっと今から魔法、ってアレ?」

 

 

シャグルどころか婆やまでいなくなってる。

 

ど、どこ行きましたのー!!!

 

 

「ぎゃぎゃ! ぐるぅ!」

 

「あ、シャグルちゃん! それお嬢様のお夕飯ですよっ!?」

 

「ぐる、ぐるぅ! ぎゃぎゃー!」

 

「あぁ裏の厨房の方。私の飯うまいうまいって言いながら食ってますわね。…………は?」

 

 

あいつ、主人の飯勝手に食ってんの?

 

こ、これは制裁案件ですわねぇ?????

 

 






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