借金女男爵の竜舎経営   作:サイリウム(夕宙リウム)

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6:牧場に行きますわ!

 

「ぎゃぎゃぎゃ♪」

 

「わー! ドラゴンだ! アデ様すごーい! 捕まえたの!?」

 

「ぎゃ!? ぐるっ!」

 

「えぇまぁそんな感じ。あと危ないからあまり近づかないようにね。」

 

「はーい!」

 

 

違う! とかなり強めの否定を返すシャグルを無視しながら、凄い凄いとぴょんぴょん飛び回る幼子を宥めます。ちなみに彼女は昨日門の近くで私を見つけてくれた子で、ルウちゃんです。うんうん、すごくわかります、ドラゴンカッコいいですわよね。しかもシャグルは綺麗な真っ黒さんなので美しくもあります。

 

でも彼はまだ調教途中の子で、最悪人をもぐもぐしちゃう子でもあるのです。今の所問題なさそうですが、このまま町の中をうろつき過ぎると子供たちが集まって大騒ぎ。この子も大興奮でお痛しちゃうかもしれません。そうなったら大問題ですわ。

 

これだから彼の背に乗って牧場まで飛んでいきたかったのですが……。

 

 

『ほらちょっと古いけど屋敷に鞍があったから、これ付けていきましょ。』

 

『ぐるっ!』

 

『……背中に乗せるのも?』

 

『ぎゃーっ!』

 

 

とまぁこんな感じにイヤイヤ言いまくってたのです。多少仲よくはなれたみたいですが、どうやらまだ私のことを下に見ているようで、背に乗せるのは断固拒否って感じみたいなんですよね。

 

それじゃあ一緒に歩いて行くか、という話になり婆が超突貫でシャグル用の大きな首輪を作ってくれ、それで犬のように散歩するかと思ったのですが……、やはり首輪も断固拒否。結局私が横について一緒に町の中を歩き、牧場まで移動することになっちゃいました。

 

これじゃあ暴れた時の制御方法が暴力だけになっちゃいますし、そも私がドラゴン捕まえてみんなに見せびらかしてるみたいになるじゃないですか! そんなつもり無かったのにッ!

 

 

「いや確かに自慢したい気持ちはありますけど、まだ制御下にない子を見せるのは色々ダメだというか、恥ずかしいというか……。しかもこの子なんか人にキャーキャー言われるの好きみたいですし。」

 

「ぎゃっぎゃ!」

 

 

たのしー! じゃないんですよほんとに。

 

というか貴方元野生でしょうが。なんでこうも人懐っこいんですかほんとに。こちらとしてはそっちの方が助かりますけど、よくそれでこれまで大自然を生き残れましたよね……。ドラゴンの基礎スペックの高さ故の『自分以外全部格下~!』から来る余裕かもしれませんが、飼い主として色々心配ですわ。

 

あとあんまり騒がないでくださいまし。大きな声あげると何事かって領民が寄って……、あぁ来ちゃったじゃないですか。

 

 

「おわ、アデレート様! いつお戻りにッ!?」

 

「しかもドラゴン連れられてるわ! さすが才女として名高いお方……ッ!」

 

「はいはーい、ただいまですわよー。あとそういうの苦手だからやめてくださいましー。」

 

 

話しかけてくれる領民たちに言葉を返しながら、シャグルの隣を歩きます。……あ、そこの八百屋さんの野菜勝手に手を出したらぶん殴りますからね。……食べない? ならよし。

 

しかしまぁ、父が夜逃げしたというのに領民からの反応がかなり良いですよねぇ。500人程度の町なので全員と顔見知りではあるのですが、それを踏まえてもちょっと良すぎます。

 

藪蛇突いて好感度が反転したら困りますので怖くて理由は聞き出せませんが、まぁ統治者としては好ましい状況と言えるでしょう。違う世界の歴史にはなりますが、革命とかで民に殺される貴族の話はいくらでも知ってますからね……。

 

 

(小さいころから領民と触れ合ってきたおかげですかねぇ。)

 

 

父は結構厳格なタイプでしたが、自身は前世があるせいかそこまで偉ぶることは出来ませんでした。基本飛竜がメインの生活ではあったのですが、時間を見つけて町に繰り出してみたり、近くに領民がいれば話しかけたりもしておりました。母が死んだ際の流行り病の時は率先して対応のため走り回りましたし……。そのことが評価されての今、だったら嬉しいんですどねぇ。

 

ま、こういう評価は何か大きなミスをやらかせば一気にひっくり返るものです。

 

既に父が領地経営を失敗していますが、ここで挽回して見せればチャラ。この子、シャグルと一緒に頑張っていくしかありません。

 

 

(とりあえず民への税金周りは現状維持でいくしかないわね。減らせば人気は取れるけど折角の収入が減る。けれど増やせば人心が離れ革命一直線、そこまではいかなくても確実に評価は下がるもの。)

 

 

はぁ、厩舎はボロボロですし領地経営も考えねばなりません。しかも借金返済もやらねばならない。ほーんと色々山済みですわ。

 

 

「と、あぁそろそろですわね。シャグル、あの防壁の先よ。」

 

「ぐる?」

 

 

そう言いながら私の指さす方を見る彼。

 

私達の町、ゼルトラウはかなり大きめの防壁によって民とその財産を守る町です。裕福であった時代の当主が建設し、それを補修しながら使い続けている形にはなりますが、結構立派な石壁でしょう? そして、その先に見えるのが……。

 

 

「我が家自慢の大牧場、ですわね。」

 

 

視界一杯に広がる青々とした景色に、放牧中の様々な家畜たち。牛に豚に羊、ここからは見えませんが鶏や馬も飼っているかなり大きな牧場です。面積的には農地の方が大きいですが、男爵領でここまでのサイズは中々見れないでしょう。

 

領民のお腹を満たしながら、飛竜たちが十分に肉を食べれるように整えた自慢の場所です。

 

おそらく父が減産の指示を出しているでしょうからそこまで余裕はないでしょうが、豚の一匹ぐらいはすぐに出してくれ……。

 

 

「ぐるっ! ぐるぅぅ!!!」

 

「あぁもう飛び出しちゃってまぁ。……勝手に捕食されると困りますし、追いかけますか、ねッ!」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「あ、アデレート様?」

 

「あぁごめんなさい牧場長! 久しぶり、あとお邪魔してますわ! いまちょっと折檻してるので後にしてもらえるッ!?」

 

「ぐるーッ!」

 

 

こんのおバカッ! 昨日も今日もずっと『勝手に食べようとしたらダメ!』って言ってたでしょうが!

 

それが見つけた瞬間急降下で仕留めに行く奴がいますかッ! しかもあの子、乳牛ですわよッ! 放牧中の乳牛の群れですわよッ! 一番狙っちゃいけねぇ奴ですわこのおバカッ! 『風裳』で膜作って受け止めた後、上から風で地面に叩きつけられたから良かったもののッ! 狩れてたら大損害ですわ! もし外しててもストレスでお乳出なくなったらどうするんですッ!

 

昨日は棒でしたがもう今日は拳ですッ! 制裁ッ!

 

 

「ぎゃーッ!」

 

「うわすっご、ドラゴンを拳で殴り飛ばしてる。」

 

 

失敬なッ! 骨格頭に入ってるから顎にぶち当てて風で首だけ浮き上がらせてるだけですっ! 

 

……あ、失礼。お、おほほ牧場長。本日は良い天気で、家畜たちも元気そうで何よりですわ。うん。あとウチの新しい子が迷惑かけちゃってごめんなさいね。

 

 

「あ、あぁいえいえ。お気になさらずお嬢様。うちの子たちは小さいころから飛竜が近くにいる環境で過ごしてますから、そうストレスに繋がることはないかと。」

 

「なら良かったです。でも筋は通しませんと。ほらシャグルッ!  ごめんなさい、は!」

 

「……ぎゃッ!!!」

 

 

イヤじゃないッ!

 

謝らないとお肉ナシですわよっ! というかもうさっきの行動でお肉ナシになってますからね! こっから巻き返していい子にならないと誰もご飯くれませんよっ!

 

 

「ぎゃーぎゃッ!」

 

「あ、あはは……。まぁお嬢様、それくらいで。」

 

「こんのワガママドラゴン……。すみませんね牧場長。」

 

 

そう詫びを言いながら、彼へと向き直ります。

 

恰幅の良い中年程の男性、彼が我が領の牧場の管理を行っている人物です。父と同世代でご自身の家族のみならず、町全員の腹を満たす大黒柱みたいな人でもありますわね。まだこちらが若造、いえ子供だというのにちゃんと敬意を向けてくれる方でもあるので、その忠義に報いられるよう頑張らなければいけない相手でもあります。

 

……そんな彼の前で龍の制御をミスるという大失態やらかしてるんですけどね、私。顔には出しませんが内心バクバクですわ。

 

 

「して、本日は何用でしょうか。」

 

「現状の確認と、増産のお願いね。飛竜の厩舎の方はほぼ閉じていたけれど、この子が新しく来るから、その食事を、ね?」

 

 

私がこの地を離れたのは3年前。それまでのことはある程度頭に入っていますが、この間に借金や父の失踪など色々なことが起きているはずです。細かい所は彼の差配で何とかなるでしょうが、大まかな経営方針はトップの自身が決め、指示しなければなりません。現場からの声を無視して差配すれば確実に失敗しますし、そのための訪問って感じですわね。

 

多分後ほど書面でもらうことになると思うけど、経営状態と家畜の数。大体どれぐらいか教えてもらえるかしら?

 

 

「そうですな……。経営状況は一応黒字、家畜数ですが町の供給に合わせた形になっております。」

 

「飛竜用の生産はしてない感じね。」

 

「はい、男爵様からの指示でストップしてますな。あぁ余剰分は外に売り出し、代金はこれまで通り設備等の修繕や買い替えなどに使わせて頂いております。しかし……。」

 

 

彼から色々聞いてみますが、やはり防衛戦力不足が懸念されてる感じですわね。

 

先日課題として挙げた通り、現在この町は危機的な戦力不足に陥っています。それは町の防衛のみならず、農地や牧場を守る戦力もいなくなってしまった、ということに他なりません。町の方であれば防壁があるのでまだ何とかなりますが、牧場となれば話は別。魔物にとっても手軽な食料になる家畜が大量にいるのがここ、それを守る戦力がいないのは大問題と言えるでしょう。

 

 

「町の防衛や警邏に人を取られておりますので、牧場の警備に割ける人員が限られているのも原因ですな。今はまだ大きな被害は出ておらず、ウチの者たちに見回りしてもらっていますが……。」

 

「やはりですか、しかし出て行った方々に代わる様な方々を集めるのは少し難しいんですよねぇ。」

 

 

警備を任せられるような存在、前世であればアルバイトを雇えばよいという話にはなりますが、この世界では違うのです。

 

戦闘の訓練を受けており、なおかつ真面目で盗みを働いたりしない信頼できる人物。それが任せられる人材に成ります。いわば専門職と言って良いでしょう。以前まではある程度領内にいましたが、それが消えたとなると……、もう一度かき集めるのはとても難しい作業に成ります。

 

しかも彼らを集めるのに使う金も、持たせる装備を買う金もないわけですから、かなり悲惨です。

 

……とりあえず、場当たり的な対処には成りますが私とこの子。シャグルで近辺の森や茂みに入り魔物の殲滅を行うべきでしょう。どっちみち森に入る予定がありましたし、その行く先に目についたものを狩り、彼のご飯にしてしまう。ま、出来ることとしてはコレぐらいですかね。

 

 

「あと。一応求人を他領や王都に出しはしますが、人が集まるまでは時間がかかります。その間は大変申し訳ないのですが、現状維持に努めて頂ければ。」

 

「畏まりました。……お父様が急にいなくなられて、色々と大変かと推察致します。もし何かございましたら、気兼ねなく相談して頂ければ。」

 

「感謝しますわ。」

 

「いえいえ。……して、その子の食事に関してですな。」

 

「ぐぎゃ? ……ぎゃぎゃぎゃ!!!」

 

 

自分のことが話題に上がり、すぐにご飯のことだと理解したのでしょう。私に殴られたところをさすっていた彼が、一気にこちらに顔を近づけ鳴き始めます。

 

あの、貴方? 自分のサイズ理解してらっしゃる? 15m級の龍が急に顔出して来たらビビるんですのよ。牧場長腰抜けかけてますからね? まだ全然そういうところ教えられてないですから仕方ないですけど、ほんと気を付けてくださいね? 私みたいに速攻で拳が出る様な人間何人かいますから。

 

 

「……ぎゃぅ。」

 

「あら、今度はちゃんと謝れるんですわね。偉い偉い。」

 

「あ、あはは……。とりあえずですが、豚の方にはまだ余裕がございます。毎日となると少し町への供給が滞りますが、半年ほど頂ければ問題なくお渡しできるように成るかと。」

 

 

流石ね。じゃあとりあえずこの子の分として、飛竜2頭分。そして追加で更に2頭分。合わせて4頭分の餌の増産をお願いするわ。最小規模にはなるけど、今動かせる厩務員も私だけだからね。それぐらいから再開していく予定よ。

 

 

「畏まりました、ではそのように。では折角ですから……。シャグル君、でいいのですかな? ちょうど精肉の方が行われている時間ですし、見学ついでに試食というのは。」

 

「……ぎゃ?」

 

「ごめんなさい言えたからご褒美にお肉くれるそうよ。」

 

「ぎゃ!? ぎゃが! ぐるぎゃー!!!」

 

 

あら大喜び。こうキャッキャと騒いでるだけなら可愛いんだけどねぇ。

 

 

 






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