借金女男爵の竜舎経営   作:サイリウム(夕宙リウム)

8 / 10
8:火力ですわー!

 

「ふぅ、こんなものですか。とりあえず一帯の殲滅は完了、ですかね。」

 

 

そう言いながら、軽く風を起こし服に着いた土煙を払います。

 

あれから一週間ほど。自身とシャグルはともに町の周辺を歩き回り、魔物の巣を破壊して回りました。無論適宜屋敷に帰って休みながらでしたのでずっと森の中にいたわけではありませんが、起きてる時間のほとんどをお掃除に費やした形です。

 

しかしやはり長期間放置していたせいか、厄介な魔物が多く……。想像以上に時間をかけてしまいました。数百規模まで増殖したゴブリンや、魔法を扱えなければ対処が難しいオーガ。私達風使いにとって天敵なゴーレムなどなど、ほーんと疲れましたわ。

 

 

「結局この子は手伝ってくれなかったし……。」

 

「ぐる?」

 

「いやまぁ“処理”の為に連れてきているので構わないんですがね?」

 

 

普通自分の主人が何かと戦っていたら、加勢するものでしょうが。

 

……え? そもそも主人じゃない? あっそ。なら今日のご飯は無しですわね。折角婆やがドラゴンでも食べれる美味しいスープを作ってくれると言っていたのに。あぁ残念。私一人で飲み切ってしまおうかしら? ひとり悲しく土でも食ってなさい。

 

 

「ぐるッ!? ぎゃぎゃぎゃッ!!!」

 

「はいはい、怒るならちょっとは働きなさいな。とりあえずそれ食べてくれる?」

 

「ぎゃ!」

 

 

そう言うと、思いっきり拒否する彼。ワガママさんめ。

 

たぶんそうなるだろうなとは思っていましたが、想像以上の強い否定。少し驚きはしましたが、実は気持ち。解っちゃうんですよね。

 

何せ魔物など人の作る食べ物に比べれば、各段に不味いんですもの。

 

 

(アレ、止めるべきだったんでしょうか?)

 

 

躾の最中ではありますが、彼が私について歩き回るせいか、町に住む民たちにも『シャグル=私の騎龍』という認識が浸透してきています。まだ他貴族への対応など思いついていないので、外部に口外しないよう強く言い含めてはいるのですが……。シャグルの人柄。いや龍柄のせいか、非常に甘やかされてます。

 

そ、早い話。餌付けです。

 

肉に野菜に果物。人によっては手作りの飛竜用菓子まで。もうひっきりなしにおやつ貰ってるんですよ。

 

この町。ゼルトラウは飛竜と共に生きて来た地です。故になんとなくですが、共通の知識として『飛竜にあげても大丈夫そうな食べ物』に関しては子供でも理解があります。

 

そして飛竜に対する好感度が高め。当初はドラゴンという危険な生物ゆえに警戒していたようですが、蓋を開けてみればあまり変わりない生態。しかもそこに美貌と可愛らしさが追加されるわけなので、人心などすぐに手に入れてしまいます。

 

しかも私に制裁されているのを見て『あ、制御下にあるんだな』と安全性が確立してると勘違いしちゃってもいます。

 

 

(まぁ何か起きる前に全力で止めるので、ある意味安全なのかもしれませんが……。)

 

 

確かに、当初は自身も止めようとしました。

 

しかし皆が善意からの行動であり、いまだワガママなれど自身の相棒を甘やかしているのを見れば……。ついついこちらも甘くなってしまうというもの。しかもそこに美味しいもの食べて嬉しそうにするシャグルの顔があれば『止めるなんてとんでもない!』という話です。

 

ま、一応『正確な食事量の測定』って思惑もあったんですけどね?

 

まだ確信に至ったわけではないのですが、実はシャグルに食事をとらせた際。飛竜よりも空腹になるまでのスパンが非常に短いということを発見していました。始めて一緒に森に入った時にオーク1頭を丸々食べさせましたが、その後普通に婆やが用意したエサを完食していたことから発覚したのですが……。

 

 

(適正食事量が解らないのでとにかくたくさん食べさせて見たのですが……。一切変化がないんですよねぇ。皮下脂肪も変化してませんし。)

 

 

おそらく若く、まだ肉体が成長期が故に全てそちらに回されているのならまだいいのですが、この件に関しては飼育者としてしっかりと考えを巡らせなければなりません。とまぁそんなわけでみんながみんな食べさせまくった結果グルメになっちゃって、魔物を食べなくなっちゃったってわけです。

 

 

「飛竜だったら気にせず食べる子が多いんだけど……。まぁドラゴンは違うと知れただけ良かったとしましょうか。」

 

「ぐるぐる。」

 

「そうそう。じゃないの、全く。……それでこの死体どうしよ。」

 

 

そんな私の視線の先にあるのは、ようやく居場所を突き止め殺しつくした魔物たちの山。

 

どうやらこの一週間で私とシャグルが周囲を荒らしまわったことにより、魔物たちの間に危機感が芽生えたのでしょう。詳細は解りませんが、彼らの弱いおつむでも個々で対処することは不可能だと判断したのでしょう。既に終わった話ではありますが、この地にて総力を結集し徒党を組むことで問題に対処しようとしていたのでしょうね。

 

まぁ雑魚がどれだけ集まろうとも雑魚に過ぎないので殲滅できたのですが……。小山になるぐらいの死体が残ってしまいました。

 

ちょっと前までウチの食いしん坊さんが何でもバクバク食べてしまうことから『ある程度食べやすいように形を残してあげなくちゃ』と思い討伐したのが仇になった形です。獣や他の魔物を呼び寄せる前に処理したいのですが、どうしたらいいんでしょうねぇ?

 

 

「手っ取り早いのは火葬なのですが、私は火の魔法は使えませんし、手ごろな火種も……。あぁそうだ。シャグル。貴方火が吹けましたわよね。ほら始めて会ったとき私にやろうとした奴。」

 

「ぐる? ぎゃ。」

 

「うん、それをこれにやってみてくれない?」

 

 

今いる場所は森の奥地なため、普通に木々が生い茂っています。そのため火気厳禁ですが、私が風を操作し引火せぬようにすれば上手く魔物だけ焼くことが出来るでしょう。後は適当に穴を掘ってそこに灰を埋めればお終い、って寸法です。

 

実は今日魔物討伐以外にも予定があるので、さっさと済ませてしまいたいんですよね。

 

というわけでシャグル。さっき言ってた婆やのスープ、ちゃんとあなたにも食べさせてあげるからお願いできる?

 

 

「ぐる~♪」

 

 

機嫌がよさそうにそう返事してくれると、大きく口を開ける彼。そしてその奥に見える、大きな火種。

 

この前は私が風を送り込むことで炎は生み出される前に火種を消し飛ばしましたが、今回はそういうのは一切なし、ただ単純に彼自身の力を見せてもらうことにしましょう。そう思い眺めていると……。急に彼の魔力が、その全身に巡り始めます。あぁなるほど。体に備わっている火吹きの機能を魔力で高めるわけですね。

 

うんうん、まだまだ粗はありますがやはり龍という強大な存在。ちょっとやり方を教えればもっと高威力の火を……。アレ? ちょっと待って?

 

 

「シャグル? 貴方どれだけ魔力込める……。ちょッ!」

 

「がぐるぅぅぅぅ!」

 

 

口から吐き出した炎を眼前で球体へと変化させていく彼。

 

本来なら放射線状に広がるだけの火炎も、魔力によって指向性を与えられれば意思を持って動き始める。それは私の風と同じなのですが、ちょっと貴方! 火力! 火力出し過ぎですわよ! どれだけ魔力込めてるんです!? というかさっき私『あの時私に吐こうとした炎と同じ奴』って言いましたよねッ!? ソレ私に撃とうとしてたの!? 殺す気!?

 

 

「やりすぎ! やりすぎ! 止めてーッ!!!」

 

「がぁぁぁあああああ!!!!!」

 

 

私の制止虚しく、そのまま火球を吐き出す彼。

 

少しでも威力を消せるよう生み出した風が即座に消し飛ばされ、魔物の山に向かって直進する火球。もうその時点で、出来ることは自分の身を護るために身構えるだけ。

 

その瞬間巻き起こる、途轍もない爆風。視界が一瞬にして白へと変化し、その周囲を熱によって消し飛ばしていく。魔物だけでなく、その周囲にあった木々も、地面すらも溶かしつくす火力。龍が人の手には負えない生物であることを再確認させる事象が、いまここに。

 

……あ、あの。ここで山火事起きたら色々とシャレにならないんですけど。

 

 

「あぁぁあああ! このお馬鹿ァァァ!!!!!」

 

 

その後、風で一杯消火した。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ぎゃう~!」

 

「すっきりした、じゃねぇんですよこのクソガキッ!」

 

「ぎゃッ!?」

 

 

思わずシャグルの頭を殴りつけてしまいます。

 

そんな彼の周囲に広がるのは、まるで爆撃を受けたかのような焼野原が一つ。魔物があったはずの場所など跡形もなく消し飛びクレーターが生み出されており、地面が一部ガラス化してしまっている。単なる火葬のお願いにこれ持ち出されたら溜まったものではありません。

 

というかッ! お前コレ私に撃とうとしてたんですかッ!? さすがに死にますわよッ!?

 

 

「きゃぎゃぎゃッ!」

 

「殴るな、じゃねぇッ! せっかく賢いんだからもっと頭使え頭ッ! あと口答え禁止ッ!」

 

 

反抗してきたシャグルの鼻を叩き、その頭に両こぶしをぶち込みぐりぐりと制裁。

 

そもそも、森は貴重な資源なの! 木は建材に使えるし、木の実やキノコは食料っ! あと貯水とか色々! 災害に対する備えにもなってるのっ! それを簡単に消し飛ばそうとするなおバカっ!

 

あらかじめ火力指定しなかった私も悪いっちゃ悪いけど、周囲一帯吹き飛ばす様な威力求めてるわけねぇでしょうが! 私が空気の押し出しが出来る風使いでよかったですわねッ! 何か間違ってたらこの一帯どころか森全部燃え尽きてましたわよッ!

 

 

「ぎゃッ! ぎゃぎゃ!」

 

「まだ口答えしますか!? ……良いでしょう、では貴方にもわかりやすいよう説明して差し上げます。貴方が今一番気に入ってる、我が牧場の豚さん。いるでしょう?」

 

「……ぎゃ。」

 

「あの豚さんの飼料、基本的に森から手に入れる木の実。どんぐりを食べておっきくなってるの。つまり貴方が森を消し飛ばしたら豚は飢えて死んで、お肉ナシですわ。」

 

「ぐるぅ? ……ぎゃ!?!?!?」

 

 

ようやくことの重大さを理解したようで、まるで雷に打たれたかのようにはっとするシャグル。

 

一応我が家が土地を貸し出している農家の皆様が、人の食料と同様に飼料も作成してくださっているのですが、それだけでは家畜を育て切ることは難しいのです。以前の話にはなりますが、個体によっては一日で大人の豚一頭平らげてしまう飛竜を十数体飼育していたのが私達。そこに追加して町の民の腹も満たすのですから、数百単位の家畜が必要。

 

 

「間引きにも成るから放置してたけど、貴方があの木を倒す遊びも本当は止めたかったのよ?」

 

「ぐるぅ……。」

 

 

とても申し訳なさそう……。いやこれはご飯が無くなることに対する後悔ですわね。こちらへの詫びの感情ではなく、単なる後悔でちょっと泣きそうになっています。

 

主人としては形だけでも『ごめんなさい』ぐらいは言ってほしいのですが、まぁ反省しているのなら今日は許してやりましょう。おそらく、今度からは加減してくれるでしょうし。

 

 

「シャグル、今度からは気を付けれる?」

 

「……ぐる。」

 

「ならよし。じゃあ切り替えていきましょう? 幸い被害は抑えられたし、秋に拾ったどんぐりでも撒きに来ればいつか元通りになってくれるわ。森は強いもの。」

 

 

さ、次行きましょう次! もっと森の奥、その先にある山の方へ向かいますわよ!

 

そう、さっき言ってた『もう一つの目的』ってやつです。

 

 

(我が家は、財政難。それを解決するための一手ですわっ!)

 

 

現在自身は300億という多額の借金を抱えており、また町に真面な防衛戦力がないという問題を抱えています。そしてどちらにも言えることですが……。この解決に必要そうな“種銭”が一切ないのです。

 

一応王都から持ち帰った資金はあるのですが、やはり個人が扱える程度の額。借金返済の為に飛竜を狩ったり、兵士たちに武器を買い与えるのには全然足りないのです。かといって高く売れそうな飛竜は多分シャグルに全部食べられちゃってますし、牧場の家畜は民の生命線でもあるのであまり売ることは出来ません。

 

 

(ゲームなどでは敵を倒せばお金が手に入りましたが……。この世界はお金など持ってませんし、そもそもこっちが払う側です。)

 

 

魔物退治って領主の仕事の一つですからねぇ、それを代わりにやってくれたのなら報酬を払わなければいけない、って感じなんです。

 

とまぁそんなわけで『ある程度すぐに動かせるお金』が必要な私達。それを解決するために目を付けたのが……。

 

 

「飛竜の卵ですわ!」

 

「ぐる?」

 

「……あぁ言っときますがもし食べたらあなたの尻尾引き抜きますからね?」

 

「ぎゃ!?」

 

 

我が家の慣習に成るのですが、実は飛竜の許容限界に達した時や、あまりも人に反する性格だった飛竜は野生に返すということをしているのです。人の生活圏に入らぬよう森の奥深くに送り込み、そこで新たな生活を送ってもらう、ってやつです。

 

馬と同様に品種改良を施し血統を為した飛竜を解き放っているわけですから、完全に自然破壊をしちゃっている案件なのですが……。我が家にそれを為す理由があるのです。

 

 

(もし病や戦で飛竜が全滅した際、我が家が自力で立ちあがるための命綱。)

 

 

先人の知恵、というものなのでしょう。

 

何か起きた時の備えを、慣習として残す。この飛竜のポイ捨ても、その一つになります。販売すればある程度の値段が付くものを、一部自然に返しその中で繁殖させることで、何かあった時それを回収できるようにし、家が繋げてきた飛竜の血統を閉ざさないようにする。

 

 

「ま、それを回収しに行くってわけですわね。」

 

「ぐるぐる。」

 

「そうね、大人の飛竜だと躾に時間がかかり過ぎるから、卵を盗んじゃう感じ。育てれば多少質は落ちるだろうけど我が家の血統の飛竜が手に入るし、そのまま売れば纏まったお金になるってワケ。」

 

 

飛竜の卵って血統が証明できなくても数十万単位で取引されますからねぇ。多少野生の血が入っていたとしても、飛竜で名を轟かせたヴァロック家の血統となれば少なくとも百万以上は固いでしょう。

 

これだけで全て解決できるわけではありませんが……、そのきっかけにはなってくれるはず。

 

人の子供、いや飛竜の子供を勝手に攫って行くわけですから心が痛むところもございますが、厳しい自然で生き延びれない可能性のある子を保護しにいくと考えれば……、まだ何とか耐えられます。前世の競走馬と同じ、飛竜も経済動物の一種です。その辺りは割り切らねばやっていけませんわ。

 

 

「というわけでシャグル、飛竜を見つけたら攻撃せずに全力で威嚇してくれる? さすがに卵泥棒となれば滅茶苦茶キレるでしょうし、その妨害を願いますわ。」

 

「ぎゃ!」

 

「ノータイムでヤダっ! って言うんじゃないの。おやつあげるから言う事聞きなさいな!」

 

 

マジでワガママちゃんですわね……。

 

ま、ご飯さえ提示すれば言うこと聞いてくれるでしょうし、後は現地に着いてからにしましょうか。というわけで移動しますわよー。

 

 

「ぎゃー!」

 

 






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