借金女男爵の竜舎経営   作:サイリウム(夕宙リウム)

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5:名付けですわ!

「ふぅ、ひっさしぶりに死を覚悟しましたわね。」

 

 

地面に転がりながら、そう呟きます。

 

なんとか振り落とされずに着地。正確には落下しそうになったところを風で無理矢理包み込み、速度を落して落下したわけですが……、もう両手両足が痺れて動きません。振り落とされないようみっともなく彼の身体に抱き着いてましたからね。超しんどい。

 

ですが竜騎士、いや龍の飼育をするならば強さを見せなければなりません。

 

震える体を気合で無理矢理抑え込み、立ち上がりながら彼の元へと向かいます。

 

 

「さて貴方、生きてますか?」

 

「ぐぎゃぁ……。」

 

 

話しかけると、ちょっとしんどそうな顔と声を向けてくる彼。

 

一応落下時に受け身は取っていたようですが……、少々当たり所が悪かった様子。頭から落ちたせいで、首を痛そうにしています。飛竜ならカルシウム多めに取らせてしっかり睡眠をとらせればすぐに治りますが、この子はドラゴン。色々違う所もあるでしょう。大事を取って休ませた方が得策ですわね。

 

 

「さて! 今日の遊びはこれくらいにしておきましょうか! 暗くなる前にお家に帰りましょう? あぁでも一人じゃ歩けないとか言わないでくださいね? 流石に運べませんから。トン以上ありそうですし。」

 

「ぎゃ?」

 

「うん何でかって? だって貴方ウチの子になるのでしょう? ほら頑張って歩きなさいな。」

 

「ぎゃぎゃ!」

 

 

帰って来るのは否定の鳴き声、でも何故か素直に私の後を付いてきます。

 

……あ、違いますねコレ。彼的には自分の帰り道になんか私がいるって感じですね。向けられる視線が変な生き物を見る目になってます。落下を助けたおかげか敵意は向けられてませんが、まだまだ彼の中では自分が圧倒的上位なのでしょう。

 

このまま優しくし過ぎると私のことを召使か何かと勘違いしますわね。ただの愛玩動物ならそれでもいいのですが、自身の相棒とするのならばちょっとこのままじゃダメです。

 

 

(かなり賢い子のようですし、単にエサを与えるのではなく交換するという形の方がいいかもですね。労働などの対価を支払うことで、より良い思いが出来ると解ってもらうのがベストです。)

 

 

そんなことを考えながら、いつの間にか沈み始めていた日を眺めます。

 

厩舎に龍がいた時は本当に何事かと思いましたが、終わってみればよい成果と言えるでしょう。最悪町ごと滅ぼせるようなドラゴンがかなり若い個体で、私でも対等に“遊べる”相手。しかもさっきの出来事で少なくとも敵意を向けなくてもよい相手にまでランクアップできたのです。一緒に帰り道を歩けてる時点で、それは確実。

 

自身の騎竜、いえ騎龍にするまではまだ時間はかかりそうですが……。この喧嘩友達みたいな現状に満足せず、彼の心の中に私の比率を少しずつ増やしていくことにしましょうか。

 

うんうん! ともに大空を駆ける日が楽しみですわ!

 

 

「あ、そう言えば貴方。これまで食事はどうしていたのです? 領民の皆さんから話が上がっていないことを考えると、別の所から取ってきているようですが……。もしかして飛竜喰いました?」

 

「ぎゃ。」

 

「……食べたっぽいですわね。ん~、これ一緒に飼育していい奴ですか? とにかく今日からは魔物でも狩って食べてください。」

 

 

マジでお願いしますよ、ほんと。

 

飼育スペースの関係上、今後上手く行けば同じ厩舎で彼と飛竜を飼うことになるでしょうが、毎日その数が減るとなればもう大損害です。というか食べる以前に喧嘩し始めたら両方とも顔がパンパンになるまで棒でひっぱたいて反省させてやります。

 

ふふ、これでも痕が残らない方法は熟知してるのですよ……!

 

 

「ぎ、ぎゃ!」

 

「あら、口答えする気? お顔パンパンが御所望?」

 

「…………ぎぃ。」

 

「はい、おりこうさん。よく我慢できましたねぇ。」

 

 

ふぅ。にしても、かなりやり易い子で助かりました。

 

飛竜でもたまに人とソリが合わない子がいます。個体によって言葉によるコミュニケーションを好む子や、この子のようにある程度暴力的な手段をもって心を通わせる子もいるのですが、両方ともダメな子。マジで人を食事としか見れない子もいるのです。

 

ドラゴンという飛竜とは別の種族。故に完全に人を嫌っている可能性も考えていたのですが、結果としては何度も会話が成立している上に、とても感情豊かな返事を返してくれる。飛行時急速回転からの振り落としで叩き落されそうにはなりましたが、コレぐらいなら可愛いもの。

 

ふふ、この子が真に私のパートナーになってくれれば、向かう所敵なしでしょう。町を魔物被害から守ることが出来ますし、もし戦になっても怪我無く武功を上げることが出来るはず。このまま全て順風満帆に……。

 

成ってくれれば、嬉しかったんですけどねぇ。

 

 

(借金ってことを考えたら全然マイナス、いや特大のマイナスですね。最悪。)

 

 

思い出すのはこの子が勝手に居座っていた厩舎の様子。

 

まだ何とか生き残っている施設こそあれど、8割ほど崩壊状態。あのままでは飛竜を飼うなど不可能な状態です。そして返済の頼みの綱としていた飛竜は、一切ナシ。これでは稼ぐものも稼げません。一応この厩舎の近くにある山、そっちに野生化した飛竜を探しに行くって手もあるのですが……。見つかるかどうかは未知数。最悪外から卵を購入する必要があります。

 

つまり、出費がヤバいのです。

 

更に、エサ代も問題です。飛竜の食事量はある程度把握していますが、ドラゴンの食事は全くの未知数。飛竜よりも体が大きく、また肉付きも良いことを考えると、倍くらいの食事量がいるかもしれません。一応お抱えの牧場があるので、ある程度融通はしてもらえるでしょうが……。

 

 

「今日はもう遅いから無理だけど、明日は牧場の方に顔を出さないとねぇ。色々と確認しなきゃ。」

 

「ぐるぅ?」

 

「うん? あぁ牧場ね。貴方や飛竜たちのご飯を作ってくれてる所よ。家畜を色々を飼育してるところね。領内で消費されるお肉も全部そこで作られてるの。」

 

 

そう説明してやると、多分彼の頭の中でとても良い光景が出力されたのでしょう。とてもキラキラした目をしながら、口の端からよだれが垂れ始めてます。

 

……お腹減ったのかしら?

 

 

「行きたい?」

 

「ぐぁ!? ぎゃ! ぎゃぎゃ!!!」

 

「あぁはいはい。じゃぁ連れて行ってあげましょうね。でも勝手に人や家畜に襲い掛かったら……、解ってるわよね?」

 

「ぐるぅ~!」

 

 

あらら、楽しそうな声。ほんとに解ってるのかしら? まぁ調子良さそうで何より、ってことにしておきましょうか。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

とまぁそんなことがあって、ドラゴンの彼を厩舎に置いて屋敷に帰って来たのですが……。

 

 

「なんでついて来てるの、貴方。」

 

「ぎゃ?」

 

 

いやそんな不思議そうな顔しないの。

 

貴方のお家って厩舎でしたでしょう? 巣の形跡がありましたし、昨日まであそこに住んでいたのではなくて? だから厩舎近くで別れたんですよ? 明日は朝に迎えに行ってあげますから、そこから牧場にお邪魔しましょうねーって。

 

それが何で普通にこっちについてきちゃってるんですか。

 

 

「ぐるぅ!」

 

「……もしかして牧場のこと? それは明日ですよ明日。次太陽が昇ってきたら、です。」

 

「ぐる? ……ぎゃッ!」

 

 

あぁやっぱ勘違いしてたんですね……。

 

というか解ったのならもう帰って下さる? 別に貴方の存在を民に隠す必要はないですが、まだ完全に手綱を握れたとは言い切れません。何か問題を起こしてしまうかもしれませんし、そもそもドラゴン自体危険な生き物だという認識です。それを考えれば、領民にいらぬ心労を与えるのは確実でしょう。

 

さすがに貴方の鱗と体格で『この子新種の飛竜なんですよ~』とか言えないですし、何か事故が起きる前に帰って欲しいのですが……。

 

 

「あぁお嬢様。先ほどは失礼しました、お帰りなさいま……。ほぇ?」

 

「あら婆や。ごめんなさい、邪魔よね。すぐに返すわ。ねぇ貴方? ここには何もないし帰りましょ。送ってあげるから、ね?」

 

「ぐる!」

 

「イヤってなんでよ。」

 

 

別に屋敷に来ちゃダメってわけじゃないけど、それは今日じゃないのよ。もっと後の話。

 

そもそも貴方が見て楽しいものは無いし、食べておいしいものもないわよ。食料自体ないわけではないけど、私が移動中に食べてた干し肉とか、婆やのご飯程度でしょうし。少しぐらいなら分けてあげられるけど、貴方にとってはおやつにもならないわよ?

 

だからさっさと帰る……、こんだけ言ってもまだイヤなの? 逆になんでよ……。

 

 

「あ、あの。お嬢様。そ、その子って……。」

 

「あぁうん、ドラゴン。なんか厩舎に住みついてたわ。」

 

「ど、ドラゴン!? ……きゅぅ」

 

 

気絶しそうになった婆やの後ろに回り込み、すぐに抱きかかえます。

 

私たち飛竜乗りにとっては憧れの存在であるドラゴンですが、とても危険な生き物であることは変わりません。過去に国滅ぼしてますからね、この子たち。私はもうこの子の性格を知っているから気にはしませんが、初見で仲よくしろと言われれば難しい存在。むしろ婆やの反応が正しいと言ってもいいでしょう。

 

と、というか婆や大丈夫ですか!?

 

 

「はっ! も、申し訳ありませんお嬢様。」

 

「あぁ良かった。今日は色々ごめんなさいね。ほら貴方も謝りなさい。」

 

「ぎゃ!」

 

 

即座にイヤと返してくる彼。……この辺りも課題ですわね。

 

今日は仕方ないですけど、明日からいい子にしないとご飯抜きとでも言いましょうか? でもこの子無駄に賢いから、こっちは本気で飯抜きしてこないってことを把握しそうですわよねぇ。うーん、飛竜よりも頭がいいのも考えものかもしれません。

 

 

「と、まぁこんな感じで仲良く? うん、仲良くなれそうだからうちの子にしようと思うの。まだ言うことは聞いてくれないけど、なんとかなると思うわ。たぶん今日はもう帰ってくれないっぽいから、ちょっと大きな飛竜と思ってもらえる? なんか悪いことしたらボコるし。」

 

「か、畏まりました……。で、ではすぐにお夕食の準備をさせて頂きますね! 少々お待ちください!」

 

「ごめんね、ありがとう。」

 

 

そういうと、ちょっと青い顔をしながらすぐに屋敷の中に戻って行く彼女。

 

ほら貴方が帰らないから婆や怖がっちゃいましたよ? どうするんですか?

 

 

「ぐ~りゅ。」

 

「自分には関係の無い話? あ、貴方ねぇ。」

 

 

そんなワガママちゃんだったらもう捨てちゃいますわよ!

 

え、そもそも捨てられるような関係じゃない? あー、言いましたわね貴方! じゃあもう明日の牧場行きもなしですー。ご飯もなしー。とっても美味しいお肉ご馳走してあげようと思ったけど、ぜんぶやめますー! ひとり悲しく魔物でも齧っていてくださーい!

 

 

「ぎゃ!? ぐりゅりゅ!!!」

 

「だめでーす! ワルイコにはあげませーん! おかえりくださいまし―!」

 

「ぎゃー!!!」

 

 

こっちに頭突きしながら不満を表してきますが、軽く回避してやります。

 

おーほっほ! いくら魔力切れになってるとはいえ貴方の攻撃など見え見えなのですわー! 飼い犬ならぬ、飼い龍に噛まれるほど耄碌したつもりはございませんことよー! というか貴方は首痛めてるのだから安静にしなさいなッ! ほらもう屋敷の庭に居座っていいから、さっさと寝る!

 

 

「……りゅぅ。」

 

「あーはいはい。お腹すいて寝れないのね。なら私が持ってきた奴ちょっと分けてあげるからそれで我慢しなさい。量ないけど我慢するのよ。明日の朝は多めに食べさせてあげるから。」

 

「ぐるぅ♪」

 

 

凄く機嫌がよさそうな声を出す彼。ほんと調子良いですわねぇ。まぁ人に変な感情を覚えるよりはこうやって楽しく会話できてる方が何倍もいいので、流してあげますが。

 

そんなことを考えながら、大人しく待っているよう彼に言い含めます。

 

確か父の部屋の中に荷物を置いたままこっちに来たはずです。婆やが運んでしまったかもしれませんが、あの中には買い込んだ干し肉が入っていたはず。彼にとっては一口にもならないでしょうが、無いよりはマシなはず。早く取り行ってやろうと思い、屋敷に向かいますが……。

 

それよりも早く開くドア。何かを引きずりながらこちらにやって来る婆やが見えます。

 

 

「婆や!」

 

「も、申し訳ありませんお嬢様。」

 

 

すぐに駆け寄り、荷運びを変わります。ってこれは……。

 

おそらく私の為に作ってくれたのであろう夕食が乗ったトレーと、大きな袋。そちらを覗いてみれば、大量に入っている食材たち。軽く見ればわかりますが、どれも飛竜が食べても大丈夫なものです。

 

 

「急いで搔き集めて参りました。ですが龍に関しては不勉強でして……、お手数おかけしますが、ご確認の後に食べさせてあげてくださいまし。」

 

「婆や……、本当に悪いわね。後で立て替えるから明細頂戴な。それぐらいなら手持ちにありますわ。」

 

「滅相もございません。ぜひお納めくださいませ。」

 

「ぎゃ!」

 

 

そんな会話をしていると、後ろから首をニュっと出してくる彼。

 

あーはいはい、お腹減ってるのね。食べてもいいけど、ちゃーんと婆やにお礼言ってから食べるのよ。

 

 

「ぎゃぎゃ!」

 

「駄目。お礼言わないとあげません。悪い子にはナシです。ほら“いただきます”って言いなさい。」

 

「…………ぐぎゃぎゃぐぅぎゃ。」

 

「あらあら、これはどうもご丁寧に。賢い方なのですねぇ。」

 

 

すっごいしぶしぶでしたが、私の声を真似したような声を上げる彼。

 

ちょっとまだ言いたいことはありますが、言うこと聞いているので良いと致しましょう。さ、お口開けなさい。折角だから食べさせてあげますわ。

 

そう言いながら、彼の口に婆やが持って来てくれた肉や野菜を放り込んで行きます。肉の方は食いつきが良いですが、どうやら野菜は初めてだった様子。少し躊躇はしましたが、婆やが甘みの強いものを持って来てくれたようで、今ではニコニコしながら口を開けて私が放り込むのを待ってます。

 

……たぶんこれ、私が帰って来たということで普段よりも多めに色々買い込んでくれたんでしょうねぇ。婆やはいらないと言っていましたが、後で多めにお金を渡して置くことにしましょう。給金も払えてないのにごはんまでご馳走に成るとか色々ダメですもの。

 

 

「ぎゃ♪ ぎゃ♪」

 

「感情豊かな方ですねぇ。そう言えばお嬢様、この子はなんという名なのですか?」

 

「……そう言えば名前まだでしたわね。喧嘩してましたし。」

 

「け、喧嘩!?」

 

 

そうですねぇ。真っ黒な鱗から単純に“クロ”って懐けてもいいのですが、ちょっとそれでは捻りがありません。この子が気に入りそうで、同時に少し可愛らしい感じが良いと思うのですが……。

 

あ、そうだ。この子いっつもギャーギャーグルグル唸ってますよね。

 

 

「ギャー、いやこっちですと少々呼びにくいですわね。だったらぐるの方で……。ぐる、ぐる……。あぁシャグル。『シャグル』なんてどうです?」

 

「ぐるぅ?」

 

「えぇ貴方の名前です。ずっと“アナタ”呼びでは不便でしょう。」

 

 

そう言うと、ちょっと考え込んだ後にギャ!と返してくれる彼。どうやら気に入ってくれたようですね!

 

 

「これからよろしくお願いしますね、シャグル?」

 

「ぎゃー!」

 

 






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