借金女男爵の竜舎経営   作:サイリウム(夕宙リウム)

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2:実家に帰りますわ!

 

「というわけで急いで領に戻っているのですが……。やっぱり荒れ始めてますわね。」

 

 

一気に300億を稼げるアイデアなどすぐに思い至りませんし、手元に何か良い商品があるわけでもありません。

 

いくら前世があっても無理なものは無理なのです。一瞬だけ臓器や春を売ることも考えましたが、1億にすらならないでしょうし、売った瞬間色々終わります。ならばもう我が家で唯一光明になりそうなのは飛竜だけ。幸いなことにある程度の飼育は幼いころから叩き込まれています。

 

 

(うまく行けば一匹につき数億、数十億。夢だけはあるんですよね。)

 

 

その能力を証明できれば億単位で売れますし、その血統を証明できればより高値で売ることが出来るでしょう。もしそれが無理でも飛竜と言うだけで欲しがる人はいますし、当たれば大きいお仕事なのです。

 

まぁ、その分飛竜の気性の荒さや、エサ代の問題。繁殖自体の難易度の高さに、血統が証明されていない子や人気が薄い子だと買いたたかれる可能性も大いにあるので、難しいのは十分理解しています。けれど300億という大金を返し切るには冒険するしかないでしょう。

 

今我が家にいる飛竜がどんな子なのか。そもそも飛竜が残っているかすら解りませんが……。飛竜たちの家、厩舎は確実に残っているはずです。

 

王都でただあたふたするよりも何倍もいい選択なはず。

 

 

(ま、スタートが借金まみれという最悪な状態なのです。後はここから上り詰めるだけ。頑張りましょ。)

 

 

というわけで急いで帰って来たのですが……。

 

案の定というか、街道が荒れ始めています。道そのものはまだ普通に使うことが出来るのですが、その道の外。脇にある草むらや森などに人が入った形跡が見受けられません。父が夜逃げしたと聞いたときから覚悟はしていましたが……。ちょっと不味いかもしれません。

 

オットー殿から聞いたところ、かなり前から父は使用人たちに暇を出し、夜逃げしたことが解っています。そしてその使用人には我が家に仕えていた騎士や兵士も含まれていたらしいのです。借金しているのですから支出を減らすという考えは間違っていないのですが……。明らかにソレ、削っちゃダメな奴なんですよ。

 

 

(この世界は人類と魔物が生存圏を巡って常に争い続けています。)

 

 

開けた場所が人の生存圏ならば、森や茂みは魔物の生存圏です。定期的に入り込み魔物を狩ったり、彼らが巣を作りそうな場所をあらかじめ壊しておくことで増加を防ぐ。税を集める代わりに民を脅威から守ることが求められる貴族が絶対にしなければならないことです。

 

我らは竜騎士の家系ゆえに空や開けた場所の戦闘には長けていますが、森や茂みは不得意。その穴を埋めるために一定数の騎士や兵士を雇い、領地の見回りをお願いしていたのですが……。

 

 

「確実にやってないですわね、コレ。……帰ったらすぐに何かの対策を打ちませんと。」

 

 

そんなことを考えながら、村に続く道を歩いて行きます。

 

一応私も戦えますが、専門は竜騎士。地上戦に特化しているわけではありません、飛竜さえいれば空の魔物は全て落して見せますが、地上の魔物は少し不安。そもそも私一人で領地を守り切れるわけがありませんので、人を雇わねばなりません。ですけど我が家、借金まみれなんですよね。

 

そも飛竜を育てるのにもお金がかかりますし、父が夜逃げする際に飛竜を全て売り払っていればどこかから手に入れなければなりません。流石に厩舎は残っているでしょうが、確実にコストがかさみます。そこに兵を雇うとなると……。ちょっと気が遠くなりますね。ガチで。

 

 

(手持ちのお金はあるのですが、それも少額。)

 

 

更にもし私にお金があったとしても……、一度手放した人材を集めるのは非常に難しいでしょう。

 

父が使用人や騎士たちをいつ解雇したかは解りませんが、我が領土に仕事がない以上外に出てしまった者たちが必ずいるはずです。兵士だけでなく、厩務員など。技術を持つ者であれば他の地でも生きていけますからね。そんな新たな場所で新しい生活を歩み始めた人を呼び戻すのは……、まず不可能。

 

無論この地にまだ残っている方もいるでしょうが、一度父のせいで解雇してしまっているのです。信用は無くなっているでしょうし、そもそも雇うお金がありません。

 

 

「まずは纏まったお金を手に入れる方法を考えながら、領民たちからの信用を取り戻す。飛竜の厩舎経営は一旦お預け……、あら。」

 

 

そんなことを考えながらようやく見えて来た村の防壁の方を眺めていると、人影が一つ。

 

サイズから村の子供でしょうが、やはり3年も離れると成長していて誰かよく解りません。男爵ですしあまり大きな領土ではないので領民の顔は全部覚えているのですが……。

 

少し不安になり、軽く詠唱しながら風の魔法を唱えます。統治者が民の名前を間違うのは御法度ですし、そもそも夜逃げした領主の娘を村が受け入れてくれるかもわかりません。

 

初手を間違わぬためにも、風を動かしあちらの声を拾ってみます。

 

 

「あ、アデ様! ママ、アデ様帰って来たー!」

 

「アデレート様っ!? あぁどうしましょう!? みんな、みんなにすぐ伝えてきて!!!」

 

「はーい!」

 

 

母親の声的に、そこまで切羽詰まったような声ではない。どちらかと言うと喜びの感情が乗っているような性質。あと声から思い出せましたが、母親の方がグレタ、女の子の方がルウでしたね。二人とも何度か話したことのある民の一人です。あの子あんなに大きくなったのねぇ。ここを出る時はあんなに小さかったのに。

 

 

(……声から考えると、歓迎自体はされてるようで一安心ってところでしょうか。)

 

 

父が夜逃げしてしまったことから『貴族の責任を放棄した! その娘も殺せ!』ってなることも覚悟してましたけど、受け入れてくださるようで何よりです。

 

そんなことを考えながら少しゆっくりめで歩いていると、こちらに向かって走り寄って来る母親。まだ結構な距離が離れており、そこをずっと走らせるのは疲れるだろうと思い、風魔法を起動。軽く駆け寄り、彼女と合流します。

 

 

「アデレート様! よく、よくお戻りに……!」

 

「ただいま戻りましたわ、ベルタ。どうやらかなり待たせちゃったみたいで、ごめんなさいね。」

 

「いえっ! 戻って来て頂けただけでっ!」

 

 

若干涙ぐみながら、頭を下げそう言う彼女。

 

大事な領民の一人で顔を合わせば話す程度の関係でしたが、ここまで感情を表に出す様な方ではなかったと思います。軽く村の方を見れば見知った顔が集まってきていますし……。

 

 

「あまり外にいては落ち着かないでしょう。皆様も集まってきているようですし、村の中でお話を聞かせて頂けますか?」

 

「はい……!」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ふぅ。歓迎されたのはいいけれど、もみくちゃにされたわ。」

 

 

まぁ民と統治者の距離が近くてやりやすいですし、悪い気はしないのですが。

 

領民たちに歓迎された後、私は自身の屋敷へと続く道を歩いています。すれ違う人全員に声をかけられますから笑みと振り返す手を忘れずに、ですけどね。

 

我が家が治めて来たヴァロック男爵領は、一つの町。『ゼルトラウ』を治める貴族です。最初は村一つだったそうですが、竜騎士として大成し、その教練・生産施設としての名声を手に入れた後に発展。村から町にグレードアップした、という感じです。それゆえか、男爵としてはかなり裕福で整った街並みを維持しているはずだったのですが……。

 

 

(この歓迎、素直に喜んでいいのか解りませんね。)

 

 

あの母親と町の出入り口で私を迎え入れてくれた民たちの顔は『これでやっと好転する』というものでした。

 

確かに領主が夜逃げしたと聞けば民も不安に思うでしょうが、我が民はそこまで軟弱ではありません。というかそもそも民が気にするのは統治者の有無ではなく、税の額ぐらいのものでしょう。トップがいなくなっても日々の生活は続くのです。気にせず普段通りの生活をしているのだろうと思っていましたが……。

 

歓迎されると言うことは、私に何かしてほしい。もっと言えば領主の娘であった私でしか解決できない様な問題が既に起きている、ということ。

 

もう話を聞く時点でちょっと嫌な予感がしていたのですが、自分から『話を聞く』と言ってしまった以上、聞かない選択肢はありません。

 

 

(『この町に防衛戦力がいない』とは。父上、ほんと何してますの……。)

 

 

そりゃ魔物の間引きなんかできるわけないです。

 

彼らから話を聞いてみれば、父上が失踪する以前から兵士たちに払う賃金が滞っていた、という話。父が消えてからは賃金を貰う相手がいない様な状態。自然と兵士たちは働き口を探すため領外に出ていき、今やこの町を守る存在がいないという始末。

 

勿論この地に留まって下さった方もいるようですが、流石に彼らにも生活があります。他の町の住人たちから色々と支援を受けていたようですが、限界が来てしまう。そして生活に瀕した結果、我が家から支給していた武具を売って何とかしていたようです。

 

 

(一応今でもボランティアとして見回りとか、見張りはしてくれているようですが……。)

 

 

装備を売ってしまった以上、ほぼ戦えない状態。戦力として見なすことが出来ない状態です。今はまだ運よく何とかなっているようですが、こんな状態で魔物の大軍が攻めてくれば……。確実にこの町は終わるでしょう。そりゃ私が帰ってくれば喜ぶわけです。

 

 

「……ほんとお金が足りませんわね。」

 

 

この様子だと、兵士だけでなく使用人たちの給金も未払いが起きていることでしょう。それをしっかりと清算し、同時に兵士たちの装備を整え戦力とする。それが出来たら町周囲の警戒をお願いして魔物が増えすぎないように整理。既に問題が山積みです。

 

そしてそれに必要なお金を稼ぐ方法である、飛竜の厩舎経営の方も不安要素が沢山。この様子では飛竜が野生化しててもおかしくないですし、そもそも父によって全部売り払われている可能性もあります。そしたら外から卵を買うか、森の奥深くに進んで卵を手に入れに行かなきゃならないんですけど……。

 

うん、マジヤバいですわ。

 

 

「とにかく、一回屋敷に戻ってみましょう。何か残ってるかもしれませんし、父が消えた理由も解るかもしれません。まぁ解ったとしても今は放置する他無いでしょうが……。そろそろですね。」

 

 

少し歩いてみれば、見えてくる懐かしの我が家。

 

曾祖父の代に建てられたらしいかなり大きな屋敷で、男爵家の格を考えれば少々過剰なもの。厩舎経営が軌道に乗り景気が良かったが故に建てられた物らしいですが……。

 

 

「やはり管理する人がいなければ荒れますわね。」

 

 

鉄製の門を開けて入ってみれば、綺麗に手入れされていたはずの庭が雑草が生い茂っています。掃除も碌にされていないようで、ちょっと道も汚くなってますし、ちょーっと領主の屋敷としては相応しくないですわね。当分できるか怪しいですが、ここの掃除もタスクに入れておきましょう。

 

そんなことを考えながら、屋敷の本館への扉に手をかけ、開きます。

 

 

「ただいまー。……誰もいませんね。」

 

 

一応声をかけてみますが、何も帰って来ません。思ったより埃が少ないですが、到るところが手入れの行き届いていない屋敷。生活感がないというか……。なんかこう、込みあがって来るものがありますね。昔は声を上げれば誰か飛んできてくれましたし、空気ももっと暖かなものでした。それじゃ今は一切音がない、冷たい空間。

 

……えぇ、こんなところで感傷に浸ってる場合ではありませんね。

 

少しの違和感を覚えながらも、懐かしさを感じながら階段を上り父の執務室へと向かいます。何かあるとすればそこでしょう。

 

 

「失礼します、って誰もいないのですけどね。父上、お邪魔しますわよ。」

 

 

軽いノックの跡に入ってみれば、懐かしいインクと紙の香り。部屋の主人はやはりどこにもいませんが、慣れ親しんだ光景がここにありました。夜逃げされてしまいましたが、結構几帳面な方で部屋いつも整えていらっしゃりました。本人が消えたとしてもその跡は残っているようで、書斎や棚は少し呆れるほどに整理が為されています。

 

……権利書関連は全部そのままですね。売り払ってないみたいです。

 

爵位を示すメダリオンと印章も残っていますし、土地や厩舎、エサ用の牧場周りの権利もそのまま。ちょっとここまで残っていると、『夜逃げ』というにはいささか疑問が残りますわね。色々おかしいとは思っていましたが、やはり何か理由があったのかもしれません。私がそう思いたいだけ、と言うのも十分にあるでしょうが。

 

 

そんな風に部屋を物色している最中、感じ取る気配。

 

 

音を殺し自身の背後に忍び寄ってきているようですが……。足の踏み込みの感じから得物は木製。殺しに来たのではなく無力化が目的、賊と勘違いされましたかね?

 

そう考えながらゆっくりと振り返ろうとした瞬間、棒状のものが振り下ろされる風切り音。

 

 

「この、不届き者ぉぉぉ!!!!!」

 

「よ、っと。」

 

 

振り下ろされた木の棒、いや箒を軽く手で払いながら奪い取り、軽くその声の方へと先端を向ける。

 

 

「やっぱり、婆やでしたか。」

 

「お、お嬢様ッ!?」

 

「ふふ、良い一閃でしたわね。衰えていないようで何より。」

 

 

でも賊扱いされるとは、そんなに私変わりましたかね? まぁ15から学園でしたし、背も伸びたので変わってないとは思いませんが……。ん? 婆や? 婆やどうしたの白目剥いて……。あら気絶してる。まぁ確かにすごく忠の厚い人でしたし、主の娘に手を上げたとなればそうなっちゃうのも仕方ないですか。

 

んで心臓は……。

 

止まってますね。

 

 

……婆やッ!?

 

 

心肺蘇生! 確かにお年を召してはいますけど死ぬのには早いですわよ!?

 

 






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